アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話   作:煎餅さん

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 RTTTヤバかった。妹ちゃん……!

 公式で妹ちゃん出て来た訳なんですが、ここのアヤベさんは曇って思いつめる要素が今の所無いので常時アニメの妹ちゃんと同じく明るい笑顔浮かべて声色もそっち寄りです。公式で出して頂けるとイメージが固まって想像しやすくて良いですね……
 逆にザーガは本家アヤベさんほど落ち着き払っている訳では無いですが、やや本家アヤベさん寄りの声音。テンション上がったり荒げたりする時は若干上ずりますが
 色々あべこべになってる感じですね


 まぁそんなこんなでサブタイの通り短いですが二歳と四歳の出来事、それぞれの一幕。トレセン入学してからが本編みたいな物なのにそれまでどれだけかけんねんって具合ですが、それは自分も思ってるので構成変更を選んだ過去の煎餅を割ってきます

(5/14追記)読み返してたらガッツリ一人称間違えてたので修正しました

(7/18追記)ちょろちょろっと加筆修正しました

(24/1/10追記)またぞろ加筆修正しました


二歳と四歳の時の出来事切り抜き(俺から私へ)

 先月、二歳にして姉へと昇格した。

 弟が無事に誕生したからね、当然の流れではある。

 

 それ自体は喜ばしい事だし、実際問題いざ見てみれば可愛くて仕方がない。それがこの身体だからなのか、単に俺自身が元々子ども好きだったのかは分からないが。

 

 ただ、俺が前世に居た頃はアプリで弟が居るなんて聞いた覚えが無い。そのため本当にこれが正しい流れなのか、それすら把握できていないのが悩みの種だ。

 この世界では妹の代わりに弟を亡くすとか、そういう曇らせは勘弁して欲しい。……無いよね? 無いって言ってくれ。頼むぞ神様。

 

 

 

 さて、気を取り直して現状についてだ。

 弟を生んだ結果として産休中の母を支えるため、俺達は幼稚園を休んでいる。普通の子供なら邪魔以外の何者でもないけど、そこは転生者だから問題ない。

 姉も俺が残るのならと、俺の言うことを守る事を条件に残っている。

 

 そんな事をしてて、どっちが姉なのかって? アヤベさんが姉に決まってるだろう。

 

「ザーガ、むずかしい顔してる。だいじょうぶ?」

 

 とまぁ、妹の代わりに弟が、とか。まさかな……とか、そんな風に前世を半端に知る身ゆえ余計な事を考えているとそんな声。振り向けば当の我が姉、アドマイヤベガが心配そうに覗き込んできた。

 

 いやぁ大変可愛い、この天使が本来ならこの後ポニーカップで真実を告げられて雲って覚悟ガン極りしちゃうとか怖すぎる。冷静に考えると年頃の女の子にそんな業を背負わせるのは、どうかと思う。

 人の心とか慈悲は無いんか。

 

 まぁ俺がこうして産まれ生きている時点で、この世界じゃ関係なくなったのだけど。

 

「うん、だいじょうぶ。ナナセがうちに来て少したつから、ちょっと考えごとしてたの」

 

 とりあえずそう言って、心配される様な事じゃないと頭を撫でる。

 実際現状では考えるだけ無駄としか言えない悩みだし、今は内に秘めておく。今はも何も、秘めておくしか出来ない内容ばかりだけどさ。

 

 それはそれとして「なに気安く推しに触れてるんだギルティだぞ」と、内なる過激な俺が叫ぶ。が、聞こえないふりをする。

 だってこうしないとこの子拗ねるんだもの、何故かは知らないけど。正史世界で妹が居ない反動とか?

 

 というか君、一応俺のお姉さんだよね? とか思いつつ、それはそれで意地悪かと考えて頭から追いやる。

 可愛ければええねん。

 

 ちなみに『ナナセ』とはうちの弟の事だ。漢字で書き起こすなら『七星』である。星に関連した名前縛りでもあるのかな。

 まぁ母親の名前も確か宇宙に関連した名前だった気がするから、関連付けかもしれない。

 

「ナナセ、可愛いよね。夜に泣きだしちゃうのは大変だけど、お姉ちゃんだから我慢しなきゃね」

 

「そうだね。まぁ当分は母さんたちがナナセに付きっ切りになるけど。……うん、もうちょっと我慢しなきゃね?」

 

