アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話   作:煎餅さん

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何だか妙に長くなっちゃったぞぉ。

考えても一周回って何も考えられなくなるから開き直ってとりあえず話は進める、内容は最悪取っ散らかるけどアレコレ悩んで書かねぇよりマシだの精神。下手だなぁ煎餅くん、へたっぴさ。物語の書き方が下手!

(24/1/25追記)ちょろっと加筆修正


私達の監督者はトレーナー未満

 目の前には野良レースによく用いられる公園と、そして一塊になっている不良ウマ娘達。そしてそこから離れていて、私達に近かった一人がこちらに絡んで来たという状況。

 

 おかしいなぁ、私達は暫定トレーナーさんから指定された待ち合わせ場所に来た筈なのだけど。

 

「……えーっと。私達待ち合わせ場所にここを指定されてて、誰かそれっぽいヒト見かけてません?」

 

 とりあえず正直に伝えてみるか。用件が済めば彼女の言う通り、直ぐに帰れるし。

 流石に本格化を迎えてすらいない小学生ウマ娘相手に、無駄に威圧的な態度を取るなんて事はしないと思いたい。

 具体的には調子に乗って、変な要求をして来たりとか。

 

 苦手意識を持ってしまっている姉さんが既に臨戦態勢に入ってしまっているので、それを背中で隠しながら聞いてみるがはたして。

 

「あぁン? 誰だよこんな所ガキに指定する奴は、ビビっちまってんじゃねぇか。ちょっと仲間にも聞いてくっから、少し待ってな」

 

 あ、良かった普通に話が通じるタイプの不良だ。ビビってると思われてるのは心外だが、まぁ子どもの警戒なんて基本そんな物かと割り切る。

 というかよく考えれば、アプリでも学園に通っているウマ娘に対して嫉妬や、単にチヤホヤされるいい子ちゃんが気にくわないみたいな理由で絡むのが大半だった気もする。今の私達が邪険にされる理由が無かった。

 

 ……無いよね?

 

「ね、ザーガ。あの人が行った先、あの時のウマ娘が居るわ」

 

 不安になっていれば、姉さんがそう後ろから小声で耳打ちしてきた。指し示した先を見ると、確かに見覚えがあるウマ娘がそこにはいた。

 その人物こそ姉さんが不良ウマ娘に対して、難色を示す切っ掛けにもなったウマ娘とも言える人物でもあった。

 

 以前、今年度が始まってすぐだったか。あのコースを他校含め、近隣のウマ娘達にも開放する事が決まった時の事だ。安全管理なんかの側面もあって、他の子に開放する為の準備が整っていなかったから、周囲から羨ましがられてしまっていた期間が長かったのも災いしたのだろう。

 私達の学校が他所の子も使えるようにしたという触れ込みを出して少しした時、彼女がお仲間を引き連れて来たのを切っ掛けに一悶着あったのだ。

 

 なにぶん都合のいい所しか読んでこなかった挙句無駄にイキリ散らかすものだから、主に低学年を中心にすっかり怯える事態になったのだ。その為説明をしつつ発言を改めて欲しいと交渉したのだが、それが気に食わなかったらしく口論が発生してしまった事がある。

 あの時は相手側の機嫌もやたら悪かったから出方には気を付けたのだが、良くも悪くも子どもは集まった上で誰かが率先して動いていると変に同調して行動してしまう。そういう子供達が余計な発言をさも私に同調する様に飛ばし、そのまま他も野次を飛ばすのが続いたのが良くなかったとも言えるだろう。

 その後大人がすぐに出張ってくれたので良かったが、目の敵にされていても何ら可笑しくないのだ。

 

 率先して動いたのが私だったから、気付かれたらまぁ面倒そうだなと思うのも仕方がないだろう。

 

 そして残念な事に、視認して目を逸らすより先に目が合ってしまったのだけども。

 さっきのウマ娘はまだ戻らない。彼女を待つが為にここを動けない私達に、そのウマ娘はどんどん距離を詰めて来た。

 

「よう、久しぶりじゃんかよ。今日は何の用だ? こんな所にまで来て、まさか走る為に来ましたとか言うなよ? お前らには十分すぎる程立派な走る場所があるだろ?」

 

