不良生徒な召喚士と禁忌教典   作:hibari11

13 / 13
終章 顔無しが学院の生徒になったワケ

 このテロ事件の最後の下手人の一人は、突如退職した二組の前任講師のヒューイだった。

 表向きには退職とされていたが、実際には姿を消して、学院の地下迷宮に潜伏していたらしい。

 学院のほぼ全ての職員が出払うこの日を待ち、魔導セキュリティを掌握。

 最後は転送法陣を書き換えてルミアを誘拐すると共に、ヒューイは換魂の儀でその霊魂を魔力へと換えて学院を爆破。そんなシナリオだったようだ。

 なんとも馬鹿げた話だ。

 なんでも、ヒューイはそのためだけに長年この学院の講師として天の智慧研究会によって潜入させられていたという。

 そして、その標的となったルミア。

 解決に協力したロルフは、グレンとシスティーナと共に帝国政府に密かに呼び出されてルミアの素性を明かされた。

 異能者。魔術によらない奇跡の力を生まれながらに行使できる特殊能力者。

 地域によっては信仰の対象にもなる存在だが、この帝国では悪魔の生まれ変わりと信じられて迫害されている。

 ルミアは『感応増輻者』という異能者であり、露見するとその威信に傷がつくからと放逐された帝国王室の王女、世間的には病死したことになっているエルミアナだという。

 帝国のためにこのことは隠さなくてはならず、三人は秘密を守るために協力することを要請――実質的な強制だろうとロルフは思う――された。

 事件は宮廷魔導士団により徹底的に隠蔽され、当事者の生徒達以外には魔術による事故であると説明された。

 それに対して疑うような様々な噂も流れたが、しばらくすれば自然と沈静化していった。

 

 事件から約二週間。やっと授業が再開し始めて数日たったある日のこと、正式に学園の講師となったグレンは放課後の屋上に来ていた。

「ったく、何の用だ?こんな所に呼び出して」

 着いて早々、自分を呼び出した生徒――ロルフ=ヴァーリにグレンは面倒くさそうに声を掛ける。

「来てくれたか、先生」

 目を伏せてフェンスにもたれかかっていたロルフは、うさんくさい笑みを浮かべながら顔を上げる。

「来なかったらどうなるかわかったもんじゃないからな」

 グレンはそう言いながらロルフの脇に目をやる。さっきまで目の前の青年がもたれていたフェンスには、先日の事件の際にも振るっていた槍がかけられている。今もいつでも手に取れる位置だ。

 わざわざ目に見えるように置いているのは間違いなく、グレンの固有魔術(オリジナル)【愚者の世界】対策だろう。

 つまり、この生徒は話の如何によっては戦闘になるであろうことも想定しているのだ。

 そして、その正体を考えれば話の内容も大体予想がつく。

 グレンとしてもそれは気になっていることではあったので、面倒くさいのは事実だが来ないという理由はなかった。

「そんな硬くなんないでくれよ。取って食おうってわけじゃないんだからさ……まずはアンタには礼を言わいたい」

 警戒を隠さないグレンに苦笑しながらロルフは感謝を告げる。

「礼を言われる覚えはないんだが?」

「頼んだとおりに俺の秘密は黙っててくれたろ?そのお礼だよ」

 ロルフの秘密。それはもちろん、ただの生徒ではなく、グレンが所属していた宮廷魔導士団の中でも最精鋭といえる特務分室の執行官にも匹敵する正体不明の魔術師、《顔無し》であることだ。

 逃げるように辞めたといえ元軍人であるグレンの立場としては、絶対に報告するべきだったこの事実だが、宮廷魔導士団が学院に突入してくる前に本人によって口止めされた結果、システィーナと同じただの巻き込まれた生徒として扱われている。

