不良生徒な召喚士と禁忌教典   作:hibari11

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第十一章 顔無しと愚者

 どれだけの時間が経過しただろうか。

 暗い海のような世界に沈んでいたグレンの意識が覚醒する。

「――ッ!?」

 ベッドから飛び起きると、辺りの状況を確認する。窓の外は既に日が傾き始めていた。そして自分が寝ていたベッドの傍らには、寄り添うように顔色の悪いシスティーナが眠ってる。

「起きたか」

 背後から投げかけられた声に、グレンは肩を震わせて振り返る。

 壁にもたれかかるようにしてそこに居たのは、グレンが臨時講師を務めているクラスの生徒、ロルフ=ヴァーリだった。

「体の調子はどうだ、《愚者》の先生?」

 何かを揶揄するかのように不敵な笑みを浮かべながらロルフはグレンに問いかける。

 グレンはその言い方が気に障ったのか、顔をしかめる。

「……その呼び方を今すぐやめろ」

「わりぃわりぃ、気に障ったんならすぐにやめるよ。いやなに、アンタには何かあるとは思っていたが、まさかあの特務分室のエースだったとは思わなくてさ」

 ロルフはどこまでも飄々とした態度を崩さない。それにわずかな苛立ちを覚えながら、グレンも負けじと言い返す。

「それはこっちの台詞だ……あの《顔無し》が魔術学院の生徒だなんて、誰が信じるか。一体何の目的だ?」

 あのレイクが死に際に放った言葉。それが正しいかどうかはあずかり知らぬが、揺さぶりを兼ねて問い質す。

 《顔無し》は宮廷魔導士団の中でも有名だった。

 その正体は掴めておらず、やれ寓話に語られる首無し騎士(デュラハン)だとか、天の智慧研究会に恨みを持つ亡霊だなどといったまるで怪しいゴシップ記事のように噂されていたが、確かな存在として確認されていた。

 グレン自身は直接遭遇したことはなかったが、軍属時代に所属していた特務分室のメンバーには任務の最中に出会った者が何名か居て、中には成り行きで共に戦った者も居た。

 さらに言えばグレンも直接会ってはいないだけで、関わった任務でターゲットが先んじて《顔無し》の手によって討たれていたことがあった。

 どこの勢力かは分からないが、少なくともかの組織の魔術師ではないということから、帝国軍に引き入れられないかという動きもあったという正体不明の凄腕魔術師――それが、《顔無し》だ。

 今も信じられないが、槍と召喚術を使うといった証言が先程の戦いでのロルフと合致する。

 疑念を持った眼差しを向けられたロルフは肩をすくめて、

「自分からその名前で名乗ったことはないんだけどな」

と、暗に認める返事をする。

「マジなのかよ……信じられねぇ。本当に何が目的なんだ?」

「大したもんじゃねぇよ。ここの図書館に用があってな。それで、年齢的にも都合よく自由に入り込める身分でここに来たってわけ。今日のは本当に偶然だよ」

 本を盗み出そうとしていることは伏せて、なぜ自分がこの学院に居たかをグレンに説明する。

「まぁ俺の目的は今はいいだろ。それより、こっからどうするかだ」

 自分の話はいいだろうと、ロルフは本題に入った。

「先生がぶっ倒れてから、大体今で五時間弱ってとこか。一応何があったかとかは、そこのシスティーナに聞いて把握済みだ。ルミア以外の生徒達が無事なのは使い魔で見ている。そんなとこかな」

 端的に自分の持っている情報をグレンに共有する。

 その報告を聞いたグレンは、頭の中で整理して改めてロルフに確認する。

「俺が寝てたのが五時間って、その間敵もお前も何も動いてないのか?」

「ああ。ルミアのことは心配だったが、アンタとソイツを置いて出た間にやられてたら元も子もなかったからな。敵さんも、使い魔に偵察させてたが動きどころか位置さえつかめてねぇ」

 返ってきた答えに、グレンは嫌な予感が頭をよぎる。

「それってもう、ルミアごと逃げちまったんじゃねぇか!?」

 ルミアがあの組織に連れ去られたのであれば、生きて奪還するのは絶望的だろう。グレンが最悪の結果を予想して叫ぶが、ロルフは冷静にそれを否定する。

「いや、それはないと思う。先生とあのコートの男との戦闘が始まる前に結界を軽く調べたんだが、書き換えられて外から入るのはもちろん、中からも自由に出られないようになっていた。だから、上空に使い魔を放って出るやつが居たら知らせが来るようにしているが来てねぇ。外で宮廷魔術師団の連中が結界の解除に手こずっているのが見えるがそれだけだ」

 ロルフもここで待っている間何もして居なかったわけではない。学院中に使い魔を配置して居たのだ。

「ならまだ奴さんはこの中にいるってことか……だとしたら何がしたいんだ?」

「わかんねぇ。儀式場だとか考えられそうな場所は見たんだが……地下迷宮に行かれてたら流石に手に余るからよ」

 二人が敵の狙いについて話し合いをしていると、グレンのポケットからリィンと金属を打ち鳴らしたような音が鳴り響く。

「それ、通信用の魔導器だろ?何回か鳴ってたんだが、勝手に出る訳にもいかなかったからさ」

 ロルフが鳴っているポケットを指差しながら言うと、グレンはそこから半分に割れた宝石を取り出す。

「何度も連絡してくれてたのか……アイツに心配かけちまったな」

 宝石を片耳に当てると通話を始めた。ロルフはそれを黙って見ていた。話の内容から察するに、相手はあのセリカ・アルフォネアらしい。グレンの着任前に彼女が来ていたが、どうやらただならぬ仲のようだ。

 そんなことを考えている間にもグレンとセリカの話は続いている。外の状況について情報を共有しているようだ。会話の途中で突如、グレンの雰囲気が一変する。

「いや、待てよ……」

 グレンは、セリカに空間魔術について何かを聞いているようだ。

 傍から聞いているだけのロルフには質問の意図が分からず、話がつかめない。

「――決まりだ!」

 グレンはそう言うと、宝石をポケットにしまい、ベットの横の机に置いてあった愚者のアルカナを手に取る。

 眠っているシスティーナの頭を乱暴に撫でると、グレンは勢いよく医務室を出て行った。

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