ここは『Sin World』。
『罪』の名を冠し、元となる存在とはまた別の存在として存在するモンスターたちが生息している。
『矛盾』と『真実』を司る竜が支配するこの世界は常に「はぁ~」……おや、なんか大きい溜息が聞こえてきたぞ?
「なぜ我ら『Sin』モンスターたちは種類が増えないのだろうか」
罪の世界を支配する巨竜の一体『Sin トゥルース・ドラゴン』が大きなため息をつく。
その巨体から放たれる溜息は現実世界の建物ぐらいならあっさりと吹き飛ばしてしまうほどの勢いだったが、そのような建物など存在してないので被害など起きるはずもない。
「……元々我々は現実世界の人々を喜ばせる『映画』という世界で産まれた存在。その映画が公開が終わってしまえば、新規が出ないのは当然のことかと」
真実の竜に意見するのは『矛盾』の竜『Sin パラドクス・ドラゴン』。
その映画の悪役である彼の世界はシンクロ召喚によって滅ぶことになるのだが、その彼が使用していたパラドクス・ドラゴンこそがシンクロモンスターであり、まさに『矛盾』の名を抱える竜に相応しい存在である。
「それは分かっているが」
真実の竜が矛盾の竜に向き直り、一気にその巨体を近づける。
「それでも人より生み出されし我ら、強欲に新たな仲間を求めても良いのではないか?」
「その意見は分からなくはないですが……ですが、我々の力は強大過ぎるが故、この世界を含む『フィールド魔法』がなければ維持できないうえ、他の仲間と同時に並べる効果も成り立たない故、新規を多くしてもそれらすべてが活躍できないという『矛盾』を含んでおります故」
Sinモンスターは元となる存在を除外することで現世に姿を現わすことが出来る存在。
だが、その出現のためのエネルギーは強大であり、Sinモンスターは場に1体しか存在できないという制約を使い手に課してしまう。
彼らの世界を生み出す領域……『Sin Territory』がSinは1種類しか存在できないという制約へと作り変えるが、それでも使い手の技量が試されるのは確かだ。
「では他の竜たちの元へと訪れましょう。きっと良き新規を生み出すきっかけとなりえるはずでしょう」
「それが良いな」
パラドクス・ドラゴンの進言を受け、トゥルース・ドラゴンがパラドクス・ドラゴンと共に罪の世界を飛んでいく。
まず彼らが訪れたのは、最も罪深き『シンクロモンスター』より生み出された『Sin スターダスト・ドラゴン』の元だった。
「おい、お前!」
「パラドクス・ドラゴンにトゥルース・ドラゴン様!? どうして俺の元へ?」
白黒の仮面を被った星屑竜が一気に詰め寄ってきた真実の竜に圧倒され、思わず後ずさる。
「お前の元となった存在である『スターダスト・ドラゴン』を奪ったあの場には『レッド・デーモンズ・ドラゴン』もいたはずだ! どうして奪ってこなかったのだ!」
映画において『スターダスト・ドラゴン』の使い手は『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を使いこなす『王者』という異名を持つ決闘者と後に『ブラック・フェザー・ドラゴン』と共に戦う力を得た『鉄砲玉』の異名を持つ決闘者と共にいたのだ。
その際『スターダスト・ドラゴン』だけでなく『レッド・デーモンズ・ドラゴン』も奪えばそれだけで新たな戦力になるはずだったのだ。
「そうは言われましても……俺たちの使い手様はありとあらゆる時空を飛び回り、かつ未来を救うための時間が少なかったこともあって、俺の元となる存在である『スターダスト・ドラゴン』を奪うことで精いっぱいだったんですよ」
「だとしてもだ!」
「それにですね、あの映画の世界では俺たちSinモンスターは元となる存在の効果も多少形を変えて引き継ぐのです。『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の攻撃しなかった自分の他のモンスターをバトルフェイズ終了時に破壊する効果と、現実時空での俺たちのデメリット『Sinモンスター以外のモンスターは攻撃できない』のデメリットが合わさると、どうなると思いますか?」
それを聞いた真実の竜が少しばかり考え込む。
考えなくても分かりそうなものだと星屑竜が首をひねる。
「他の仲間が攻撃しなければ仲間を全滅させるが、自身のデメリットで他の仲間を殴らせない、実にいい『矛盾』を抱えているじゃないか」
パラドクス・ドラゴンが妙に目を輝かせ、星屑竜の翼に自身の翼をぺしぺしと押し付ける。
この上司もなれなれしいなと思いつつ「そういうことか!」とようやく真実に気づいたトゥルース・ドラゴンに顔を向ける。
「そういうことならばしょうがないな」
「分かってくれたようで何よりです」
トゥルース・ドラゴンは真実を理解すれば物分かりの良い竜である。
その様子を見届けた星屑竜が「では俺はこれにて」と言い残し、その場から飛び去っていった。
もっとも、この罪の世界から抜け出してしまえば消滅してしまう身なので、ただ単にこの場を離れていくだけだったのだが。
「では我々も向かうとしよう」
「ええ」
それでも諦めようとしない真実の竜に矛盾の竜がついていく。
「お前ぇ!」
「えっ!?」
次に話しかけたのは虹の龍と終焉の機械竜の2体である。
まずターゲットにされたのは『Sin レインボー・ドラゴン』である。
「お前、映画の効果だと強かったのにどうして現実世界で削除されてしまったのだ!」
「そんなの俺に言われても困るぜ」
