アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話   作:煎餅さん

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 今更ですが、メガミマガジンのアヤベさんのアレ破壊力えぐすぎません????
 ヤバいですよアレは。語彙がどっか行ってしまった。

 それはそれとして、ようやくウマ娘っぽさが出始める回。遅い、遅くない???
 あと執筆速度にムラがありすぎるんだわ、前回更新が2週間空けてるのに対して今回3日かそこらってお前。やる気スイッチの接点壊れてない???? というかそもそもワイのやる気スイッチ何処にあるん??? 何処……いやマジで何処……???

(7/22追記)ちょろちょろっと加筆修正しました
(24/1/21追記)またぞろ加筆修正いたした


小学一年生の夏休み(その③)

 海辺で遊び倒した私達は、くたくたになりながら御邸に帰った。

 砂遊びに始まり、水かけに遊泳にと。出来そうな事は全部やったので当然と言えば当然だろう。

 中身が中身だから、まぁ姉に付き合って適度にとか思っていたのだが意外と楽しい物だ。途中から自分が良い年した大人だって事を忘れてはしゃいだから、今ちょっとだけ恥ずかしいのは内緒だ。

 まぁ誰にバレる事でもないし、気にするのも無駄な気はするけど。

 

 ちなみにお城は三メートル四方の大作となった。参考になる建造物が祖母の御邸だったから、精度はそこそこ高い。

 流石はウマ娘パワーで、湿った砂をバケツ一杯にしても余裕で運搬できた。その為制作スピードもかなりのものだった事は、自分の身体の事ながら驚愕の一言に尽きた。

 

「シャワー、一緒に浴びようよ。私達ならお部屋のシャワー室も一緒に入れるでしょ?」

 

「いやいや、流石に狭いって。それに水着の姉さんは兎も角、姉さんに借りたこの服じゃ砂落とししなきゃ。先に入ってて良いよ」

 

 御邸に戻って自室へ向かう途中で、私は姉さんからのとんでもない提案を躱し途中で別れた。

 そのまま流れでメイドさんに声をかけて、外から人に見られない様にして服を脱ぎ砂を落とす。シャツは兎も角、ホットパンツはポケットもある上にデニム系お馴染みの裾折りもある。一度脱いでひっくり返せば出るわ出るわ、小さめの砂の山が出来上がった。

 

 たぶんそのまま洗濯に回しても対応はされただろうが、まぁ砂落としもせずぶん投げるのはちょっとね。自分も前世の小さい頃はあんまり気にしなかったんだろうけど、流石に気にするだけの知能があるとね。

 まぁそうでなくても、予め落としておくに越した事は無いだろう。ただでさえ妙な我が儘をした身だ、これ以上変な無礼は避けたい。

 

 

 

 そんなこんなで、そうして部屋に戻れば姉さんは既に着替え終えていた。早いなと思ったが、まぁ汗や海水の塩気を取るだけならそんな物か。

 

 そして着ている服に意識が向けば、普段から姉を見慣れていても目が釘付けになった。

 

 襟下に通したリボン紐がチャームポイントの白いブラウスを内に着て、その上から青いワンピース。

 腰の辺りには大きめのリボンがあしらわれていて、その姿はさながら海外の人形の様にも見えた。自分の姉がこんなにも可愛い、こんなに嬉しい事はないだろう。

 そりゃ普段からスカートとかワンピースとか、着てないわけじゃない。だけどなんていうか、ある種の親和性が高すぎる。もしかして私が知らないだけで、そういう要素でも前世からあったりしたのかな。

 

 それにしても自分たちの毛色が鹿毛なのがちょっと惜しい。とか思ってしまったけれど、それはそれで図々しい気もしないでもない。鹿毛だからこそいい味が出てるとも言えるし。

 でも変装でカツラなりでブロンドヘアにし、ワンピースを着る。みたいな事も将来的には出来るのかもと余計な事も考えるとちょっと楽しい。まぁやる機会は無いだろうけど、長さ的に染めなきゃ厳しいだろうし。

 

 少々脱線したが、兎に角すっかり見惚れてしまっていた。

 自分の姉の美しさに気が狂いそう、心のデジタンを御すことに慣れてない時期ならば発狂してた自信がある。

 

「どうしたの、ぼうっとして」

 

 とはいえ本当に狂うわけにはいかない。キョトンとした様子で小首を傾げる彼女に別の衝撃を受け、そのおかげでどうにか正気に戻る。

 一周回って、という奴だ。

 

