アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話 作:煎餅さん
これから忙しくなるから間に合ってよかったけどだいぶ駆け足。いつもの事だったわ
ロータードラッヘ先輩のメイクデビュー回、前に出た時に色々抱えてた物が明かされる回。何でこんな事したの? なんか思いついちゃったからつい……
あとチームはリギルに所属、いいの思いつかなかった
リコリスフレーバーはまぁ、なるべくしてなったトレーナー枠にはバランスお兄さん。でもあんまりバランス言わない
(24/1/26追記)ちょろっと加筆修正しました
(24/1/28追記)ガッツリ登場人物の名前間違えてました()
???「何のための修正だ!バカバカしい!」
日曜日、東京レース場。
天気は昨日とうって変わって朝から雨。午後から晴れるとは言うが、タイミング的に私が走る頃まではギリギリ振り続けるだろう。
「ドラッヘ、あいにくの雨だがやる事は変わらない。幸い雨量も大したことは無い、バ場も稍重の発表よ」
「もちろん承知していますわ、持てる力を出し切るまでです。後輩達に無様は見せられませんしね」
トレーナーがそう言って並び立つ。それに返しつつ、近づく本番に身を震わせる。これが俗にいう武者震いという物か。
「最終直線で、全て千切る。それだけですわ。私の名が表す通り、竜が放つ息吹きの如き一閃をお見せしましょう」
「全く楽しみね。最後方付近から仕掛ける子の担当は初めてだったけれど、貴女の場合は心配せず担当出来そうだわ」
目の前で笑う、チーム・リギルを担当する東条ハナトレーナー。管理主義を掲げ、王道を貫く事で有名な人物。
私の実力を認めつつ、チームの殆どが王道的な先行・差しといった脚質ばかりな為に敬遠した人物でもある。
私はそんな彼女に自分を売り込み、私で追い込み脚質のノウハウを得れば良いと発破をかけた。
喧嘩を売るにも等しい所業だとは思ったが、キッチリと身体を仕上げるならばここが最適だと判断したから逃せなかったのだ。万全の仕上がりから繰り出す、最後の直線か手前のコーナーからのロングスパートによる捲くり。
兎に角、万全な管理。それが私の考える、追い込み脚質にとって必要不可欠な物だった。
結果はこの通り、ビシバシと鍛えて貰っている。先輩達の扱きも加わり、充実感はひとしおだ。
「そういえば、例の子達が来てたわよ。本当に一目見て分かったわ、色んな意味で」
「本当ですか? なら、余計に負けられなくなりました。わざわざ誘って、それで負けたら示しがつきませんから」
「それは他のウマ娘も同じだけどね。……でも、今日勝つのは貴女よ。行ってきなさい、ドラッヘ」
トレーナーの激励を受け、私は移動を開始する。
パドックの準備がある、配られたゼッケンの装着も忘れない様にしなければ。
控室からパドック会場に繋がる通路を歩く途中、見覚えのある尾花栗毛が見えた。私よりもやや白に近い毛を揺らし、制服姿の彼女は笑いかける。
「やぁやぁ! ドラッヘ君、ご機嫌いかがかなぁ?」
「最高ですわ、リコリス」
先日のメイクデビューで、無事に勝利を収めたライバル。リコリスフレーバーが、そう声を掛けてくる。
それに短く答え、パドック会場までの通路を彼女と共に歩む。
「あの子達も呼んで、迎えまで寄越したんだっけ? たきなまで一緒に呼んでくれてありがとね」
「構いませんわよ、一人増えた所で何も変わりませんし。それより意外でしたわ、貴女ならズルいとかなんとか言いそうだと思ったのだけど?」
「あ、それ言っちゃう? 聞いちゃう? ……うん、ズルいとは思うよ? 思ってたんだけど、昨日たきなに『なんで最初から来てくれなかったの~?』って聞いたらさ。六年生の時に私やらかしたじゃない、アレを引き合いに出されちゃってさ~」
そんな、他愛ない世間話に思い出話。そこに頑張れだとか、応援してるとかの言葉は無い。
徐々に会場は近づき、着いてしまえば暫く彼女とは会えなくなる。ここから先は同じ出走者と、そのトレーナーやチームメイトまでしか会う事は許されないからだ。
会場に続く通路出口。その前まで来た所で、リコリスはスッと表情を引き締めた。
それだけで私が聞きたかった情報を、好ましい形で持ってきてくれたのがわかった。人とすぐ仲良くなる彼女は、同時にその人脈から情報を探すことにも長けていた。だからある情報を探すのを、頼んでいたのだ。
「例のあの子、今はまだトレーナーが付いてないけど……この前の選抜レースの後からちょくちょく新人のトレーナーに付きまとってるって。あの子も本格化自体は迎え始めてるし、もしかしたら今年中には間に合うかも」
