アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話 作:煎餅さん
あと前回ちょっと駆け足だったのと、前回後書きでもそれらしいの書いてましたが実はリコリスフレーバーとロータードラッヘって適度に顔出す先輩枠でここまでガッツリ移す予定無かったんですよね。気付いたら書いてて……その関係もあって今その辺も処理しつつ進めてます。余計に時間が掛かりますね、何やってんでしょうねこのバカ
かつてのクラスメイトが走る。
そう知った私は、つい先日契約したばかりのトレーナーを連れて東京レース場へと赴いた。
前日には宝塚記念を現地に見に行くという案も出たが、昨日の出走者に見覚えのある名前を見つけてそれを保留にした。そして日曜日の出走表を見て、それを断りこのメイクデビューを見に来たのだ。
「7番のロータードラッヘさん、凄く落ち着いてる……。6番の子も大概だけど、こっちは纏ってる空気の……切れ味? それが段違いだね」
流石は私のトレーナーだ、パドックを見ただけでそこまで見抜くとは。もちろん彼女なりの判断基準あってこその物だろうけれど、それでも見立てとその表現は極めて的確に思える。
追い込み脚質は切れ味勝負が常とはいうが、もはや存在そのものが鋭利な刃物の様になっているのだ。そんな彼女の末脚には今から期待しかない。
湧き上がる高揚感をどうにか宥めながら、彼女の言葉に応える。
「あら、トレーナーちゃんもそう思う? ライルちゃんも凄く強い子な筈なんだけど、それすら歯牙にかけさせない強さをもう身に付けてる……本当に惜しい事しちゃったなぁ」
6番のライルライル。先行脚質のウマ娘で、長く使える脚が特徴的だった。小学校で彼女の走りを見た時には既にその走法は確立しており、学校の中ではトップクラスの実力を誇っていた。
何故か学校に立派なコースが出来てからは、何度か近くでその走りを見た。そしてその度に自分の頭の中でシミュレートしては、中々いい勝負を出来たと思う。
……最後に一度くらいは、誘いに応じても良かったのかもしれない。そう思える程度には。
「小学校の時の知り合いだっけ、6番の子もだったんだね」
「ええ、普段は穏やかなんだけどね。一度本気で怒ると鬼神みたいになっちゃうの。その時の走りも凄くて、だけど滅多な事で怒らないから、怒ってる時の彼女と走るのは至難の業だと思うわ」
その走りをレース中に出来る術を見つけた時、彼女もまた一つ上の走りが出来るようになるのだろう。けれど条件が条件だ、きっと難しい。
「でも、私も実際に見た訳じゃないの。お友だちのそんな一面を見る事なく、すぐ転校しちゃったから」
だからこそ、そんな彼女の本気とも言い換える事が出来るであろう走りを見れなかったのが悔やまれる。惜しい、とはそれも含んでいるのだ。
「そっか、話は色々聞いてたけど……当時の子達を前にそう言われると重みが違うね。貴女はその辺どう? 機会があれば、一緒に走りたいと思う?」
「モチのロンよ! あの子達と本気で走る機会に恵まれなくて……ううん、あの時の私は不貞腐れて塞ぎ込んじゃってたから、差し伸べられた手も素直に取れなくて。だからこそ、同じ時期に走れるかもって思うと凄く嬉しいわ! ……是非走らせて頂戴?」
きっと、今の私は酷い貌をしていると思う。かつて幾度となく、心底愉しくて笑って振り返っては、一緒に走っていた子に怯え逃げられた時と同じ表情筋の動きを感じる。
けれど目の前の彼女は逃げず、それ処か同じように笑って言うのだ。
