アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話 作:煎餅さん
今回はこころばかりの実用性として、タオルをふわふわにする方法が知れます
ランドリーの乾燥機だけ使いに行くのもまた一つの手段
食事を終えた私達が姉さんの案内で訪れたのは、生活雑貨店と言うべき店だった。
具体的には寝具やタオル、大きくない家具から始まり洗剤の類まで。それら各種が揃ったお店。
そしてここまで揃えば、前世の記憶のある私はある物が思い当たった。
そういえばこっちの世界で、最初に姉さんが明確に発した言葉でもあった。それなのに今の今までその片鱗も無かったのは、私というイレギュラーがあったからなのか。はたまた元からそんな感じだったのか、今となっては分からない。
兎に角今は、ついに彼女が《それ》と邂逅するのだという事実だけがそこにあった。
「……うーん、御邸のタオルとはやっぱり全然違う。ふわふわではあるんだけど、ちょっとゴワゴワした感じもする」
「まあ流石に良い物を揃えているでしょうから、それと庶民でも手に入る品を比べるのは酷ですよ。普段使いする分には十分ふわふわですよ?」
さて、お店に入り浸って早十数分。姉さんは見本コーナーに置かれたタオルに手を触れて、その感触を確かめては顔を顰める。その様子はさながらソムリエであり、前世でも目にした『ふわふわソムリエ』という言葉が頭を過ぎる。
まあ流石にこんな所であの御邸で置いてるレベルのふわふわには会えまいて。ライル先輩に同調して、大人しく帰って仕入先を聞くなりしようと持ち掛けようとして。
「てか、見本に並べてる以上は色んな奴が触ってこうなるだろ。キチンと処理すりゃその辺のご家庭でもあの御邸ぐらいふわふわになるぞ?」
そして、レイクの言葉にその場の全員が絶句した。ただし私とライル先輩とは、姉さんが絶句した理由は違うらしいけども。
「……え、それはいったいどういう意味で?」
「言ったまんまの意味だぞザーガよぉ。お前ら家じゃ家事の手伝いしてんだろ、覚えとけば役に立つぞ?」
「是非聞きたいわ、教えてレイクさん」
私の言葉にレイクはそう答え、その瞬間食い気味に姉さんが詰め寄った。
あっという間の出来事だ。流石のレイクもちょっと引いているが、姉さんはそんな事気にしてなどいない。
というか個人的に、何ならライル先輩もたぶん思っているらしい事をツッコミたい。
お前そのなりで家事出来たんか。見かけで判断しちゃいけないとはよく言うけど、不良のリーダーやってるから普通に意外だった。
とはいえ私も少し気になるので、ここは大人しく聞いておく。今後の生活にも役立ちそうだし。
「そもそもタオルがふわふわな状態ってのは、タオルをよく見れば分かるが……輪っか状の糸がたくさん並んでるだろ? パイルっていうんだが、それが空気を含んで確り立っている状態をいうんだよ」
「ふむふむ……」
見本のタオルがあるから凄く分かりやすい。何ならナナセも凄い夢中になってるし、姉さんに至ってはどこから出したのか分からないメモ帳とペンで凄い勢いで書き留めている。
こんなに真剣に聞いてるの、レースの事以外じゃ初めて見た。内容が内容じゃなきゃキュンとしたんだろうけどなぁ、ふわふわの話題だからなぁ。
「で、ゴワゴワな状態はもう言うまでも無いな? じゃあどうやってパイルを立たせるかだが、簡単だ。干す前にパンパンって振り下ろす動作、よく見るだろ? アレをやればいい」
コイツ、思いの外かなり有用なテクニックがスラスラと出て来るな。
姉さんもナナセも、食い入るように聞いて周りが見えていない。
「あれって儀式的な物じゃなかったんだ……」
「ライル先輩???」
待って先輩、そんな事ボソッと言わないでください。てか何の儀式ですか。
「それをそのまま干しても十分ふわふわになるんだけどな、もうひと手間かけるともっとふわふわになる。干して薄っすら湿った半乾きぐらいになったら、それを乾燥機にかけるんだ。そうすっとイイ感じにパイルが空気を含んで、結果よりふわふわになる。だいぶ手間だけどな~」
へー、マジかよ。今度家でもやってみよう。