「……うん」

 

 さて、早速だが改めて現状の事を考える時間がやってきた。

 

 俺の返答に対してやや間を置き、声のトーンもハッキリ落ちた姉を見れば、耳も垂らして不服そうな顔。

 というのも至極単純な話で、両親が現状ナナセに付きっ切りだからだ。そしてそれが年単位と分かっていれば、普通の子供ならば面白くないと感じるのは仕方がない。

 

 弟が産まれる少し前に病院で読んだ本を見た限りだと、良くも悪くもウマ娘は成長が早すぎるのだ。

 身体能力に加えて、思考能力が最初の一年間である程度成長し、明確な個としての感情を発露するに至る。そしてそれはこういう時に、少し残酷である。

 

 甘えたい盛りに、弟やウマ娘でない妹が生まれると、約数年は両親の時間がそちらに割かれてしまう。そしてそれはこの場合でいう所の姉さんには、あまり面白くない。

 それこそ自分たちと比べて圧倒的に成長速度の遅い弟や妹に対して、癇癪を起してしまうウマ娘というのはそう珍しくないらしい。

 不幸中の幸いと言うべきか、基本的にウマ娘は根が優しく滅多な事で暴力に発展はしない。が、それでも行き場のないウマ娘の怒りは単純に弟妹に恐怖感を植え付けるには十分だ。

 これらが原因で年の差が少なければ少ないほど、ウマ娘の姉が下の子に避けられてしまうケースが多いのだとか。

 

 そういう事情もあって一般的には、十分な時間と情操教育を経てから第二子といった具合に調整する物らしいのだが。

 

「大丈夫だよ、姉さんには俺が付いてるから。それに母さんたちだって、なにも俺たちの事をほっぽりだす訳じゃない。父さんと交代でちゃんと時間を作ってくれてるでしょう?」

 

 俺が、精神的に成熟している。その一点が両親にタイミングを早めさせた。

 

 弟を身籠った事が判る数ヵ月前の事だ。ある日俺が姉のご機嫌を取る様子を見て、この子が居ればどうにかなるだろうと、思われてしまったのだ。

 

 それはそれでどうかと思わなくもない。だがそもそも俺が上手に姉をあやしてしまったのが原因なので、強く言えないのがまた歯痒い。

 

「それは、そうだけど……」

 

 そして言うだけ言ってみたが、残念ながらこれで納得するはずもない。

 俺の様に中身が完全に大人であれば話は別だが、姉は当然そんな事は無いので普通の二歳児だ。ウマ娘での普通、と付くけど。ヒトの場合の二歳児はそもそも聞き訳が無いだろうし。

 

 まぁあれこれ並べたが、要は擬似的な愛情不足である。何故擬似的かと言えば、厳密には弟に両親を取られたと感じて、そこから錯覚して餓えを感じているという具合だからだ。

 だから実際には既に愛情は足りているんだけど、それが伝達不全を起こしてて足りなく感じてしまっている。両親は頑張っているが、子供にはその頑張りは伝わり難いのだ。

 

 ……いや伝わる方がおかしいんだけどさ、この場合。普通の子どもは親のそういった動きから物事を察せない。

 

「アヤベは、俺じゃ足りない?」

 

 意識を戻して現状に戻る。こればかりは両親に任せても、難題を積み重ねるだけな気がした。そこで対処療法としてのお話をしようと、そんな言葉から切り出して、

 

「そんなことない!」

 

 ……しかし思いの外、食い気味な反応を受けて言葉に詰まりかけた。なんなら手を掴んで、ギュっと握り込んでくるぐらいには勢いがあった。嬉しいような好かれ過ぎてる様な、ちょっと複雑な気分。

 とはいえここで詰まれば話にならないので、コホンと咳払いを一つして仕切り直してから言葉を紡ぐ。掴まれた手を握り返しながら、ゆっくりと。

 

「俺もアヤベだけじゃ足りないなんて事は無い。でもアヤベは、姉さんは母さんたちにも構って欲しいんだよね?」

 

「……」

 

 隣り合って座る姉さんは、俺の言葉にただ俯いて黙る。そりゃまぁ姉妹間の愛と親の愛はまた別物だ。そもそも包容力の差がある、物理的に。成長すれば俺も姉さんも割と大きくなるが、今は見事な平原なのだ。

