アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話 作:煎餅さん
あと前のタイトルが分かりやすかったとの声を頂いて、投稿するちょっと前に冷静に考えたら確かに推しの妹じゃ誰の妹になって誰にキャラ崩壊が起こるのか分かり難いなと気付いたので微修正しました
やる気がぶっ飛んでたついでに話の構成とか色々見直してて、やっぱワイが書くには荷が重い長さになるなコレとか改めて認識してさらにやる気がぶっ飛んだのは内緒だ。そもそも煎餅さんは140字前後の妄想を羅列する能力しか備わってないのよ
そんな自分に鞭打ってようやく主人公が自発的に色々行動を起こしても違和感が無い所までキングクリムゾン
つじつま合わせとか分かりやすい読みやすい書き方なんも分かんねぇ
それはそうと最近のランドセルってカラフルなんですよね、昔は黒か赤しか無かったのに。今選ぶなら黒ですね、黒好きなので
あと試験的に後半はアヤベさん(6)視点。本当はもうちょっと幼い感じの文脈にしようと思ったんですけど普通に冗長になりそうだったので断念しました、まぁそうでなくともこの作品内のウマ娘は成長早いって明言してるしまぁええやろ
(7/18追記)ちょこちょこと加筆したり
(24/1/11追記)またぞろ加筆したり
早いもので、私が産まれて六回目の春がやって来た。
今年から私も小学校に通う事となり、私たち姉妹はつい先日、水色のランドセルを祖母達から戴いた。
ランドセルなんて何年振りに背負うだろうか。この姿でだと初めてだけど。
ちなみに通う学校は変哲もない一般校で、ヒトも多く在籍する。最初は祖母達から競争ウマ娘向けの小学校を薦められたが、幼稚園でできた姉さんの友達の多くがその学校へ入学するという事で決まった。
一緒に集まってきていた親戚達は何か言いたげな様子だったが、幸い姉さんの楽しげな表情に絆されたらしい。
それならば仕方がない。そんな表情へと変わっていったのは記憶に新しかった。
まぁ私の方でも調べた感じ、この近辺にはそんな学校も見当たらない。通学に時間が掛かるのは避けたいし、妥当なところだと思う。
それに、走る事に専念すると決めてしまえば同年代の子どもと同じ事が出来なくなる。私達の才能に左右されるだろうが、先ず確実に遊ぶ余力は減る筈だ。
であれば、まだ走る事を選ぶ前にそんな学校でギチギチになるよりはとも思う。
そんなこんなで学校に通い始めてから、更に数ヶ月が経った。
展開が早い気がしないでもないが、正直そんなに特記すべき事も無かったから仕方がない。
まぁ私的には久しぶりの小学校生活を謳歌していた訳なのだが、これがまた楽しいのだ。
通常の授業は兎も角として、体育に関しては前世では出来なかった事が色々と出来て凄く楽しい。
そりゃ運動が出来る奴らは体育が楽しみにもなるよ、運動音痴にはひたすらシンドイ時間だったから理解出来る筈も無いよこれじゃ。
あと常識的な範囲内でだけど、単独行動が出来る様になったのも大きい。そうでなくとも学校の図書室が使えるというのは非常に大きく、私の知識の補強に一役買っている。
ウマ娘世界の歴史や文字に慣れるというのも大きいが、単純に転生してからは前世からの趣味とは疎遠だったのが特に辛かったのもある。
何かしらの切っ掛けが無ければ、私の前世からの趣味は悪目立ちしすぎるのだ。もちろん、子供にしてはと前置きが付くが。
「ザーガ、それって珈琲の本?」
「姉さんか、今日はこっちに来てたんだ。そうよ、父さんが偶に飲んでるでしょ? 私も結構好きだから、調べたくなって」
