マジキチに狙われたTS転生っ娘   作:ニセ神主

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またしても難産……
というより下書きもなにもないので、多分今後も同じぐらいになるかと。



第5話

 

 あのテレビ番組がキッカケに、私の日常は大きく変化した。

 

 例のテレビ番組の最後に私の演技を褒めたゲスト。実は彼は業界では名の知れた映画監督らしく、作品にかける情熱は人一倍で、プロの俳優女優が相手でも厳しい演技指導をすることで有名なのだとか。

 そんな彼が番組への忖度と御世辞が含まれるとはいえ、素人演技を褒めるということはかなり異例なことだったらしく、その界隈では俄かに騒がれた。

 

 当然、私はそんなことなど露知らず過ごしていたのだけど、それが及ぼす影響に巻き込まれたのは学校の授業参観の日だった──。

 

 

 

 多くの保護者達が見守る中で行われた授業。

 

 私の保護者は祖父母となっているが、仕事が忙しいのもあって来ていない。というよりも、私がわざと伝えないようにしていた。

 

 なんだかんだで祖父母は私に甘く、授業参観があると伝えたら間違いなく仕事を休んででも来てくれる。でも二人は役職有りの身分のため、仕事に穴を空けるような迷惑は掛けたくない。

 だから私は二人の負担にならないよう、吾郎君にも見つからないようにこっそりとプリントを処分した。

 

 そうして私は保護者不在のまま授業を受けることとなった。

 

 

「はいはい。みんな落ち着いてねー」

 

 小学校に入学して初めての授業参観ということもあってか、良いところを見せたい、見られるのが恥ずかしい等の様々な感情で普段以上に騒つくクラスメイト達。それを宥める先生は普段よりも大変そうだ。

 

 だが、騒ついていたのは子供達だけではなかった。

 

 どうしてか、教室の後ろで見守る保護者達から私に向けられる視線が不自然なほど多い。最初は勘違いかとも思ったが、私が先生に当てられて答える時なんかは騒めきが多すぎて先生が保護者達に注意するほどだった。

 

 そんな異質な雰囲気がクラス中を包み込む中、チャイムの音が鳴り響くことで漸く授業が終わった。

 

 

「ねぇ、君って麻里亜ちゃん……だよね?」

 

 授業が終わり、安堵とともに廊下に出たところで急に声を掛けられた。声の方に振り向くと、そこには見覚えのない大人の男性が立っていて、何かを期待するかのような目をしながら私を見下ろしていた。

 

「あ、はい……、麻里亜は私ですけど……?」

 

 面識のないその人に何故急に話し掛けられたのか、どうして私の名前を知っているのかが分からず、私は小さく首を傾げながらも返事をする。

 

「やっぱり! テレビで君の演技見たけど、すっごく良かったよ! あれは感動しちゃってさー。もしかして子役、やってたりするの?」

 

 私が名乗るや、その人は他の親や生徒が行き来する廊下であるにも関わらず興奮気味に私の手を取ると、一息に捲し立てた。

 そうしてその人の話が例のテレビ番組のことと気付いた頃には、同じようにテレビ番組を見ていただろう他の親達にも囲まれていた。

 

 

「やっぱりテレビに映ってた子だったんだ」

 

「雰囲気っていうか、オーラが違うものね」

 

「子役なんだって? いやぁ、凄い子が同じ学校にいたもんだ」

 

「サイン貰っちゃおうかしら」

 

 周りの大人達が、私のことを良いように評価した言葉を口にする。それらは次第に伝播していき、遠巻きに様子を見ていた人たちにも伝わっていって授業の時とは比にならないほどに辺りが騒然としてしまう。

 

「あ、あの」

 

 どうにか騒ぎを落ち着かせないと。

 そう思って私が口を開くと、周りの騒めきがピタリと止む。その変化に驚いて見渡してみれば、私が何を言うのかを期待しているような、そんな視線が無数に私を見下ろしていた。

 

「えっ、と……」

 

 

 

 

「ったく、大人がガン首揃えて子供1人取り囲んで何やってんだか」

 

 人垣の向こう。私が言葉に詰まって静まり返った中でその声は特に響いた。

 人々がその声の方へと向き直る中、つられて私も同じように視線を向ける。

 

 そこには、授業参観に参加した保護者とは思えないガラの悪い人が立っていた。

 その人はツカツカと私の手を取る大人へと近付くと、そのサングラスの奥の瞳を細める。

 

「そ、そんは人聞きが悪いな……私らは、ただ」

 

「『ただ』、何だよ。寄って集って子供に詰め寄ってたじゃねぇか。違うか?」

 

