アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話 作:煎餅さん
あとRTTTでの事もあったし構成を変えて、アッチでもチラ見せしたあの人をこのタイミングで出してしまおうと相成りました
(24/1/25追記)ちょっと加筆修正
成長と、今後の課題
私達が先輩達を下して、ワンツーフィニッシュを決めたあの日。それを境に、私達……というより、私は今まで以上に走りにのめり込む様になった。
なんだかんだでアドマイヤベガの妹に生まれた事に負い目を感じてた私は、あの夏休みの一件があるまでろくに走ってこなかった。それを考えればだいぶ積極的になった物だと思う。
まぁその負い目だって、自分なんかが妹としてちやほやされて良いのか?なんて考えが原因だったのだけども。傍から見れば何をそんなに悩んでいるのか、って話である。こういう所が転生者独特な悩みだと思うけれど、誰にも共有できない上に伝わりにくい事この上ないので自分でも扱いに困る。
結果論だけど、もう少しわかりやすければこんな回りくどい事が無くても自分でどうにか出来たかも知れない。難しい話だ。
もちろん、積極的になった事には外的要因もある。例えばあの日からすぐ、先輩達に呼び出されて彼女達が懇意にしているという喫茶店でご馳走になった。その際に再戦を望まれ、ここでも真正面から闘志をぶつけられてしまったのだ。
前日に自らが姉に対してぶつけた想いを、自分も同じようにぶつけられた。その事実が、私を走るという道から逃がさなかったのだ。
幸いこの時点で既に走る事に前向きになり始めていたから、苦では無いけれど。
それはそれとして、喫茶店で頂いた団子と珈琲は非常に美味であった。普通に常連になった。
あとは学校の方でも、なにやら上級生の誰かが転校してしまったみたいな話があった。まあ下級生には関係無かったし、わざわざ確認する情報でも無いだろうとスルーしたので詳細は知らない。
ただそれを境に数日間、ロータードラッヘ先輩が少しばかり寂し気にしていたのは気になったけれど。聞いてもはぐらかされてしまったので、今となっては確認する術も無いけどさ。
さて、そんなこんなで気付けば三年生になった。そう、二年が経過した。厳密には約一年半だけど、まあ些末な事だ。
いやだいぶ急に時間が飛んだなって思わなくもない。思わなくも無いけども、二年生の時の出来事とかぶっちゃけ何も無いから仕方ない。
強いて言うなら夏休みに再会したブリッジコンプが、お前いつか刺されるんじゃない?って感じの事になっていたぐらい。
何故そうなったのかは分からないけども、リボンカロルとオーボエリズムから妙に熱い視線を受けていたのに一切気付いていなかったからまぁそういう事だろう。頑張れ。
そんな具合で、私達が関わって知覚出来た出来事が大して無いのだ。結果として二年生の時の思い出は、少しばかり薄味なのである。
とはいえ、完全に何も無いかと言えばそうでもない。六年生の卒業式がある。私達が二年生に上がったのと同じように六年生になった彼女達の、卒業式が。
同じ学校には居られなくなったし、その上彼女達は本格化を迎えてしまったので文字通り次元の違う走りとなった都合一緒にも走れなくなった。更に彼女達は無事にトレセン学園への入学が決まった為、そもそもこの近所で出会う機会は当分なくなってしまった。
LANEとか、こっちに残っている彼女たちの親友各位との関りはあるからしょっちゅうビデオ通話はしてるんだけどね。
あとは長男のナナセがついに小学一年生に上がってきた事ぐらいかな。次男のナツヒコと違ってこの子は大人しく、素直でいう事を聞いてくれるから助かっている。
登校時も基本的には一緒に居るし、下校する時も同じだ。偶にレースに誘われる事があるから、その時だけは待って貰ってるけどね。