「ごめん、姉さんがあんまり綺麗だったから。見惚れちゃってた……それだけ!」

 

 ここは素直にそう答えておく。しかし同時に直球で褒めた事が恥ずかしくなって、逃げる様にシャワー室へと逃げ込んだ。

 うん。正直、砂を落とす際に一度脱いでまた着て、今また脱ぐという繰り返しの煩わしさも頭からすっ飛ぶ衝撃だった。顔熱い。

 

 少しだけ、前世を思い返す。

 私はあんなアドマイヤベガは知らない、私が知っている私服のアドマイヤベガはあのセーター姿だけだ。もしかしたら前世で私が死んだあと、公式から供給でもあったのだろうか? もしそうなら納得できる。公式がこの世界でいう所の神ならば『神が誂えた』とも呼べる親和性にも説明が付く。まぁアヤベさん達が主役のアニメ、結局見れてないしその時出たかもしれない。ちょっと悔しい。

 

 ついでに言えば、初めてこの部屋を訪れた時に前世の記憶が一度鮮明に思い起こされたのも原因の一つだったりするのかも知れない。

 なにせこの部屋の構成は、トレセン学園の寮室と酷似していたのだから。

 

 それに気づいてしまえばあっという間で、その光景に紐づけられた知識が芋づる式に呼び起されもしよう。そうやって前世の記憶が一時的にだが、鮮明に思い出されたわけだ。

 結果として前世で見慣れていたウマ娘アドマイヤベガを改めて鮮明に思い出し、そのイメージが強い状態で幼い姿かつあんな素敵な物をお出しされればオタクの一人や二人発狂しても仕方がないだろう。

 今日も今日とて推しが愛しい。今となっては姉だけど、姉が推しでも良いじゃないか。

 

 

 

 ただまぁ、同時に現在進行形でキャラ崩壊が進んでいると思うと別の意味で発狂しそうになるのだけども。

 その原因が自分にあれば余計に。

 

 とてもつらい。

 

 

 

 兎に角、今はどうにか平常心を取り戻す。あんまり前世と今をゴチャゴチャ考えると、それだけでも精神的な疲労が溜まるからだ。そうでなくても前世は死んでるし、思えば色々後悔も出て来てしまうから良くない。

 

 そうやって考えて蛇口を捻れば、やや設定温度を低くし過ぎたシャワーが飛び出す。温いを通り越してもはや冷たい水が降りかかり、私の目を覚まさせてくれる。いや冷てぇ!

 

 ……うん、幾らか意識もスッキリした。気を取り直して今やるべき事をやろう、

 とりあえず軽く叩くだけでは落ちなかった髪や尻尾に絡んだ砂をブラシで梳き落とし、少なめにシャンプーを取って海水で塩気を帯びた毛を洗う。それを十分に濯いだら最後にトリートメントで簡単にケアをしてやって、一段落といった処だ。

 時間をかけたケアは夕刻以降、お風呂に入る時で十分だろう。ちなみにやらないという選択肢は無い、以前サボったら母親に首根っこ掴まれてキッチリケアされた事がある。

 なんならそれ以降、お目付け役として姉さんが常に一緒になった経緯もある。

 姉妹という点を差し引いても一緒にお風呂を諦めて受け入れているのには、こういう事情もあるのだ。

 

 ただまぁ下手すればこっちじゃ普通にしてても、メイドさんにやられる可能性もある。それはそれで気後れするが、ぶっちゃけ今日の移動手段に関しては悪手にしかなってなかった事を鑑みるともう諦めた方が早いかも知れない。絶望が私のゴールだ。

 

 そんな事を考えて、少々ゲンナリしつつもトリートメントを洗い流す。未だに慣れていない私は無駄に時間をかけがちで、四苦八苦しながらシャワーで濯いでいれば外から声が掛けられた。

 

「ザーガ、着替えとタオル、置いておくから」

 

 シャンプーの香りを嗅ぎつけてか、兎に角そんな風に声を掛けられて思い出す。何も用意せずにシャワー室へ逃げ込んだので、当然タオルも着替えも用意していなかったのだ。

 照れ隠しだったにせよ姉さんの手を煩わせてしまったのはマイナス点、その事実に内心でうめき声を上げながらも一先ずは感謝の意を伝える。

 

「ありがとう、姉さん」

 

「……」

 