 スーツ姿に金髪に無精髭、それにサングラスを身に付けた男性が私を取り囲んでいた大人達一人一人に視線を這わせる。言われた内容とその風貌も相まってか、誰もが口を噤んで視線を泳がせる。

 

 次第に、波が引いていくように少しずつ私を囲む人集りは小さくなっていき、最初に私に声を掛けてきた人が申し訳無さそうに「怖い思いさせて、ごめんね」と言い残して去って行くと、漸く私は解放された。

 

 

 人集りが捌けたその時には、あのサングラスの人はいなくなっていた。

 

 

 

「待って、下さい!」

 

 校門からまさに出る寸前のところで、追い付いた。

 スーツを着た男性が振り返って私と目が合うと、彼は驚いたような表情を浮かべる。

 

「さっきは、ありがとうございました」

 

「いや、まさか追っかけて来るとは……。お礼はいいさ。君、というより周りの大人達を俺が見てらんなかっただけだから」

 

 ぶっきらぼうにそう言い放つ彼。多分、彼が言っていることは事実なのだろうけど、それで私があの状況から助けられたのもまた事実なのだ。

 

「それでも、私は貴方に助けてもらいました。ありがとうございます」

 

 頭を下げ、もう一度礼を述べる。そして顔を上げて彼を見れば今度はポカンと呆けたような表情を浮かべていた。

 

「……本当に大人びてるというか、テレビの印象そのまんまだな」

 

 納得するような、感動しているような。そう感嘆の声を漏らすと、彼は何かに気付いたように慌てて口元を手で覆う。

 

「あ、いや、すまん……これじゃ俺も他の大人のこと言えねぇな」

 

「いえ、そんなことは……」

 

「いや、そうは言ってもよ……ん?」

 

 いえいえ、そんな。いや、でも、それは。

 お互いにそんな応酬をしていることに気付いて、ふと顔を見合わせた瞬間に吹き出して笑ってしまった。

 

「ハハッ、子供相手になんで社会人みてぇなやり取りしてるんだろうな!」

 

「ふふっ、何だか懐かしい気がします」

 

「いや、なんでだよ。君まだ小学生だろ」

 

 おっと。ついうっかり。

 

 

「そういえば、もう帰られるんですか?」

 

 子供達の授業風景を観るのは授業参観のメインではあるものの、授業が終わればその後は保護者と先生との意見交換の時間が設けられている。

 子供達の授業の様子を生で観ることが出来た保護者達にとって実際に感じ取ったことを直接言える機会は貴重で、大体の保護者は出席のため今は会議室へと集まっているはず。

 

 それでも仕事の都合で出席出来ない保護者は居るだろうが、目の前の彼からは仕事のためと急いでいる様子を感じられなかった。むしろどこか浮かれているという感じがする。

 

「あー……まぁ、なんつーか。ウチの社員が仕事で忙しいからって、代わりに頼まれて子供の様子を見に来ただけだからさ」

 

 そう言って彼は持っていたバッグの中からハンディカメラを取り出すと、映像を再生させて見せてきた。

 映像には隣のクラスの子が映っていて、カメラに気付くと恥ずかしげにはにかみながらピースを返している。

 

「この子って……」

 

 確か、この子の親は芸能事務所で社員として勤めてると聞いたことがある。変則的な業界故に授業参観に来ることが出来ないと寂しそうに話していたが、映像の中の様子を見るに、その子から寂しさは感じられなかった。

 

「知ってる顔とはいえ、仕事で親が来れなくて代わりに俺みたいな奴が来ても、こうしてカメラに笑ってやれるんだ。早く戻って子供が頑張ってる姿見せてやらねぇと」

 

 そう言って目の前の彼が嬉しそうに頬を緩ませる中、私は気になっていたことを問い掛ける。

 

「……えっと、もしかして芸能事務所の関係者だったりしますか?」

 

「ん? あぁ、そういや名乗ってなかったか」

 

 彼はそう言うと胸ポケットから名刺入れを取り出すと、そこから1枚抜いて私の前へと差し出す。

 

「君の言う通り、一応こんなナリしてるが社長をやってるんだ。まぁ小さい芸能事務所だがな」

 

 差し出された名刺を受け取って見れば、そこには『株式会社苺プロダクション』という名の芸能事務所、それに代表取締役社長の肩書とともに彼のものと思われる名前が書かれていた。

 

「苺、プロ……?」

 

「おっ、凄いな。苺って漢字読めるのか。そう、俺こそが新進気鋭の芸能事務所である苺プロダクションの社長、斉藤壱護だ」

 

「あ、ご丁寧にどうも……麻里亜、です」

 