「うん、その為にも先ずは走行姿勢の矯正からね? 今の調子だと……早くても9月、万全を期すなら10月からのデビューになりそう。……無事デビュー出来たら、そこからはいっぱい愉しもうね。貴女が気持ち良さそうに走ってる姿、大好きだから」
「……ええ、ええ! 私頑張っちゃうから、絶対に見逃しちゃダメよ? 少しのよそ見もしちゃダメなんだから!!」
いっそ、狂気すら孕んでいる様にも見える彼女の笑顔。それを見て、心底嬉しく思えてしまう自分も自分なのだろう。
そっと彼女の脚に尻尾を絡ませて、それを察して身を寄せてくれる彼女の肩を掴む。傍から見ればそういう関係にも見えてしまいそうだけれど、それならそれで良いかも知れない。頭一つ分は小さい彼女を、私が独占している様に見えるならばなお良い。実際にはお互い制服にスーツ姿だから、関係を察する事は容易なのだけど。
それでも彼女は私のモノだと、大声で宣言したい気持ちをどうにか抑えこむ。
……さて、脱線したが本題に戻ろう。
「ロータードラッヘは、凄い子よ。実際に走った時にはタイミングが悪くて本気で競い合えなかったけれど……それ以降に見たあの子の本気の走りは、何度も想像の中の私にギリギリまで迫ってきた。ライルちゃんも良い線行ってたけど、ドラちゃんは本当に並びかけてくれてた」
「でも、貴女が勝つ。そうでしょう?」
「……残念だけど、自信持っては言えないかなぁ。今日のあの子見ちゃったら、余計に」
そう答えれば、彼女は不思議そうな顔をした。けれどすぐに喜色満面といった様子を見せ、続けて言葉を紡ぐ。
「なら、それを全部現実でやろう。想像の中でのレースを現実のものにして、そしてそこで貴女が勝つの! きっと素敵な事だと思わない?」
子供の様に、無邪気な笑顔でそう宣う。するりと私の尻尾を抜けて、けれど既にその心は私の手中。名残惜しさなんて微塵も感じず、それは彼女も同様らしい。
私の色で染まり濁った瞳が、私を射抜く。公式レースにおける、両親を除いた私の一番最初のファンの期待が私に重圧をかける。
たった一人から投げ渡されたとは思えない、重厚で密度の高い期待だ。
ああ、どう答えよう。どう応えれば、彼女はもっと喜んでくれるだろう。どうすれば貴女は愉しんでくれるだろう。
その言葉に答えようとして、けれどその彼女の意識が私から逸れた。同時に、思考が途切れる。
理由はと見れば、なるほど確かに逸らさざるを得ない。というより、私達が今日ここに来た一番の理由だ。むしろ私達がそれから意識を逸らしていたから、意識を戻したと表すのが適切かもしれない。
であれば、後は見守るだけだ。その後、改めて彼女の言葉に答えよう。
だから、今だけはあの子の走りを見よう。目の前で私から意識を背けた彼女と共に、私に追い縋らんとする少女の走りを。
そして私は、見せつけられた。
いつの日か私を撃ち落とさんとする、紅き竜が放つ雷を。
ああ、本当に。彼女と走るその瞬間が、本当に楽しみで仕方がない。
────☆☆☆────
所変わって、喫茶リコリコ。ついでに時間も少し経って、敬愛する先輩達のデビュー戦から数日経った日の放課後。
昨日はリコリスフレーバーとロータードラッヘの祝勝会を行い、大いに盛り上がった。
しかし今は揺り戻しの様に人は居らず、店内にはマスターと宿題と格闘するたきな。そして私と、先のデビュー戦で2着という結果となってしまったライルライルの四人だけだった。
学校のコースで霧峰指導の下でコーナリング練習をしている時に、校内放送で呼び出しを受けた時は吃驚した。まして客が待ってる、なんて呼ばれ方では余計に。ドキドキしながら応接室に向かう羽目になった。
まぁ行ってみれば、ライルライルだったわけだが。
普通にOGとかお友達でも良かったじゃん?