「よく言うぜ、あの時も槍片手に脅してきたくせに」

 白々しくも礼を言うロルフに、グレンは鼻を鳴らして憮然とした態度だ。

「いやいや、それは誤解だ。チクられたら普通に逃げるだけだよ。んで、今日まで何もないってことは俺の見てないとこでも言ってないんだろ?」

 ロルフの言う通り、グレンは誰にも言わなかった。同居人であるセリカにすらもだ。

 その理由は、そこらの役人や軍人に対してあの《顔無し》の正体が魔術学院の生徒だと伝えてもまともに取り合われないような内容だということと、それを信じてもらえるようなかつての同僚には合わせる顔がなかったから。

 そしてなにより。

「よく言うぜ……感知できないが、どうせ見張ってたんだろ?」

 この男が使う埒外の召喚術だ。

 竜の牙製のボーン・ゴーレムを一撃で薙ぎ払った剣に加えて、あの幻獣クラスの軍馬。

 あれほどの使い手であるならば、自分に気付かれないように使い魔で見張っておくことくらいは容易いだろう。

「流石に気付かれるか。あんま気を悪くしないでくれ?信用してなかったわけじゃないんだが、こっちにとっちゃ死活問題だからな」

 ロルフは見張っていたことを素直に認める。

 その悪びれもしない態度にグレンは舌打ちをする。

「んで、わざわざ呼んどいて用はそれだけか?何もないならもう帰るぞ」

 校舎に戻る階段に踵を返そうとするグレンを慌てて引き留める。

「もうちょい待ってくれよ、な!いや、俺のこと黙っててもらう代わりに何でこの学院にいるのかとか、ちゃんと答えとこうと思ってな。アンタも気になってんだろ?」

 その言葉に帰ろうとしていたグレンは足を止める。確かに、認めるのは癪だが気になっているのは事実だ。事件の時にも聞いたが、あの時は時間がなくて詳しくは聞けなかった。

「自分から吐くならありがたく聞いてやるよ……なんでお前みたいな奴がここにいるんだ?」

 グレンは振り返り、改めて問いかける。

 その問いにロルフは相変わらずの不敵な笑みを浮かべたまま答える。

「いいぜ……前にもちらっと言ったが、この学院に居るのは本当に図書館が目的だ。ここの封印書庫にあるはずの、とある魔導書をどうにかして手に入れたくてな。それで色々手を回してもらって編入したんだ」

 なぜ自分がこの学院に生徒として在籍しているのか、包み隠さずその理由を明かす。

「手に入れたいって……お前、盗むつもりか!?」

「こっちとしても不本意なんだがな。探してる本はだいぶ昔に俺の故郷から盗まれた、というか貸したまま返ってこなくなった物なんだよ。ただ、正規の手段で取り戻すには一切証拠がないもんでね。あ、このことも黙っててくれよ?」

 犯行宣言に驚くグレンにロルフはあっけらかんと口止めをする。

 グレンは呆れて溜め息を吐く。

「ハァ……一応、俺は学院の講師なんだぞ?目の前で生徒に堂々と窃盗を宣言されても困るんだが」

「そこは共に戦った仲ということでここは一つ。俺の目的以外で何かあったらまた協力するからさ」

 目の前で手を合わせてお願い、とわざとらしくロルフは言う。

 お願いも何も、いつでも戦える状態でのそれは脅しと変わらないだろう。

 【愚者の世界】を使用したところで、なんの武器も持たない自分とすぐそばに得物の槍を準備しているロルフ。

 いくらグレンが屈指の格闘能力を持っていたとしても、圧倒的なリーチのアドバンテージがある。

 グレンの見立てでは純粋な白兵戦能力は確実に相手に分がある。

 万全の準備があるならともかく、この場では勝ち目はないだろう。

 それに、積極的にロルフの秘密を吹聴する理由はグレンにはなかった。

「ったく……黙ってりゃいいんだろ。分かったよ」

「さっすが!話がわかるねえ、先生!」

 渋々グレンが頷くと、ロルフはうざったいくらい上機嫌になる。

「他に聞きたいことはあるか、先生?なんでもは無理だが、出来る限り答えるぜ」

 まだ何か自分に聞きたいことはないかとグレンに尋ねる。

 本人の口から、あの正体不明の魔術師の謎について知れるまたとない機会である。

 グレンは一瞬悩んだ後、矢継ぎ早に気になっていた疑問をぶつけた。

「この学院にいる目的についてはわかったが……お前は何が理由で天の智慧研究会のやつらと戦っているんだ?編入に色々手を回して貰ったとも言ってたが、そんな簡単なもんでもないだろ。どこの勢力に属している?」