「……ありがとう、俄然やる気が出ましたわ。貴女とも、そしてあの子とも、同じ大舞台で決着を……その為にも先ずは今日、勝ってきます」
我ながら酷い顔をしていると、表情筋の動きで察しがつく。目の前のリコリスもまた、目を大きく開いて冷や汗をかいている。獰猛に歪む口から、きっと犬歯が覗いていることだろう。
笑顔とは本来攻撃的なもの。誰が言い出したか、しかし確かにそうかもしれないとも思う。
「行って参ります、また後程」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
聞きたい情報は得た、後は勝つだけだ。
纏めてねじ伏せる。どの道誰かの敗北の上に立つのが勝者だ、勝ちたいとはそういうことだ。
手加減も思いやりも無い、ただ突き放す。
「全員纏めて、焼き払ってさしあげますわ」
「その顔は、竜は竜でも邪竜の類じゃないかなぁ……」
その場に一人残された友人は、ポツリとそうこぼした。
──☆☆☆──
東京レース場に、私達は来ている。
昨日のリコリスの応援には行かなかったのにって? 彼女の性質をよく理解してたから、あえて行かなかったのだ。別に私達が薄情なわけじゃない。
加えて今回はドラッヘ自身の希望で呼ばれているから、来ないと言うのはそれを断るという事だ。流石に先輩の最初の大舞台だ、断れない。なんなら迎えまでして貰ったし。
「それにしても、そのロータードラッヘって奴は強いのか?」
「公開されているレース直前のトレーニング映像を見るに、一人ずば抜けているのは間違いない。だが今回の彼女は大外、距離が同じだから昨日のリコリスフレーバーと違って不利を受ける形になる。加えてこの雨に稍重のバ場……後は道中のペースがどうなるかだな」
ちなみに今回はレイクと霧峰も一緒だ、家族や関係者も是非と言うことで一緒に来た。
なお両親は弟達の事もあり、昨日と同じくテレビ中継で応援するとの事。一応小学校の先輩として紹介して、面識があるからね。
「でも、彼女は普段から追い込みを好んでますから。昨日はリコリス先輩が先頭を潰しつつ自分は溜めて、後続との末脚の鋭さに差を付けなかったのが勝因でしたが……同じ展開を彼女の居るレースでやったらどちらが勝つやら」
「確かに上がりのタイムは目を見張る物があるから、その日の調子次第では十分あり得るな。他の動き次第にはなるが、下手にスローペースに持ち込んだ所で効果が無い可能性もある」
先日のリコリスフレーバーのレース運びは、やってる事は先行だがその内訳は幻惑逃げにも近い小賢しい作戦だった。
先ずはずば抜けて巧いスタートでポンと飛び出し、素のスペックから来る速度差だけでリードを広げる。それに慌てた本来の逃げが無理に加速して進出すれば作戦の殆どが成功、もう一人付いて来たら御の字。
次いでそれらが前に出た時点で、ペースを彼女達に任せて過度に置いて行かれない程度に自身のペースをにわかに落とす。元から内側でスタミナ消費が比較的少ない所をこれにより盤石にし、後方脚質とのよーいドンで負けない様にする。
後はそれらの総決算だ。最終直線に入って坂を上り始めた所から徐々にペースを上げ、先に行った二人の速度が落ちるのと対照的にペースを損なわない様に速度を上げたから、極端に上がった様に見える。そう演出する。
後はそこから、それを見て彼女を追ってくる子が増えれば万々歳。何人かは引っ掛からなくても、何人かが引っ掛かれば少なくともその分障害物として機能する後詰めもちゃっかりしてる。
なんというか策士というか。ある意味、彼女らしくない走り方だったとも言える。だが同時に、彼女の能力を十全に引き出した良い走りでもあった。
「そーなんですよー、あの子すっごい末脚持ってるんで! たぶん今日は普通に勝てるんじゃないかな?」
「リコちゃん先輩、お久しぶりです」
「リコリス、貴女も来てたんですか?」
昨日のレースを思い出していれば、話が聞こえていたのかそう言いながら当の本人がやって来た。姉さんや一緒に来ていたたきなも、彼女の下に駆け寄る。なんだかんだで姉さんも彼女に可愛がられていたし、たきなは言わずもがなだ。同じ孤児院出身である為にもはや家族同然の仲であるし。
「そりゃライバルの走りは見ておかないと。ドラッヘがたきなの事も誘っておいたって言うから、アイツ見送った後飛んできたんだ~♪」
「それを追いかけるこっちの身にもなってくれねぇか?」
その後ろから、ボサボサした緑髪の男が入ってきた。もう夏日だというのに、ピンクのアロハシャツの上から黒いロングコートを着込んでいる。
走って来たのか、若干汗ばんでいる。リコリスの関係者かな?
