教室を抜けたロルフはいつものように図書館で探し物をしていたが、今日も進展がないまま放課後になった。
もう生徒達は下校しなければならない時間だ。ロルフは出入り口の方へ向かい始めた。
ちなみに、今日はロッタと一緒ではなかった。生徒ではないロッタが居ることに気が付かれた際に面倒なのと、先日借りた恋愛小説にお熱なためである。
「やっぱここじゃないのか……」
図書館から出た廊下で溜め息を吐きながらぼやく。
数か月間、まだ全体には満たないが探している本がありそうな書架は軒並み調べ尽くした。
それでもまだ見つからないということは、恐らく自由に出入りできる区画ではなく、立ち入りが制限されている封印書庫にお目当ての物があると考えられる。
「ただ、俺が申請したところで許可は下りると思わねぇよなぁ」
封印書庫は多くの魔術罠や結界が張り巡らされており、それを回避するには鍵となる閲覧許可手形が必要だ。
学生に許可が下りないわけではないが、確か複数の教員から署名を貰わなくてはいけない。
そして、その署名した教員は生徒や書物に何かあった際の監督責任を持つことになる。
ロルフは不良生徒として学院内でかなり有名だ。
そんな生徒の為に万が一の場合責任を取る必要がある署名をしてくれるような教員はほとんどいないであろう。
不真面目な授業態度を送ってきたツケがここで回ってきた。
それに、仮に許可を貰えたとしてもロルフは目的の魔導書を盗むつもりだ。
つまり、手段はもう限られてくる。
「忍び込むしかないかぁ」
封印書庫に忍び込んで酷い目にあったという逸話は、編入して数か月のロルフですらいくつも聞いたことがある。
なので避けたいところではあるが、正面から入れないのであれば仕方がない。
それに酷い目にあったというものは全て手形なしでの話だ。
なんとかして手形をちょろまかすことができれば、安全に忍び込めるはずだ。
ロルフが歩きながら手形を盗み出す計画を頭の中で練っていると、中庭を挟んだ向かい側の渡り廊下に、見覚えのある姿を見つけた。
いつも通り覇気のない顔のグレンとニコニコと楽しそうな表情をしているルミアだ。
よく分からない組み合わせだなとロルフは思った。
学院の正門の方へと相手に合わせることもなく自分のペースで歩いていくグレンと、それに必死について行くルミア。
意外とああいうダメな男が好みだったりするのかねと、双方に失礼なことをロルフは考えながら二人を眺める。
「グレン先生か……」
ロルフは今日の授業でグレンが見せた何かを憎むような表情を思い出す。
あの先生は、魔術に裏切られたんだろう。
生徒達はもちろんのこと、この学院の魔術師達のほとんどは無条件で魔術を素晴らしいものであると信じている。魔術の陰の部分には目を向けずに。
そして、そのまま魔道の道を突き進んで血生臭い現実に直面した時に、人は二種類に別れる。
それでもなお、その道を進み続けるか。道半ばで折れるか。
恐らくグレンは折れた側の人間で、だから魔術をあんな風に憎んでいるのだろう。
魔術で人を手にかけたか、親しい人を亡くしたか。
それとも両方か。
あの態度を擁護するつもりはないが、少し同情する。
思いに耽っていると、グレンとルミアの姿はもう見えなくなっていた。
明日はあの先生は来るのかなと考えながら、恋愛小説にハマって働かない同居人の待つ拠点へ戻ることにした。