 帝国軍が追っても何一つ分からなかった《顔無し》の謎だ。

 その目的もどこに所属しているのかすら帝国は情報を得られていなかった。

「一個ずつ答えるか。まず、どこの勢力かって質問にはどこにも属してないってのが答えだ。協力者はいるけど、バックにはどこの組織もいねえぜ」

「あんなけ派手に動いてて何の組織もついてないって説得力ないな」

 《顔無し》の活動はかなり派手だった。

 その手によって潰されたとされる天の智慧研究会の外道魔術師や末端の研究施設、組織とつながりが疑われていた人間の数はかなりの数に上る。

「そこらへんは流石に企業秘密だ」

 グレンの追及にそれ以上は秘密だと煙に巻いて、もう一つの質問に答える。

「もう一つは何でヤツらと戦うかだったな……簡単な話さ。ただの、復讐だよ」

 先ほどまで浮かべていた笑みを消して、冷ややかに戦う理由を告げる。

 復讐。予想内の一つではあったが、その言葉に秘められた鋭さにグレンの背筋が凍った。

 あの組織によって被害にあった者はこの国には多い。だから、その言葉自体は理解できる。

 が、今のロルフから放たれた殺意を秘めた言葉は、それが渦巻く世界に身を置いていたグレンですらも戦慄するほどのものだった。

「うちの故郷には珍しい魔法遺産(アーティファクト)やら何やらが結構あってな。三年前、それ目当てにヤツらが襲ってきた。幸いにも全滅はしなかったが、それでも少なくない被害が出て俺の身内も何人も死んだ。だから俺が戦ってるのはその復讐だよ」

 底冷えするような鋭さを引っ込めて、何故自分が復讐のために戦っているかを語る。

 その単純だが苛烈な内容に、グレンも黙るしかない。

「そうか……いや、待てよ。三年前に魔法遺産(アーティファクト)が絡むような襲撃事件なんてあったか?帝国内でそんな話聞いたことないが……お前どこの出身だ?」

 魔法遺産(アーティファクト)は貴重であり、三年前にそんな物が絡む事件があったとグレンは聞いたことがない。

 もちろん、国外などの理由で特務分室ですら把握できていない事件も存在していてもおかしくはない。

 そのためグレンはロルフにその故郷の位置を尋ねた。

「そうだな……先生になら言ってもいいか。俺の出身はスノリア地方の田舎ってことになってるんだが、本当はスノリアよりさらに北の生まれでな」

「は?スノリア地方っていうと帝国どころかこの大陸最北部じゃねーか。それより北なんて……」

 そこまで言ったところでグレンの頭に一つの記憶が思い起こされる。

 スノリア地方より、さらに北。シルヴァスノ山脈を越えた氷海のさらに向こうにある、前人未到の領域とされる『白の大氷原』と大陸の間にある諸島群。国際的には帝国の領地として認識されているが、実際には古き竜(エインシャント・ドラゴン)クラスの魔獣が棲息しているためどこの国も手を出せない未開の地だ。

 しかし、そんな地に住まう部族が存在する。

 今なお旧き神話を信仰し、強力な魔獣達が跋扈する極限の地で生きる彼ら。

「改めて自己紹介しようか……俺の名前は、ロルフ=ヴァーリ=アールヴ。帝国からは『北方民族(ヴァイキング)』なんて言われてる、『(アルヴ)の民』の戦士にして術士だ。よろしくな、グレン先生」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。