「トレーナーは後からゆっくり来れば良いじゃん、無理に付いてくるからそうなるんでしょ?」
「お前が知り合いの輪に入って、すっかり馴染んだ後に入ってきたら気まずいだろうがよ。ただでさえ男女比のバランスが取れてねぇんだ、せめて合流時点で最初から居させて貰えないと精神的に来る」
そんな彼女との会話から、彼がトレーナーである事が判明する。一瞬こんなのがトレーナーかって思ったが、よく考えたらアニメウマ娘でも黒沼トレとか愉快な恰好してたわ。
そう考えると彼は比較的マシな服装をしていると言える……のかなぁ……?
「そう言う訳で、俺はコイツのトレーナーをしている真島ってんだ。よろしくな」
「ああ、よろしく。私は彼女達の保護責任者として同伴している霧峰だ」
「霧峰……ああ、そこのそっくり姉妹と合わせるとアレか。霧峰トレーナーの所の」
独り、納得したように頷く真島。そこそこの小声だったから、たぶんこの場ではウマ娘の私達とリコリスしか聞こえていないだろう。
何か気になる事を言っていたが、それを無視して彼は一見明るく振舞う。
「OK、よろしくな霧峰」
そう言って、大人組も外見的には挨拶が済んだ。私達もリコリスから紹介される形でキチンと面識を持ったが、なんというか底が知れない男だ。きっと世界や境遇が違えば、その底知れなさに相応の存在になっていたかもしれないと感じる程には。
もし将来トレセンに入学した際、トレーナーが付かなかったら声を掛ければ考えてやるとは言われたが遠慮したい物だ。正直仲良くできる気がしない。
さて、挨拶が終わった頃にはパドックが始まっていた。昨日と同じ、東京第5レースのメイクデビュー。そのパドック。
姉さんはたきなと一緒に近くで見てくると慌ただしく行ってしまった。
ちなみに私達は今、ロータードラッヘの関係者席に居る。その為パドックの映像は届くが、一方的な物になってしまうから姉さん達は現地へ向かったのだ。
もちろん姉さんには誘われた。早々にリコリスが『私はさっき見送っちゃったから、今行ったら恰好が付かない』とか言ってパスした為、私もここに残る事にした。この先輩はなんだかんだでお調子者な側面がある為、変に野放しにするとある事ない事を吹聴する可能性がある。
特にレイクに対してそれが行われると、後で誤解を解くのが面倒になる。いやまぁたきなが居るからそれで一発ではあるが、話のタネに擦ってくるのは目に見えるのでその予防として。
「後輩に信用されてないのはよく分かった。まぁ自業自得だな、普段のお前を見ててもしそうだなって思うぞ俺も」
「会って間もないレイク様が言うのもなんだけど、偏見で悪いがやりそうだなってのは分かる。まぁレイク様も同じく信用されてないらしいんだけどさ」
付け加えると、本人の前で普通に理由として言った。リコリスは何かが胸に刺さる様なジェスチャーを数回して、よろよろと椅子に座り込んだ。芸人魂を発揮するなら倒れ込む所だろうが、一応公共の場なので弁えたらしい。
「よよよ……私は悲しい、特にたきなの『ああ、リコリスはやりますね。断言します』が効いたわ~……!! いややるんだけどもっ……!!」
「やらんでください……」
やる気だったのかよ。油断も隙もねぇなこの先輩。
「まぁ、バカ話もそれぐらいで……実際の所どうなんだ? あのドラッヘというウマ娘は」
緩みきった空気が、その言葉で引き締まった。
霧峰の言葉にリコリスはスッと表情を引き締め、覚悟を決めた様に言う。
「まあ勝つよ、断言する。ただ、ちょっと精神的に良くない所があるかな」
「というと?」
なんだろ、精神的な良くない所って。気になって続きを促してみる。
