「…………」
(ね、ねぇあの子……すごく落ち込んでるわよ)
(遠目から見てもよくわかる落ち込みっぷりね)
岩の上に座り込みながら、誰でもわかるぐらいに落ち込んでる少女が一人。
少女の下半身は魚のようになっており、『人魚』と呼ばれてる種族だ。
少女の名は『ティアラメンツ・メイルゥ』。
OCG次元では『ティアラメンツ』デッキの一員として頑張ってるが、マスターデュエルの次元では『禁止カード』という称号を抱き、デッキに入らなくなってしまったのだ。
「……はぁ。私、ずっとキトカロス姉さまに呼び出されて墓地肥やしされたり、スプライト・スプリンドの効果で墓地に落とされて融合のお手伝いしたり、スプライト・エルフの効果で墓地から蘇生されて墓地肥やしのお手伝いしててずっと頑張ってたのに」
メイルゥがぶつぶつ呟いてるのを遠くで聞いていたシェイレーンとハゥフニスの2人がメイルゥの落ち込みっぷりを見てどうしようかお互い顔を見合わせる。
マスターデュエルでは準制限で許されてる2人であり、今の自分たちでは何を言っても届かないと思ったのである。
「フィールド魔法では屈託のない笑顔で喜んでる姿を見せてるのに、マスタ―デュエルしか行ってないプレイヤーからは『なんでこいつ禁止カードになったのに満面の笑み浮かべてるんだ』って言われて笑いものになっちゃうんだ……」
なお、ティアラメンツにはぺルレイノ以外にも『嫋々たる漣歌姫の壱世壊』というフィールド魔法が存在しており、そこではクソ王子ことレイノハートから解放されたことで喜びに溢れてるティアラメンツたちが描かれてるという、ほっこりとしたイラストが味わえるカードである。
「メイルゥ」
そんなメイルゥの肩をぽんと叩く者が一人。
「……キトカロス姉さま」
そこにいたのは、メイルゥとは逆にOCG次元では禁止カードになりつつもマスターデュエル次元では制限カードで生き延びてるティアラメンツ・キトカロスだった。
「私もOCGでは禁止カードになったからあなたの気持はよくわかるわ」
「姉さま」
メイルゥはキトカロスの顔を見て、にこっと微笑む。
良かった、笑顔を取り戻してくれた。
シェイレーンとハゥフニスがほっと仕掛けた瞬間。
「でもキトカロス姉さまって進化系の融合体であるルルカロス姉さまになるために『沼地の魔神王』や『沼地の魔獣王』や『心眼の女神』といった色々な人たちと手を組んで進化体になってデュエルに出続けてるし、そもそもマナドゥム勢力からシンクロの力を譲り受けて新たな姿でバリバリ頑張ってるじゃないですか」
笑顔を浮かべながらものすごい早口で言い放ったのを聞き、その場にいた3人は凍り付く。
「で、でも私は」
「私なんて所詮は融合素材であり、融合体にありがちな進化や成長系の派生イラストで出る事なんてまずないですし、そもそも私がいなくてもキトカロス姉さまはデッキから直にシェイレーンやハゥフニスを墓地へ送って進化体になりますし。ここの作者はマスターデュエルの9月1日からのランクマッチを見て元気に頑張ってるあなたの姿をよく見てるんですよ」
なんかメタ発言が飛び出してきたが、まぁ実際PUNKなどと手を組んで今のティアラメンツはメイルゥがいなくても割と元気にやってるのは事実である。
「め、メイルゥ」
「所詮素材としてしか出番がない私の気持なんて、誰にも分からないよ!」
そう言いながらメイルゥは海へと飛び込み、どこかへと泳ぎ去っていく。
「メイルゥ……」
そんな彼女をキトカロス、シェイレーン、ハゥフニスは心配そうに見ていた。
「……分からないんだ。私に迫ってる危機なんて」
メイルゥが危惧してたのは、OCGの7月リミットレギュレーションのこと。
マスターデュエルで先に禁止カードとなった『デビル・フランケン』と『盗賊の煙玉』のこと。
OCGのリミットレギュレーションはマスターデュエルのリミットレギュレーションにすり寄りつつあるとメイルゥは考えていた。
そんな中、マスターデュエルで禁止カードとなってしまい、しかも今のOCG次元でもティアラメンツは元気に現役バリバリである。
つまり、OCG次元でも禁止になる可能性があることを感じ、そうなってしまえば多くの人たちから見捨てられてしまう可能性を感じ、メイルゥは悲しみにくれていたのだ。
「なら、OCGで今のうちに大暴れすればいいじゃないか」
そんなメイルゥの肩に蛸の触手が乗る。
「カレイドハートっ……!」
そこにいたのはレイノハートが悲しみの力を糧に変貌した姿、『ティアラメンツ・カレイドハート』だった。
「私の進化前の姿の効果で君に力を貸そう。忘れられてしまうのが怖いのなら、今のうちに人の記憶に残るように立ち回り、記憶の中で生き続ければいいのさ」