 しかしながらこの二年間、伊達に姉妹として生きていない。偶にどっちが姉かと言われる事があるが、俺は一貫して自分こそが妹だとしている。姉を支えるために自分は居るのだと、そう誇示している。

 少なくとも俺からの姉への愛情は、それなり以上に示している心算だった。それに彼女が満足したり、応えてくれるかはまた別問題だが。

 

「俺は俺、母さんたちは母さんたち。それは分かってる。でも今のナナセは母さんたちからしか貰えなくて、俺たちじゃ何もあげられない。でも俺たちは母さんたちから貰えなくても、お互いにはあげられる。一緒に病院で本を読んだでしょ? あの時に話した事を思い出して」

 

 厳密にはやろうと思えば俺たちも弟の世話ぐらい出来るだろうが、体裁もあるし二歳児に任せる事はしないだろう。事情はどうあれ、だ。

 そうでなくとも育児という経験は大事だろうし、この後も家族が増えないとも限らない。その為の下積みとしても俺たちが手伝えるのは弟の世話ではなく、家事の方だ。

 だから俺たちは、弟には何もあげられない。弟は両親からしか貰えないのだ。

 

 そして俺たちはと言えば、今こうしているのが何よりの証拠とも言える。だから姉さんに努めて優しく、声をかけるのだ。

 

「……私たちがもっと大きくなったら、抱っこでもなんでもさせてくれる。それまでは、お母さんたちの事を助けてあげよう。ザーガは、そう言った。私も、頷いた」

 

「そう、そうだったね。もちろん姉さんが本当に辛そうなら、俺からも言って少し時間を作って貰うけど……でもそれまでは、母さんたちの前では我慢してみよう? 俺の前ではどんな姿をしたっていいから、今日みたいにさ」

 

 そう言って、再び姉の頭を撫でる。さらさらとした手触りのいい前髪を、くしゃくしゃと少し乱暴に。

 普段ならば、髪がぐしゃぐしゃになるから止めてと怒られる。けれど、今回はそうしてやった方が良いと思った。そしてそれは正解だったようで、姉さんは何も言わず満足そうに受け入れている。

 

「……うん、私がんばる。ナナセが大きくなって、私たちみたいに一緒にお話が出来るまで我慢してみる」

 

「その意気だよ、姉さん」

 

 最後に一撫でして、優しく声をかける。一先ずはこれで落ち着きを見せるだろう、当然数ヵ月も持てば良い方だろうけど。

 肝心なナナセに付きっ切りって状態が解消されるのがいつになるかと言われたら、正直個人差もあるから何とも言えない。もちろん長くとも五年もあればマシになっているだろうけど、その頃にはもう一人増えててもおかしくはない。

 

 まぁその頃には俺たちの体も大きくなっている筈で、今よりは気も楽だろうけどね。その頃には学校もある筈だし。

 

 

 

 そういえば学校で思い出したが、トレセン学園はどうしたものか。当然入るとしたら入学時のテストやそういった物をクリアしなければいけないので、俺が居る事による競争能力への影響が気になる所だ。

 それに加えて、俺自身が走るというのもなんだか変な気持ちもある。そういう側面でも、悩みどころなのだ。

 

 そして入学が中等部からで、姉と弟たちの面倒を見ていればあっという間に時間は経ってしまう。それらを踏まえると、早めに考えておくに越したことはない。

 

 だからと言って、、二歳児である今からだと流石に気が早すぎるのも確かだ。

 考えはするが、せめて小学生に上がってから言及しないと悪目立ちしそうなのが面倒な所だと思う。

 一先ずそう思い至り、とりあえず保留として思考を再び目の前の姉へと切り替える。撫でるのを止めたのが不満だったのか、気付けば尻尾で俺の太ももを叩いていた。

 器用な子だなぁと、内心苦笑しながら再び撫でてやることにした。

 

 手のかかる姉だこと。

 

 

 

───☆☆☆───

 

 

 

 さて、年月はあっという間に過ぎて、俺たちは四歳になった。

 弟のナナセも二歳になり、簡単な会話ぐらいは出来るようになってきた。会話といっても、一般的にこの時期の子供が出来るようになると言われる二単語の組み合わせの会話だが。

 