「ザーガちゃん、初めて会った日から少ししてドラッヘが妙に大人しい時期あったの憶えてる?」
「へ? ああ、そういえばありましたね。それが?」
そういえばそんな事もあった気がする。聞いてもはぐらかされたから、私も特に追求しないままだった。
「その原因がね、そうなる少し前に私達の居たクラスから一人、ウマ娘が家の事情で転校しちゃったんだ。元々海外からの帰国子女で、その前にも海外で転々としてた子だから仕方ないんだけど……ドラッヘ、その子と初めて走った時に惨敗してるんだ」
「えっ、あのドラッヘ先輩が? あの人が惨敗って何があったんですか」
あの人が惨敗とか、その子が既に本格化が近くなってたとかだろうか。もちろん私と姉さんみたいに諸々の条件が重なって、結果的に強くなってた線もあるから何とも言えないけれども。
それでも彼女が惨敗する相手とは気になるな。そして霧峰も同じらしく、積極的に切り込んでいった。
「ほう? 公開トレーニングの映像だけ見ても、以前から既に形になっている実力に思えたが。それを上回る相手が当時から居たと?」
流石の霧峰も興味があったらしく、食いついてきた。まぁウマ娘に興味がなきゃトレーナーの真似事もしないか。普段の態度は女軍人染みてるけど。
「うーん、あの時はドラッヘも天狗になってたからなぁ。単純に仕掛け処を見誤ったって所が大きいんだよね、惨敗の理由も。正常な状態だったらいい勝負してたと思う」
惨敗の秘密はそれか。まぁ人に聞かれたくはないな。
しかしそんなに言う程なのか、その子。正直ドラッヘの事を少なからず知っていると、いい勝負をするって時点でかなりの強者だろう。
だがそれだけで、ドラッヘがその転校してしまったウマ娘で思い詰める物だろうか。
「問題はその後でね。当時既にドラッヘが校内ダントツのウマ娘って状態で、かつあの子自身人望があるじゃない? それが急に崩された挙句、見てた本人にもそれなりに実力が無いと『ドラッヘが自滅した』なんて気付けないわけよ。……そんな状態でドラッヘ相手に5バ身付けた相手と走りたいと思う子、居ると思う?」
「それは、うーん……」
「難しいだろうな、先ず確実に敬遠されるだろう」
「レイク様みたいなのが居りゃ話は別だったろうけど、あの学校甘ちゃんばかりだろ? 無理だろ、誰も走りやしねぇよ」
なんだろう、凄く覚えのある流れだ。
「そうなのよね~。で、結局それ以来塞ぎこんじゃってね。本人に聞いた話じゃ、前の学校でもそうだったらしいのよ。それで親の仕事で転校する度に、その近辺で強い子が居る学校を選んで転校を続けてたらしいの。その時、ドラッヘがただの自滅だった事を伝えてはみたんだけど……よほどトラウマだったのね、可哀そうに。震えて首を横に振ってたわ」
「思いの外ヘビーだったわね。ドラッヘにもその話を?」
「もちろん、滅茶苦茶落ち込んじゃったわよあの子。自分の不甲斐無さのせいであの子をそうさせちゃったって、まあ気持ちは分かるけどね。私もそんな事したらガチへこみしちゃうし~」
「それであの嬢ちゃんは気合入ってるって? ピースが足りねぇんじゃねぇか」
「そうなのよトレーナー、こ・れ・だ・けじゃ、ああはならない。なら何故か? 答えは簡単、その子の年内デビューがほぼ確定したからです!」
……ああ、なるほど。惨敗の雪辱が果たせる再戦の機会と、同時にその子がそんな目に遭ってなお走る事をやめなかった事への安堵がそうさせたと。
「……ほぉ? 俺はそんな情報仕入れてねぇが、ウマ娘同士の情報網って奴か?」
やや剣呑な空気を出しつつ、真島が問いかける。てかそう言う有力ウマ娘の情報って真っ先にトレーナーに伝える物では?