小学校に通い始めて数ヶ月もすれば、夏休みも間近に迫るものだ。授業もキリが良い所で終わり自習が増えて来た頃、私は図書室で趣味の切っ掛けとなる本を読んでいた。
そんな折、姉が横から顔を覗かせて来た。最近は互いに別の友人を持つ為に別行動を取る事が多くなったが、それでもこうして学校の何処かでは顔を合わせる。どの道、今年度はクラスが同じだから教室に戻れば一緒なのだけどね。
さておき、姉さんの言う通り私が読んでいたのは珈琲の本。よくある珈琲の歴史みたいな児童向け書籍だ。
ぶっちゃけるなら弟が産まれる前に、姉さんと読んでいたあの教育絵本シリーズの親戚である。要はみんな大好き、〇研のまんがでよくわかるシリーズだ。
「ふーん? 私もお砂糖三つ入れれば飲めるけど、ザーガは何も入れないよね。お父さんも一つは入れるのに、……苦くないの?」
「私は苦くないかなぁ、というより珈琲がみんな苦いわけじゃないし。今家で父さんが入れてるのは、どっちかというと酸味が強めのだからね」
姉さんからの質問に、特に悩むことなく答えていく。私の前世からの得意分野でもあるから、当然ではある。まぁ得意分野とはいえ趣味の域を出ないから、細かく突っ込まれるとちょっと分かんないけど。
何にせよ好きな物だから色々詳しくなるのは誰だってそうだろう。珈琲と一口に言っても豆の種類や豆の挽き方、焙煎度に抽出方法で一気にその味は変わってくるとか。挙げ始めるとキリが無いが要はその中から自分の好みを見つけたり、キリが無いからこそ冒険し続けるのを楽しむ物が珈琲、みたいなさ。
少なくとも私は、珈琲とはそういう物だと思っている。
そこに砂糖やミルク、他諸々を加えた飲み方も含めれば楽しみ方は無限大なのだ。
ちなみに珈琲をブラックで飲むのは日本人ぐらいというのは有名な話で、ブラックで飲む所まで含めて私の趣味嗜好の範疇である。
そこまでを軽く説明してみせれば、納得したように姉さんは頷いた。
「なるほどね。私も今度試してみようかな、ダメなら砂糖を入れればいいもんね」
「色々試してみるといいわよ、好みの飲み方を探すのも楽しいし。チョコなんかを溶かしてみるのも、面白いかもね?」
そんな提案を姉さんに向けて、コロコロと笑って見せる。最近は私も、外見通りの自然な笑いが出来るようになってきた。おかげで姉さんとのコミュニケーションの幅も少し広くなってきた気がする。
その延長線でクラスの友達も出来たし、その友人達とのお喋りも楽しくなったしで良いこと塗れだ。……若干感性にずれがあるが、そこはTS転生者故の現象と割り切ろう。うん。
ちなみに余談であるが、珈琲はそこそこ前から飲んではいた。ならば何故今更こんな形で本を読んでいるのかと問われれば、今まで母親に遠慮していた為に機会を逃していたから、というのが答えだ。
というのも、実は去年にもう一人弟が産まれた。つまりそれまではずっと妊婦さんだったという事で、飲んだとしてもカフェインレスの物を飲む傾向にあった。
実はその時に母親もそれなりに珈琲党なウマ娘だった事が判明し、そこに私が珈琲趣味なんて物をぶち込んだら色々大変なことになるのは目に見えていた。だから色々と器具を揃えたい気持ちを我慢していたのだ。
そりゃ最近はカフェインレスだとかデカフェとかもあるとはいえ、結局はカフェインを微量でも保有している事に変わりはない。ウマ娘はそういった物にはめっぽう強いらしいが、万が一なんて事が起きても嫌なので今は時期ではないと遠ざけていたのだ。
その為に今更こうして、別の形で切っ掛けを作ろうとしているのだけど。だってこういう切っ掛けが無いと、前から好きで気になってたけど母親に遠慮して言い出せず我慢してたみたいな図になるじゃん?