 自分を指差してニヤリと笑みを浮かべるガラの悪い男性もとい、斉藤壱護さん。彼の勢いにつられて私もつい名乗り返してしまう。

 

「そうか。──ちなみになんだが麻里亜ちゃん。子役とか芸能界に興味あったりするか?」

 

「えっ?」

 

 若干の緊張を孕んだ壱護さんの声。

 その申し出に驚きつつ、真剣な眼差しで私を見下ろす彼と視線が交わる中で、私は──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

「君ってアレでしょ! テレビで話題になってる子役ちゃん。今のところ抜けてウチのデカい事務所に来ない? 売れっ子アイドルの〇〇君とか××君とかいるよ」

 

 チャラチャラした雰囲気のスーツを着崩した人が声を掛けてくる。普通、下校途中の小学生の女児にそんな勧誘してくるなんて正気を疑うが、それが業界あるあるなんだろうか。

 

「少し話したいんだけど、ここからウチの事務所も近いし、ちょっと来てくれる?」

 

 返事がないのをいいことに、ペラペラと喋り続ける目の前の男が私へと手を伸ばしてくる。

 

 しかし、その手が私に触れることはない。

 

 

 

「ウチの看板娘に何か用ですか?」

 

 後ろから掛かる声に、チャラチャラした男が驚いて振り返る。

 

 振り返った先には同じようにスーツを着崩してはいるものの、金髪に無精髭、それにサングラスといった絵に描いたような厳つい男が立っていた。

 その男は露骨に眉間に皺を寄せながらチャラチャラした男へと、また一歩近付く。

 

「ウチの、娘に、何の用かって、聞いてんだよ。あぁ?」

 

 最初の丁寧な語尾は何処かへ旅立ち、代わりにそこら辺の不良顔負けの凄みを効かせた声で詰め寄れば、私に声を掛けてきた男は情けない悲鳴を上げながら一目散に走り去っていった。

 

 その背中にご愁傷様、と声に出さずに投げ掛けると、私は振り返ってその人を見上げる。

 

「ありがとうございます。壱護さん」

 

「いい加減、社長って呼べよ」

 

「社長って雰囲気じゃないですもん」

 

「なんでだよ」

 

 その格好だからですよ──なんて言ってしまえばきっと傷付くんだろうなぁ。

 そんなことを考えていると顰めっ面の壱護さんがそっぽを向くと同時に歩き出す。私の歩く速度に合わせてくれているので、その歩みはとてもゆっくりとしている。

 

 

「仕方ないですね……んんっ、待って下さいよー。社長さぁん」

 

 ふざけてちょっと意識して呼べば、壱護さんが慌てて戻ってくる。

 

「やっぱ今までどおりに呼べ! 喋れ! お前にそう呼ばれると何か、こう……周りの目がッ!」

 

「何のことですか? それに、そう呼べって言ったのは誰でしたっけ。ねぇ、社長さん?」

 

「勘弁してくれ……」

 

 項垂れる壱護さんのサングラス越しに見える瞳が、呆れ果てたように細められる。これ以上は悪ふざけもほどほどにしておこう。

 

 

「それにしても、業界ではあんな堂々とヘッドハンティングするものなんですか? あの人が言ってたアイドルの所属事務所って、かなり大手ですよ」

 

「んな訳あるか。どうせ事務所の名前を騙った偽者に決まってるだろ。お前の世間での評価は売れっ子で良い子ってことになってるからな。ガキだし、騙せると思ってるんじゃないか」

 

「へぇ……」

 

 良い子、ね。そう思われてるとは重畳。

 

「大方、悪質なスキャンダル写真でも撮りたかったんじゃないか? 男と2人で部屋に入る様子や灰皿と煙草を前にして座るお前の写真なんて撮れたら、事実はどうあれ週刊誌は大騒ぎで記事書くだろうし、イメージは悪くなるだろうな」

 

「うわぁ……」

 

 ──改めて油断も隙もない、すごい世界だな。芸能界って。

 

 

 

「それで、壱護さん。次はどんな仕事ですか?」

 

「ん? あぁ、次もドラマの端役。主人公の幼少時の友人役だそうだ」

 

 端役と言いつつも壱護さんの横顔は嬉しそうだった。

 聞けばそのドラマは巷でも結構な人気の作品で、それにちょっとした役でも出られれば知名度は今までの比でないくらい上がるだろう。

 

 

「そうですか……それで、私のお願いはどうなってますか?」

 

 問い掛けて、ピタリと歩みを止める壱護さん。

 振り向きながら壱護さんを見上げると、さっきまでの笑みは鳴りを潜め、眉間に皺寄せる彼と目が合う。

 

