不良生徒な召喚士と禁忌教典   作:hibari11

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第1巻
第一章 不良生徒とロクでなし非常勤講師


 アルザーノ帝国の南部、ヨクシャー地方に位置する都市であるフェジテ。

 この都市には大陸でも一、二を争う大国であるアルザーノ帝国が誇る帝国魔術学院が置かれ、学院と共に発展していった学術都市である。

 ここには魔術を極めんとする若き魔術師の卵達が集まり、日々研鑽を積んでいる。

 そんな魔術学院の一室、学士二年次二組の教室では朝から一人の少女が憤慨していた。

「……遅いッ!」

 この学院では、生徒も講師も皆熱心なものばかりで、遅刻するような不届き者はほとんど存在しない。そう、ほとんど。

 一月前にこのクラスの担当講師だった人物が突如として退職してしまい講義に遅れが出てしまっていた。

 そして今日からやっと代わりの非常勤講師が来ると発表されたのが今朝のことだ。

 魔術師の位階として最高位である第七階梯(セプテンデ)に至った大陸随一の魔術師セリカ・アルフォネア教授が訪れ、『中々優秀なやつだよ』との言葉を残したことにより教室の期待値は高まっていたものの、始業時間を過ぎているのにもかかわらず、一向に姿を見せないのだ。

 生徒達は大丈夫なのかと期待は不安へと変わり、真面目な生徒の中には怒りを覚え始めている者も居た。

 少女、システィーナ=フィーベルは真面目な生徒の筆頭であり、『講師泣かせのシスティーナ』とも呼ばれるほど魔術に対して真摯で真剣な彼女にとって、いかなる理由があれど学院の講義時間に遅れるというのは言語道断であった。

「何かあったのかな?」

 システィーナの隣で困りながら首をかしげているのはルミア=ティンジェル。学院内で『大天使』とも評される彼女は、こんな状況下でも未だに現れない新しい講師の心配をしていた。

「もう!本当に今日は朝からなんなのよ!変質者には会うし!先生は来ないし!」

「あはは……落ち着いてシスティ。もしかしたら何か理由があって遅れてるのかも知れないし……」

「甘いわよ、ルミア。いい?どんな理由があったとしても遅刻するのは意識の低さの表れなのよ。そう、アイツみたいに……!」

 そうシスティーナが言ったところで教室の扉がガラガラと音を立てて開く。生徒達はようやく講師が来たのかと一斉に扉の方に注目するが、期待に反して入ってきたのは学生服姿の男だった。

「すいませーん、遅刻しましたー」

 180センチはあるだろうか。長身痩躯という言葉がよく当てはまる体格だが、よく見れば引き締まっていて鍛えられていることが伺える。光の反射によって緑にも見える黒色の髪を右の横髪だけ三つ編みにした特徴的な髪型。三白眼をした瞳はけだるそうに細められ、謝罪を口にしながらもそれが本心ではないことは表情を見れば明らかだった。

「あれ、まだ授業始まってないのか?」

 教壇に誰もいないことを見た男はそう言って、耳に付けた変わった形のピアスを揺らしながら教室の空いている席へと向かっていく。

 その歩みをシスティーナが遮った。

「ロルフ!あなた今週だけでもう三回目の遅刻よ!魔術学院の生徒としての自覚が足りないと一体何度言えばわかるのかしら!」

 システィーナにそう言われた青年、ロルフは肩を竦めて返す。

「いやぁ悪い悪い。でも今日は授業始まってなかったんだし大目に見てくれよ?」

「そういう話をしてるんじゃないの!意識の問題よ!大体あなたねぇ――」

 ちくちくと小言を言い続けるシスティーナとそれを柳に風と受け流すロルフ。

 このクラスではもはや見慣れた光景だった。

 

 ロルフ=ヴァーリ。数か月前に二年次になってからこの二組に編入してきた生徒だ。

 帝国北部スノリア地方の出身で、多くが一四、五歳で入学する者が多い学院の生徒としては少し年齢が高い一七歳。

 特徴的で目立つ容姿をしていることもあって編入当初から注目の的となっていたが、今では別の意味で学院内の有名人となっていた。

 遅刻は当たり前で講義中も堂々と居眠りを敢行する授業態度。それで居て成績は座学・実技共に優秀なために真面目な教師や生徒達からは反感を抱かれ、今のように真面目な生徒の筆頭たるシスティーナからは目の敵にされていた。

 他にもあることないこと噂され、今じゃ学院で知らない者はいない不良生徒だ。

 講師が来ないために苛立っているのだろう。いつもより小言が多い。ロルフはそれを半分聞き流しながらもあしらって、定位置となっている最後尾窓際の席へと向かう。

 まだシスティーナは何か言いたげではあったものの、一応授業中ではあることを思い出したのかその矛を収めて着席する。

 しかし、あの様子であれば休み時間になるとまたお説教されるかもしれない。

 それは避けたいなと考えながらロルフが机に頬杖をついていると、再度扉が開かれる。

 どうやら、今度こそやっと件の講師が到着したようだ。

「あー、悪ぃ悪ぃ、遅れたわー」

 授業時間が半刻も過ぎたところでやっと現れた青年の姿は何故かボロボロだった。システィーナが一言言おうと立ち上がりその姿を目にすると驚いて叫ぶ。

「あ、あ、あああ――貴方はッ!?」

「人違いです」

 どうやら、顔見知りのようだ。叫んでいる話の内容から察するに今朝にひと悶着あったらしい。

 新任講師の青年――グレン=レーダスが挨拶をしているところを遮って苛立っているシスティーナがはやく授業を始めるように言い放つ。グレンはあくびを噛み殺しながら黒板の前に立ち授業を始めようとすると、生徒達――約一名を除いてだが――は気を引き締める。

 グレンの一挙手一投足に注目が集まる中、チョークでデカデカと文字を書き連ねる。

 

『自習』

 

 教室は沈黙と困惑で埋め尽くされ、システィーナは「じしゅ……?え?じしゅう……?え?」と繰り返している。

「えー、本日の一限目は自習にしまーす……眠いから」

 グレンは講師にあるまじき理由を述べて教卓に突っ伏すと一〇秒もしないうちにいびきが聞こえ始める。

「ちょおっとまてぇええ――ッ!?」

 システィーナがそう叫んでいるのを尻目に、ロルフも講師と同じように机に突っ伏して居眠りを始めた。




ストックは1巻終了分までしかない上に遅筆なので多分更新がすごく止まる気がするけど、22巻が良すぎたので投稿しても仕方がないよね。
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