再び珈琲を飲むようになって、学校でも自発的に調べる様になり興味を持った。という体裁を整えるといった具合にしないと両親が曇りかねない。
「……ね、こっちの本は? お酒の本みたいだけど」
「うん、カクテルの本。この前TVでカラフルなお酒の特集してたじゃない? 父さんも偶にだけど、外国のお酒は飲んでるし少し借りて何か作れないかなって。まぁ飲めないけど」
珈琲の本に紛れさせて置いていたカクテルの本に姉が気付き、興味を持って聞いて来た。
これもまた私の前世での趣味の一つで、その布石。まぁこちらは明確な年齢制限があるので、良くてシェーカーが買い与えられるだけだろう。親に呑ませるとしても何かの祝い事か、切っ掛けが無ければカクテルも作らせては貰えまい。
とはいえモクテルなら問題ないだろうし、ミルクセーキなんかも作れるので十分ではあるが。
しかし、何故こんな本が小学校の図書室に置いてあったのだろうか。教員の趣味かな。
「ザーガは、走ろうって思わない?」
「……どうしたのよ、藪から棒に」
なんて事を考えていれば、突然に話題が変わった。
いやまぁ珈琲に酒と同じ飲み物でもジャンルが違う物の本を並べてる私も大概だが、姉のその言葉は流れからして不自然であった。
だが家での出来事なんかを踏まえると、突然という程の事でも無いのも事実ではある。この状況だけを見れば確かに突然だが、私達の日常生活を鑑みればそこまで不自然ではない。
例えばウマ娘にとって、日常の中には度々走る機会はある。ご近所さんの子同士で走ったりとか、ただ移動するだけでもどこまで競争だとか。普通ならば、そういった何かがある筈だ。
ただ私達姉妹は、今までそれらを避けて来た側面がある。
姉が気乗りしない様子だったから、そして私も姉が走らないなら走る理由が無いからと。
他にも色々と理由はあったが、そちらに関してはオカルトな話なので余計に誰にも相談出来ないでいた。まさか姉が人に見えない物が見えるなんて、どう説明すれば良いのだ。アプリでもそんな素振りは見せなかった、この世界特有なのだろうかと絶賛思案中な悩みの種である。
最近は慣れて来てはいるし、通学もあるから気にはならないけど、それでも幽霊の類と出くわしながら走るのはちょっと酷だろう。そしてその辺が発覚した原因も原因だったから、私もちょっと走り難いってのもある。流石に救急車案件はね、私もご遠慮願いたい。
おっと、話が逸れた。
「ん、ちょっと気になって」
「そう言われても、私は基本的に姉さんと居られればいいからなぁ。それこそ姉さんが望むのなら、私も走るかなぁって所かしら。まあ姉さん次第ね」
気になった以外にも何か理由はありそうだが、わざわざそんな言い回しをする辺り言いたくは無いのだろう。本人が言いたくないならば今は無理に聞かずとも良い。そんな理由もあって、そう答えた。
一応飾り気の無い本心の心算だ。少なくとも私にとっては、現状では自分が走る事はあまり重要な事ではない。
まぁ確かに、あわよくば姉の隣を走って、最終直線のマッチレースなんて状況になれたらと思わないでもない。だが流石にそれは、夢を見過ぎているという自覚はある。
「そっか、そうなんだ」
「姉さんがやりたい時にやりたい事をやればいいよ。私はそれを支えるから。もちろん、付いて来いって言われれば走るのだって付き合うわよ」
微笑んで、そして気合が入った声でそう答える。そんな私の答えに姉さんは少しだけ嬉しそうにして、けれど残念ながら全て解決とまでは行かなかったらしくその表情には陰りが見えた。拭えない不安、そんな物が見え隠れしている。
どうしたものか。私自身も正直他にやりたい事も無いし、今手を出そうとしている趣味だって隙間時間に出来る物。折角彼女の妹に生まれたのだ、彼女が選んだ道を支えてやりたい気持ちがある。だからこそ、休日のひと時を彩る程度の趣味に抑えている。いや片方は完全に私利私欲の類だけども。
自分の事を考えようと以前心に決めはしたが、結局ずるずると引きずっている私に解決できるかと言われれば微妙なので踏み込む勇気も無いのが困り所だ。
そして、姉さんはそれ以降黙ってしまった。どうしたものかと考えていれば、私の隣に座って肩に頭を乗せて来た。