「……そっちはまだ大きく進展はないが、とりあえず局の制作関係者とは連絡のやり取りは出来るようになってる。あとはもっと上の奴の目に留まれば、もしかしたら声が掛かるかもしれん」

 

「ありがとうございます。なら撮影頑張らないとですね……って、壱護さん。嬉しそうじゃないですね。私が活躍すれば事務所の知名度も上がるんですよ?」

 

 壱護さんの夢は前に聞いたことがある。

 確か自分の育てたアイドルを東京ドームに連れて行く、だったっけ。私はアイドルにはなれないけど、事務所の知名度を上げれば、それの近道になると思うんだけど。

 

「……ガキの復讐に手ぇ貸してるんだ。気分良くなるわけねぇだろ」

 

「あははっ、復讐なんて大袈裟な。私はただ、大事なモノを返して貰いたいだけですよ」

 

 そのついでに、色々と聞かせてもらう予定ですけどね。

 

「それに、最初の頃に言いませんでしたっけ? 叶えたいことがあるって」

 

「……普通はそれ聞いたら人気女優になりたいとかドームのステージに立ちたいとかだと思うだろうが。それがまさか例のビデオを送った奴を突き止めたいなんて、分かるわけないだろう」

 

 呆れているのか怒っているのか。

 低く発せられる壱護さんの声に、だけど私を非難するような様子は含まれていない。

 

「ふふふっ。すみません、聞かれなかったもので」

 

「……ったく。しかも俺が断らないように知名度が上がってからそれ言い出すとか、ホントお前の世間の良い子ってイメージは何なんだろうな。腹黒すぎて怖いわ」

 

 諦めたように肩を落とす壱護さんに、私は再びクスッと笑みを零す。

 

 

 

「壱護さん」

 

 やはり色々とまだ思うところがあるのか、私が呼んでも眉間の皺は深くなるばかり。そんな彼の手を取って、そっと両手で包み込む。

 

「私、本当にすごく感謝してるんですよ。私の願いを真面目に聞いて、その上でも否定しないで私のために動いてくれてること。子供の私だけじゃ、絶対に近付くことすら叶わなかった。

 だから私も壱護さんの……社長の夢を叶えるお手伝いがしたいんです」

 

 本心から、そう伝える。

 壱護さんには私を芸能界の舞台に立たせてくれた、返しても返しきれない恩がある。今の私に出来ることは限られてるけど、私に出来ることなら──。

 

「私は、なんだってやりますよ」

 

「麻里亜……」

 

「まぁ『死ぬ気で』とか、『命懸けで』とかは無理ですけど。私、まだまだ叶えたい夢もありますので」

 

「……その夢ってのは何だ?」

 

「そうですね……、パパとママと一緒に暮らすこと」

 

「っ、お前」

 

 壱護さんが小さく息を呑む。

 苺プロダクションの所属になるにあたり、彼にも私の身上は説明済みである。だから私の両親が事故で既にいないことは知っている。だからこそ、両親と一緒にという言葉の意味を壱護さんは悪い方に捉えたのだろう。

 

「安心して下さい。壱護さんが考えてるようなことはしません」

 

 その言葉に、壱護さんが小さく安堵する。

 そしてパッと彼の手を離して私はまた歩き始める。

 

 

「……初めて会った時、お前がそんな歪んでるって知ってたら、スカウトなんてしないでもっと別の道に進ませたのによ」

 

 後ろから絞り出すような壱護さんのそんな声が聞こえた。それは私も両親の写真の前で何度も零したことのある、心から後悔した時と似た声色だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

 

 

「っ、誰か! 誰か助けて!! パパとママを助けて! お願い、誰かパパとママを助けてよっ!!」

 

 

 原型が分からなくなるほどグチャグチャになった車の中から、彼女の悲痛な叫び声が響く。

 

 普段から先生とは別に、まるで母親かのように他の子達を諭す年不相応な姿からは想像し得ない、理性をかなぐり捨てたかのように荒げられた声。

 それは僕の期待していた以上に心に直接響き、胸を騒つかせるものだった。

 

 彼女の声はどういう訳か妙に耳触りが良くて、発する言葉がストンッと何の抵抗もなく胸の中に落ちる。彼女がよく口にする「愛してる」という言葉も、他の子や先生達は全く疑いもなく受け入れている。

 それが彼女の持つ特別なものなのか分からない。だけどそんな特別な彼女が、

 

 

 

 

 事故を目撃し、彼女の叫びに気付いた周りの人達はひしゃげた車へと駆け寄って行くが、信号機と相手の車に挟まれた彼女の乗る車は、どんなに手を尽くそうと人の力だけで動かすことは出来ない。

