マジキチに狙われたTS転生っ娘   作:ニセ神主

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推しの子界隈もっと賑わって欲しいと思う今日この頃。





第2話

 

 目が覚めた時、最初に感じたのは倦怠感と身体中に走る痛みだった。

 鈍痛や劇痛、動かそうにも精々が手ぐらいしか動かせない。起き上がろうにも全く動こうとしない身体に早々に見切りをつけ、首だけはなんとか動かして見慣れない天井から周囲へと視線を走らせる。

 

 どうやら私はベッドに寝かされているようで、その側には俺がお世話になっていた時のような医療器具が沢山並べられており、それらから伸びる幾つものコードが私の身体へと伸びていた。

 そしてこの空間には私しか居ないらしく、呼吸器マスクから聞こえる私の呼吸音と、俺が嫌というほど聞いてきた無機質な電子音だけが響いていた。

 

 

 ──嫌だ。

 

 

 ──この音は、嫌だ。

 

 

 ピッ、ピッ、ピッと一定の間隔で鳴る電子音に俺の最後の瞬間が何度も思い返され、私の心の奥底がゾリゾリと削り取られる嫌な感覚が走る。そしてそれを意識した途端に呼吸が苦しくなってくる。

 

 

「ハッ、ハッ、ハァッ、グッ……」

 

 

 息を吸おうにも思うようにいかず、短い間隔で繰り返される呼吸。それに伴ってベッド脇に置かれた機器から激しく鳴り響く電子音。それが余計に私を追い詰めていくような気がして、背中に嫌な汗が伝い、額には脂汗が浮かんでくる。

 

 息苦しさから浮かんだ涙のせいで、視界が滲む。

 

 そんな中、病室の扉が喧しい音を立てて開かれた。

 

 

「っ、鎮静剤を早く用意しろ! このままじゃマズい!」

 

 扉の向こうから現れたのはヨレた白衣を着た医師と看護師。彼らが慌てたように此方にやって来たのを傍目に見ながら、気付いたら私はその医師へと手を伸ばしていた。

 

 

「ハッ、ハァッ……マ、マとパパ、何処……?」

 

 

 無意識に、そんなことを聞いていた。

 

 

 医師は一瞬だけ表情を歪めると、直ぐに優しげな笑みを浮かべながら私の手を優しく握り締めた。

 だけど私の手を握るその医師の手が震えていることに、私は気付いていた。

 

 

「……さぁ、お母さん達が心配してしまうから。ゆっくり目を閉じて」

 

 私の頭を撫でる医師の傍らで、看護師が私に繋がれた点滴に何かしているのが見えた。多分、あれが鎮静剤なんだろう。

 

 そんな事を考えてるうちに、抗いきれないほどの急激な眠気が襲いかかり、私は一瞬で意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 ──次に目を覚ました時、私の眠るベッドの周囲に沢山の人達がいた。

 父方の祖父母や幼稚園の先生、医師と看護師、それとスーツを着た女性。みんなが私を哀れむような目で見ていた。

 

 起き上がろうとする私の身体を助け起こしながら医師が身体の異常について聞いてくる。倦怠感はあるものの耐えられないほどではないので大丈夫と答えると、医師はスーツの人に目配せしながら一歩下がった。

 スーツの人は膝をついて私と視線を合わせると、静かに話し始めた。

 

 スーツの人は警察官だった。彼女は何度か言葉を詰まらせながら、ゆっくりと話してくれた。

 まだ幼い私への説明のため、祖父母や医師へ目配せしながら慎重に言葉を選んで話してくれた警察官。だけどそんな気遣いをされても私は彼女の話す言葉の真意を全て理解してしまっていた。

 

 

 ──あの事故は、車道に飛び出した子供を避けようとハンドル操作を誤った相手運転手が混乱したままに交差点に侵入してしまったのが原因だった。それはドライブレコーダーや周囲の証言から間違いないらしい。

 相手の運転手は重傷を負ったが、命に別状はない。

 

 そして、両親はやっぱり──死んでしまった。

 車から救助された時には既に、もう──。

 

「そう……ですか」

 

 運が悪かった。

 警察官の話を聞いた私が思ったのは、それだった。

 

 

 ──子供が道路に飛び出さなかったら?

 

 ──相手が運転操作を誤らなかったら?

 

 ──父が青信号で直ぐに車を発進していたら?

 

 ──母が青信号と忠告せずに発進を遅らせたら?

 

 

 色々な『たられば』が頭の中でグルグルと渦巻く。

 そのどれか一つでも起こっていたなら、両親は死んでしまうことはなかったのではないか。

 

 

 

 ──そもそも、私がいなければ両親は……ママとパパが死ぬことはなかったんじゃないか?

 

 

 

「うぐっ」

 

 口元を抑えて込み上げてきたものを堪える。だけどそんな私の抵抗もままならず抑えきれなかったものを布団の上に吐き出してしまった。

 

 先生達の悲鳴が響き、医師と祖父母が私の名前を呼びながら駆け寄る。数歩下がった警察官が青い顔を浮かべていた。

 

 騒然とする病室で、私はプツンッと映像が切れたビデオのように意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 ──あの日から、私の下に医師の診察と祖父母の見舞い以外、幼稚園の先生や警察官が来ることはなかった。多分、あの時のことがあって部外者の立ち入りを制限してくれたのだろう。

 

 私の外傷は随分と軽いらしく、本来ならもう退院しても問題ないらしい。だけどそれが出来ないのは私が事故のことを思い出してパニックを起こし、何度か意識を失ってしまっているからだった。

 俺としての記憶があるせいか、そもそも病院が嫌いな私は何度か退院したい旨を伝えたが、医師の首が縦に振られることはなかった。

 

 

 

「……はぁ」

 

