不良生徒な召喚士と禁忌教典   作:hibari11

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第七章 襲来

 学院を震撼させたグレンの覚醒から十日が経った。

 授業の次の日には学院で噂になり、興味を持った他クラスの生徒が授業に潜り込むようになり、その質の高さに皆が驚いた。

 元々かなり余裕のあったはずの教室も、今や立ち見でグレンの授業を受けに来る生徒まで現れ始めた。

 今日は本来学院は休校日であり、前任の講師であるヒューイの急な退職で授業に遅れの出ている二組以外は授業がないはずだ。

 だというのにも関わらず、教室は満席御礼で後方に立っている生徒もちらほらと見える。

 これだけでもグレンの授業の人気が分かるというものだ。

 だが、肝心のグレンがいつまで経っても現れない。もう予鈴から二十五分経過している。

「……遅い!少しは見直してやったのに、これなんだから、もう!」

 システィーナがぶるぶると怒りで体を震わせてそう叫んだ。

「でも、珍しいよね?最近、グレン先生、ずっと遅刻しないで頑張っていたのに」

 ルミアがその隣で首を傾げながら言った。

「あいつ、まさか今日が休校日だと勘違いしてるんじゃないでしょうね?」

 システィーナはあのグレンがいかにもやらかしそうな推測を述べる。

 グレンのことを信頼しているルミアも、

「流石にグレン先生でもそんなことは……ない、よね?」

と、苦笑いで完全否定できない様子だった。

「それに、最近は真面目に授業を受けていたあいつも今日はいないし……」

 システィーナは教室の後方、窓際の席を見やる。他の席は埋まっているというのに、そこだけぽっかりと空いているのはいつもロルフが指定席にしている場所だ。

 ロルフはその不真面目な授業態度や噂から、五組のジャイルという生徒と並んで不良と目され、真面目な生徒達からはこわがられているところがある。

 そのため、その座席だけは満員の今も誰も座らずに空いているのだ。

 空席の主もここ二週間は居眠りこそすれ、遅刻せずに授業を受けていて、ついに心を入れ替えたのかとシスティーナは思っていたのだが、今日は未だ姿を見せない。

 ロルフも忘れているのか、それともサボっているのか。

 来たら二人ともお説教してやろうとシスティーナは思った。

 まだ来ないグレンを待つ間、二人はグレンの人気について話す。

 システィーナは指摘された自分の複雑な乙女心に対して、ルミアに女としての格の違いを見せつけられた気分になっていると、無造作に教室の扉が開かれた。

 グレンかロルフか。どちらかがやっと来たのかとシスティーナは扉の方を向いて一言言ってやろうと、入ってきた人物を見る。

「遅い!また……え?」

 それはグレンでもロルフでもない、見覚えのないチンピラ風の男とダークコートを身にまとった男だった。

――日常が非日常に移り変わる。

 

 教室が阿鼻叫喚の渦に飲み込まれていた頃、ロルフは目的としていた封印書庫への許可手形を盗み取るために、職員の居なくなった学院の事務室に無断で侵入していた。

「色々叱られたけど、里で習っといてよかったな」

 ロルフの故郷で使われている魔術は、この国で広く使われている黒魔術や白魔術とは異なる体系の術だ。

 直接的な破壊力では劣るものの、今ロルフが使っている隠形の呪文のようにこういった分野に限れば強力で便利な術が存在する。

 故郷ではこういった術は女性が使うものであり、男は武芸を学ぶべきという風習が強かったため、ロルフは何度もこっそりと学んでいることがばれては説教されたのだ。

 だが、盗みのプロフェッショナルでもないロルフがここまでセキュリティに接触せずに済んでいるのは、この術のお陰だ。

 過去のお説教と引き換えと考えると安かった。

「しっかし、どうしたもんかねぇ……目当てのモンの場所はわからんし、俺はダウジングは得意じゃないしな……」

 ロルフはかなり特定の分野に特化した魔術師だ。

 それ以外の魔術も使えはするが、あまり得意ではない。

 他の魔術実験室のように分かりやすく魔術錠が用意されていれば、それこそ生徒でも盗み出すのは簡単だっただろう。

 しかし、ロルフが狙っているものは特殊な許可手形だ。

 確認した限り鍵のような形ではなく、限られた時間と回数の間のみ有効な文字通りの手形である。

 恐らくそれを発行するための魔導器が存在するはずで、それを見つけてなおかつばれないように起動させて手形を入手する。それが今回の目的だ。

 最悪の場合、痕跡が残ってしまっても封印書庫に入って目当ての魔導書を手に入れることさえできれば、この学院を出て行けばいいだけではある。

 ただ、できるのであればそれも避けたい。

「見つけらんなきゃ話は始まらんし、しらみつぶしに探すか」

 それらしき魔道具を手に取って黒魔【ファンクション・アナライズ】でその機能を確認していく。

「んー、これも違うか……」

 印鑑型の魔導器――どうやら書類の決済を魔術的に処理するものらしい――を元の場所に戻す。

 早く見つけて、できれば学院の職員がいないこの期間中に書庫に入りたいと考えながら探索しているその時だった。

 事務室の窓から、学院の壁を貫通して空に放たれた雷光を見た。

「――ッ!?」

 その光景で、何かが起きたことをロルフは理解した。

 今、空に放たれたのは恐らく【ライトニング・ピアス】。軍用の攻性呪文(アサルト・スペル)だ。学生が用いるような魔術ではない。

 放たれた場所は、恐らく――二組の教室。

 何故【ライトニング・ピアス】のような危険な魔術が、しかも自身のクラスの教室から放たれたというのか。

「クソッ!何が起きたっていうんだよ!」

 そう吐き捨てて探索を打ち切ると、ロルフは事態を把握するために呪文を唱え始めた。

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