「やぁだ、怒らないでよ~。後で伝えようとは思ってたし、その情報もドラッヘのパドック入場直前に伝わった物なんだから仕方ないんだってば。今まで有名所のスカウトを蹴りまくって、果てにはあのリギルの勧誘まで愛想笑いで誤魔化したと思ったらよ? 最近は新米らしいトレーナーさんに付きまとってるらしいって、これはもう脈ありでしょ! 本格化の件もあるし間違いないと思うのよね~」
「……トレセン学園は婚活会場じゃねえんだぞ?」
「わかっとるわい! 第一トレーナーと一々くっ付いてたらトレーナーさん消えるわ! なんなら私も真島トレーナーととか死んでも嫌だからね!?」
「それは安心したぜ……いや、心底な」
「ど~いう意味じゃぁ~!!!????」
……急にコントが始まって、勢いに呑まれかけた。が、要はその子にトレーナーが付いた。もしくはそのままトレーナー契約をするかも、と言う事と、本格化の観点から年内デビュー濃厚って話らしい。
さて、ふと眼下に視線を移せば、いつの間にやらパドックも一区切りがついて出走ウマ娘達はターフに出ていた。返しウマだ。
「ドラッヘ先輩、落ち着いてますね」
「堂々の一番人気、その上初めてのトゥインクルシリーズの舞台。大抵はその重圧に少しは気後れしたりするものだが、大したものだな」
「ま、あの子もう勝った気で……いや、違うか。なんかもうその辺超えた精神状態にあるからね、たぶん順当に勝つよ」
そこまでさせるのか、その転校してしまったウマ娘は。
「ちなみにその転校生の名前、なんて言うんですか? 前ははぐらかされちゃいましたけど」
流石にここまでくると、今後また何かしら関わりそうだし聞いておきたい。以前はドラッヘが凄い圧をかけて来て話してくれなかったが、今なら聞けるだろう。
「えっ? ああ、そういえばそうだったね~。あの時はドラッヘに止められちゃったけど、まあ今なら良いか」
「おい、ゲートイン始まったぞ。後にしとけ」
しかし間が悪く、レイクの言葉に視線を戻す。
何人かゲートを嫌がり、やや時間を食っている様に見えた。
ドラッヘは今回奇数番、既にゲートインしているが落ち着いている。恐く感じるぐらい、静かな様子が見て取れた。
──☆☆☆──
『さあ、今6番のライルライルが収まってゲートイン完了。東京第5レース、メイクデビュー』
幼馴染が隣に収まる。視線が合うが、それも一瞬だ。
『1番人気、7番ロータードラッヘは落ち着いている。そして今、……スタートしました!』
ガコン、という音が聞こえると共にスタートを切る。
飛び出してみれば周りと比べれば気持ち遅い程度、だが私には関係ない。むしろこれでいい。
周囲からのプレッシャーが気持ち少なくなる。私が出遅れたと思い込み、早々に見限ったのだろう。とんだ悪手だ。
とはいえさほど強くないとはいえ雨の中、稍重のバ場と条件が重なればそう錯覚するのも無理はないか。
『1番人気のロータードラッヘ出遅れたか!? 先ず先頭に立ったのは9番ジャラジャラ、続いて既に3バ身開けて6番ライルライルが続く!』
だが流石に私の事を良く知っている、ライルは私への注意を怠る事なく前目についている。先頭はハイペースの逃げを打っているが、二番手のライルがそれを抑えてペースを落とそうと画策しているらしい。
しかし一人だけ警戒していても、他はそうではない以上は止められるものではない。次々とライルを抜かして行ってしまうからだ。
やがてライルは本来の先行の位置から随分と離れ、差しと言ってもいい位置まで落ちてしまっている。彼女は器用だから、この程度ならば簡単に差し切ってみせるだろうが、どうなる事か。
『隊列が出来上がり、現在1番人気のロータードラッヘはシンガリだ! 落ち着いた様子だがこれは大丈夫か?』
私の勝負は最終コーナー手前からだ、黙ってみていろ。
微かに聞こえた実況にそんな悪態を内心で吐いて、しかしすぐにそれを静める。
前を行くウマ娘達に後れを取るつもりはないが、それでも僅かな油断が敗北に繋がるのが私の追い込みだ。
事実あの時も、そして彼女達との勝負も、それが原因で負けた。