 病室に閉じ込められる中、考えるのは両親のことばかりだった。

 

 ──パパとママに会いたい。

 

 あの時のように『たられば』を考えて後悔ばかりが胸の中に積もり積もっていく。ベッドに横になりながら数え切れないくらい涙を溢して考えた。

 

 

 どうしたらいいんだろう。

 

 どうしたら、また両親に出会えるだろう。

 

 

 そう考えて真っ先に思い浮かぶのは両親の後を追うこと。だけどそれは直ぐに思い直した。

 

 命を終えた後のことを、俺は身を持って経験している。死んだ人間は天国に行くわけじゃない。

 時間の概念すら分からず、自意識すら定かじゃないまま暗闇の中を只管に漂うだけ。だから私はその考えを真っ先に否定した。

 

 

 

『麻里亜。貴女は生まれてくる前のこと覚えてる?』

 

 ──ふと、ずっと前に母に言われたことを思い出した。

 

『お母さんね。この人達の子供になりたい、って赤ちゃんが自分で親のことを選んでると思ってるの。だから麻里亜が私たちのことを選んでくれて、神様にお願いしたんだと思うんだけど……違う?』

 

『うぅん……よく分かんない、かも』

 

『あら残念。でももしそうだったら嬉しいから、私はそう思うことにするね。 私たちを選んでくれてありがとう、麻里亜』

 

 ……あの時は年不相応な子供らしからぬ私の様子に、前世のことを聞かれているのかと焦ってしまい、あまり深く考えてなかった。

 

 だけど──

 

「……そっか」

 

 答えの見えない暗闇に、一筋の希望の光が灯ったようだった。

 

 死んでしまった後は暗闇ばかりしか覚えておらず、神様とやらに願った記憶はない。だけど私は実際に生まれ変わっている、生き証人だ。

 

 もしかしたら、私のように記憶を持ったまま両親も生まれ変わることが出来るのかもしれない。そして母が言うように選んでもらえるのだとしたら──

 

 

「また、二人に会える。私が……二人の親になればいいのか」

 

 

 

 

 

 

 ある日、祖父母が神妙な面持ちで病室の私の下にやって来た。言い辛そうにしている二人が話したのは両親とのお別れ……つまり葬式のことについてだった。

 

 警察の事故の見分も終わり、私の症状が落ち着いてきた頃合いということで葬式を執り行うつもりだと言う。

 

「麻里亜……お前は」

 

「私も出るよ。パパとママを……見送らないと」

 

 祖父の言葉を遮り、告げる。

 祖父母は驚いた顔をしたけど私の意思を汲み取ってくれたらしく、体調を崩したら病院に戻すという条件で了承してくれた。

 

 

 

 そして、葬式が執り行われる日。

 

 私は幼く、母方の祖父母は既に亡くなっているため喪主を務めたのは父方の祖父。

 それでも祖父にとって息子である父の葬儀ほど辛いものはなかっただろう。何度も言葉に詰まり、泣き崩れてしまう姿を見ていることが出来なかった参列者が一様に顔を伏せてしまうほどだった。

 

 私はそんな祖父の隣に立ち、参列者へと視線を向けていた。

 

 私の知らない父の仕事仲間や母の友人達。見知ったので幼稚園の先生や園の友人の保護者の姿もあった。

 みんなが目に涙を浮かべながら、両親の死を悼んでいた。

 

 

 だけどその参列者の中で一人だけ。

 

 

 唯一参列した私と同じくらいの子が、泣き崩れる祖父や涙を浮かべる大人達を見るでもなく、真っ直ぐに私を見据えていた。

 

 見覚えはあるけど、名前は覚えていない。多分、下の学級の子なんだと思う。

 

 そんな子がなんでここに居るのか、どうして私を見ているのか分からなかった。だけど見つめる彼の瞳が何かを宿しているような気がして、なんとなく印象に残った。

 

 

 

 

 

「君は、どうして普段通りに出来るの?」

 

 葬式も終わり、参列者が帰っていく中で件の子が私に声を掛けてきた。周りに私以外人の姿はないことから、その言葉は私に向けてだろう。

 改めて向き直るとその子は無表情で、それでいてどこか面白くなさそうな顔をしながら私を見ていた。

 

「普段、通り……? ごめん、ちょっと言ってる意味が分からないんだけど」

 

 その子の言葉がどういう意味なのか測りかねていると、彼が続けて口を開く。

 

「親が死んでしまったのに、君はいつもみたいに──いや、いつも以上に普段通りの君を演じてる。それはどうしてなんだい?」

 

 言い難いだろう直接的なことを彼は取り繕う素振りすら一切せず、ただただ自分の疑問を零す。

 

「ううん……演じてなんかないよ」

 

「嘘だ」

 

「嘘じゃない。ただ──」

 

「ただ?」

 

「パパとママはいつも私のことを愛してくれてるの。だったら私も普段通りにしなくちゃいけないだけ」

 

 二人が知ってる私でいなきゃ。いつもみたいに皆に愛され皆を愛す私でいないといけない。

 そうしないと、パパとママに選んでもらえないかもしれない。私は、二人がよく知ってる私のままでいなきゃいけないのだから。

 

 

「──そう。うん、分かった。君はまだまだ自分の価値を生み出せるんだね」

 

 その子はそれだけ言うと、あっさりと踵を返して去って行こうとする。

 

「解決した?」

 

 彼のその背に向けて問うと、振り返らずにコクンッと頷くのだけ見えた。結局、彼が何を言いたかったのかは分からず終いだったけど、納得したのならいいか。

 

 私は祖父母のところへ戻るため、彼と同じように背を向けて歩き始めた。

 

 

 




長すぎる前振りと病んでる主人公。
次こそは原作キャラとの絡みが増える筈……!
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