「ザーガさん、貴女から見てどうでしたか? あの日のレースは」
「……そうですねぇ、展開が、あまり良くなかったかなぁと」
さて、現状に戻ろう。彼女に呼び出されたのは私だけで、姉さんと、あと見学で一緒に居たナナセ達とも別行動。最初は他の面々も呼ぼうかと思ったが、大事な話があるのだと言われてしまえば断る事も出来なかった。
そしていざ対面して、重々しく、しかし私の目を見て明朗に問う彼女に気圧される。店に来てコーヒーを注文した後、長い沈黙を経てようやく聞いてくるのがそれかと思わなくもない。
手心が欲しいとも思うが、ある意味ではそれほど追い詰められているとも取れる。
それに、それが大事な事であるという事も流石の私だって理解出来た。様々な視点から、様々な意見を聞くというのは悪い事じゃない。
もちろん単純な能力不足である等、残酷としか言いようのない指摘だってあり得る。諸刃の剣ではあるが、彼女の知り合いに限ってそんな事を言う奴は居るまい。
そもそも、それは彼女自身が一番よく理解して居る事でもあるのだから。
「正直、迷ってるんです。あの時の私の判断は正しかったのか……と」
「それは、悩みますね。でも結果論で言えば正しかったんだと思いますよ、その判断が先輩をあの位置まで連れて行ったんですから」
「……その発言は、どうやっても私では追い付かなかったとも捉えれますが」
「それについては謝ります。でもそれは、一緒に走った先輩が一番分かってると思います」
正直、あのレースでのライルライルの勝ち筋はほぼ皆無だった。
昨日の祝勝会での様子と、その際に聞いた証言から間違いなく状態は絶好調だった。
その上で仮称領域、要は固有スキルを使って来たというだけで先ず一点。
そしてこれは私がマルゼンスキーの能力を知っているという、前世知識を含めての推測。
あの時のロータードラッヘは、仮想敵としてマルゼンスキーを想定して走っていた筈だ。もちろん彼女の記憶の中にあるマルゼンスキーの、その予測成長曲線から割り出したイメージではあるのだろう。
それを意識した上で、そもそも周囲の相手の殆どが既に脅威として成立しない程の実力と自信があったことで更に一点。
最後に追い込みという脚質が、あの時のレース展開に見事に噛み合ってしまっていた事が一点。
「あの日は全体的にハイペースでした。他のメンバーが、それこそ逃げの子が先輩達に匹敵する素養の持ち主であれば落ちずにそのまま残った可能性もあります。もっといい勝負になるか、それこそあの中で己を過信したドラッヘ先輩と、それをマークし過ぎたライル先輩だけが自滅した可能性も十分にあり得ました。……まぁ、そうはならなかったから、ああなってしまったのですけども」
「……ええ、その通り。彼女の末脚がバカみたいに凄いのは、トレセンに入る前から分かっていました。当時の私も……無意識でしょうがリコリスも、前の方で巧く壁を作ったり、ペースを落としたりと画策して勝負をしていましたからね」
小学校での走りを間近で見てきたからこそ分かるが、本来ロータードラッヘはマルゼンスキーの様に敬遠される側のウマ娘だ。シンプルに強すぎて、普通にやったんじゃ千切られて終わるからね。
しかし幸いなことに、リコリスフレーバーやライルライルといった前で強く戦える者が居た。それも一人はムードメーカー気質ときた。
彼女が強いことは、すぐに分かった筈だ。だからライルライルはリコリスフレーバーやボンドボム、先に卒業してしまったがオブスキュリテといった先行脚質のウマ娘と共に、ロータードラッヘの進攻方向を潰す走りを徹底していた。
今になって思えば、初めて競ったあの日に彼女と姉さんが大外を回ってきた理由は、それが原因だったのだろう。
進攻方向が最後の方で潰される、そう分かっていたからロス覚悟で大外ブン回しにかかったのだ。
「大要因として、あのレースの出走者は小学校の頃のロータードラッヘを知らない。そこが致命的だったと思いますね、やっぱり」
「ええ。それに加えて、彼女はわざとワンテンポ遅れてスタートしていました。大事な一戦ですし、確実に最後尾を取って自分のペースを乱さない為だったのでしょうけれど……それをただの出遅れと断じた。そのまますっかり居ないものとして数え、ノーマークのままレースが進みましたから」
うん、改めて考えれば考える程、確かに話にならないと思う。