 しかしそれに対する返答は無く、置いた後に部屋を出て行ってしまったのだろうかと考えてしまう。

 

 まぁ喉が渇く事もあるだろう、そう思って居れば粗方濯ぎ作業も終えた。ガラス戸を開いてタオルを手に取り、サッと身体の水気を拭き取る。

 しかしこのタオル、恐ろしくフワフワだ。きっとお高いタオルを使っているのだろう、驚きはすれども納得は出来た。

 

 そういえば姉さんは未だにフワフワに狂っていないが、もしや私のせいでそこも変わってしまったのだろうか。少し不安になってきた。ふわふわジャンキーではないアヤベさんは、はたしてアヤベさんなのか……? 気にしすぎても仕方がないけども。

 そもそもそれで待たせる訳にもいかないので、手早く水気を拭き取ってしまう。吸水性も抜群らしく、髪や尻尾の水気もあっという間に取り除かれる。素直にこれは便利だと思い、実家にも数枚欲しいぐらいだと考える。むしろあった方がふわふわジャンキー化を促進できるのではないかとも思う。

 

 そうして水気を拭った所に、いつもの飾り気の無い下着を着けて用意された着替えに手を付ける。

 ちなみに姉さんは水色のちょっとフリルが付いたのを着けてる。お揃いのをって強請られた時があったが、生憎だがガッツリ女の子向けのを着用する覚悟は未だに無い。諦めて欲しい。

 

「……?」

 

 手に取った着替えを見て、動きが止まる。

 はて、私はこんな服を持っていただろうか。そう考えてすぐ大方祖母が用意したのであろうと考え、祖母を立てる意味合いも込めてここは大人しく着ておく。

 

 一先ずはブラウスを着こむ。細いリボン紐が添えられており、恐らくは蝶ネクタイの様に襟下に通して前で結ぶのだろうと予想する。見覚えがあるなこれ、何だか嫌な予感がしてきた。

 そして続けてボトムスをと手に取れば、嫌な予感は形となって表れた。

 

 祖母の趣味的にパンツタイプの物は期待していなかったが、まぁせめて普通のスカートだろうと思った。しかし手に取られたそれはクリーム色のワンピース、しかも見覚えのある形状。特に腰に付けられた飾りリボンはほんの少し前に見た物。

 

 姉さんが着ていた服と、全く一致している。

 

「うそでしょ……」

 

 先頭の景色を譲らなさそうな子のセリフがつい口をついて出る。某作品の某回の様に台本の読み間違いでもなく、単純に心境が漏れて出た。ところがギッチョンチョン、これが現実である。

 

 とはいえここまで来てしまったならば、もはや着るしか道は無い。まさか折角用意してもらった衣類を着ないという選択をするわけにはいかないのだ。

 まして私は既に特大級の我が儘を通してもらった後。これ以上母を始め家族の顔に泥を塗るわけにはいかない。

 

 結局「ええい、ままよ!」と内心で一喝入れて着た。幸い背中側のリボンは既に形が出来ていて、自分で結んで形作る必要は無かったのが不幸中の幸いだろう。

 

 私自身の外見が姉と同一な以上、似合わないという事はあり得ない。が、心境としては気が気じゃない。なまじ前世の時の性別とその時の感覚を覚えているせいで、似合わない女装をしている感覚が拭えないのだ。

 実際の外見と、自己認識上での自分の容姿が一致していないとでも言った所か。我ながらよくその認識が残っていると思うが、これが無くなったら本当にヤバいと思っている所もあるので意識的に維持しようとしている面もある。

 

 

 

 そしてその姿で出て行けば、顔を朱く染めた姉さんが待ち伏せていた。

 いっそ部屋を出ていてくれれば良かったのに。そう想いながらも、けれどまんざらではないと思う自分が居たのも事実だった。

 

「……ザーガも、よく似合ってるよ」

 

 お返しだと言わんばかりに、そう言う姉さん。

 その言葉を受けて顔が熱くなって行くのを感じながら、今度は逃げる口実も無く立ち尽くす。

 

 だからただ、彼女からの賞賛を黙って受け取るしか出来なかった。

 けれどそれを素直に受け入れられる程、私はまだ少女にはなり切れていない。

 

 だからただ、羞恥心だけが私の心を支配していた。

 

 

 

——☆☆☆——

 

 

 