ちなみにナナセはレースが好きなのか、結構熱心にウマ娘が走る姿を見ている事が多い。だから待って貰ってる時も嫌がる素振りは見せないし、偶に自分から見学してから帰りたいと言う事もある。姉としては嬉しい限りだが、偶に他の子のレースを見て凄い凄いとはしゃいでるのを見るとモヤっとする。何故だ。
「お待たせしました。ブレンドコーヒーのおかわりと、団子三兄弟になります」
「ありがとうございます、たきな先輩。……そういえば、リコリスフレーバースペシャルエレガントパフェってまだメニューに残ってるんですね」
「ああ、私が作り方を覚えたので。いえ、覚えたくて覚えた訳じゃないですけど」
「ああ、心中お察しします……」
さて、私は今喫茶リコリコという場所に居る。先輩達があの日のレース後に祝勝会をするぞと連れて来てもらったのがこの場所であった。ここの団子と珈琲、滅茶苦茶美味しいのよね。
メニューのくだりでもわかる様に、ここはリコリスフレーバー先輩がお手伝いで通っていた場所だ。先輩がある日シレっと孤児である事を話し始めた時はビビったけれど、それを知ったからといって何が変わる訳でもない。色々と野望を抱えているらしいが、まあそれは先輩達が自分で何とかするべき事だ。小学生の私達ができる事も殆ど無いしね。
話は戻ってメニューの話。看板娘の片割れであるリコリスフレーバー先輩が居ない今、彼女考案の利益度外視ハチャメチャパフェも封印かと思われたがそんな事は無かった。
たきな先輩の表情を見るに、強引に教え込まれたらしい。ご苦労様ですと言いつつ、内心でも合掌しておく。
あと名前で察せると思うが彼女はヒトで、リコリスフレーバー先輩が卒業したりして戻ってくるまで一人でこっちを切り盛りする予定だそうだ。店長が別途存在するとはいえ、凄いなぁこの人。
「そういえば、ザーガさんはアヤベさんと仲が良いですよね?」
「ん、まぁそれなりに? 私としても姉さんは好きだし、姉さんも距離近いし必然的にね」
「なるほど……」
とりあえず聞かれた事に、率直な思いを告げてやる。だいぶ急だなとは思うけどさ。
単純に前世で推しだった分もあるけど、そりゃ姉だもの、大好きに決まっている。
姉に向ける「好き」からLOVEを排するのは、この世界じゃ肉親だったのもあり容易だったのは幸いだった。いやまぁ前世でもどっちかというと百合とかのが好きだったし、自分が挟まるのは解釈違いだったけどさ。そういう意味ではなまじ距離が近くとも勘違いしない関係性っていうのは、ありがたかったかもしれない。
……あれ? そう考えると今はウマ娘で双子の妹なんて美味しい位置にいる自分が関わるのは需要があるのか?
いや私自身に需要が無い、解釈違いです。考えるのやめやめ。
「話は変わるのですが、ザーガさんは好きな人って居るんですか? こう、恋愛的な意味でです」
「また急ですね? 居ませんけど、どうかしたんですか?」
邪念を振り払っていたらそんな事を言われた。本当に急だなと思って理由を問えば、少し考える仕草をしてからたきな先輩は答えた。
「実は、貴女に気があるらしいクラスメイトに聞いてくれないかと頼まれたんです。単に好きな人の有無だったので、恋愛的な意味でと聞いたのは私の配慮ですね」
「そのクラスメイトへの配慮もしてあげて欲しかったなぁそこは。それ言ってよかったの?」
言われた内容にも驚いたが、それ以上にたきな先輩の包み隠さない姿勢に驚いた。真顔でなんてこと言うのこの子。
「……なるほど、確かにそうかもしれません。無かった事にしてください」
「いや無理でしょ」
面白すぎるでしょこの子。
とまぁ、そんな事もありつつ、三年生としての生活は恙なく進んで行った。
案の定六年生の男子から告白を受けたりする事はあったが、接点が無さすぎたのと単に私の中身が元男ゆえにそういう目で見れない為お断りした。悪いね。
てか何で私なんだよ、姉さんにしろよ。私が絶対に許さんが。
何にせよ一学期もあっという間に過ぎていき、気付けば夏休みも目前に迫っていた。