今回の件は言うなれば、アプリでデビュー前に強めのスピパワ因子継承して、練習上振れしてステータスがバカ程高くなったウマ娘とモブウマ娘の関係に他ならない。
その上で当のモブウマ娘枠の面々がレース展開の選択すら間違ったのだから、目も当てられない。幾ら1番人気の出遅れがあったとはいえ、他にも後方脚質が居たのにハイペースを選択したのはいただけない。事実、逃げを打ったジャラジャラは最後に順位が下がってた筈だ。
対してライルライルは練習こそ上振れてはいたが継承因子がやや甘めか、やる気事故でも起こしたとでもいった処か。後は固有スキルの有無だろうか、あっても星は二つまでみたいな所かも知れない。
こうしてアプリ育成で例えると、あんまり気分は良くないな。実際に自分も身を粉にして鍛えているからなんだろうけど。
展開を理解するのに私的には便利だけどね。
それはそれとして、恐らくロータードラッヘが見ているであろうレース中の光景に、彼女は気付いているだろうか。
どっちにしても、あんまり踏み込みたくは無い。が、聞かない訳にもいかないだろう。
「……言うべきか、というか聞くべきか悩んだんですけど。ライル先輩、あの人が何を追っているかは───」
そこまで言って、瞬間に怒気を感じて止めた。というより、反射的に怯えてしまい止まったが正しい。精神年齢だけならばいい歳をしたおっさんの筈だが、ウマ娘の気迫というのはそんな物は紙切れ程の役にも立たないのだ。
もっとも止めた所で既に遅く、メラメラと炎が噴き出ている気配がする。気配だけだというのに、物理的な熱気として感じてしまう。
耳がへにゃりと前に倒れるのが自分でも分かる。尻尾も椅子に座っているから出来ないが、内腿に巻き付こうと動く気配もあった。こういうところも、すっかりウマ娘らしくなってしまったと思う要因だ。
「……分かって、います。彼女がマルゼンスキーを追っている事など、初めから!」
「あわわ……テーブル壊れちゃいますから、叩くのは無しで……。いえ、私がそうさせるような事言ったのは事実ですけども」
語気を荒げ、握った拳をテーブルに叩きつけそうなのを察して慌てて止めに入る。流石に知り合いの喫茶店だ、テーブルをぶっ壊すとか洒落にならない。
怖いのを我慢して、恐る恐る止めに入ったが、しかしその握り拳が振り下ろされることはなかった。いやまぁ下ろされてたら、私の手がペチャンコになるんだけどさ。
とはいえ実際問題、必死に追いすがっていた相手が自分ではなく、遥か先を走る仮想敵を見ていたとか筆舌に尽くしがたい侮辱に他ならない。それに対してライルライルがキレ散らかさないのは、あくまで事情を知っているからだ。知らなかったら、レースが終わった直後のあの場で食って掛かっていても不思議じゃない。
逆に言えば理由が分かっているから耐えられているだけだ。当たり散らさないだけで、内情は煮えくり返って怒髪天ちょっと前ぐらいだろう。
うん、判断を誤った。そう言わざるを得ない。まだ塞がり始めたばかりの瘡蓋を剥がすに等しい行為だった、反省せねば。
まぁどのみち何処かで聞かなきゃだったんだろうけど、少なくとも今じゃなかった気もする。
「……解ってますよ、大丈夫です。八つ当たりはしません」
ジロリ、と音がしそうな動きでじっとりとした視線を投げつけながら、ライルライルは溜息を吐いてからそう零した。
なまじウマ娘のパワーを自分でも実感していると、まだ半端に前世の身の振り方が抜けていない身としてはつい過敏に警戒してしまうのだ。
それこそウマ娘の中には、寸止めでも壊しかねない子も居そうで怖いのもある。カワカミプリンセスとか。
「しかし、貴女も同じ結論ですか。そうなると、やはり小細工無しで迫れる様に地力を上げるしか無いですね……」
「私もそう思いますけど、負担が凄くなりそうですね」
まあ現実的に考えるならそれしかないだろう。だが同時に、負担も跳ね上がる筈だ。
強度の高いトレーニングには、それ相応のリスクが付きまとうのである。
「ええ、私のトレーナーさんも同じ見解です。ですが本気で彼女を打倒するつもりなら、今夏から夏合宿での強化トレーニングを視野にいれなければいけないそうで……」
そしてそれも折り込み済みで、彼女のトレーナーはジュニア級での夏合宿を視野に入れているらしい。
ゲームだったら色々ぶっ壊れかもしれないが、ここは現実だしチーム所属なら色々出来たりするのだろう。