その後も色々と話は続き、やれ乾かし過ぎも良くないとか。脱水直後に乾燥機にかけるとそれはそれで生地が傷むとか。
ほかにも洗い方の時点で結構変わるとか、うんちくが続いた。
ツッコミどころは色々あったが、まあ普通に役に立ちそうな情報だった。
姉さんも満足そうにメモ帳をしまっているし、ナナセと一緒にお家に帰ったら早速試そうねと笑いあってる。
そんな尊い光景を見られたから、良しとしよう。
「……レイクって、家事が出来たんですね」
「喧嘩売ってんのか??? こちとら男所帯だぞ、やんちゃ盛りのガキ共やクソ生意気な兄貴共が家事する訳ねえから仕方なくやる羽目になったんだよ」
ライル先輩は怖いもの知らずだなぁ。
あとレイクは結構苦労してるんだなぁと分かった。今度団子でも奢ってやろう。
ちなみに手っ取り早くふわふわにしたいなら、コインランドリーの大型ガス乾燥機を使うのが良いらしい。
ガス式ならではの高温と、大型である為に内部のゆとりがある状態で温風が満遍なく当たるからすぐ乾くしパイルも立ってふわふわになるんだとか。
ちなみに何故詳しいのか聞いたら、諸事情でタオル洗うのにランドリー使ったら我が儘な兄弟達が駄々捏ねたんだと。
お辛い……。
そういえば御邸の乾燥機、バカでかい上にガス栓ついてたっけ。そういう事かぁ。
────☆☆☆────
御邸に帰って来て一息ついた後、私達は各々の抱える宿題やら課題を皆で囲んで進めた。何故か中等部のライル先輩が高等部のレイクの課題を手伝うという珍妙な事態が発生したが、一応いい所のお嬢様ではあるし勉強はそれなりに進んでいるのだろう。たぶん。
私も一応前世の知識があるから口を挟もうと思えば出来たが、しかし私の場合はそれを成立させられる言い訳が無かったので止めた。下手に墓穴を掘る必要も無い。
ナナセが積極的に学ぼうとするから、みんなしてアレコレ教えていたら自分たちのが疎かになったのは内緒だ。
そんなこんなで今日のノルマを終え、食事も済ませた頃。
姉さんの『ふわふわソムリエ』への覚醒は、実はまだ続いていた。
「前々から思っていたのよ。ここでの生活の後、実家に帰ってからずっと何かが物足りなかったの。でもそれが何かその時は良く分からなくて、だけどそれを解明するには去年は自分たちのトレーニングを互いに見て安全を確保するので手一杯過ぎたわ。今回、それを理解するだけの十分な時間が得られた……みんなには本当に感謝してる」
「そんな真面目な顔で真面目そうな事言われても、結局の所その物足りない何かがタオルや布団のふわふわだったってオチ知ってると反応に困るぞ?」
「そう、ですね。私としても、どうお答えすればいいか……」
「笑えば良いと思うよ」
とまぁ、こんな具合で状況は愉快な事になっていた。ずっとうわ言の様に『私に足りなかったのはふわふわ……』とか言ってたからもうみんな知ってる事を、たった今改めて本人の口から大真面目に感謝の意を表されてしまった。
面白お姉ちゃんアヤベさんが爆誕した瞬間である。これは祝うべきか、判断に悩む。実際、私含む各々がその感謝の言葉にどう反応を返せばいいのか分からず困惑したままだ。なんなら私に至っては若干の思考放棄をしているまである。
「今までの人生にふわふわという彩が増えて、今後はより一層心豊かに過ごせるのよ? それに対して感謝するのは当然じゃない。……それはそれとして、実はみんなに聞きたい事があるのよ」
「本人がそれでいいなら良いんだけどよ、表現が大袈裟に聞こえるせいでやっぱ反応に困るんだよな。んで、何が聞きたいんだ?」
心底不思議そうに首をかしげる姉さんは可愛いが、言ってる事が若干宗教染みててちょっと怖かったです。第三者として面白がるだけの立場だった前世と違って、こういうガチなのを目の前でやられると意外とクる物がある。
現実って奴はやっぱ恐ろしい。
それはさておき。割と普段から好き勝手言う不良メンバーや、家族の彼女曰く『ガキ共』の相手をしているからか、たまに話の進行役をしてくれるレイクが続きを促す。
進行役って大事だなって思う。ツッコミとボケの応酬に陥ると話が進まなくなるし。
あれ、よく考えたらレイクって走りと素行以外の面ではマトモなのでは?