 やや挑発的な発言をしながら、ズイとこちらに顔を寄せてくる。

 もう会う事は無いだろうと思い、記憶に留めていなかったので改めて彼女の外見を観察する。

 

 毛色は鹿毛、毛先にかけて色が燃える様に明るくなっている特徴的な髪。染めてるのかな? それを肩まで伸ばしている。

 瞳の色は燃えるような紅色で、態度に反して愛嬌のあるタレ目。

 服装は、まあジャージだ。近辺にある高等学校の指定ジャージ。それ以外には、これといった特徴は無い。

 

 付け加えるなら、高圧的な態度に似合わず声は高めで結構可愛い方なんだよな。タレ目なのも相まって、お洒落して黙ってたら簡単に男を釣れるだろうって外見だ。ウマ娘な時点で大半はそうだけど。

 

 まぁ絡まれた所で、こっちは動けないから事情を話して興味を無くして貰おう。流石に第三者が直ぐ現れるのに、構い続ける意味も無いだろうし。

 

「ヒトと待ち合わせしてまして、さっき別の人が仲間に聞いてくると言ってくれたので待ってるんです」

 

「おおん? こんな所でヒトと待ち合わせか、その様子じゃ指定したのは相手の方か……一体どんな……」

 

 最初の子と同じような反応を見せて、そこまで口にした所で彼女は急に渋い表情を浮かべる。

 はて、何があったのか。そう思っていれば、苦々しく口を開き直した。

 

「いや待てよ? 確か姐さんが今日は客人が来るとか言ってたっけな、時間も大体今ぐらい……ええ? マジかよ、よりによってこいつ等も一緒なのか……?」

 

 そう言って、徐々にその額に冷汗が浮かび始める。なんの事だろうと考えたが、現状では情報が少ないので判断しかねる。

 それと同時に視界の端、先に声を掛けて来たウマ娘がヒトを連れて戻ってきたのも見えた。目の前にいる鹿毛のウマ娘は気付いていないらしい。

 

「……なあ、提案があるんだけどさ。今度メシ奢るから、前の一件チャラって事にしてくんねぇか? あの時はちょ~っと腹の虫の居所が悪くてさぁ、ガキ相手に大人げねぇ事しちまったなって反省はしてるんだ。どうだ?」

 

 そちらに意識を向けていれば、なんて事を言い始めた。

 ふむ、随分調子がいい内容だが、これは私は受けてもいい。だが、どちらかというと姉さんや他の子ども達に言うべき事である。そう思い、振り返って後ろの姉に聞く。

 

「姉さんはどう思う? 私としては、本人がこう言ってるし別に良いかなとは思うんだけど」

 

「……奢るとかは要らないけど、今度改めてあの時あの場所に居た子達に、ちゃんと謝って。皆怖がってたんだから」

 

 少しにらむ様にしつつも、しかし無事に姉さんからもお赦しが出た。

 それを聞いた彼女は心底ホッとしたらしい。いつの間にやら真後ろにまで来たヒト達に一切気付かないまま、額に浮かんだ汗を拭って。

 

「マジで悪いな。いやー、流石にガキ共泣かせてたのバレたら洒落になんねぇしな。今度ワビ持ってくからさ、繋ぎ頼むぜ」

 

「あ、うん。それは良いんですけど」

 

「ニヒッ、どうした? なんか希望でもあるか? あ、あんま高すぎるのは無理だぞ。ただイイ肉出す飯屋知ってるから、レイク様的にはそこがお薦めだ。嫌じゃなきゃ、このレイク様的オススメメニューセットを奮発して奢ってやろう」

 

 視線を少し上げて、自らをレイクと名乗ったウマ娘の背後に立ってジッとしている人物を見上げる。

 先ほど彼女は自身の事をレイク様と呼んだため仮称レイクとするが、レイクより頭二つ分は大きいだろうか。大体目の前のレイクの身長を150㎝以上として……190㎝近くありそうだな。いやデカいな、ヒシアケボノよりデカいんじゃないか?