「今年の夏休みはどうしようか、またおばあちゃんの所に行く?」
「うーん、トレーニングには最適だから行きたい所だけど……最適だからこそやり過ぎちゃうのよね」
「あー、姉さんってやたらストイックだもんね。こないだも私が止めなかったら、もっと走ってたでしょ」
さて、去年までは確定で祖母の所へ送られていたが、今年からナナセが小学生に上がった事もあり私達が決める事になった。ある程度分別が付くようになった今、一番下のナツヒコしか今の所両親が目を光らせなきゃいけない存在は無い。
その為祖母宅へ向かわせるのも、私達の判断にゆだねるという形になったのだ。それで早速二人でどうするかを話し合っているのだが、これがまた難しい。
正直あちらの環境の方が走る練習をするには申し分ない。走る場所にも困らなければ、場合に依ってはトレセン学園の先輩達が色々教えてくれたりする。姉さんの言う通りトレーニングには最適なのだが、同時に最適過ぎてやり過ぎてしまう可能性がある。
まして姉さん、要はアヤベさんだが、アプリでは妹の事もあったのだろうがストイックにトレーニングをしていた。そしてそれが元々の性格だったのか、こちらでも一度始めると自分が納得するまで走ろうとしてしまうのだ。
環境が良い分満足感を得られる可能性もあるが、期間が限られている事もあって逆に詰め込み過ぎる可能性もある。それが一番の悩み処だ。
「現状、お互い確認し合ってトレーニングしてるけど……そろそろ厳しいかもね」
「そうかも、誰か見てくれる人が居たらいいんだろうけど」
「それこそトレーナーさんとかね。……今からトレーナーが付くとか図々しいというか、高望みだけど」
姉さんはそう言うが、悪い考えでは無いんだよな一応。
いっそ今の内からトレーナーさんが付けば、トレセン学園に入ってから選抜レースで躍起になる必要も無いし。
もっとも、その肝心なトレーナーさんとの出会いが私達には無いんだけども。ブリッジコンプさん達のトレーナーに声を掛けてみるのも手ではあるけど、既に担当を持っている彼らに学園外に居る私達の面倒を見て貰うのはどうかと思う。あと単にここ、府中からだと結構距離あるし。
「……この際、空地の野良レースとかに参加してみるとか? 偶に物好きがフォーム指導してる事あるし、そのおこぼれに与るとか」
そんな提案をしてみる。しかし空地と聞いた時点で姉さんは渋い顔をして、野良レースと続いた瞬間には耳を後ろに向けてひん曲げた。
「ええー、ずっと年上の不良ウマ娘ばっかりじゃないああいうの。前にも公共のコースを独占してたし、他校にも解放してるとはいえうちの学校にもズケズケと入ってきた事あったじゃない」
「だよねー。やっぱそこがネックだなぁ。フリースタイルレースと違って、見学者にトレーナーみたいな真似できる知識があるのにトレーナーを目指さない人……みたいなのが偶に居るから狙い目ではあるんだけど……」
まぁダメもとではあったが、案の定私の提案は即却下されてしまった。
とはいえその反応も仕方ない。
ガチガチにグレてしまったら如何にウマ娘といえど堕ちる所まで落ちるのである。事実として私達はそんな不良ウマ娘達に多大な迷惑を掛けられた事もあり、内面が大人に寄っている私は兎も角、姉さんや他の子は拭えない苦手意識を持ってしまった。
内容自体は、目新しさに惹かれて来た不良が定番の迷惑行為をしていったというだけの薄い物だったけど。
ちなみにフリースタイルレースは場所を正式に借りて執り行われる物であり、野良レースとは厳密に区別されている。こちらも不良が出てこない事も無いけれど、前提として市や土地の管理者に正式な許可を得て借りた場である為にあまり騒ぎにならないのだ。なって不利になるのは、問題を起こした側だからね。
偶に不良の頭領や、好き勝手やられるよりはと保護者役の誰かが代理で許可を取って不良ウマ娘主体のフリースタイルレースが構築される事もある。