中断しているとはいえ一応本を読んでいるのだが、お構いなしな様子に流石に私も思わず苦笑を浮かべてしまう。
改めて振り返っても、わざわざ聞いてきた辺り言葉にした以外の何かがあるのは間違いない。けれどそれを私が問い質して良いものだろうか、ついそんな事を考えてしまう。支えてあげたい、力になりたい。そう思いながら、けれど踏み出せないでいる。
そしてその理由はハッキリしていて、だからこそこの悩みは中々晴れそうにない。
自分の在り方に白黒付けられず、挙句に自分の存在が彼女から走る能力を削いでいる可能性がある。そんな状態で彼女に踏み込んで寄り添うのは、私としては少々厳しいのだ。
表面的に、物理的に支えるだけならばまだどうにかなるのだが……。
「……」
すっかり黙ってしまった姉をどうしようかと考え、この際読書の続きでもと視線を戻せばぺちぺちと背中を叩かれる気配。なんだと思い見てみれば、姉の尻尾が私の背を叩いていた。相変わらず器用な事だ。
そして改めて姉の顔を見れば、やや頬を膨らませていて不機嫌そうにしている。これはつまるところ、撫でろという事だったらしい。前から考えていたが、やはりこれではどちらが姉なのか分からない。形式上はアヤベが姉な筈なのだが。
しかし逆に考えれば、そうやって普段から他人の前では姉を立てているせいでこうなったのかもしれない。そう考えれば、中途半端に私に甘えてくる仕草も納得が行く。
だが同時に、私がそうなる様に仕向けたとも見えてくる。何せそもそもはと言えば、私が調子に乗って世話を焼いたせいで両親は家族計画を前倒しにしたのだ。結果として姉は親からの愛情を半端に受ける形になったし、かといって私という妹が居る手前『姉』という立場のせいで素直に甘えられない状態となったのではないか。
そのくせ当の『妹』の枠に居る私が落ち着き払って親を支えてあげようなんて言い出したら、もう『姉』である彼女は後に引けない。私が彼女の退路を塞ぎ、その落としどころとして見つけたのが『妹に甘える』という事だったと考えれば色々納得できてしまう。
なんなら私はすでに、私に甘えて来る事を肯定している。あの時は一時しのぎにと思ったが、それが今では定着してしまいこのざまである。
とんだマッチポンプだ。何が推しに気安く触れるのはギルティだ、自分が推しにそうさせていたんじゃないか。
誰か私を殺してくれ。ダメか、そうか。いや良く考えなくても姉から私を取り上げたら間違いなく曇るわ、ダメだったわ。チクショウ、取り返しがつかねぇ。
アナザーベガのやる気が下がった。そんな文章が脳裏に浮かんだ気がする。
正直脳裏にこれが浮かんだだけでゲンナリするが、育成中に見る物じゃないだけ幾らかマシではある、気がする。
そこに表記されるのが自分の名前な辺り、何とも言えない気分になるのは確かだったけど。
たぶん今の私はアヤベさんがオペラオー相手に見せたりするあの顔を浮かべている事だろう、原因は自己嫌悪だけど。
なんて事を思っていれば尻尾だけでなく肘が飛んで来た、しかも思いの外勢いがある。普通に痛い。
肘は止めて、撫でるから脇を肘で殴るのは本当に止めて欲しい。
そんなやり取りを経て、この日は結局本の続きを読むことはできなかった。まぁ機会はこの先もあるので気にする事でも無いし、どうせ夏休みは祖母の別荘で過ごす事が決まっている。
祖母は言ってしまえば孫に甘い人で、頼めば大体の物は用意してくれる。それで実際に頼むかと言われれば、まぁ、うん。
兎に角だ、ゆっくりで良いのだ。どうせこの調子ではトレセン学園に入学するか否かも話題に上がらない。のんびりと、彼女のペースで良いじゃないか。
そう自分に言い聞かせて、この場を乗り越えるだけのメンタルを整える。正直既に色々錯乱している状態だが、継ぎ接ぎでも良いから兎に角整える。
既に引き返せないミスではあるけど、早い段階で気付けただけマシだと思う事にしよう。今後はそれを踏まえて生活すれば良いだけの事だ。
そうしてこの日から間もなく終業式を迎え、夏休みが始まる。
初めての夏休みに、初めて長期間親元を離れる経験。私は兎も角、姉には全く未知の日々が始まろうとしていた。
───☆☆☆───