 タッパもデカければ、肩回りもガッチリしている。ちょっとこの状態だと男性なのか女性なのか、ハッキリしない。

 

 ただ一つハッキリしてるのは、なんか滅茶苦茶怒ってるって事ぐらいだろうか。

 

「いえ、その。後ろのヒト、なんか怒ってません?」

 

「は? 後ろ? ……あっ」

 

 私の指摘に振り向いたレイクは、そのまま硬直した。

 すぐに顔は青く血が引いて、微妙に身体を震わせていた。この様子を見るに、先ほど態度を急変させた原因はこの人物なのだろう。

 このまま発言を反故にされないか心配だが、この怯えようだと逆に確約された様なものな気もする。

 

「レイクハースト、今の話は何だ? ……聞いていないが?」

 

 そんな低い、迫力たっぷりの声が振ってきた。身体が大きいから一瞬性別が分からなかったが、声を聴いてハッキリした。女性だったのか。

 後退って私達に並ぶような位置にレイクが来たため、女性の姿がハッキリと見える。

 

 濡れ羽色の髪をウルフカットにして、紅く細くきつめのツリ目。ぶっちゃけ目つき悪い。

 服装は黒いタンクトップにダメージジーンズと、中々攻めた外見をしている。全体的にガッチリしてるから女性的な柔らかさとは無縁そうだが、好きな人はとことん好きそうな外見だ。

 

 長身かつ鍛えているからか身体に厚みがあり、パッと見は下手なウマ娘より強そうに見える。

 同時にだいぶ豊満なバストをお持ちであり、身体の厚みも相まって着ているタンクトップも脇がカットされ、紐で調整するタイプと滅茶苦茶セクシー。微妙に丈が足りてないのかお腹が出ているが、結果として立派な腹筋がそこから覗いていると来た。

 

 たぶん何も知らずに道端で出会ったら先ずその腹筋で視線が奪われ、上に行くにつれてセクシーなタンクトップとそのバストに視線を奪われ、最後に視線で人を殺せそうな目つきの悪さに大慌てで視線を逸らす事になりそう。

 そんな人物に、レイクはタジタジになって両手を意味も無く振っている。ちょっと面白い。

 

「い、いやぁ~。その、なんだったかな~……?」

 

「そこのちび共、コイツに何かされたな? 言ってみろ」

 

 機嫌が悪いのか、滅茶苦茶口が悪い。低い声質も相まって迫力満点も良い所だ、普通の子どもなら怯えて縮み上がる。いや、内面が大人である私ですら結構ビビってるから並大抵の胆じゃ耐えられないかも知れん。

 というかドシンプルに身体がデカい上に、豪い目つきの悪い女性に威圧的な態度取られたら普通にビビる。

 

「……これ、言って良いのかしら。一応さっきの話を受けるならチャラって事になってるけれど」

 

「どうだろ、まだ肝心のモノは貰って無いし、皆に謝って貰うまでがチャラにする条件とみなせば言っても問題無いと思うけれど……その後謝って貰えるかは別問題になりそうだけど」

 

 流石にレイクの件もあり、同じ事を懸念した姉さんがそう声を掛けてくる。

 

 しかし目の前の彼女は、それも織り込み済みらしい。

 

「お前たちがオメガアステリズムさんの娘だろう? 隠し立てをするなら、今回の話は無かった事にさせて貰う。私はトレーナーではないが、それに近しい立場として指導をする以上信頼関係は必須だ。私の方にも、選ぶ権利はあるのだぞ」

 

 そんな事を言って来た。なるほど、このヒトがそうなのか。

 母さんの名前を出した上に指導という言葉が出た以上、母さんが現役時代に世話になったトレーナーさんが紹介したのが彼女らしい。そしてそれを言われると、私達としては話さざるを得ない。

 

 すまないレイク、私達にも事情はあるのだ。

 

「えっと、その……レイクさんが以前、お仲間を引き連れて私たちの学校で一騒動起こしまして」

 

「幸い喧嘩って程の事は起こらなかったけれど、学校のみんなが怖がってしまったから。大人の人もすぐに駆け付けて、大事にはなりませんでしたけど」

 

「うおお……姐さんの言い方的に事情があるらしいから強く言えねぇ……! 安心しろ、レイク様は約束を守るウマ娘だ……!」

 

 とりあえずザックリと話す。

 そんな私の腕に震えた手でしがみ付き、血涙を流さん勢いで歯を食いしばって何か言っているレイクはこの際無視する。いや言ってる内容は重要だったから無視できないけどさ、反故にしないと保証はしてくれたのだし。