逆に野良レースは土地の管理者が特に制限を設けていない空地や、公的に解放されているレースコースを使っての突発的なレース全般を指す。
当然突発的な物だから、予定されていないレースという事でトレセン学園のトレーナー達にはあまりいい顔をされない代物だ。学園の空きコースや民間の施設コースならまだいいが、ろくな整備のされていない場所で走った場合の負担とか考えたくないしね。ウマ娘当事者達自身がセッティングする物だから、余計に質が悪い。
「逆に不安で任せたくない気もするのだけど?」
「流石にそこは精査するよ、私も怪我したくないし」
思考を戻して、私の発言に対して耳を折って明らかに不機嫌です、という様子で答えた姉さんに苦笑いで返事をする。
せめて最低限は知識が無いと私も頼りたくないよそりゃ。そんな都合がいい人物がいるかと言われればそれまでだけどさ。
しかし困った、正直それぐらいしか現状を打開する手段が無い。
この際両親のどちらかに見て貰うのも手だったが、それは現状難しい。ようやく次男のナツヒコが幼稚園に通い始め、両親も徐々に仕事が軌道に戻り始めたばかりだ。あまり負担を掛けたくない気持ちがある。
後はクラブに通うというのも手段の一つだが、生憎この近辺には無い。近々うちの学校のコースを活用し、新クラブ発足の話は上がっているらしいがそれもまだ先の話だ。
ぶっちゃけると現状、詰みに近い。
「……ダメもとで母さん達に相談してみようか。元競争ウマ娘だし、昔のトレーナーさんの伝手とかあるかもしれない」
「やっぱりそれしか無いよね。……私が言う?」
「言い出したの私だし、姉さんは一緒に居てくれればいいよ。ダメでも靴の相談とかもして、せめて怪我を防ぐ装備を整えるぐらいは出来るでしょ」
そう言い合って、一先ずの方針を立てる。
最近は自分たちでどうにか出来そうな事を全て処理していたので、何だか久しぶりに両親を頼る気がする。ある意味真っ先に頼るのが自然な気もするし、両親的にもそっちの方が良いのだろうけど、若干癖になっている。
これからも色々と迷惑をかけてしまうかもしれないと思うと、ちょっと申し訳ない。
そうして今日の夕飯時、両親が揃った所で話を切り出した。
切り出したのだけど、あっさりとした返事が返ってきた。
『ええ、いいわよ。早い方が良いかしら?』
それがあまりに即答過ぎて、反応が遅れたのは言うまでもない。とはいえ気を取り直して、食事後の片付けを手伝いつつ話を詰めた。
なんでも母さんがお世話になっていたトレーナーさんは、現在半引退状態にあるらしい。その状況で後任の若手トレーナーの育成や、トレーナー試験を受ける予定の人達を見てやっているとの事だった。
つまる話、ベテラントレーナーが付く訳では無い。だがトレーナーを目指し、少しでも経験を積みたい新人には私達の様な子どもは丁度良い。成果を出さなきゃいけない現役選手より、預かっている子ども相手だから必要以上に慎重にもなれるしね。
私達も要は、身体が壊れないラインを見極めてストップをかけてくれる人が欲しいというだけ。そういった知識を頭に叩き込んでいる人物が日頃付いていてくれるというのは、ありがたい話なのである。
早い話がお互いにWin-Winな関係になれる状況という事だ。母さんも以前からそういったウマ娘を見かけたら声を掛けて欲しいと、そのトレーナーさんからも頼まれていたらしい。
そこに実の娘である私達が声を掛けたから、迷う必要も無く勧められたという事だそうだ。
「それで、今日は顔合わせって事だけど。待ち合わせ場所……これ間違いじゃないよね」
姉さんの困惑した様子が、私にも伝播する。
まぁそうなるのも仕方がない、何せ私達の目の前には広大な空き地と。
「なんだぁ? おチビちゃん、ここはアタシらが使ってンだ。今日は帰んな」
不良ウマ娘達が居たのだから。
トレーニングを見てくれる監督役の人に会いに行ったら不良ウマ娘の巣窟だった件
ザーガ達の明日はどっちだ