アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話   作:煎餅さん

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 アヤベ視点からザーガ視点と忙しない。単にザーガ視点だけだとグダグダと自分を納得させるための思考が垂れ流しになって喧しいから適度に挟んで誤魔化してるのは内緒。今後もやる

 最近の楽しみがアニポケになりつつある、水星の魔女は心を抉ってくる。リコちゃんが私の心を癒してくれる……。次回のネモさん、ちょっと楽しみ

(7/21追記)ちょろっと加筆修正しました

(24/1/14追記)またぞろ加筆修正しました


小学一年生の夏休み(その②)

 想定以上に日記で時間を取られたけれど、良くも悪くもその甲斐あって、気付けば目的の駅に着くというアナウンス。

 元々散らかしていた訳では無いけど、勉強道具を幾つか出していたので念のために周囲を確認しながら片付け始める。

 一緒に物を落としていたなんて、シャレにならないもの。

 

 とはいえそんな心配も杞憂に終わり、新幹線を降りたその後はもう少しだけ電車で移動。目的の駅まで着けば、あとはタクシーのお世話になるだけだ。

 体力に余裕があるなら徒歩でも行ける距離だけど、流石にお爺ちゃんを歩かせるのも忍びないから今日はタクシーを使う。今後自分たちで行けるようになったら、その時に走ればいい。その前に迎えが来そうだけれど。

 

 流石に現地のタクシーなだけあって、お爺ちゃんの顔を見て察したように「御邸までですか?」と聞いてきた。お爺ちゃんが助手席に促されながらそれに頷いて、私達もその間にシートベルトを締めておく。そして間もなく走り出して、もう少しの間だけ私達は車に揺られるのだった。

 

 

 

 そうしてタクシーに揺られる事数分、駅からは綺麗に整えられた林に遮られて見えなかった所が見えてくる。なるほど大きな御邸だ、私達の家が平屋だから余計に大きく感じる。敷地も比較にならないほど大きい。

 よく見たら林の中にも注意書きが見えたので、そこも含めて敷地なのかもしれない。広げる余地もあるという事だろうか、お祖母ちゃんは凄いなぁ。

 

 やがて敷地に入る為の門らしき物が見え、お爺ちゃんがウマホを操作したと思えば徐々に開き始めた。そのまま敷地の中までとタクシーの運転手に声をかけ、そのまま進んで行けば全貌が見えてくる。

 

 端的に言えば、絵に描いたような邸宅だった。門からお屋敷までの間にあるそこそこのスペースを花壇が占め、その中央には三女神像の噴水広場。その少し奥には正しく洋式の御邸が鎮座し、正直に言ってお掃除が大変そうだなぁとは思う。

 たぶん気にする所は違うのだろうけど、思ってしまったのだから仕方がない。

 

「ひぇ……」

 

 そんなか細い悲鳴が隣から漏れて、見てみればザーガが顔を青くしていた。話によると私の妹は赤ちゃんの頃から、今の私達の家にすら驚いた様子を見せていたらしい。

 当時から既に価値観の基準を持っていたような反応を見せ、それに対してお父さんは何かと共感していたらしいのだ。だからこそ二人は妙に仲がいいとも言えるのだが、その気持ちが私には今一つ理解できない。お父さんはずるい。

 

 大方今の悲鳴も、これから自分たちが寝泊まりする場所があそこだという事実を受け止めきれずに漏れたのだろう。

 

 

 

 なんというかザーガは変な所が抜けていると思う。如何にして道中の移動手段を変えた所で、目的地までは変わらない。そしてそこで約二ヶ月を過ごす以上、否が応でも環境に順応する必要がある。

 さらに言えば来年も再来年も、同じようにお世話になる可能性はゼロではない。

 

 お祖母ちゃんが嫌いというわけでは無い、けれど絵に描いたようなお金持ちという雰囲気が苦手。変な子だと思う。そこも可愛いのだけど。

 

 さらに言えば強請ってしまえば簡単に叶う買い物も、ザーガは遠慮するのだ。べつに無駄遣いをしろというわけでは無いけれど、もう少しアレコレと欲しがっても良い気がする。

 夏休み前の学校で読んでいた本、あれで少しは改善されると良いのだけれど。

 

 

 