 海で遊び、祖母と散歩に出かけたり、宿題を前にウンウンと唸る姉さんを見て面白がる日々。まぁ早い話が、あっという間に数日が経った。

 この日は御邸の中を散策していて、ふと窓の外を見ればここ数日で見慣れない物が見えた。

 今日一日の行動が決まったきっかけである。

 

 見えた物は大型のバスだった。それも、複数。

 

「ああ、それはトレセン学園の生徒たちですね。この辺りは合宿所があるの。うちのプライベートビーチは彼女たちにも一部開放しているから、今後お話する機会もあるでしょう」

 

 気になって祖母に聞いてみれば、そんな答え。ついでにサラッと、普段使っているビーチをトレセン学園生に開放する事も告げられた。

 もちろん一部である為、望めば誰も来ない場所で遊ぶことも出来るがそこは姉さん次第だろう。

 

 そしてそんな事を考えていた私はすっかり忘れていた。現状これといって走る事に明確な意欲を見せていなかったとはいえ、彼女もウマ娘だ。

 早い話、それなり以上に走る事に関心はあったらしい。両親たちの思惑や親戚たちの感情とはまた別に。

 

 そしてきっと、私が思っているのとすら違う行動原理を抱いて。

 

 

 

 所変わってプライベートビーチ、尤も現在は既にトレセン生も何名かが使用しているので完全なプライベートではない。

 ちなみに利用している生徒たちは学園指定の水着か、もしくは体操服を身に付けている。その為、流石にそこに水着で飛び込む勇気は無かったの。

 

 という事で祖母が用意していたという子どものウマ娘向け体操服を着込んで行った。姉さんは短パンだったが、何故か私はブルマだった。祖母曰く「貴女はこれって思ったのよ」との事だった。

 解せぬ。

 

 気を取り直し周囲を見れば、貸切としか伝えられていないらしいトレセン生が到着した私達の方を向いていた。しかし傍に居るメイドを見て直ぐに察したのか軽く会釈をしたり、手を振ったりと反応は様々であったが友好的な様で一安心。いやまぁ逆の立場で考えるなら、場所を借りてる身で邪険にする方がどうかしているので当然ではあるけどね。

 

 そしてそんな風に考えていれば、一人のウマ娘が凄い勢いで駆けてきた。

 

「こんにちは、トレセン学園中等部のブリッジコンプです! ここを貸し出してくれてる人達のご家族……で、あってますよね?」

 

 目の前の尾花栗毛のウマ娘はそう名乗り、こちらにそう質問を投げかけた。質問と言ってもほぼ事実確認だが、まぁ初対面だからそんな聞き方にもなろう。

 そして彼女の顔は前世でもそれなり以上に目にしたし、名前もよく見た名脇役的なモブウマ娘であった。

 そうか、この世界じゃブリッジコンプはずっと先輩の立ち位置になるのか。というかトレセンに入る頃には、既にOGになってそうなぐらいの先輩だが。

 

「はい、あっていますよ。私はアドマイヤベガといいます、こちらが妹の——」

 

「アナザーベガです、どうぞよろしくお願いします、ブリッジコンプさん」

 

 まぁ兎に角だ。間髪入れずに姉さんが返答して名乗り、私もそんな彼女の言葉を引き継ぐようにして自己紹介をする。一瞬だけブリッジコンプの表情が驚きの物に変わるが、それもすぐに喜色満面な物へと変わった。

 

「わー、すっごい! 見た感じまだ小学生か少し下だよね!? 私が貴女たちぐらいの時にはそんなに上手に自己紹介出来なかったよ!?」

 

 そしてはしゃぐ様にそう言って、後はひたすら「すごい」しか言わなくなった。

 絶妙に既視感を覚えるが、私の知るあの感情が高ぶると語彙が極端に無くなるウマ娘とブリッジコンプに接点は無かったと思う。単純にそういう性格の子なのだろう。

 そしてそんな事をしていれば、彼女の学友が気になり始めて集まるのもまた道理であった。

 

「ちょっと何はしゃいでるのよ、その子達困っちゃってるじゃない」

 

「そうですよコンプちゃん、折角ご厚意で貸して貰ってるんだから。困らせちゃダメですよ?」

 

 ブリッジコンプと同じグループらしいウマ娘二人が、そう言いながら近づいてきた。他のグループのウマ娘達はといえば、大勢でぞろぞろ行っても仕方がないと判断したのか静観する姿勢に入っていた。

 実際には一見我関せずと遊んでいるように見えるが、その実その意識がこちらへ向いているのはよく分かる。何かあれば即座に反応できる状態にも見える。

 