ティアラメンツは色々なカードたちと手を組み、今に至るまで多くの決闘者たちの記憶に残り続けてきた。
だからこそ、最期の輝きを見せれば、印象に残るだろうという考えだ。
「でも、私は素材にしかなれないから」
「素材の何が悪い? 君たち素材がいるから私もキトカロスの奴も表舞台で頑張れた。なのに君たち素材の頑張りを軽視する者たちがいるのが悪いんじゃないか」
「あ、あぁ……」
メイルゥの心が悲しみに支配されつつあるのを見て、カレイドハートは内心にやりと笑う。
「さぁ、私が力を貸そう。そして君の気持ちを分かろうとしてくれない者たちに復讐を……」
カレイドハートが手にした『破壊神 ヴァサーゴ』のカードをメイルゥの額に乗せようとする。
だが、その瞬間上から降ってきた鋭い槍がカレイドハートの触手を貫く。
「……ッ!」
「あ、あなたは!」
カレイドハートとメイルゥが槍の持ち主……『クシャトリラ・ユニコーン』を見る。
「マスターデュエルで『壱世界を劈く弦声』が先行実装されたせいでマスターデュエル勢から『あなた誰?』とネタにされたユニコーンさんじゃないですか!」
「助けに来たのにいきなりな言われようだな」
「貴様がこの深海にどうやって!」
カレイドハートが忌々し気に呟くと、ユニコーンが後ろを指さす。
「彼女たちに導かれてね」
そこにいたのはシェイレーン、ハゥフニス、そしてルルカロスへと変身した3人だった。
「皆!」
「だとしても、なぜ貴様がわざわざここに!」
「『クシャトリラ・プリペア』のイラストで貴様の素材の『ティアラメンツ・レイノハート』をカプセルに捕らえたのは私だぞ? その繋がりで貴様が怒りを感じたとき、貴様の気配を敏感に察知できるのだ。その怒りのエネルギーをまた改めて頂戴しようと思ってね」
「くっ……覚えてろよ!」
カレイドハートが分が悪いと判断し、墨のような黒い煙に覆われ消えていく。
「チッ、逃げ足の速い奴め」
ユニコーンが舌打ちし、その場に残った自身の槍を引き抜く。
「皆……ユニコーンさん」
敵であるカレイドハートに一瞬でも心を許しかけ、手駒になりかけ、その前には暴言を吐いてしまったキトカロスまでもが助けに来てくれたことでメイルゥが泣きそうになる。
「勘違いするな。俺は貴様を助けるのではなく、あのクソ王子から怒りのエネルギーを吸収するために来たのだ」
「ツンデレ口調で言わなくてもいいのに」
ニヤニヤ笑うシェイレーンにそう言われ、ユニコーンがはぁと溜息をつく。
「でも結果的に助けられたのは事実ですし、ありがとうございます」
「ふん」
ユニコーンがそっぽを向いたのを見てその場にいたティアラメンツたちがくすくすと笑う。
「にしもあのクソ王子め、メイルゥの悲しみに付け込んで改めて支配下に置こうとするなて、まだナイフで刺したりなかったみたいね。せっかく偉大なる黒魔術師に頼んでこれを借りてきたのに」
ルルカロスが懐からたくさんのナイフを取り出す。
偉大なる黒魔術師『ブラック・マジシャン』の武器の一つでもある『千本ナイフ』。
本来彼にしか使いこなせないが、彼の力の残滓を振り分けたカードをルルカロスに持たせることで彼女でも使えるようにしたのだ。
「キトカロス……いや、今はルルカロス姉さまか。さっきはごめんなさい」
「いいのよ。私もあなたの悲しみ、それに私の融合素材になるために頑張ってくれてたあなたに対して無神経過ぎたわ」
「ルルカロス姉さま、私たちも頑張ってるわよ」
「そうですよ」
シェイレーンとハゥフニスが頬をぷくっと膨らませルルカロスを見る。
「あなたたちもごめんね」
ルルカロスが3人を優しく見守り、それを見ていたユニコーンが水上から上がるべく一気に飛び出す。
「もう行くの?」
「エネルギーを頂戴し損ねたからな。それに俺の所にも『禁止カード』に指定されつつも、マスターデュエル次元で現在大暴れしてる奴がいるからな。そいつの鬱憤を晴らすのを支えるのも俺の役目だ」
『クシャトリラ・フェンリル』。
OCG次元では禁止カードに指定されたが、その後マスターデュエル次元では『準制限」に指定され、これ幸いにと久しぶりのデュエルを楽しんでいる。
そんな彼に付き合うのも同志である自分の役目。
そう思ってるユニコーンは彼の元へと急いで向かうのだった。
「さてと……新鮮なワカメを豪勢に使ったサラダを作ったんだった。皆で食べましょうか」
「わぁい、新鮮なサラダ!」
「メイルゥ、一杯食べようね」
「うん!」
ルルカロスを先頭にティアラメンツたちの3人魚たちが水上めがけて泳いでいく。
今日も『壱世壊』には人形たちの元気な声が響き渡っていた。