夏休みが始まった。
七月頭から八月一杯までお休みの、みんなが待ち侘びていた夏の特大連休だ。
とはいえ、そのみんなの中に私たち姉妹が含まれているかといえば否に近い答えが出せる。何せ両親と一緒に居れないのだから、それなりに不満はある。仕方ないと分かってはいるけれど、それでもだ。
「アヤベ様、お飲み物のおかわりは如何なさいますか?」
態度に出ていたのか、横向の席に座っていたお世話係のお爺さんが気遣うように声をかけて来た。終始人の良さそうなニコニコ笑顔で、この人の顔を見ると嫌な事が幾らか頭から離れていく。
不慣れな新幹線での長旅だが、甲斐甲斐しくお世話してくれるためにあまり苦ではない。お話を話すのも聞くのも上手だから、ついつい不満も一緒に言ってしまうが嫌な顔一つしないでくれるのもありがたかった。
「ううん、私は大丈夫。ザーガはどう、何か飲む?」
「私もいいかなぁ。それよりじいやさん、やっぱりその『様』とか呼ぶのどうにかなりませんか?」
しかし喉は乾いておらず、ならばザーガはと問えばそんな返答。流石のお爺さんもニコニコ笑顔を困った様に歪ませて、やんわりとあやす様に答え始める。
「なりません。これはいわば私の矜持です。今でこそこの様な出で立ちでご同伴させて戴いておりますが、正装を脱ぐ事が既に最大限の譲歩でございますので」
「矜持……それじゃ仕方ないですね、諦めます」
シュンと耳を垂らして、そのままザーガは黙ってしまった。私からしてみれば珍しいザーガの我が儘。本当に珍しくて、だからこそ今朝起きた事は当分忘れられそうにない。我が儘で大失敗して、あんなに謝るザーガなんて今まで見た事無かったから。
事の発端は遡る事一週間程前、夏休み中はお祖母ちゃんのお家にお邪魔する事になったのが決まって移動手段の話をされた時。
当初はお祖母ちゃんのお家まで、現在一緒に居るお爺ちゃんが迎えに来てくれる手筈だったらしい。けれどその内容が気に入らなかったのか、突如としてザーガが珍しく異を唱えた。
『リムジンはちょっと……、せめて新幹線とかに出来ない?』
その一言から、あれよこれよと段取りが変わり始めた。お母さんは終始困惑していたが、お父さんは逆に「うんうん」としみじみ頷いていた。私にはよく解らなかったけれど、どうやらお父さんとザーガは何かしら通じる物があったらしい。少しずるいと思った。
そして諸々の調整を終えて、最後の最後にお父さんが何かに気付いたみたいな声を上げた。それから直ぐに何処かへ連絡を入れて、少ししてお父さんのウマホに通知が入る。そして何事かとザーガが見に行って、そのまま直ぐに「お父さんありがとう!」と普段見ない勢いで抱き着きだした。何だかよく分からないけれど、ずるいと感じた。
そしていざ当日、今朝迎えに来たのはご近所に居るような普通のお爺さんだった。身のこなしや口調こそとても丁寧な人だったけれど、見た目だけで言えば本当にご近所でお散歩をしているお爺さん達に近いものを感じた。
けれどその人の顔を見て思い出してしまった私は、言ってしまった。
『お爺さん、前は執事さんの格好してたよね?』
そう、小学校入学前のある日の事。お祖母ちゃんたちがランドセルをプレゼントしに家に来た時、このお爺さんも一緒に居た筈だ。その時は執事服と呼ばれる物を着ていて、とてもカッコよかったのを覚えていた。だからこそ、口をついて出てしまったのだ。
そして今に至る。蓋を開けてみれば、新幹線で執事服は悪目立ちするからと事前に連絡を入れていたらしい。しかしそれは私には共有されていなくて、私が発言した時にお父さんとザーガがとても気まずそうにしていたのが印象的だった。
とはいえ私も冷静に考えれば、電車に乗る分には悪目立ちするのはそうかもしれないとは思っている。事実お爺さんもそれには納得していた為に、大した問題にはならなかった。
けれどお父さんとザーガは何度も頭を下げていて、聞けば要はお仕事の制服を着ないで仕事に来てくれとわざわざ頼んだのだという。確かにその上で情報共有の不足とはいえ「今日は仕事着じゃないんだね」なんて言われれば、いい気分ではないだろう。
