不良生徒な召喚士と禁忌教典   作:hibari11

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第九章 顔無し

「何――!?」

 予想しなかった光景に、レイクが驚愕の声を漏らす。

 グレンも同様に驚いて目を丸くする。

 驚く二人の間に、一拍遅れて学院の制服を身にまとった男が割って入る。

 男は、素早い動きで突き刺さった槍を引き抜くと、薙ぎ払って剣を弾き飛ばした。

 一瞬の出来事だった。

「お前は――!」

 グレンはその男を知っていた。確か、名前はロルフといったか。自分が臨時講師を務めるクラスの生徒だ。

 やる気のなかったグレンは生徒達の名前をほとんど覚えていなかったが、そんなグレンに反感を覚える真面目な生徒達の中でただ一人、堂々と居眠りや講義をサボったりしていたのが印象に残ってその名前を覚えていた。

 そんな生徒が、一体なぜここに?

「なんでここに来た!?早く逃げろ!アイツは学生が相手できるような――」

「話はアレをぶっ殺してからにしようぜ、グレン先生」

 グレンは早く逃げろと促すが、ロルフはそれを遮って槍を構える。

 何の気負いもなく放たれた殺すという言葉にグレンは硬直するが、そんなことは関係ないとばかりにレイクは攻撃を仕掛けてくる。

「フン、多少はやれるようだが今更生徒ごときが一人増えたところで――」

 レイクが指示を送ると、ロルフに四体のゴーレムと五本の剣が襲い掛かる。

「――ッ!避けろおおお!」

 グレンが叫びながらロルフを庇おうと反射的に動く。だが間に合わない。

 目に浮かぶのは圧し潰されて息絶えるロルフの姿。

 しかし、そうはならなかった。

「シ――ッ!」

 構えから放たれた神速の突きがゴーレムの頭部を貫く。そして、突き刺したそのまま勢いよく回転し、襲い掛かる二体目のゴーレムを巻き込んで壁に叩きつける。

 叩きつけられたゴーレムも、その衝撃で胴体部がひしゃげて機能を停止する。

「《爆》ッ!」

 それと同時に唱えられたのは黒魔【クイック・イグニッション】。最速で発動可能な、軍用の攻性呪文だ。

 爆炎が飛来する剣と衝突し、その軌道を逸らした。

「《来い》ッ!」

 ロルフが爆炎に隠れて後退しながら短く唱えると、爆炎の中から二メトラほどの土色の人形が姿を見せる。

 人形――召喚【コール・エレメンタル】で召喚されたアース・エレメンタルだ――が、残ったゴーレム三体をまとめて殴り飛ばす。

 殴り飛ばされたゴーレムは、その機能こそ停止しなかったがかなりのダメージが入ったようだ。

「な――!?」

 今のロルフの立ち回りにグレンは驚愕した。

 軍の魔導士だったグレンは今まで幾人もの槍の使い手を見てきたが、この生徒の槍捌きはその中の誰よりも鋭く、速かった。

 そして召喚術。召喚【コール・エレメンタル】は召喚術の中でも初歩の魔術だが、あのスピードで瞬速召喚(フラッシュ)するのは一流の腕がないとできない。

 加えて、【コール・エレメンタル】で召喚される精霊が持つ力は召喚者の力量に比例する。

 召喚精霊としては下位のアース・エレメンタルが、竜の牙が素材となっているボーン・ゴーレムをそれも数体まとめて殴り飛ばすなんて、召喚士としてどれほどの力を持っているというのだろうか。