 そんなこんなでお屋敷に到着した私達は、お祖母ちゃんとの挨拶も程々に済ませ、これから使う部屋へと通される。

 入ってすぐの右手には共有クローゼット、左手にはシャワー室。扉から見て正面に窓、その両脇に私達がそれぞれ一つ使えるらしい引き出しの付いた小テーブルが置かれている。そこからさらに部屋の角に沿ってベッドが置かれ、続けて勉強机と多目的棚の順に並んでいた。

 簡単に言ってしまえば、お手本のような二人部屋と言えるだろう。何故シャワー室があるのかは分からないけれど。

 こういう洋式のお家だと普通なのだろうか。

 

「良いお部屋だね、ザーガはどっちを使いたい?」

 

 兎に角二人で使うには十分過ぎる部屋だ。一先ずは左右のどちらを使うかを決めてしまおう、私はそう思って問いを投げかけながらザーガを見た。

 

「……ザーガ?」

 

 けれど、視線の先のザーガは目を見張って部屋を見ていた。なんて事の無い普通の部屋だと思ったが、何か気になる物でもあったのだろうかと釣られて視線を泳がせる。

 しかし私の目に映るのはなんて事の無い部屋でしかなく、余計に私を困惑させる。彼女の嫌がるような物は無いはずだ、それこそ無駄に高価な調度品の類すらないのだ。

 

 確かに他の部屋やここに来るまでの様相を見れば不自然でも、段取りの時点で難色を示した彼女に合わせて調整したと思えば不思議な事ではない。

 

「ご、めん。ちょっと驚いちゃって、急に日常に引き戻されたというか……なんていうか」

 

 だが程なくして、そう言って言葉を濁すザーガに納得した。確かにさっきまで顔を青くするぐらい、ここに来るまでが豪華な調度品に溢れた空間だったのだ。私達が使う部屋もそれに見合った物だと身構えていたのに、いざ開けてみれば普通の部屋だったなら虚を突かれるだろう。

 

「それで、どっちを使うかだったかしら。アヤベが先に決めていいわよ」

 

「ザーガはいつもそうよね。うーん、私は左が良いかなぁ」

 

 一先ず話を戻し、私は彼女の答えに苦笑しつつも部屋の左側を使う事になった。

 ザーガはどんな時でも基本的に私を優先させる。だから聞く事に意味があるかと学校でも言われる事があるけれど、それだと私の気が収まらないので毎回聞いているのだ。

 

 ちなみに余談だが、今より更に幼い頃。バナナを初めて食べた後の別の日、おやつに再びバナナが出た事があった。

 その時に私は、初めてザーガに黙って自分のお皿にたくさんバナナを取った事がある。しかしその時は珍しく即座に指摘を受けて、キッチリ半分こにさせられた。

 バナナが大好物になった私と同じように、彼女もまたバナナが大好物になっていたのだ。

 

 そしてそんな珍しい事があると思うと共に、幾ら私を優先していると言っても、全てではない事を初めて知った出来事でもあった。

 そんな事もあって、私は二人で選ぶ事がある場合は必ず声をかける様にしているというのもあるのだ。反省は大事だと、ザーガも言っているし。

 

「じゃ、私が右ね。荷物を置き終えたらお祖母ちゃんの所にだったわね、待たせない様に手早く済ませちゃいましょうか」

 

 そして配置決めが終わるや否や、彼女はそう言って自分の荷物を置き始める。

 確かにゆっくりで良いと言われていても、一応は人を待たせている状態だから手早く済ますに越した事は無い。一先ずは着替えを簡単に棚へしまい込み、その横の机には手早く文房具や宿題のプリント、ノートを纏めて置く。これはまた帰って来てから着手するので、その時一緒に片付ければいい。その他に細々した物を出して部屋の準備は完了だ。

 

 ちなみにザーガは着替えと宿題の道具と、後は最低限必要な物を幾つか出しただけで全てなのでずっと早く用意を終えていた。

 こればかりは待たせた事をどうこうと考える心算は無い、そもそも彼女の荷物は少なすぎるのだ。

 お気に入りの小物だとか、そういう物ぐらい持ってきても良いだろうに。そもそも持っていないと言われてしまうが、ならば買って貰えと常々思う。

 

 兎に角準備は出来た、後は水着をビーチバッグに放り込んで向かうだけ。なんでもプライベートビーチという物があるらしく、気兼ねなく遊べるスペースがあるから早速遊びに行こうという話であった。

 海は初めてでは無いけれど、広いスペースを周りを気にせず遊べるというのは初めてだ。以前行った海は大体、人でごった返しているんだもの。

 