ちなみに言ってしまったのは私だけれど、むしろ言わせてしまった方が悪いと私にもお父さんとザーガは謝ってきた。今朝は突然のことで頭が真っ白だったけれど、こうして思い返すと確かにそうだ。最初から共有してくれていれば、私もそんな事は言わなかった。
そんな具合に、お爺さん的には無理難題には既に応えた後という認識らしい。その為に私たちの事を『様』を付けて呼ぶ事は止めないと、きっぱりと断られてしまったというのがたった今目の前で行われたやり取りであった。キョウジという言葉には聞き覚えがある、確か誇りとか、プライドみたいな意味合いだった筈だ。
それにしてもお父さんとザーガはどうして嫌がるんだろう。
私には理解できない物なのかもしれない、けれどそれもそれで嫌な気分だ。ザーガの事は何でも知っておきたい。それこそ私の我が儘かもしれないけれども。
「ザーガは、なんで変えて貰おうとしたの?」
「……うーん、正直に言うと単にむず痒いというか。出来る事は自分でやってしまいたいというか……」
思い切って聞いてみれば、そんな漠然とした答えが返ってくる。主語が抜けていたが、それでも今日の本来の手筈や、お爺さんの服装の事だと彼女は確り理解してくれた。
まぁ漠然とし過ぎて今一要領を得ない回答だが、どうにか噛み砕いて解釈すると人に世話を焼かれるのが苦手なのだろうかと思える。もしそうなら、確かに人のお世話をするのが仕事なお爺さんとは相性が悪いのも頷ける。それと呼び方がどう関係するかは分からないけれど。
「でも私達のお家なら兎も角、お祖母ちゃんのお家だよ? 勝手に何かする方が迷惑になりそうだし、怒られそうだけど」
「むむむ、確かに……どうしよう」
何がそんなに嫌なのだろうか。我が妹ながら不思議な子だと思う。
そんな事を話していれば、気付けばお昼。早朝に合流して、朝食の後に家を出て駅へ向かい、電車に乗っては駅を乗り継いで新幹線へ。そしてさらに途中で降りて新幹線を乗り換えて移動をしていれば、こんな時間になるのも頷ける。そして時間を自覚すればお腹が空いてきて、それを察してかお爺さんがお弁当を用意してくれた。
二人でそれを頂きながらこの後の時間をどう過ごそうかと言い合って、結局は私が言いくるめられて宿題を進める事になった。絵日記の宿題もある事だし、早速今日の出来事を書き記してしまおう。
そういえば、ザーガは最近自分の日記をつけ始めたとか言っていた気がする。宿題でもなければ誰に見せるでもないらしいけれど、曰く『この時どういう事があったか思い出すのに便利』らしい。記憶は記録ではなく、思い込みなんだとかなんとか。
ザーガは偶に小難しい事を言って、煙に巻くことがある。嫌いではないのだけれど、なんだか隠し事をされている様で落ち着かない。私がもっと、ザーガみたいに色々と理解できる様になれば解るのだろうか。
そんな事を考えて、カリカリとペンを走らせる。
そうして書き上げて、その内容を見れば長々とした愚痴の数々。
ちゃんと考えて書けばよかったと後悔して、全て消し始めるのに時間は掛からなかった。
余談ですがアヤベさんのお家はそれなりに大きい和風系のお家を想定。アヤベさんのキャラストでポニーカップ招待の時背景がそれっぽかったので、まぁ折角ならこっちがお家の方がイメージ的にも悪くないしええなと。サポカでも着物着てたし様になってたしええやろ
ただそこに実家が太いとか今回リムジンやら執事さんやら出し始めてたら脳裏にエンコのマエストロとか出て来たので、念のため明記しておくとドシンプルに名家ってだけです
ザーガもお父さんも二人とも根が庶民なんで、リムジンとか執事さんとかストマックにダイレクトダメージ案件なんですよね。その為必死こいて根回しして一見普通にお爺ちゃんと一緒に新幹線でお祖母ちゃんのお家遊び行く風にしてるんですね。まぁ『様』呼びはどうしようも出来なかった挙句アヤベさんにも指摘を受けたように、行った先では自室以外ほぼお世話待った無しなので逃げられないぞ♪って感じ
強く生きてアナザーベガ
記憶は記録ではなく思い込み、実際には「記憶は思い込みだ、記録じゃない」で映画『メメント』の主人公の台詞。好きな台詞ですが、同映画は話の内容を辻褄合わせて理解するのに頭を使い過ぎてちょっと苦手です