「えー。でもでもカロルちゃんオーちゃん、この子達凄いんだよ? こんなに小さいのに受け答えとか確りしてて……」

 

「いや、コンプは一般家庭の出じゃん。そりゃそうだよ」

 

「親友相手に大変言い難いのですが、カロルちゃんと同意見です。所謂名家に生まれた者ならば総じて、この子達ぐらいの年齢であれば普通の事ですよ? 専属講師が各種マナーを教えてくださる事が多いですし」

 

 そして彼女達が来てあっという間に、目の前でそんな残酷に思える言葉の応酬が繰り広げられた。

 カロルちゃんと呼ばれた子の『一般家庭の出』という言葉でワンヒット、続きオーちゃんと呼ばれた子の『名家に生まれた者なら普通の事』『専属講師』という言葉でツー、スリーヒット。

 ブリッジコンプはその言葉を受ける度に、やや大げさに胸を押さえて反応し、最後には膝から崩れ落ちる。ちょっとだけ親近感が湧いたが、このやり取りで既に彼女の中で私達は高嶺の花に近い扱いになっていそうだ。少し残念。

 

 しかし、彼女が真にダメージを受けるのはこの後だった。

 

「えっと、その。私達は専属講師さんは居なくて、ザーガが色々と私に教えてくれたんです。この子、私より先にたくさん本を読んで、すっごく賢かったから……」

 

 そんな事を、我が姉は申し訳なさそうに言った。というのも、仮称オーちゃんの言った『専属講師』なんてものは事実我が家には居なかったからだ。

 そもそも我らが父親が私と同じくあからさまな『そういうお金持ちの雰囲気』が苦手である以上、よほどの事が無い限りそんな存在を自宅に常駐させるはずが無いのだ。

 もっと言えば、習い事なんかも現状何一つしていない。興味を示せば、まぁ何かさせて貰えるだろうが。

 

 しかし姉さんや、そんな事をわざわざ教える必要は無かったんだよ。

 この天然さんめ、可愛い奴め。

 

「ふっ……私が、おバカだっただけ、だったのね……ガクリ」

 

 そしてブリッジコンプは、辛うじて膝立ちだった所からふらりと横に倒れた。ワン、ツー、スリーヒットでその胴体をがら空きにさせられた挙句、無垢な我が姉から発せられた無慈悲な事実がトドメの一撃となったらしい。

 

 口で「ガクリ」なんて言って倒れる辺り余裕はありそうだが、その目には涙が見えた。割と本気で堪えたらしい。

 

「あちゃぁ……」

 

「あらあら」

 

「……そっとしておこう」

 

 転生者補正があるとはいえ、彼女たちにそれを言える筈もなく。結果的に彼女からは『独力で学習した子』と認識された以上、私から掛けられる声も無い。

 仮称カロルちゃん、オーちゃんに続いてただ一言。それだけの言葉を漏らすしか、私にはできなかった。

 

 

 

 さて、少し時間を置いてブリッジコンプはどうにか回復した。聞けばこんなやり取りをして倒れるのは日常茶飯事で、あれば甘い物でも食べさせておけば一時間後にはすっかり忘れて元通りになるのだとか。

 ……それでいいのだろうか。

 

 ちなみにそんな彼女が立ち直るまでの間、どうせすぐに回復するからと自己紹介が始まった。私達も改めてする事になったが、まぁそこは良いとしよう。

 

 カロルと呼ばれた鹿毛のウマ娘は『リボンカロル』と名乗り、オーちゃんと呼ばれた同じく鹿毛のウマ娘は『オーボエリズム』と名乗った。こちらも聞き覚えのある、前世ではモブウマ娘として一部でかなりの人気を博した子達だ。

 

 しかしこうして相対すると、アプリではデータ容量の都合で画一的な容姿だったのが、こちらでは個性を獲得しているらしい。パッと見の印象こそ同じだが、目尻の特徴や髪飾りといった細部に拘りが見えた。

 こうしてみると、やはりゲームの中とはまた別なのだなぁと実感する。生きているのだと感じられる要素が見えるのは、何だか嬉しい気分になる。

 

 ちなみにリボンカロルはリボン家、オーボエリズムはリズム家といった名家出身らしい。一方で先も話題に上がったが、ブリッジコンプは一般の出だ。彼女が一般の出ながらスプリント路線で活躍しだした結果、同期で同じスプリンターであったリボンカロルと縁が出来たとの事だった。