でももう油断はしない、相手が目に見えて格下だろうが容赦はしない。
このまま1000mを通過し、第3コーナーに突入する。
『さあジャラジャラが第3コーナーに入る! ここまで目立った動きはないが後続も動き始めなければ追い付けないぞ! 1番人気ロータードラッヘはまだ動かないか!?』
否、これから動く。
先頭から遅れて第3コーナーに突入するのと同時に、一気に加速を開始する。
『おおっと動いた、動いた! ロータードラッヘが動いた! 第3コーナーからグンッと飛んできた!!』
遠心力がキツイ、それでも構わず加速し続ける。
『外に膨らみながら瞬く間に前へ前へと突き進む! あっという間に5番手4番手と差を詰めていく! 他のウマ娘達もこれは思わずつられたか!? 次々と速度を上げ始めて第4コーナーを突き進み最後の直線!』
先頭と、その道中に居る各ウマ娘。そして幼馴染でもあるライルの末脚。彼我の相対距離、速度差等を鑑みて位置取りを調整。最後の最後で一気に加速して、ぶち抜く。
今回の東京レース場、最終直線は約500mと長めだ。加えて第3コーナーで1000mだから、今回の私は残り1000m残した状態でのロングスパートを仕掛けたように見える訳だ。
だが生憎、今回の私はそれなり以上にスタミナとパワーを鍛えて来た身だ。スピードに関しては、そもそもそれが無いと追い込みなんてやってられないので言うに及ばず。豊富なスタミナに物を言わせ、鍛え上げたパワーで軽やかに加速。それが今回の私の勝ち筋。
非常にシンプルであるが、同時にそれ故対策が困難な作戦だ。私が見誤らない限りは、強制的に地力勝負に持ち込まれるのだから。
『さあ飛ばしに飛ばすジャラジャラ! だが東京レース場の直線には坂がある! 案の定坂に脚を取られたかジャラジャラは失速、後続が次々と追いついて行く!』
さて、今回はと言えば先頭が随分と飛ばしてくれた。ライルは必死に抑えようとしたらしいが、結果的に追い込み寄りの差しなんて位置に居る時点で御察しである。
ハイペースでも問題なく二の脚を使え、坂でもペースを落とさない様な強い逃げでもなければ私を振り切る事はできない。
理由は単純だ。
「私が追うのは、そんな事を容易くしでかす怪物なのだから!」
吼える。
それと同時、振り下ろした右足が地面を抉る。
坂だろうが何だろうが関係ない、背後からライルが怒涛の勢いで上がってくるのが気配で分かるがそれも関係ない。
既に放たれた竜の息吹きは、何人にも止める事は出来ないのだから。
——☆☆☆——
閃光が奔った。
そうとしか形容できない光景が、私の眼前に広がった。
ましてその元凶がこの目には見えている。
幻覚だと断じる事は出来る、だがあまりにも存在感という名の圧力を放つソレは到底看過できる存在ではなかった。
コーナーに沿うようにして突如現れた、城壁と思われる石積みの壁。そしてその天辺、もたれかかるようにして真っ赤な竜がそこに居た。
その竜は、ドラッヘが最終コーナーから直線へ向いた所から動き始めた。翼を雄大に、大仰に広げてその上体を起こす。そして僅かに身を逸らし、口を開いた。
そこから放たれたのは正しく閃光であった。よくよく見れば火炎と雷が混じった様な一筋の光でもあるそれは、大外から進出していたドラッヘに直撃した。
そしてそれに後押しされるかのように、あっという間に先頭に躍り出て行ってしまったのだ。その僅か後方で必死に藻掻くライルライルが、竜に対して無謀にも突撃する兵士にも思えた。
領域。俗にそう呼ばれるモノ、あるいはまた別の名で呼ばれるかもしれないソレは、ドラッヘが絶対に勝つであろうという確信と同時に————私の中に眠る何かを刺激した。
ぞわりとする感覚に身を震わせ、とっさに自らを抱きしめる様に抑え込もうとする。そうしなければ、何かが湧き出そうになる気がしたのだ。
「あっ……」
しかしそれも一瞬の事、秒にして30秒かそこらだろうか。眼下で広がる異様な光景が、ふっとなりを潜めた。
レースが終わったのだ。
『凄まじい末脚! 追いすがるライルライルを3バ身後ろに釘付けにして、堂々の1着を取ったぞロータードラッヘ!! 今後の活躍が今から楽しみです!!』