 

 

「誰か、ヒュッ──、お願いだから、ゲホッ、助けて……」

 

 彼女の声に、呼吸に、異常が起こる。

 次第に弱まるその声に、集まった大人達が顔色を変えて慌てだす。

 

 

 誰か早く助けてあげて。と目に涙を浮かべながら人手を集めようと叫ぶ女。

 絶対に助けるぞ。と割れたガラスで手が傷付くのも構わずドアを開けようと試みる男。

 他にもその場に集まる人達が各々声を掛け、車内に残された彼女とその両親を助けようとする。

 

 

「んー」

 

 両手の人差し指と親指を合わせ、カメラのフレームのようにして眼前に掲げる。ひしゃげた車を真ん中に、多少収まりきらない部分はあるものの、そのフレームに区切られた空間はとても印象的で、感動に胸が締め付けられてしまう錯覚さえ覚えてしまう。

 

 それはまさに、映画のワンシーンのようだった。

 悲劇に見舞われた彼女を救うため、見ず知らずの人達が集まり、救助活動を行っているという、手に汗握るワンシーン。これでみんなが無事に助かればハッピーエンドの大衆向けな展開だろう。

 だけど悲しいかな。映画ではない現実では、家族みんなが命を落とす悲劇で幕を閉じる。

 

 ──車の中から、既に彼女の声は聞こえて来なくなっていた。

 

 

「──あぁ」

 

 たった一歩。

 

 僕が道路にたった一歩踏み出しただけで、こんなことになるなんて。

 小さな僕の小さな一歩のせいで、みんなに愛されていた君が死んでしまうなんて。

 もう二度と、君の輝く姿が見れなくなってしまうなんて。

 

 僕の小さな一歩は、特別である君の命を奪ってしまうほどに影響が大きいみたい。僕自身の重みは、君よりも上だ。

 

「教えてくれて、ありがとう」

 

 ふと、道路上に落ちている物に気付いた。

 

 それは彼女の父親が使っていたビデオカメラだった。今日の発表会の観客席で一際大きく騒いでいたので、見覚えがあった。

 衝突の際に車外に飛び出たのだろうか。落ちた衝撃でカメラは酷く壊れていたけど、中のメモリーカードは無事みたいだった。

 

「これは君の最後の記録として貰っていくね」

 

 遠くから聞こえてくるサイレンの音。

 集まる人々は音の方へと向いているが、僕はその反対方向へと歩みだす。

 

 

 

 

 

 新聞の見出し。そこには奇跡的に一命を取り留めた彼女のことが書かれていた。

 

「……ふぅん。生きてたんだ」

 

 両親を失った今、きっと彼女はこれまでのように生きてはいけないだろう。もしかしたら彼女の瞳に宿る輝きは濁って光を失ってしまうかもしれない。

 

「それは……嫌だな」

 

 そんな彼女に価値はない。そして彼女に影響を及ぼしきれなかった僕は、もっと価値が乏しいことになる。

 

「そんなことは許さない……君にはもっと輝いてもらわないと」

 

 とりあえず、まずは君に一目会ってみないと。

 

 

 

「パパとママはいつも私のことを愛してくれてるの。だったら私も普段通りにしなくちゃいけないだけ」

 

 そう話す君の揺るぎない意志を宿した瞳。

 その奥に燻る狂気染みた影を上手く隠せているみたいだけど、他の人達は気付いているだろうか。まぁどちらにせよ、僕には関係ない。

 むしろ今のその姿は以前よりも子供の枠を超えた歪さが見えるようになって、一層彼女の魅力が増しているようだった。

 

 相変わらず君の言葉は僕の胸を騒つかせるけど、今の狂ってる君の言葉は何処か心地良くって、僕はホッとした。

 

 

 これなら君はもっとこの先も輝いていけるだろう。そして今度こそ、君を──。

 

 

「そのためなら、僕も手伝わないとね」

 

 帰り道、思い浮かぶのは部屋の引き出しに仕舞い込んだ1枚のメモリーカード。それの中には君の魅力が目一杯詰まった演劇の様子が収められている。

 あとはそれを世間に広めるだけで、見た人達は君を放っておかないだろう。そうすれば君は自然と輝いてくれるはずだ。

 

 

 

「それまで楽しみにしてるよ、麻里亜」




原作キャラ
 カミキヒカル
 雨宮吾郎
 斉藤壱護←New

全然原作キャラが出てないことに気付いてしまった……。
というより早くアイ出せよって思いますよね、はい。私もそう思います。
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