 

 そして彼女は考えるような仕草をして、品定めする様な目をして口を開いた。

 

「なるほど、そこで証拠隠滅にコイツが取引を持ち掛けたと……」

 

「言い方は悪いですが、まぁそんな所ですね。こっちとしても、あの場に居たみんなに謝ってくれるなら文句は無いですし」

 

「その謝る動機が不純な物でもか?」

 

 言い方は悪いが事実その通りだし、その懸念はご尤もだ。

 だがそれでもレイクは今こうしてバラしても、こちらの事情を加味した上で反故にしないと発言した。ならば動機が不純でも多少の譲歩をしてやる理由にはなる。

 よし、ちょっとだけ助け舟を出してやろう。

 

「それでも身銭を切る意思はありました。更にこちらの事情を汲んで、貴女に先ほどの話をバラしても反故にしないとも発言をしました。少なくともそれだけの誠意はあると判断したので、多少動機が不純でも謝罪してくれるなら良いかと」

 

「私も正直、他のみんなにちゃんと頭を下げて謝ってくれれば良いと思ってるわ。ザーガみたいに難しく考えて判断したわけじゃないけど、ちゃんと謝る気はあるみたいだし良いと思う」

 

 私達がそう答えると、再び彼女は考えるような仕草をした。

 なんだろう、目つきも相まって微妙に試されてる感があって居心地が悪い。この人の迫力がそう感じさせているだけなのかもしれないけど。

 しかしすぐに緊張した空気が緩み、口角が上がった様に見えた。……笑ったのかな?

 

「そうか、ならいい。運が良かったなレイク、彼女達はお前に対する評価を違えなかった。お咎め無しとはいかんが、トレーニングを一割増しで勘弁してやろう」

 

「いや姐さん? その元のトレーニングで既にギリギリ……」

 

「トレーニング中の無駄口を減らせ、少なくともそれだけで一割増えた分を持たせるだけの消耗は減る。スパート時に叫ぶのは気合を入れる側面もあるから構わんが、それ以外でデカい悪態を吐くのは呼吸を乱す事に他ならんぞ」

 

「あ、うっす……」

 

 しかし直後のレイクとの会話に、気のせいかも知れないと思い直す。これ鬼教官の類じゃないかな。

 大丈夫かこれ、私達今後ガチムチになったりしない?

 

「さて、さっきは脅すような真似をしてすまなかったな。君たちの事はシェリングの爺さんから聞いている、詳しい話は向こうで話そう」

 

 そんな心配を他所に、彼女はそう言って付いて来いと歩き始めた。

 とりあえず彼女を連れて来てくれた最初の子に感謝を述べ、姉さんと共に後をついて行く。何故かレイクも一緒に付いてきたが、出会ってすぐの時に何かそれらしい事を漏らしていたからそれが関係してるのだろう。

 

 

 

 そうして少し歩いた先、小ぢんまりとしたブルームテントが見えて来た。要は運動会とか市のイベントで使われる屋根だけのアレだ、その下には同じく簡易テーブルと椅子が並べられている。

 あれ、ここって一応空地だよな? こんなもん設営してて大丈夫なのか?

 

 そんな疑問が浮かぶも、よく見たら要所に『URA貸出し品』と書かれたテープが貼られていた。たぶんURAが正式に手続きを踏んで設営しているのだろう。なら大丈夫か。

 座るように促され、彼女を相手取るように私を中心に姉さんとレイクの三人が横並びで座る。

 まるで面接だが、まぁ間違ってはいないのだろう。

 

 こうして対面すると、やっぱ迫力がある。入隊面接かな?