 オーボエリズムはステイヤー路線のウマ娘で、それが何故と問えば単にリズム家とリボン家は仲が良いとの事。家の仲が良く、同期という事もあって仲が良くなったのだそう。そこにブリッジコンプが混ざった形なのだとか。

 

 とはいえ私達は、現状レースの情報は追ってないから残念ながら彼女達の事は知らないけどね。そっか二人ともスプリント路線なんだ。そこにステイヤー、なんか面白い組み合わせだ。

 

「いやぁ、最初の内は物凄く気を遣っちゃって。今思い出すと恥ずかしい……」

 

「いやいや、それ言い出したら私達がファストフード店で初めてバーガー食べた時なんてどうするのさ。コンプが居なかったらアタシもオーちゃんも赤っ恥だったじゃない」

 

「それはそもそも、私が誘わなかったら来なかったでしょ!?」

 

 さて、いつの間にか復活していたブリッジコンプを含めて思い出話が始まっていた。

 女三人寄れば姦しいと言うが、この二人だけでも十分に賑やかである。オーボエリズムはといえばニコニコと笑顔でそれを見守り、偶に同意をリボンカロルから求められれば頷いて答える。うん、楽しそうで何よりだ。

 しかしそれも長くなり過ぎると判断したらしいオーボエリズムの発言で、区切りを迎える。

 

「ほらほら二人とも、私達のお話もほどほどにしないと日が暮れてしまいます。そうなってしまってはアヤベちゃんもザーガちゃんも、困ってしまいますよ?」

 

「おっと、そういえばそうだった。いやぁ、ザーガちゃんが聞き上手だからついつい話し過ぎちゃった」

 

 ブリッジコンプは聞き上手と言うが、今回は単に適切なタイミングで相槌を打っただけである。そして実際彼女たちの話は割と面白かったのもそれを誘発する要因になったし、姉さんも興味津々な様子で話を聞いていたので止める理由も無かったのでこうなった。

 とはいえこのまま日が暮れては困ったのもまた事実で、今日は我が姉の要望でここに来ていた。オーボエリズムが巧く切り上げてくれたのは、正直助かる。

 

「さて、それじゃどうしようか。折角だから一緒に遊ぶのも手だけど、午後は明日以降のトレーニングメニューを相談したいってトレーナーには言われてるし……あー、お昼を考えるとあまり時間が無いなぁ……」

 

 そしてリボンカロルがそう言って、他の二人も確かにと悩みだす。特にブリッジコンプは話を始めた筆頭だった為、顔を青くしている。変な事考えてないだろうか。

 

「あわわ……指詰められる……」

 

「何処でそんな言葉覚えたんですかブリッジコンプさん」

 

 妄想が突飛すぎる上に恐ろしい事を言い出したぞこの子。私もついそんなツッコみを入れてしまったが、他の三人も同様に「この子は何を言っているんだろう」という表情をしていた。

 私達の実家の方だったらそれっぽさが増す為、ある意味では祖母の別荘が洋式で良かったと思う。

 

 とはいえこのままではブリッジコンプの天然ボケに対する突っ込みで話が脱線し続けて、軌道修正で時間が潰れかねなかったので姉さんに合図を送る。

 早い所用件を言わなければこの調子で時間が潰れるぞ、と。

 

 そしてそれを違えずに受け取った姉さんは、意を決して今日ここに来た目的を告げる。

 

「今日は、実はお願いがあって来ました」

 

 その言葉に、三人は黙って続きを待ってくれた。真剣さを帯びたその雰囲気に応えてか、三人もまた真剣に構えてくれている。結果としてそれに気圧されそうになったが、それで諦めてしまう様では話にならない。

 どうにか一呼吸を置き、姉さんはその続きを紡ぎ出す。

 

「私達に、走り方を教えてください」

 

 

 

 我が姉の、ひいては私にとっての第一歩。

 

 厳密には、その第一歩を進める前の地固め。

 

 それが、今日という日に起きた出来事であった。




 アドマイヤアナザー時代の各種ヒミツですが当時の基礎設定(今の過去編やる前)から捻り出してた物なので、基本的には変えない心算ですがニュアンスが変わったりとか設定を詰める前の端的な物だったりした都合今回の様な事になります。あっち行ったりこっち行ったり忙しないのは私の力量不足……というか見切り発車癖のせい。精進しなきゃ(治るとは言ってない
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