 しかしこうして見ると、改めてウマ娘は凄まじい成長速度を有しているのだと思う。今のナナセと同じ年齢の時には、既に俺達はほぼ自然に会話が出来ていた。会話のみならず歩行も走行も出来た、多少の家事を手伝う事だって問題なく出来た。もちろん姉には俺が入れ知恵していたが、それを差し引いても両親が根気強く仕込めばたぶん出来た事だ。

 

 とはいえ、ヒトも四歳にもなれば個人差こそあれど知能と言語が著しく発達する頃。ここまでくれば身体能力以外に大して差は生じないし、自分の面倒も補助が無くとも処理が可能になってくる。

 逆に言えばこの頃から明確に好奇心を示すようになり、自分たちと違うものへの興味が尽きない時期。好き勝手動くし、親の注意だって何のそのだ。

 たとえそれがどんなに残酷であっても、彼らに悪気は無い事なんて珍しいことではない。本当にただただ無邪気に、それがなんであるかを理解しようとしている最中なのだから。

 

 そう、彼らに悪気は無い。無いんだけどさぁ……。

 

 

 

「こらぁ! 耳と尻尾は引っ張るなって、いつも言ってるでしょう!?」

 

 脅しで腕を大きく振り上げたい気持ちを抑え、どうにか握りこぶしを胸の位置に挙げる程度に留めて声を荒げる。

 

 うーむ、我ながら微妙にぶりっ子っぽい動きをしている気がする。でも結果的にそうなっただけで意図したものではないので見逃して欲しい。

 そも、幼いとはいえウマ娘のパワーは子ども相手では十分凶器になるのだ。だからむやみに振り上げるのを抑えている、という事情があるのだ。

 

 まぁそもそもはと言えば、何度も言って聞き分けない同じ組の男の子達に原因があるけど。彼らはどうも執拗に俺を狙って耳や尻尾に触れてくるのだ。

 

 それ以外の悪戯は現状無いのが救いではあるがそれも時間の問題で、今後悪化する可能性もあるので油断ならない。それでいて姉さんには手を出さないのだから、不思議な事だ。

 

 もっとも、そんな事をしたら本気で怒るけども。流石に推しに手を出されて怒らないオタクは居らんのよ。少なくとも俺はそう。

 

「ザーガ、大丈夫?」

 

 悪戯の首謀者達が散った所で、少し離れたところで目撃していた姉がそう声をかけてきた。不安そうに見つめてくるのが心苦しい。

 姉さんにこんな顔をさせるなら、やはり取っちめてやろうかと黒い感情が沸いて来そうになる。が、どうにか抑える。

 

「大丈夫よ、俺が強いのは知ってるでしょう?」

 

「それは、そうなんだけど……」

 

 とりあえずはそう言って安心させようと試みた。しかし効果は薄い様だ……。

 

 もちろんここで言うのは精神的な意味での強さの事で、姉もそれを理解して頷いている。まぁ俺が毎回同じ事で声を荒げているし、その事もあって必然的に心配にもなるのだろう。

 俺も俺で内面が大人なのでダメなものはダメと教えたかった所があり、以前から分かりやすく砕いて説明を試みていた。しかしそれでもなお、現状が続いている。そろそろ切り上げて対応する時期か。

 

 一先ず無視を決め込む所から始めるかね。ついでに耳と尻尾で手を振り払う程度なら、まぁ手を上げるよりずっと穏便だしセーフだろう。

 ああいう手合いはこちらの反応を見て楽しむ、もしくはそうやって気を引く事で自分を見て貰いたい心理がある場合が多い。前者は遊びの延長。後者は仲良くなりたいとか、ませた子どもが好きな子に振り向いて貰いたいけどその方法が分からずとりあえずちょっかいを出すって具合。

 

 ……あれ? これだとあの子達が俺に気があるみたいに見えるな?

 

 よし、考えなかった事にしよう。俺は何もされてないし気付かなかった。いいね。

 

 

 

 さて、そんな事を考えていれば壁掛けの仕掛け時計がおやつの時間を告げた。

 同時におやつを準備していたらしい隣の部屋から何かを引き裂くような音が聞こえ、それにピクリと耳が反応する。

 パブロフの犬よろしく、思わず尻尾が揺れてしまう。見れば姉も同じように目を爛々と輝かせ、視線が合えばニッコリと笑顔を向けてきた。

 

「今日のおやつはバナナが出るみたい、楽しみだねザーガ!」

 