Sin レインボー・ドラゴンは映画ではこのカード以外のモンスターを墓地へ送り、その中のSinモンスターの数×1000ポイント攻撃力をアップさせる効果、そして墓地のSinモンスターを除外することでフィールドのカードを全てデッキに戻すという効果があるのだ。
最も、映画でそのような効果を発揮されなかったせいもあり現実世界では両方ともその効果が削除されてしまうことになったのだが。
「確かに後半の効果はSin Worldをデッキに戻してしまうからこのカードを使用したデュエル中、敗北したデュエリストは死ぬというデメリットの都合上使用しなかったのは分かる。だが、前半の効果を使えば立派な戦力になれるはずではないのか!?」
「でもそうしたらトゥルース・ドラゴン様を攻撃力で超えてしまうことになって、最後に出てきたトゥルース・ドラゴン様が『最後の切り札(笑)』『Sin ザコデース・ドラゴン(笑)』とかと呼ばれてしまうかもしれないことになっちゃいましたけど……それでも良かったのですか」
「ぷっ」
思わず噴き出した矛盾の竜に向かって真実の竜が体から無数の闇の棘を放ち、矛盾の竜が針鼠のような姿となってしまうが、それを無視し今度は3本首の機械竜に詰め寄る。
「貴様も貫通効果を奪われるとはどういうことだ!」
「ですからそんなことをして攻撃を通してしまえば、トゥルース様の出番もなく映画は我々の勝利で終わってしまい、我とレインボーこそがSinの最強の切り札と呼ばれてしまうこととなってしまう。そんなことをしたらトゥルース様やパラドクス様の出番がなくなるでしょう。我々は空気が読めるのです」
「む、むぅ……」
正論を言われ何も言えなくなった真実の竜は、体を全身回転させることで棘を抜いていた矛盾の竜を連れその場から飛び去って行った。
「……お前、口が上手いな」
「若干煽りを入れてたお前のせいで機嫌を損ねないかひやひやしていたが、まぁ単純な上司で良かったよ」
Sin レインボー・ドラゴンとSin サイバー・エンド・ドラゴンがそんな会話をしていたことなど当然真実の竜は知る由もなかった。
「貴様らを粉砕、玉砕、大喝采してやろうか!」
「何ですか急に!」
次にやってきたのは白黒の仮面をかぶった白き竜『Sin 青眼の白龍』と同じく白黒の仮面をかぶった黒き竜『Sin 真紅眼の黒竜』の所だった。
「どうせなら『青眼の白龍』を3体奪って『青眼の究極竜』となって『Sin 青眼の究極竜』となれば強大な力となったものを!」
「そんなこと言われても、あの映画だと同じ3本首の竜『Sin サイバー・エンド・ドラゴン』が先に召喚されてるんですから、映画を見てる人から『また三本首の竜かよ』『ワンパターンじゃないか』って呆れられる可能性があったから、主様は『青眼の白龍』を1枚しか奪わなかったんですよ」
「ぐぬぬ……」
白き竜の淡々としつつも威圧ある正論に押され、次は黒き竜に目を向ける。
「お前も闇の鋼化して『Sin レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』となれば強力な展開効果を得て『Sin』デッキの強化となったものを!」
「そもそも『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』って本来ドラゴンを特殊召喚する効果じゃないし。アニメのレダメの効果は墓地のドラゴン×400攻撃力をアップし、俺を対象に取る魔法の効果を無効にして破壊するのと手札を1枚捨て魔法の発動と効果を無効にして破壊するだけだし……あれ」
「十分強いではないかーっ!」
「ぎゃあああああああっ!」
先ほど矛盾の竜も受けた闇の棘を無数に浴びせられ黒き竜が針鼠のような姿となり動かなくなってしまう。
「……要領が悪いな、お前」
「まったく……まぁ無い物ねだりをしてもしょうがない。行くぞ」
真実の竜はその場から飛び去っていき、その後を矛盾の竜が付いていく。
「ギア~」
「おお、お前か」
その後機嫌が悪くなり不貞寝した真実の竜を置き、自身の寝床としていた場所へと戻った『矛盾』の竜の元に『Sin パラレルギア』が訪れる。
彼と他のSinの力を借りることが最も効率よく現実世界へと訪れることが出来る手段であるのだが。
「ギア~ギア~」
「何……我ではなく、『フルール・ド・バロネス』や『ドラゴキュートス』を出したり、サイバー・エンドやレインボー・ドラゴンの力を使い『ファイナルシグマ』を出すことでトゥルース・ドラゴン様のご機嫌を取ればどうかって?」
確かに呼び出し先は『Sin パラドクス・ドラゴン』に限らないのが『Sin パラレル・ギア』の利点である。
だがどうせ呼ぶのなら自分にしてほしいという欲が『Sin パラドクス・ドラゴン』の中にある。
「ギア~」
「何、そういうこともあろうかと思い、我にプレゼントをご用意しただと?」
数日後。
「お、おお~っ!」
「いかがでしょうか」
真実の竜の元に立つのは強力な花の騎士と冥界の竜、そして真炎を宿す剣を携えた剣士。
彼らの前に立ち、真実の竜と面会しているのは……シンクロから効果モンスターへと己の『枠組み』を変えた竜『Sin パラダイム・ドラゴン』だった。
「素晴らしい! これらの力があれば色々な勢力とも渡り合えるぞ!」
「喜んでいただき幸いです」
真実の竜のご機嫌が良くなり、これで『罪の世界』も少しは大人しくなるだろうとパラダイム・ドラゴンは安堵する。
その様子をパラレルギアとパラドクスギアが見守り、お互い満足そうに己の体を回転させるのであった。