 この一瞬だけで、このロルフという生徒がとんでもない化け物だということが分かる。

 一体何故、こんな奴が生徒としてこの学院に居るのか。

 そんな考えがグレンの頭をよぎるが、後回しにする。

 ロルフが言ったように、今はあのレイクとかいう男を倒さなくてはいけない。

「おい!先生はまだ大丈夫か?」

 一度グレンの所まで退いてきたロルフがそう問いかける。

「これが大丈夫に見えたら病院行ってこいチキショー……臨時とはいえ教師が生徒に任せて寝てるわけにはいかねぇだろ。お前は生徒か怪しいけどな」

「ハハッ、そこまで軽口叩けんならまだいけるな。流石は先生だ……後、一応これでもちゃんとした学生だぜ?詐欺なのは自覚はあるがな」

 二人は軽口を交わしながらも油断なくレイクをにらみ、構える。

 対するレイクも、再び召喚【コール・ファミリア】でボーン・ゴーレムを召喚して補充する。

「げ、まだ在庫あんのかよ……」

 一体、どれほどのストックがあるのか。グレンは嫌そうに顔を歪ませた。

「貴様らは全力で叩き潰してやろう――往けッ!」

 レイクの号令で、ゴーレム達が一斉にロルフ達を目掛けて進撃する。

 あのボーン・ゴーレムは強力な三属耐性を持っているため、並みの攻性呪文では止められない。

 シンプルだが対処が難しい攻撃だ。グレンだけでは太刀打ちできなかったであろう。

「道は俺が切り開く!先生はアイツを!《精霊達よ》ッ!」

 ロルフはグレンにそう告げると、呪文を詠唱する。召喚されたのは五体のアース・エレメンタルだ。

 五体の精霊をたった一節で召喚するという離れ技を、いともたやすくやってのけた。

 ゴーレムとアース・エレメンタルが衝突する。

 いくらアース・エレメンタルがその頑強さに定評があるといえど、竜の牙製のゴーレム相手には分が悪い。その勢いを遅らせることしかできずに倒されていく。

「おいおい止められてないぞどうんすんだよおおお――ッ!」

 グレンがその光景を目にしてロルフに向かって情けない悲鳴を上げる。このままでは自分達もアース・エレメンタルのように引き殺されてしまう未来が見える。

 だが、ロルフは焦らない。アース・エレメンタルはただの時間稼ぎ。本命は今唱えている呪文だ。

「《其れは竜をも切り裂く刃・今我が手に顕現せよ・――」

 一節ごとに魔力が高まり、それはロルフの手に集まっていく。

 その魔力はやがて、一つの形を作り出していく。

「――憤怒の魔剣(グラム)》ッ!」

 詠唱が終わるとともに、ロルフの手に途方もない魔力を湛えた巨大な両手剣(ツーハンデッドソード)が顕現する。

 それは北セルフォード大陸各地の伝承にて語られる伝説の剣が一振り、魔剣グラム。それを今、この手に召喚した。

 人の共通深層意識下にて認知・共有された概念。通常は『悪魔』や『天使』、そして『神』と呼ばれる存在達だ。

 人々の信仰によってそれらが生まれるのであれば、神話に語られる武具ですらも『意識の帳』の向こう側には実体として存在する。

 その理論を基に、召喚術に天性の才を持つロルフだからこそ実用化できた魔術――固有魔術(オリジナル)幻想展界(ファンタズマル・ロード)】。

 召喚した剣に魔力を込め、東方の武芸である『居合』のように逆袈裟切りに振り抜く。

 竜殺しの逸話が昇華された故に、『竜特攻(ドラゴン・スレイヤー)』の神秘を秘めた剣の一撃だ。

 竜の牙であるためにその神秘の威力は落ちるが、竜の牙であるからこそ耐えられない。

「何――!?」

 レイクがその光景に目を剥く。

 ボーン・ゴーレムを全て消し飛ばしてもお釣りがくる一撃が、ロルフの宣言通りレイクのまでの道を開いた。

 「《――・――――ッ!」

 その開いた道を、口元を片手で隠し、もう片方の手には大アルカナのナンバー0・愚者のタロットを握ってグレンが駆ける。

「ゴーレムはやられたが、私にはまだこれがあるぞ!忘れたか、魔術講師ッ!」

 卓越した身のこなしで地を蹴るグレンに向かって浮遊する剣が飛来する。

 ゴーレムによる突撃を指示しながら、浮遊剣は身を護るために残していたのだ。

 避けきれない一撃がグレンに突き刺さる。

 が、それと同時にグレンが唱えていた呪文が完成する。

「――均衡を保ちて・零に帰せ》!」

 グレンの体に刺さった剣から、その秘められた魔力が抜ける。

「【ディスペル・フォース】!?」

 黒魔【ディスペル・フォース】。対象物から魔力を消去する呪文だ。魔力が無くなれば、魔導器はその効力を失う。

 だが、

「無駄だ!」

 本来この呪文は簡易付与呪文、例えば【ウェポン・エンチャント】や【トライ・レジスト】のような呪文を解呪するための術で、打ち消すために必要な魔力は打ち消す物の持つ魔力に比例する。

 魔力を増幅させる回路を持つ魔導器に対して使用するのは、戦闘においてしてはいけない悪手というのは魔導士にとっては常識だ。

 実際、グレンの【ディスペル・フォース】はレイクの浮遊剣の魔力を完全に打ち消すことができていない。

「死ね――」

 レイクが剣を操り、グレンの首を刎ねようとする。

 その時だった。

「《力よ無に帰せ》――ッ!」

 レイクの背後から現れたシスティーナが一節詠唱で【ディスペル・フォース】を唱えた。

 システィーナの呪文によって、レイクの魔導器から完全に魔力が打ち消されて、ただの剣に成り下がる。

「な――ッ!?」

 システィーナが戻ってくるとは思ってもいなかったレイクは、虚を突かれて一瞬固まるが、流石は歴戦の魔導士といったところか。すぐさま呪文を唱えて再び剣に魔力を送ろうとする。

 しかし、

「遅ぇッ!」

 それよりも早くグレンの固有魔術(オリジナル)【愚者の世界】が起動し、魔術起動が封殺される。

「うぉおおおおおおおおおお――ッ!」

 グレンはアルカナを投げ捨てると自身の肩に突き刺さった剣を引き抜き、裂帛と共にレイクに心臓を貫いた。

「……ふん、見事だ」

 レイクは直立不動のまま、自身を打ち倒した相手に賛辞を贈る。

 そして、床に落ちた愚者のアルカナを一瞥して、何かに納得したように呟く。

「そうか、愚者か。なるほどな……つい最近まで帝国宮廷魔導士団に一人、凄腕の魔術師殺しがいたそうだ。魔術を封殺する魔術をもって、反社会的な外道魔術師達を一方的に殺して廻った帝国子飼いの暗殺者。コードネームは、《愚者》……そして、もう一人――」

 レイクは視線を上げて、槍を片手に持ちこちらへと近づいてくる制服姿の男を見る。

「約二年ほど前に突如として現れた、帝国軍ですらその正体を掴めていない謎の魔術師。その魔術師は卓越した槍術と埒外の召喚術を用いて組織の魔術師を殺し続けている。その顔すらも分からないことから、付いた渾名は《顔無し》――」

「……何が言いたい?」

 暗い目をしたグレンの問いに、レイクはにやりと笑った。

「さぁな?」

 言い残すと、レイクは事切れた。

 それを追うように、グレンも壁にもたれかかるように崩れ落ちる。

「なんて……つまんねぇ……人生……」

 グレンは小さく何かを呟くと、そのまま意識を失った。




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