マジキチに狙われたTS転生っ娘   作:ニセ神主

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間違いのご指摘、ありがとうございました。原作と年齢に大きな齟齬があったことから、以前投稿した3話を大きく改訂しました。




第3話

 

 学校からの下校道。

 

 今年の春から新たに通うことになった小学校から自宅までの道なりを私は身体に合わない大きなランドセルを背負いながら、家の冷蔵庫の中身を思い浮かべつつ歩いていた。

 まとめて1週間分の買い物をお願いしている身としては、なんとか追加の買い物の手間を掛けさせないように冷蔵庫の中にあるもので仕上げていかなければならない。

 

「……確かまだ玉ねぎと挽肉があったからハンバーグが作れるかな。あとはスープが作れれば良いんだけど」

 

 指折り思い出せる材料から作れる料理を考えながら歩いているうちに、見慣れた建物が見えるところまで辿り着いた。

 

 ここまで来ればあと少しと小走りになりながらその建物の出入り口をくぐりエントランスからエレベーターに乗り込み、ボタンを押す。

 グググッとした浮遊感の後にポーンッと到着を報せる音。開かれたエレベータードアを抜けて私の部屋の前で立ち止まると、ランドセルから鍵を取り出して鍵穴を回してその中へと入る。

 

 開かれた先にはがらんとした薄暗い玄関。土間には私の物である小さな靴しかなく、その隣に沿えるように履いていた靴を脱ぐと、廊下からリビングへと至り、冷蔵庫の扉を開けて中身を確認する。

 

 ──うん、ちゃんと材料がある。今日はハンバーグとスープが作れるぞ。

 

 予定していたラインナップが出来ることに満足すると、私はランドセルをリビングのソファに置いて隣接した部屋へと向かう。

 

 

 

「ただいま。ママ、パパ」

 

 

 そこには両親の私物が当時のまま残されていた。

 この部屋の机に置かれた、私たち家族三人が写った幸せだった頃の写真が入った写真立てに向けて私はただいまの挨拶をした。

 

「今日は学校で初めてテストがあったんだ。でも安心してね。ちゃんと全部解けたんだよ」

 

 その写真の前に座り、いつものように今日あったことを話す。

 

 入学後初めてテストがあったこと。

 体育の徒競走で男子より早く走れたこと。

 給食の時に徒競走で勝った男子がデザートをくれたこと。

 今度、作文発表の日に授業参観があること。

 

 話の内容は日常の些細なことばかりだったけど、それでも私はずっと語りかけていた。

 だけど今日あったことの話題なんてすぐに尽きてしまうもので、次第に話の合間の時間が長くなり、沈黙が流れるようになる。

 

 いつもなら話すことがなくなって沈黙が流れた時が両親への報告も終わる合図となっていた。

 

 

 

 でも、今日はそうじゃなかった。

 

 

 何でなのか私にも分からなかった。けれど今日の私はずっと胸に何かが突っかかっていて、それのせいで普段言わないようなことを声に出したい気分だった。

 

 

「……そういえばママとパパは知らないだろうけど私、結構料理出来るんだよ。今日だってさ、ハンバーグ作ろうとしてるんだ」

 

 沈黙の後に口から漏れたのは両親に語るようで違う、私の独白だった。

 

「ママは私が小さいからって包丁持たせてくれなかったけど、包丁握った歴で言えばママよりも私の方が長いんだよ? 実を言うとママが料理してるのちょっとハラハラして見てたんだ」

 

 父を喜ばせようとレシピ本と睨めっこしながら辿々しく料理を作る母のことを微笑ましく思い出す。

 

「パパだって。働くパパカッコいいだろうってスーツ着てる姿をずっと見せてきてたけど、私の方が社会人歴長いんだよ? 今だから言うけどさ、珍しく仕事持ち帰ってリビングでパソコン開いてたことあったでしょ。あの時寝落ちしたパパの代わりに残りの資料作ってあげてたんだ。ふふっ、知らなかったでしょ?」

 

 翌朝、目が覚めた父が出来上がった資料を見て「俺はやれば出来る男だ!」と声高に宣言してたことを思い出して笑みが溢れる。

 

 だけどその笑みも直ぐに消え、気付くと私は震える手で写真立てに手を伸ばしていた。

 

 

 

「なんで……、いなくなっちゃったの……?」

 