 本当に姉さんはカワイイなぁ。さっきまでの不機嫌顔も全部吹っ飛んで、既にウッキウキの笑顔を湛えている。滅茶苦茶眩しい、国宝にしようよこの子の笑顔。

 

 ちなみに何事かと問われれば、早い話が俺も姉さんもバナナは大好物という事である。

 先ほど俺たちの耳が捉えた音も、バナナを房から切り離す時の音だ。姉はもちろん、俺ですらバナナを初めて食べた翌日から聞き分けられる程であるから筋金入りだ。

 

 折角だからうちの姉の可愛いエピソードを一つ。以前俺と母とでおやつの準備をしていた際、バナナを房から切り離した時の事だ。何処からともなく駆けつけて、『今日はバナナなの!?』って目を輝かせて言って来た時なんて心の中のデジタルが何人殉職した事か。

 

 

 

 普段は姉が気に入っている食べ物なんかは進んで譲る俺だが、バナナだけは絶対に譲れない。前世ではそこまで好きという事も無かったのだが、ウマ娘となってから好みの幅が大きく変わった様だ。

 頭で考えるより先に、この世界でバナナ二回目の時に姉の目が物欲しそうな雰囲気を持った瞬間に庇って『ダメ』って言ったのは自分でも驚いた。まさか推しにも譲れない好物がこの世界で新たにできるとは……。

 

 

 

「で、その後は特に何事も無し。それより、ナナセはどうだった?」

 

「相変わらずクールね、誰に似たんだか分からないわ。そうね、ナナセは元気に家の中を冒険してたわよ」

 

 幼稚園でおやつを食べた後は、本当に何もなく時間は進んだ。そして父親の迎えを経て今はこうして、母親と共に自宅で時間を潰している。

 ちなみに姉は、俺だけを家に置いて父親とお買い物に出ている。買い物の荷物持ちは交代制で、今日は姉の担当なのだ。家から幼稚園とスーパーは反対方向なので、担当以外は途中で降ろしに家に寄る事になっている。

 

「半年前から俺たちの真似して歩こうと頑張ってたもんね。今はお休み中?」

 

「ええ、いっぱい動いて疲れたみたい。少ししたらまたお腹が空いたって起きてくるわよ」

 

 弟のナナセの様子を聞けば、立って歩くという念願かなって家の中を大冒険していたらしい。結果疲れて、今は寝ているそう。まぁただでさえこの家は大きいから仕方ない。

 伊達にウマ娘の弟ではなく、普通の子どもよりは筋肉が発達しているらしい。そのおかげで比較的安定して歩き回れているので、思っていたよりは俺たちも気軽に接する事が出来ていた。あとは意思疎通能力がどれぐらいで発達していくかだが、現時点で二単語会話も確り出来ている方だし問題は無いだろう。

 

「そういえば今更ではあるのだけど、貴女の『俺』って誰かの真似? お父さんは『ぼく』だし、お母さんやアヤベは『私』だし。何かのキャラクター? それともお友達かしら?」

 

 ふと、思い出したように母親がそんな事を聞いてきた。確かに俺が今の一人称を言葉に出すようになって既にかなり経っているので、本当に今更である。

 

 とはいえ確かに気になる所ではあるだろう、冷静に考えれば身近な人物に一人称が『俺』という者は居ないのだから。

 そもそも俺自身が意識していなかったのもあり、その返答に時間を要した。

 

「んー……、正直に言えばなんとなく? あんまり意識してなかったかも」

 

「そうなの? あ、気になったから聞いただけよ、強要するつもりは無いから。お母さんがトレセンに居た時、『俺』って言う子は大体乱暴な口調だったり、キザな言い回しするのが多かったから」

 

「あ~……そっか、言われてみれば普段は姉さんや母さんみたいに喋ってるのよね。うーん、意識し始めたら、なんかアンバランスに思えて来ちゃったな……」

 

 指摘されて、確かにと考え直す。今まで思考でも俺は『俺』として物事を考え、今のこの世界を生きていた。

 そしてそれは自身の一人称に及んだ。しかし言葉遣いはと言えば、母親に倣った物だった。姉が話せるようになってからは、姉に倣うようにして話始めた。その姉が母親に倣った物だから、必然的に二人のニコイチになったけども。

 