実況が、彼女の1着を明朗に告げた。
掲示板も、2着までが確定。3着以下はこちらでも見えたが、ややもつれこんだのか確定に時間が掛かっていた。が、それも間も無く確定した。
タイムは、稍重のバ場を考慮すればかなり早い方な気もする。少なくともメイクデビューにしては、という前置きは付くが。
「最後の伸びすっご、坂関係ないじゃん。良バ場だったらどうなってたんだろ……」
「そら、クラシック級か下手すりゃシニア級の平均タイムに届いてただろうよ。また随分ととんでもないのが出て来たもんだ」
ぶっちゃけリコリスも大概な気もしたが、まぁそこは言うだけ野暮だろう。そういうのはトレーナーの仕事だし、そのトレーナーが言及していないなら外野が言う事ではない。
「……レイク様も、道が違えばあんなのとやり合う事になってたんかねぇ」
「さてなぁ、あり得ない話ではないが。だが、たらればの話よりも現実の話をするべきだろう? 何か思う所があったのなら、一層フォーム改善のトレーニングに励む事だな」
「……押忍!」
こっちもこっちで、何かに火が付いたらしい。良い事なんだろうけど、舎弟が板についてきた気がするのはなんだろう。
しかしそれにしても、あの光景が見えたのはどうも私だけらしい。仮に全員に見えてたとして、誰も驚かないのは可笑しいだろう。まさかアレが日常的な物だとは思えないし。というか見た事無いし。
そうして悩んでいる内に、姉さんとたきなが戻ってきた。私達の所からも見えたが、ドラッヘが客席側に向かって行って誰かと話をしているのが見えた。たぶん姉さん達だったんだろう。事実彼女達は、何処かご満悦な様子だったし。
そしてその後、ウィニングライブまでの間は自由に過ごすと良いと一旦解散となった。全レースが終わった後に出走ウマ娘達は会場に向かうなりして、ライブの準備をするというのだからご苦労様である。
……あれ、将来的に私達も同じことするんじゃないか?
今度母さんにダンスレッスン受けたいって申し出なきゃな。なんだか別の問題が出て来たが、考えて見れば当たり前の事でもあった。
それの解決策について考えていれば、リコリスが近づいて来る。何か用だろうか?
「そういえばすっかり忘れたけど、例の転校しちゃった子の名前。言ってなかったでしょ?」
あ、完全に忘れてた。仮称領域の存在とか色々あってすっかりすっぽ抜けてたわ。
そういえば元々そんな話してたっけね。
「そうだった、私も忘れちゃってた。で、結局なんて子だったの? どうせならその子のレースも見てみたいし」
「ええ、是非見てあげて。あの子もきっと喜ぶから! その子の名前はね~」
もったいぶって、無駄にタメを作るリコリス。そういやこういう奴だったわコイツ、はよ言えや。
「デデンデッデデン! そう、彼女の名前は————マルゼンスキー! ナウでヤングな、今時最先端を進むべりベリキュートなウマ娘ちゃん!」
「……マジで?」
「マジのマジ、超可愛いから! ……っかー! だからこそあの時悲しそうな顔してたの、マジでしんどいのなんの! タイムマシン、タイムマシンは何処だ! ドラッヘの事引っ叩いて全力で走るよう説教してやる!!」
私がうっかり漏らした言葉に、しかし彼女は勘違いをしてそう捲し立てた。
しかし私は何もそんな事で驚いたわけじゃない、その子が可愛い事なんて良く知っている。それよりも、それよりもだ。
(マルゼンスキー、お前同じ学校に居たのかよ!?)
言葉に出来ない叫びを、どうにか胸の内に抑えきったのを誰か褒めてくれ。
普通に会いたかったし走りたかった。
……色んな驚愕の感情と共に、そんな思いがこみ上げてくる辺り。なんだか私も、すっかりウマ娘になってしまったなと思えて来るなぁ。
そんな訳でマルゼンスキー参戦。アプリトレが付いた、なんて事だもう助からないぞ()
なんならライバル枠が生えたのも相まって、アドマイヤアナザー時空と比べて滅茶苦茶戦績が変動するウマ娘筆頭かも知れない。大丈夫? 煎餅さんこの話まとめきれる??? まとめきれるように祈ってくれ……ダメだったらせめてそれっぽく頑張る……