 私の口から漏れたのは、そんな言葉だった。自分でも驚くくらい、この世の理不尽を呪うかのような声だった。

 両親が亡くなって、二人がまた私を選んでくれるためには二人が知っている私でいなくてはいけない。だからあの日から弱音も泣き言も言わずに、いつも通りの私で在ろうとしていた。だけど、それが崩れようとしていた。

 

 ──あぁ、二人はいつも通りの私を愛しているのに。こんな弱音を吐くなんて、いつもの私じゃない。二人はこんな私を見たくないはずなんだ。

 

 頭の片隅の俺としての理性がそう警鐘を鳴らす。だけど私としての感情がそれを覆い隠す。

 そしてそれは初めて私の口から感情の吐露として溢れ出てきた。

 

 

「ママと一緒に料理を作りたかった……」

 

 ママよりも手際良く料理出来るんだと、誇らしげな顔をしてママを驚かせたかった。

 

 

「パパと一緒に仕事の話をしたかった……」

 

 大人になって朝はママに見送られながら、パパと二人で満員電車に乗って大変だねって言ってみたかった。

 

 

 ──だけどもう、それらの願いが叶うことはない。

 

 

「この家だって、私が守ったんだよ……?」

 

 両親が亡くなって身寄りのない私は、唯一の親族である父方の祖父母の下に引き取られることで話は進んでいた。そして、元々両親と共に住んでいたこのマンションは私が祖父母の家に住むことが決まった時点で引き払う話になっていたようだが、それを知った私は頑なに拒んだ。

 

 普段の年不相応な態度と打って変わり、癇癪を起こした子供のように声を荒げ、祖父母に噛み付いた。

 

 両親と共に過ごした家を引き払うなんて、私には身を裂かれるよりも耐え難いことだった。

 涙を流すのも大声で泣き叫ぶのも厭わず、大人達からこの場所を守るために、その時の私が出来る限りのことをがむしゃらにやった。

 

 祖父母は見たことのない私の姿に驚きを見せ、そして思うところがあったのだろう。マンションを引き払うという話は私が思っていたよりもあっさりと白紙になり、私は今でもこうして住み続けることが出来たのだ。

 

 

「本当、頑張ったんだよ。ずっと、ずっと。……ママとパパに、褒めてもらいたいな」

 

 ポツリと呟かれた私の小さな声は、誰に届くこともなく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 ──あれから、どのくらいの時間が経っただろうか。

 

 部屋のカーテン越しに茜色の陽が差していることから、もう夕方ぐらいになっているのかもしれない。

 

「──よし、弱音はもうおしまい!」

 

 今まで隠していた感情を吐露したおかげか、落ち着きを取り戻した私は自分に言い聞かせるように大きめの声を上げる。

 目元を服の袖で拭い、パチンッと両頬を軽く叩いて気持ちを一新すると、私は写真立てに目を向けた。

 

「ママ、パパ……大丈夫。これからはちゃんと『いつも通り』の私だから」

 

 そう言い残して、私は両親の部屋を後にした。

 

 

 

 

 ──ピンポーン。

 

 リビングに戻ったタイミングで、インターフォンの甲高い音が鳴り響いた。チラリと時計を確認してみれば、短針と長針は予定していた時間を示していた。

 

 私はパタパタと小走りで玄関へ向かうと、施錠を外して扉を開ける。

 開け放った扉の向こうにいたのは、肩にトートバッグを掛けてラフな恰好に眼鏡を掛けた一人の男性。その片手には頼んだ覚えのない、近所のスーパーの買い物袋が提げられていた。

 

「……また無駄遣いですか?」

 

「えっと、新しいデザート出てたから、どうかなと」

 

 ジトリと、彼を見上げながら咎める声でそう問い掛ければ、彼は言い淀みつつも買い物袋を僅かに掲げて見せた。それがなんだか可笑しくて、私は小さく笑うと身を捩らせて部屋の中に入るように促す。

 

 

「ふふっ、冗談ですよ。おかえりなさい、吾郎くん」

 

「う、ん……ただいま」

 

 気恥ずかしそうにする彼──雨宮吾郎くんを招き入れると、私はそそくさと玄関扉を閉めるのだった。

 

 

 

 

 

 雨宮吾郎くん。

 父の遠い親戚の甥っ子で、現役の大学生だ。彼は我が家の隣の部屋に住んでいるのだけど、それにはある事情があった。

 