 そこまで考えた所で、気付いてしまう。そういえばザーガは水着を持っているのだろうか、と。

 

 

 

———☆☆☆———

 

 

 

「うわぁ! 本当に誰も居ない!」

 

 そう言って駆けだすのは私の姉、アドマイヤベガだ。

 流石はプライベートビーチ、丹念に手入れをされているだけあってゴミや鋭利な貝殻一つない。そんな砂浜を、姉さんは軽快に駆けていく。

 過去に連れてこられた時の経験か、はたまた彼女自身の才能か。砂に足を取られる事無く波際まであっという間だ。

 まぁたぶん後者だろう。去年や一昨年は一般客もいる激混みした普通のビーチだったし。

 

「ザーガも早くおいでよ! 折角水着代わりの服も貸してあげたんだから!」

 

 そう手を振って私を呼ぶ彼女は、シンプルなワンピースタイプの水着に身を包んでいる。まぁ今の私達ってお手本みたいな幼女体形だからね、要は寸胴体形だ。

 普通の幼児と違って私達はウマ娘、筋肉の発達が凄まじい影響かイカ腹とは無縁であるけどさ。

 

 それでも胸も尻も平坦なので、結局寸胴は寸胴だ。上下に分かれたビキニタイプとかそんな物を選ぶ意味は薄い。単に可愛いから選んだのだろう。

 実際水色のワンピース水着がよく似合っている、可愛い。

 

 そして彼女の言う通り、私は姉から水着代わりになる服を借りている。というのも彼女は以前父親との買い物で、また海に行くならと水着を新調していた。それに対して私はといえば、そんな事は一切考えていなかった。

 

 そも、年中似た服を着まわしてたずぼら男性が前世の私が、そんな年に数回着るだけの水着を気にする筈が無かったのだ。

 去年の水着? そんな物は成長した分で、とっくに着れなくなっている。

 

 なお当の父親は、さっき電話でこってり怒られていた。別々に買って当日見せあおうと画策していたのを、父親がすっぽかしたらしい。

 ただ失笑を堪えられずに吹き出したら、普通に私も怒られた。私がそもそも父親に要求していれば済んだ話で、こうなる予想だって出来た事をすっ呆けてたのは私もだったという事だ。残当。

 

 

 

 話を戻して、私が借りた服の内訳はかなりシンプル。ジーンズのホットパンツにTシャツ、それだけだ。

 だが元々見せ合いっこを期待していた姉がそれで収まる筈もない。提案を出した姉が御邸で働いているメイドさんに裁縫道具を借りたと思えば、躊躇なくTシャツの裾を縦に切り始めた。そして切った場所から余計に解れて裂けない様に縫い留めて、そこまで見てようやく意図が見えた。

 

「まさかこの年で、自分がこの格好をするとはなぁ……」

 

 これで左手にシュシュだかリストバンドを着ければ完璧だったかもしれない。

 Tシャツの下はただのスポブラではあるので色気は皆無であるが、パッと見のイメージはかつて前世ウマ娘のハーフアニバーサリーでお披露目された『Gaze on Me!』で界隈を賑わせたあの衣装。

 切った部分で裾を縛り、不足していたお洒落感を強引に付け足して、ダメ押しのへそ出しで色気もアップと見た目だけは大分近い。

 

 外見だけなら姉さんとは瓜二つなので、鏡を見ずとも今の自分の状態を殆どイメージ出来てしまうのが中々辛い。常日頃見てる姿だから、頭の中に容易に浮かぶのだ。

 

 まぁとはいえ、今は自分も一人の少女として生きているのだ。こういう事もあるだろう。

 しかし分かっていても辛いものは辛いのだ。せめてもの救いは所詮は寸胴体形な為、ボーイッシュでも通せる所か。更に言えば幸いな事にあの専用衣装とは違い、使用されているTシャツが市販品の子ども用だ。色気アップと言っても高が知れている。

 

「はーやーくー!」

 

 さて、思っていた以上に長考していたらしい。中々駆け足をしない私に姉は目に見えて、『私は怒ってます』と両手を上げてそう叫んだ。

 可愛い。

 

「ごめんごめん、今行くから!」

 

 それに対して私はそう答え、少し駆け足をしようと砂を踏みしめようとして。

 

「——————っ!? へぶっ!!」

 

 ずっこけた。

 