「私が聞きたい事、それは————みんなの思う身近な『ふわふわ』よ!」
「つっこみたい点は山ほどありますけど、身近なふわふわですか……タオルや布団は鉄板ですよね?」
「はい、なので基本的にそれ以外ですね。例えば……服とか?」
「あー、確かに肌触りが良いとふわふわに感じるよね。良い感じの素材で出来たセーターとか?」
突如として『身近なふわふわを探せ』のコーナーが始まった。ライル先輩がツッコミを放棄しつつ、確認するように問えば姉さんは真面目に応じる。
ならば次はこれだろうと、私は妹として一つぐらいは挙げねばと服を提示した。
前世で実装されてた彼女の私服はセーター風だったし、間違いはないだろう。肝心な選定基準は知らないというか、親愛度による私服解放はされ始めてたけどアヤベさんまだだったというか。
まぁ前世の話はここまでだ。最後の行動に後悔は無いが、結果的に後悔している事は山ほどある。思い出して自滅する前にここで止めておくのが良いだろう。
「ザーガ、それ採用。次の休みの日には服屋を覗きに行きましょう」
「まだ夏だよ……?」
「通気性が良ければ問題ないわ。えっと、他には……」
マジかよって顔をレイクも視界の端でしているが、私も内心そんな感じだ。
アヤベ、何がお前をそこまで掻き立てるんだ。
というか、まだ続くのか。
「んー、あとはスリッパとかでしょうか? 冬になればマフラーや靴下なんかも良いかもしれませんね」
「確かに、それなら手袋も……ありがとうございます、ライル先輩!」
さんざん頭を悩ませ、ようやくライル先輩が絞り出して姉さんは満足げに感謝の言葉を述べた。
ようやっと終わり、そう思った時。
「そういや、でっけぇおっぱいはふわふわするらしいな」
爆弾が投下された。
「……なるほど、母さんやコーチに少し頼んで触らせて貰おうかしら」
「やめよう? 母さんは兎も角、コーチはやめよう? 確かに大きいのをお持ちだけどさ、たぶんそのまま抱き上げる要領で締め上げられるよ???」
そしてその爆弾に向かって行って、よりにもよってその中でも特に危険域に突っ込もうとする我が姉に精一杯の言葉を掛ける。
母さんなら後ろからこそっと事情説明しておけば、一緒にお風呂入ってそれで済ませられるから良い。自分の好きなものに一直線となってしまった今、同性な事も相まって母さんと一緒な事に気恥ずかしさを覚えるなんて事はしないだろう。
私か父さんがやんちゃなナツヒコのお風呂を担当する羽目になるというだけで。
……三歳にして胸の大きさで分かりやすく態度を変えるナツを母さん以外が風呂に入れるのは、嵐を相手にする様な物なのだ。
一方で霧峰コーチは、正直どうなるか分からない。しかしバッドコミュニケーションだったならば、今しがた姉さんに言ったように抱き上げられて、そのまま締め上げられて終わりだろう。クルミの殻を指先でつまんで破砕する奴が腕全体で破壊活動なんてしたら、悲惨な光景が待ち受けてるに決まってるだろう。
あれ、抱きしめるのって背筋使うんだっけ? なら確実に背骨が逝きそうなぐらいエグイのをお持ちだから、マジで止めて欲しい。こんなギャグみたいな事で、私の方を本家アヤベさんみたいな立場にしないで欲しい。
「ザーガの言う通りだぞアヤベ、姐さんにそんな事言って怒らせた日には……ウマ妖怪テケテケが生まれちまうぞ……。まぁ冗談はさておき、レイク様が言った手前アレだがマジでやめろよ? 流石に失礼過ぎるのはマズイ」
「う、確かに。……お母さんも流石に迷惑かな」
「説明すれば多少は困惑するだろうけど、受け入れてくれると思うよ?」
とりあえず冷静になったらしい姉さんが、今度は落ち着きすぎて逆に色々変なこと口走ってたのを自覚したのか一変しおろおろし始めた。可愛いなこの生き物。
まぁ流石に放置するわけにも行かないから、そう声をかけて宥める。レイクもまさかこうも食い付くとは思ってなかったらしく、気まずげにしてたので文句は後にする。悪気もなさそうだし。
そもそも、事の発端は姉さんだしね。
「さて。なんか変な空気になっちゃったし、今日はこれでお開きにしようか」
「だな、レイク様達も部屋に戻るとするさ。……しっかし部屋の構造がトレセンの寮と同じって、孫可愛がりもかなりだよな。ライルに聞いてゾッとしたぜ」