 というのも、本来なら私は祖父母の下で暮らすことになる予定だったのだが、私がこの部屋から離れたくないと抵抗したことによってその話は流れた。

 しかし、だからと言って幼すぎる私をこのままマンションに一人で住まわせるなんてことは認められないし許されなかった。

 

 祖父母がマンションに越して来ようにも、二人はいまだにそれなりの役職に就いて現職で働いており、その勤務先まではマンションから遠く離れていて到底通うことは出来ない。

 

 どうしたものかと祖父母は頭を悩ませ、私も二人を納得させるために今度は一緒になって色々と考えた。

 前世の記憶を活かして一人で何でも出来る……それこそ自活する程度の家事はそつなくこなせるということをアピールしたが、それでも祖父母を納得させるには足りなかった。

 

 ああでもないこうでもないと考えあぐねた私は、駄目元である案を提示した。

 

 現在、我が家の隣の部屋は空き部屋となっており、そのどちらかを購入して私の面倒を見てくれる信頼のある人を住まわせ、定期的に祖父母に経過を報告させるのはどうか──というもの。

 

 皮肉にも私の手元には両親の生命保険金、事故の車両保険金、相手運転手からの賠償金が入っており、隣室を購入してもまだまだ余裕があるくらいには貯えがあったからこその案だ。それに不動産としての価値もある訳だから、無駄遣いとはならないだろう。

 

 そして私の面倒を見ると定義したが、それはただ単に私が無事に過ごしているかを連絡するだけの役割ををしてもらうだけで、実際に家事等をしてもらうことまでは求めていない。

 そこまでするならば一緒に住めばいいのでは、ということも言われたが、それを私は拒絶した。私たち家族の空間に他人を住まわせるのは、心理的に受け入れることがどうしても出来なかった。

 

 祖父母も私のその案を聞き、渋々ながら納得して私たちは条件の合う人を探すことにした。

 

 そうして白羽の矢が立ったのは、吾郎くんだった。

 

 彼は東京の医大に合格し、田舎から上京する際の下宿先を探しているという話を聞き付けた私は、祖父母を説得して彼に件の条件で隣室へ住まないかと交渉した。 殆ど面識のない五歳児からそんな話をされて彼は酷く狼狽えていたが、それでも住む場所があるのは魅力的だったようで、幾つか質問された後に了承を頂いた。

 

 まぁ、その質問でギフテッドかと問われた時は笑ってしまった。ただ前世の記憶を持ってズルをしているだけなのに……なるほど、私はそう見られてるのかと。

 

 

 ──と、これが吾郎くんが隣室に住む事情。そして朝と夕の食事を一緒に取る時に私はその日の予定とその日にあったことを吾郎くんに報告し、吾郎くんはそれを祖父母に報告している。

 

 

「今日はハンバーグの予定なんですけど……んー、まだちょっと時間が掛かるのでテレビでも見てゆっくりしてて下さい」

 

 台所に立ち、手を動かしながら吾郎くんにそう告げる。ハンバーグは吾郎くんの好物でもあり、今日のメニューを聞いて彼は僅かに頬を綻ばせたが、直ぐにいつもの真面目な表情へと切り替える。

 

「俺も何か手伝わせてくれないか?」

 

「いえいえ、気にしないで。なんなら部屋に戻っててもいいですよ? 出来上がったら呼ぶので」

 

「う、むぅ……」

 

 申し出は有難いが、料理には私なりの効率的に考えた時間配分や手順があるので丁重にお断りする。

 普段は彼の帰宅時間に合わせて夕飯を用意していたので直ぐに食べることが出来ていた。しかし今日は例の件があって遅れてしまっているので吾郎くんは料理をする私の姿を初めて見たのだろう。

 

 ──たしかに、小学生の子供が慌ただしく料理をしているのに自分はテレビを見てゆっくりしているなんて出来ないんだろうな。

 

 

「……えっと、それならハンバーグの付け合わせをお願いしちゃおうかな、なんて」

 

「っ、分かった。任せてくれ」

 

「ふはっ」

 

 そう言って嬉しそうに台所にやって来て私の隣に立つ吾郎くん。そんな彼の背後に犬のように揺れる尻尾を幻視し、私は咄嗟にそっぽを向いて堪え切れない声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ミヤコさんはまた今度、いつか絶対に出すんだ……!
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