 なんて事はない、足を滑らせたのだ。

 以前海辺に来た時は人混みで、駆け足なんて論外な環境であった為に忘れていた。人間の時の感覚を用いて乾いた砂の上を駆け足なんて愚の骨頂、それを失念していたのだ。

 『踏み込みが足らん!』と、脳内で誰かに怒られた気がした。

 

 なんなら姉さんの姿が可愛くて、完全に上の空だったから残念でもなく当然の結果であった。

 

「ザーガ!? 大丈夫!?」

 

 しかしそんな事は姉さんには関係がなかった。まして急かした手前、目の前で転ばれたら焦りもする。

 そんな訳で姉が砂を踏み固める様にして接地面を噛ませ、お手本のような駆け足で文字通りすっ飛んできた。

 中身で言えば幼い子供でもなければ、そもそも痛い訳でもないのですぐに身を起こした私が見たのはそんな走り。

 

 しかし浮かべる表情は純粋に心配の色に染まっており、そこに罪悪感を見つければ心臓がキュッと締め付けられる思いだ。私の凡ミスで彼女を心配させてしまったということなのだから。

 

 推しを悲しませるのはよろしくない。民明書房にもそう書かれている。たぶん。

 

「だ、大丈夫。足滑らせちゃっただけだから、恥ずかしいなぁもう……」

 

 幸い、ゴミも貝類も無く、乾いた砂で満ちていた砂浜であった為にクッション性は十分だったらしい。現に改めて自分の体を見ても傷はない。砂に打ち付けた箇所に痛みも無く、鼻出血一つだって無い。

 そんな結果を見れば無事の一言に尽きる状態なのだが、急かした手前思うところがあるのは変わらないらしい。耳をシュンと前に折り曲げる様に倒して、ポツリポツリと謝罪を並べる。

 

「ごめんね、私が急かしたせいだ。ザーガがのんびりさんなの知ってたのに……」

 

 うーむ、複雑! 脳裏に理事長が例の扇子を広げるが、とりあえず追い出す。

 まぁのんびりさんなのは認めるが、微妙にバカにされている気がしないでもない。本人はいたって真面目そうに言っているので、強く指摘はしないけど。

 

「気にしてないわよ、怪我も無いし。ただ、のんびりさんは余計よ」

 

 それはそれとして、余計な物は余計な物だ。バカにしているように聞こえた点は伏せつつも、余計な一言は今後のために封じて置かねばなるまい。

 

「ほら、気を取り直して行きましょう? 何をして遊ぶ?」

 

 兎に角仕切り直して、ここは素直に楽しむべきだろう。そもそも私が転んだだけの事、そんな気に病む大事ではない。

 服に付いた砂を軽く払い、そのまま手を差し出してやれば直ぐに姉さんは掴んで来た。

 

「うん、前は出来なかった砂のお城とか作ってみたい!」

 

「じゃぁとびきり大きいのを作ろっか! 時間も場所も十分あるし!」

 

 無事に気持ちの切り替えには成功した。こういう時は年相応の反応をしてくれていい、チョロくて助かる。後は彼女の要望に応えるだけで済むし。

 しかし砂のお城を作るのは骨が折れそうだ。さらに言えば自分で言ってしまった事だが、大きいサイズとなると余計に大変だろう。

 

 まぁウマ娘パワーならなんとかなるか。なんとかなれ。

 

 ちなみに日焼け止めは御邸を出る前に塗ってある。距離が少しあるとはいえプライベートビーチ、移動してすぐに遊べる以上は着替える時ついでに塗った方がずっと効率的だ。

 

 母親と見たドラマのワンシーンで、カップルがビーチで日焼け止めを塗らせるのを見ていた姉が「やってみたい」と言ったのを「アレは更衣室なんかが混んでて塗る余裕が無かったのを、体よく他人に塗らせる為の方便だから私達には関係ないんだよ」と屁理屈で回避したのは我ながらよくやったと思う。

 

 姉妹だから一緒にお風呂は諦めているが、日焼け止めを塗るのは流石にギルティだ。

 推しに必要以上に触れるのはダメだろう。

 

 ……色々手遅れな気もするのは、気にしない事にする。




 まぁ日焼け止め塗るにしてもアヤベさんは首裏とかしか塗って貰う場所無いので、実際塗るとなったらアヤベさんがザーガに塗るんですけどね。本人はそこ無自覚
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