「私も最初はビックリしましたよ。まあ学園に居る気持ちになって気が引き締まるので、悪いことではありませんが……本気で学園に入学させる気が感じられますね」
あ、やっぱそうなんだ。
私の場合はゲームやアニメの描写でしか知らないからちゃんとした比較はできなかったが、現役トレセン生の先輩が言うなら間違いないのだろう。
しかし母親がG1ウマ娘な事もあってか、やはり期待というのは大きいらしい。私達が生来持つハンデも理屈こそ通ってはいるが、その絶対数が少ないから希望を捨てきれないでいたのだろう。
だから私財を投じてまで、幼いうちから私達を走らせようとしたのだろう。
少し思う所が無いわけではないけれど、それでもそのお陰で今の交流がある。そう思えば、ありがたさも覚えるというものだ。
それにあくまで慈善事業の名目もあったし、最悪私達が走る道を完全に絶っても何も言わなかったのだろう。
……邸の部屋が寮と同じ構造というのも、走ることに興味を持ってトレセン生と交流を持たねば気付かなかったわけだし。普通は。
うん、こんど改めて祖母には礼を言おう。もちろん表向きの名目があるから、それを汲んで学校や利用者を代表してという体で。
それぐらいの孝行はしておいて良いだろう。
「あ、そうだ」
なんて事を考えていたら、適当に挨拶を交わして部屋を出ていこうとしていたライル先輩が扉の向こうから器用に上半身を仰け反らせ、顔をこちらに覗かせて思い出したように言い始めた。
「胸って、揉んだりマッサージをすると大きくなりやすいって聞いたことがあります。好きなヒトにされるとホルモン分泌がどうこうで効果が高いとも。先程の話、まだ先の未来に持ち越せば自分の物で試す分には良いかもと思いまして」
……あー、なるほど。確かにアヤベさんって結構立派なものをお持ちだったもんね。でも正直自分のを揉んでも虚しいだけじゃないかな。
でもその情報、別に要らなかったのでは?
少なくともライル先輩なら自分のを揉んでも虚しいのなんて、少し考えれば解るだろうに。
「では、改めてお休みなさい。また明日からのトレーニング、頑張りましょうね!」
言うだけ言って、そして行ってしまった。
なんだったんだろう。そう先輩らしくない唐突さに首をかしげていれば、姉さんが低い声で声をかけてきた。
「……ザーガ、私の事……好き?」
「え、どうしたの急に。いや好きだけど、それがどうかしたの?」
そりゃライクかラブかで言えばラブだと即答できるくらいには、姉さんの事は好きだが。
……ここまで考えて、ようやくライル先輩の真意が見えた。
あの先輩、事もあろうに妹に犠牲になれと申したか!?
「そっか、安心した。ザーガ、今日は私もそっちのベッドで寝ていい?」
「まって、姉さん。何をする気なの?」
正直予想は概ね付いているが、私の勘違いだった時が恥ずかしすぎる。頼む勘違いであってくれ、姉さん後生だからやめて。
前世的にはセンシティブに抵触しちゃうから! ……あれ、見様によっては姉妹のじゃれ付きにも見えるから健全?
というか結局のところ、今この場においてはこれが現実だ。創作ならばこの辺で話が途切れて、次のページか何かで『昨夜はお楽しみでしたね♡』ってなる展開じゃん。うっせぇやかましい!!
前世で創作を愉しんでた身としてはこれがセーフかアウトか、中々悩む所だ。たぶんアウト寄りのセーフ。絵面的に色々アウトな気もするけど、私がひたすら虚無顔をしていればギャグに落ち着くかも知れない。
うん、その路線で行こう。ソフトえっちギャグ。その路線で、どうにか。
「大丈夫、優しくするから。調べながらするから」
……やっぱ怖いから、巧い事ペアレンタルコントロール先輩が仕事をしてくれますように。
手をわきわきとさせながらにじり寄る我が姉を前に、そんなか細い祈りをする事しか私にはできなかった。
ふわふわ。それは希望の光
今回
・ふわふわ説明会。手軽にやるならランドリー
・否、実は終わっていない
・(現)姉妹A、レイクB、ライルC、姉妹母E、コーチF
・健全
次回
・夜更かし気味
・やっぱつれぇわ
・飛ばされるお盆イベント
・合宿最終週
・ちょっと真面目にシリアスするかも
アナザーベガのひみつ:実は、アヤベさんに求められるとどんなに嫌でも拒まず耐える