「……あれ、でも今夏からって言い方だと、一般的ではないんですよね?」
しかしすぐに思い止まる。言い方からして、あまり好ましくない様に感じたからだ。
「そりゃ、そうですよ。色々理由はありますが、一番はコストとリスクが割に合わない事でしょうか。デビュー前の全体合宿練習とクラシック級以降の強化合宿は、学園主導で支援もされますし費用も負担されますが……デビュー時期や未勝利戦の関係で参加が難しい子と差が出てしまいがちなジュニア級は、全て自己負担になってしまうんですよね」
要は、基本的にジュニア級ウマ娘は合宿が出来ないという事らしい。主に金銭的な理由でだ。
理由もある主の公平性のためにであり、実家が太ければとも思ったがそれも体裁のために控える動きが強いのだとか。
当然といえば当然だが、ままならないものだと思う。ライルライルの実家もそれなりに太い、確かフランスでワイン酒造をしてるとか聞いたこともある。去年その事を祖母に話した時に愛用している事を聞いたし、そう考えるとかなり大成している所だろうに。
後はそれに加えて、やはり故障のリスクも付きまとうのも難点だろうか。いくら大幅にパワーアップできても、怪我をしては元も子もない。身体が出来上がりきっていないジュニア級では余計に。
結果的にジュニア級での合宿とは、コストも莫大でリスクも大きい、そんな採算が合い難い力押しのトレーニングという見識が一般的。ましてデビュー前後で力んでしまいがちなウマ娘には、文字通り毒にしかならないイベントだ。
こう並べると確かに、やらずに済むならやらない方が好いだろう。そういう理屈で強豪チームだったとしても、ジュニア級のウマ娘は合宿所に連れて行かない場合もあるのだとか。
「でも、勝ちたいからしたい?」
だけど、彼女はそうではない。やらずに済むなら、の領域に居ない。
「もちろんです。そこまでしてようやく対等なのであれば、しなければ今後彼女を避けなければ勝利は得られないという事になる。そんなレース人生など、まっぴらごめんです」
やらなければ、彼女の競争人生は実質的な終わりを迎える。どう頑張っても勝てないのなら、戦う意味は無い。
それは即ち、競走から身を引く事に他ならないからだ。
まして他のウマ娘達と違い、ロータードラッヘとはかつてしのぎを削ってきた仲だ。そんな相手から逃げるような真似、彼女が出来る筈が無かった。
マルゼンスキーの一件で苦悩するロータードラッヘを見て来た分、余計に出来ないだろう。
「だからザーガさん、お願いがあります。貴女の夏合宿に同行させてください。あくまで友人として宿泊し、その合間に現役ウマ娘として現地で場所を借りてトレーニングを行う……今の私にはそれしか無いのです」
うん、やっぱりそうなるか。少なくとも姉さんであれば、二つ返事でOKを出していただろう。あの子は友人想いだし、それを抜きにしても一緒に行く友達は多い方が好いの精神が強かったりする。
むしろだからこそ、私だけを指名して呼んだのかもしれない。何が目的で同行したいのかを聞き届け、ただただストイックな理由で友人の伝手を借りようとするその行為を受け止められるか。その判断が下せそうなのが、どちらかというと私の方だったという事だろう。
……一応姉さんも、その辺の分別は付くんだけどね? ちょっと普段、私が率先してはしゃがない分はしゃいでくれてるだけで。
結果として周囲からは妹の方が落ち着きがあって大人びている、なんて認識があるのが最近発覚したのはいい思い出だ。ははは。
つらい。
「とりあえず祖母には話を通しておきます。ただ最終的な判断は分かりませんし、一応祖母の立場もありますから難しい可能性は十分にありますから」
「いえ、無理な相談なのは私としても理解して居ますので。……すみません、よろしくお願いします」
頭を下げる彼女に、頷いて答える。
ぶっちゃけそろそろ向かわなければいけない時期だし、今更また増えると言って通るか怪しい所だ。シンプルに迷惑かもしれないし、まぁ言うだけ言っておこう。
しかしなんというか、マルゼンスキーの存在に迫りそうなのが二人もいる事になるのかこの世界。
……どうなっちゃうんだ、これ。
マルゼントレ♀:楽しそうに走る子だなぁ。綺麗だなぁ、あの子が私の視界内でずっと笑ってくれてたら人生最高だろうなぁ