 

「そういえば、まだ名乗っていなかったな。私は霧峰霞という、よろしく」

 

「そういや私も名乗ってなかったわ、レイクハーストってんだ。まぁ気軽にレイクって呼んで良いぞ」

 

 言われてみれば確かに名乗られていなかった、まぁあの状況じゃタイミングを逃すのも仕方がない。とりあえずこっちも名乗り返しておこう。いやそれ以外にも色々気になる点は多いけど、挨拶は大事だ。

 

 そんなわけで名乗り返して、一通り挨拶を終えた所で本題に入る。幾つかの書類を霧峰が取り出し、それを私達とレイクの前に差し出した。

 

「それでは早速だが、仕事の話をさせて貰う。アドマイヤベガ、アナザーベガの二人はトレーニングの監督役を求めているとの事だったな」

 

「はい。私がトレーニングに入れ込みやすい質である事と、それを抜きにしても今まで以上のトレーニングを求めるとなると安全面に懸念があったので」

 

「近隣に条件のいいクラブも無かったので。トレーニングを監督してくれる人を探して、ある種専属の状態で見て貰えないかと母に相談して今に至ります」

 

 姉さんが普通に答え始めたから乗じて私も答えたけど、これやっぱり面接では?

 いやまあ、姉さんもといアヤベさんって要所で事務的な言葉遣いするけどさ。前世の時もアプリ通知とかめっちゃ淡々とした文面だったし。たぶんLANEか何かでの連絡だったんだろうけどさ、あの感じ。

 

 ちなみに現世でもその気はあって、その場の空気感に併せてキッチリ公私を分ける。そのせいで偶にお堅い怖い子、なんて思われたりする事がある。主に学校行事の委員会とかの場で。

 

 まぁ現状じゃむしろそれは強みだ、変に緊張してたどたどしくなるよりずっといい。

 

「事前に聞いていた通りだな。さて、君たちが望んでいるのはあくまでトレーナーではなく、トレーニングを監督する存在……そこに間違いは無いか? こちら側での認識に齟齬があった場合、私にはそれを上司に当たる者へ報告し適任者を再要求する義務があるのでな」

 

「相違ありません。あくまで私達が求めるのは安全確保の為の協力者です」

 

 姉さんが淀みなく答える。隣のレイクが感心したようにこちらを見る気配がするが、まぁ無視する。あんまり構うと指摘されそうな雰囲気がこの場にはある。

 

「ふむ、ならば私が担当しても問題は無いだろう。注意事項や私がどういった存在かはその書類に記載している、後日会う時までに熟読し了承のサインをして持って来てくれ」

 

「わかりました」

 

 とりあえず書類に軽く目を通してみるが、まぁ基本的な注意事項が記載された契約書に見える。詳細を確認するのはまた後で良いだろう。

 

 視線を戻せば、霧峰がレイクへと視線を向けた所だった。

 

「さて、レイクハースト。お前についてだが……まぁ以前話した通りだ」

 

「いや省くのかよ!?」

 

「お前に対しての説明はな。アドマイヤベガとアナザーベガ、お前たちには説明しておこう。彼女はこの地域周辺の不良を束ねているリーダー格でな、知っての通りこの空地も本来は彼女達のテリトリーだ」

 

 どうやらレイク自身への説明は別日に行われていたらしく、省かれた。しかし代わりに、私達へ向けた説明をしてくれるらしい。

 

 曰く、今後この空地を使って私達のトレーニングを行うとの事だった。それに当たりここをテリトリーにしている彼女達への交渉に、実際にこの場での指導を担当する事になった彼女が出たのである。

 そしてその時、リーダーだったレイクハーストがヒトミミだからと侮って喧嘩で決めようと脅しを兼ねたハッタリを仕掛けたらしい。しかし結果として武道に精通していた霧峰にあっけなく組み敷かれ、今に至るとの事だ。

 

 普通武道に精通してても、ウマ娘にそうそう勝てる筈無いと思うんですけど。

 

「で、私のメンツ丸つぶれで他の連中が血気盛んになりかけたんだけどよ。姐さん、すげぇ圧で『つまり、お前たち全員を同じ条件で組み敷けば文句は無いのだな?』って言うもんだからほぼ全員ビビっちまってな。立ち向かった奴らも正面から普通に千切られて、私らで決めた条件だったから従う事になったって訳だ」

 

「ついでに既に本格化しているウマ娘への指導も経験しておきたかったからな、お前たちのトレーニングの監督と並行して見てやる事にしたんだ。専属という条件とやや異なるが、基本的にお前たちを優先するからそこは安心して欲しい」

 

「なんかもう色々ツッコミたい事が多すぎるんですけど、やっぱり武道に精通してるからで済む話じゃないですって。ウマ娘に喧嘩で勝つのは」

 