 まあ、この辺りは俺が俺のまま好きに話して、その口調で姉が言葉を学習してしまうのを恐れたという理由があった。

 ただでさえ俺という存在が居るせいで思いつめた性格から外れるのに、口調まで変わってしまったらもう訳が分からなくなってしまう。

 

 まぁその結果として俺の一人称と言葉遣いは、なんだかチグハグしたイメージを孕んでしまった訳だが。

 

「わたし、私……私はアナザーベガ。うん、ちょっとむずむずするけど、こっちの方がしっくりは来るかな」

 

「無理して変えなくても良いけど、確かにそうかも。貴女とアヤベの声音だと余計にそう感じるのかもね」

 

「うん、おれ……私が気になるから、変える事にする。暫くごっちゃになると思うけど……」

 

 ちょっとした切っ掛けだったが、いい機会だ。今日から自身の一人称を変える事にする。正直今更過ぎるけれど、幼い頃の一人称なんてそんな物だろう。

 

 しかしそうなると、普段の思考でも一人称を変えた方が良いだろうとも思う。なんなら幼稚園で書かされてる手紙や絵日記でも『俺』と記載しているし、今後はその辺りも矯正しなければならないだろう。

 そう思うと一人称を意識的に変えるのって結構大変だな、子どもの内は兎に角影響されまくってコロコロ変わるイメージあるけども。

 

「出来る範囲でゆっくりやればいいわよ。貴女が決めたにしても、そういう個性を変えるなんて、本当は難しいんだから」

 

「うん、分かってる。無理はしないよ。ありがとう、母さん」

 

 母親からの応援も受け、改めて気持ちを整理する。

 

 そもそも俺、私自身、アイデンティティについてはもう少し考えるべきだと思ってはいた。もしかするとこれはある種の抵抗の心算だったのかもしれない。

 

 否、本当にそうかもしれない。姿も性別もすっかり変わってしまった今、『俺』というアイデンティティは一人称のみだった気がする。ならそれすら変わってしまったなら、『俺』はどうなるのだろう。

 

 なんにせよ、これからまた幾らかの変化があるかもしれない。

 それが私の望む望まないに関わらず、必要か否かを判断して柔軟に取り込んでいかなければ。

 

 

 

「ただいま! ニンジンいっぱい買って来たよ!」

 

 そうこうしていれば姉さん達が帰ってきた。普段なら車の音で気付くのだが、思ったよりも深く考え込んでいたらしい。

 

「おかえり、姉さん。荷物は私が運んでおくから、先に手を洗ってきたら?」

 

「ありがとう、ザーガ! ……あれ、今『私』って言った?」

 

 一拍置いて、姉さんが聞き逃す事なくツッコみを入れる。さりげなく言っても誤魔化せないか。

 

「うん、さっき母さんと話してたら話題に上がってね? そしたら何だか気になってきちゃって。暫く混ざっちゃうかも」

 

「そっか! じゃ、これからはお揃いな所が増えるのね、楽しみ!」

 

「……そうだね、私も楽しみ」

 

 一人称一つでこんなに喜ぶものなのか。それならもう少し早く変えてしまうのも良かったかもしれない、そう思う自分も居た。

 

 

 

 そういえば、スワンプマン問題なんて物があった。要は思考実験の一つで、魂や記憶を受け継いだまったく同じ外見の存在は同一と呼べるかどうかという物。

 自分の場合は到底『同一』とは呼べないだろう、前提となる外見が違うし、世界すら違うのだから。

 

 けれど応用して、この記憶と魂は果たして本当に元の本人の物なのだろうかという考え方も出来る。そこは少し、無視できない。

 とはいえ俗にいう転生なんて物は、総じてそんな物だと言えばそれまでだが。

 

 この世界のアドマイヤベガが走る事を選ぶ選ばないに関わらず、もう少し真剣に自分の事を考えた方が良いのかもしれない。

 

 ……自分の為にも少しだけ、そう思えてきた。




 弟の名前は適当に捏造してます

 アヤベさんには妹ちゃんとバナナ分け合って食べててほしい、いっそバナナの取り合いをしておかわりあるからとお母さんに怒られてても良い。もちろんIF世界とはいえザーガじゃなくて、素の妹ちゃんの方と


 棲み分けの為にアドマイヤアナザーからタイトル変えたのはいいけど、タイトルに引っ張られて真面目なサブタイつけ辛くてちょっと失敗したかもしれない。まぁこれはこれで楽しいから良いか
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