学院の内部に何者かが侵入したことを悟ったロルフは、事務室に簡易的な隠蔽と防護の呪文をかけて隠れると、召喚した使い魔で情報収集に努めた。
敵の戦力が分からない現状、慎重に動かざるを得ない。そのため手に入れた情報はあまり多いといえなかった。
分かったことは、今のところ生徒達はほとんどの生徒は無事だということ。
学院のセキュリティは完全に掌握されていて、外からはもちろん、中からも出られないように結界が書き換えられていること。
この二つくらいだ。
生徒達は【スペル・シール】で魔術の行使を封じられ、教室の外にも出られないようにされているが今すぐに殺されるということはないようだ。
しかし、それでも安心してはいられない。
目的もその数も分からないが、こんな馬鹿げたテロ行為を行う勢力は限られている。
恐らくは天の智慧研究会。アルザーノ帝国と長年に渡り暗闘を続ける最悪のテロリスト集団だ。
帝国に巣食う外道の集まりであるあの組織のことだから、生徒達を何らかの儀式の贄として使おうとしていたとしてもおかしくない。
それに、生徒達の中にルミアとシスティーナが見えないことも気がかりだ。
何故二人が居ないのかは分からないが、希望的観測は控えるべきだろう。
「どうする……」
多少の数の不利程度どうとでもする自信はあるが、下手に動けば生徒達を人質にされるという最悪の結果を招きかねない。
つまり最適解は、
「敵に気取られる前に始末する。これしかねぇか……」
自分が持っているアドバンテージは、現時点でまだ自身の存在に気付かれていないであろうことだ。
それを最大限に利用するしかない。
「となると必要なのは敵の位置の把握」
状況を整理すると、ロルフは使い魔に指示を送って学院内を索敵させる。
今使役しているのは隠密能力が高い召喚獣だが、それでも油断せずに動かす。
広い校舎内で使い魔を飛び回らせていると、共有している感覚が激しい戦闘の音を拾う。
「あれは……」
ロルフは音のする方へと使い魔を近寄らせた。
「クソッ!」
グレンは自身をめがけて飛翔する剣を、拳で必死に捌いていた。
今朝、魔術学会のために
それを撃退したグレンは、自分を襲った連中が悪名高い天の智慧研究会だと知ると学院に急行。
敵が用意していた割符を使って結界の中へと入り、襲われていたシスティーナを救出して敵の戦力の一人を無力化したが、その直後に
ボーン・ゴーレム自体はグレンの奥の手を使って倒したが、ゴーレムの召喚士である敵の魔術師が現れて再び戦闘となる。
はっきり言って勝ち目は薄い。
相手は飛翔する五本の浮遊剣を操りじわじわと自分を攻め立ててくるが、こちらは何一つとして有効打を与えられていない。
システィーナを逃がしながら布石は打ったが、それでも勝機は五分もないだろう。
今勝負が成り立っているのはグレンの
好きなタイミングで魔術起動を封殺できるこの術のおかげで、相手のレイクというダークコートの男は呪文を使うのを躊躇い、起動済みである剣の魔導器に頼るしかない。
しかし、このグレンの
敵がそれに気が付く前に決着をつけなければ――
グレンがそう焦っていると、レイクが口を開く。
「見切ったぞ、魔術講師ッ!」
そう言って呪文を詠唱しながらグレンに背を向けて、戦場である学院の廊下をグレンとは反対方向へと駆ける。
マズい。この状況で、敵に背を向けるリスクを取ってでも距離を取ろうとする目的は一つしかない。
「――ッ!?待てぇえええ!」
グレンもそうはさせまいと地を蹴るが、五本の剣が行く手を阻むように切り掛かってくる。
「ガ――ッ!」
なんとかそれを身のこなしで回避し、拳で弾くがその間に距離を取られてしまう。
レイクの魔術を止めようと【愚者の世界】を起動しようとするが、直前で取りやめる。間に合わない。
【愚者の世界】の弱点の一つ、その効力範囲は相手を対象とするのではなく、グレンを中心とした領域に展開されるために【愚者の世界】射程外では魔術を封殺できない――
レイクの魔術が発動する。魔力の波動と共に現れたのは先程倒したボーン・ゴーレムだ。それも五体。まだストックがあったらしい。
――ここまでか。
立ち塞がるゴーレムを見てグレンは思う。浮遊剣とボーン・ゴーレムに加え、レイクまで相手取らなくてはいけない。
これまでいくつもの死線を越えて格上の魔術師達を屠ってきたグレンだったが、もはや勝利への道を見つけられない。
万事休すという言葉が脳裏をよぎった。
「さて、終わりだ」
レイクは無慈悲にそう宣告する。
浮遊剣とゴーレム達がグレンに殺到し、身構えたその時だった。
廊下の窓を突き破り、一条の流星が飛来する。
否、それは槍だった。
槍は寸分違わず一体のボーン・ゴーレムの頭部を穿ち粉砕すると、地面に突き刺さった。