 レイクが私達と一緒に彼女の指導を受けるらしい事へ一先ずの納得は出来たが、結局耐えられずに口からツッコミが出て来てしまった。

 やっぱ冷静に考えて無理があるよ、組み敷いた所でウマ娘パワーで強引に抜け出せるはずだし可笑しいって。どんな超人だよこのヒト。

 

「レイク」

 

「うっす」

 

 いやそんな短いやり取りでなんで話が進むの、そんなボスとその舎弟みたいな事しないで。えっ何そのクルミ、どこから出したの。待って嫌な予感してきた。

 

 そんな私の困惑を他所に、レイクが何処かから取り出したクルミを霧峰が指先で摘まみ上げる。その時点で私の嫌な予感はピークになり、その現実から目を背けたくなった。

 しかしそれはそれで怖いので、結局見る羽目になった。

 

 そして私達はその目で確かに見た。

 

 霧峰が一切表情を変えることなく、その指先で摘まんだクルミの殻を砕く姿を。

 

 

 

 

 

 

「————さて、話は以上だ。現時点で何か質問等があれば聞くし、無ければ一先ずは解散としよう。ああ、それと連絡はどうする? お前たちの両親経由でも構わないが、望むなら連絡先を交換しておくが」

 

 彼女が正真正銘のゴリラ女だったのを確認し、何事も無かったかのように再び細々とした各種説明や打合せをした後。ようやくそう言って、今回の話は区切られた。

 正直まだ若干脳みそがバグっているが、それでも彼女がウマ娘相手に喧嘩で勝った事に納得出来ただけマシな気がしてきた。

 既に感覚が麻痺している。

 

 さておき、連絡先の交換はしてしまっても良いだろう。とりあえずLANEのアカウントをフォローし合っておく。

 

「お、それならレイク様のLANEも教えてやろう。例の件の日程とか詰めるのにも良いし、お前らにも詫びで奢んなきゃだしな」

 

「いえ、私達は別に詫びとかは結構ですから……」

 

「んじゃこれから姐さんの下で切磋琢磨する仲って事でさ。ちょっとこういうの憧れてたんだよな、年下過ぎて微妙に違う気もすっけどさ」

 

 案の定というか、今後一緒に活動をする事になるレイクも連絡先交換に割り込んで来た。

 本人の言い分に対して断ろうとするも、結局本人がやりたいという事でごり押された。私達の意思関係ないじゃん、いやまぁどうせ今後も頻繁に顔合わせる事になるし良いんだけどさ。

 

「あの、もう一つ別件でお話が」

 

 そんな事を思っていれば、姉さんが思い出したようにそう切り出した。

 

「良ければ夏休み中は私達の祖母宅へご一緒しませんか? 小さめですが芝のコースもありますし、海沿いの砂浜での走り込みや遠泳も出来ます。避暑地としても使えますし。……都合が良ければ、ですけど」

 

 やっべ、忘れてた。なんなら元々その話から発展して、監督役欲しいねって話してたんだったわ。

 

「そういえば元々そういう話だったっけ、とんとん拍子で話が進んだからうっかりしてた」

 

 とりあえずその話を二人にもしておこう。かくかくしかじか、なんて圧縮言語が実際に使えたら苦労しない。

 ざっくりと、元々は夏休みの予定を組むにあたって諸々の問題を洗い出して行った結果この状況が生まれたのだと説明をする。

 

「なるほど、元々そういう魂胆だったか。であれば好都合だ、この夏は強化合宿としゃれこもうじゃないか」

 

 そして説明をされた直後、そう言って獰猛に笑みを浮かべた。怖いよ。

 

「あ~、姐さん? その流れだと私も行く感じか? まぁ普段から家にあんま居ねぇから親は何も言わねぇだろうけど、流石に旅費出せってなるとうちはキツイと思うんだわ……」

 

「それなら大丈夫。流石にこっちが無理言ってるんだもの、旅費から宿泊費までこっちで持つわよ」

 

「というか、祖母にもお友達とか気軽に誘ってこいとは言われてたし。レイクは友達枠、霧峰さんはトレーニングの監督を泊まり込みで頼んでるって言えば問題は無いと思うよ」

 

 レイクが上げた不安の声を、姉さんが制する。そして私もまたそれを補強する説明をし、レイクの退路を塞ぐ。

 お前も一緒にリムジンに乗らないか?

 

「マジで? そりゃ助かるな、レイク様だけ置いてけぼりでトレーニング出遅れるのは勘弁だったからな」

 

 よしよし、食い付いた。

 

「ならまた後日、その辺りの詳細は連絡します。流石に一度お祖母ちゃんにも話を通さなきゃですから、もし不都合や何か問題点が出たらすぐ連絡しますね」

 

「分かった、こちらも何かあれば連絡しよう。それと、宿泊先の最寄り駅は何処だ? レイクは兎も角、流石に私まで交通費を出して貰う訳にはいかないからな」

 

「まあそこも含めて連絡します、文体の方が聞き間違えや覚え違いも防げますし」

 

 姉さんが締めにかかり、霧峰さんも同調して今度こそ解散の流れになった。

 私もさりげなく移動手段に関してぼかし、主にレイクへのサプライズを画策する。何か姉さんが苦笑いとも取れない微妙な表情で私を見るが、知らんぷりでもしておこう。

 

 

 

 何であれ、色々あったがどうにか夏休みの予定も概ね決まった。後は実際にやってみてどうなるかだが、こればかりは始まらない事には分からない。

 一先ずは祖母達への連絡が急務だ、擦り合わせをして向こうで部屋を確保しなければ話にならない。

 最悪の場合近隣の施設を借りる羽目にはなるだろうし、その際の資金援助も話を通しておかないと面倒になる。この辺りはキチンと整備しておくに越したことはない。

 

 とはいえあまり心配はしていないのだけども、ブリッジコンプ達の時だって卒業したその時は是非友人として泊まりに来てねとか言ってたし。初対面にはなるけど、直ぐ打ち解けられるだろう。

 

 むしろ逆に仲良くなり過ぎて、変な方向に思い切りが良くなる方が怖い。

 なんで、なんでそう変な方向にばかり! なんて展開はごめんだ。

 

 その後、無事に許可は下りた。ただ、学校でのあの一件は祖母にも伝わっていたらしい。

 レイクとお話しできるのが楽しみだわ、と電話先で言った祖母の顔が攻撃的な笑みを浮かべているのを容易に想像できたのは言うまでも無かった。やっぱ祖母達じゃんか、学校のコースの一件の首謀者。

 強く生きろレイク。




監督役兼未来のトレーナーさん確保回。あと新ウマ娘登場。以下軽い紹介とか元ネタ

・霧峰霞(きりみねかすみ):アドマイヤアナザー時代の最後の方で出て来た女軍人。改めゴリラ女。パワーアップして登場、身長190㎝あるかないか、体重はもう知らん。年齢も現状不明、ザーガ的に20代前半から下手すりゃ10代かも判定。ぶっちゃけ背がデカすぎて正確に測れない。あっちじゃ黒のセミロングだったけどウルフカットでお洒落さんに。くっそ目つき悪い。下手なウマ娘より強い化物。95/66/83

・レイクハースト    :モブキャラ枠。元ネタはマギレコから大庭樹里、お前もウェルダンにしてやろうか。ウマ娘な分元ネタよりはずっとまともな精神性に落ち着いてるけど十分気性難。

・オメガアステリズム  :シレっと出て来たけど本作におけるアドマイヤベガ、アナザーベガ両名の母親の名前。流石にベガそのまま使う訳にはいかないからね、ベガだと同期のユキノビジンとかも居るし。名前の元ネタは防衛部隊を20秒足らずで全滅させた某乗機、左腕にベガ持ってるしええやろ。ティアラ二冠ウマ娘。

・シェリングの爺さん  :オメガアステリズムの元トレーナー。若い頃にクリティークというウマ娘と黎明期にあったトゥインクルシリーズで活躍した経歴を持つ。現在はそのクリティークと結婚しており、お互い言葉少なでありながらも仲は良好。クリティークは年老いてなおモテる旦那に思う所があるらしく、ちょこちょこ食事の差し入れの体で生徒達をけん制しに来ていたらしい。名前の元ネタはアルドラのリンクス、№14。
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