アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話   作:煎餅さん

7 / 22
くっそ今更だけどやっぱタイトル長ぇな……

(7/22追記)ちょろちょろっと加筆修正しました
(24/1/21追記)またぞろ加筆修正


小学一年生の夏休み(その④)

 三ヶ月ぐらい前の事だ。

 私が小学校に入学して間もない頃だった。

 

「アヤベちゃんって、走れないの?」

 

 クラスメイトの女の子が、そう不思議そうに聞いてきた。

 言われてみれば、確かに走った事が無いかも知れない。厳密には、意識して走った事が無い。

 結局この日は曖昧な答えになってしまった。

 たぶんこの時、ザーガが居たら指摘したのだろう。『走らない』と『走れない』は全く違うのだと。

 

 それから数日後の事だ。別のクラスどころか、別の学年の男子生徒がニヤニヤと笑いながら言った。

 

「お前って走れないんだろ?」

 

 そんな事を突然言って来た。突然すぎて、何を言われたのか一瞬理解が及ばなかった。

 そんな私に対して、答えが無かった事を肯定と取ったのか面白おかしく言い触らし始めた。そして曰く、走れないウマ娘になら勝てると言った。

 

 だが当然、そんな事は無い。ザーガから口酸っぱく言われているのだ、私達ウマ娘とそうでないヒトでは根本的に出力上限が違うのだと。だから勝てる要素は絶無に等しい。

 強いて例外を上げるならば、ルールやハンデで縛った場合程度の物だろう。

 

 事実過去にはそういう番組企画があり、大きなハンデがあったとはいえ辛うじてヒトが勝ったレースがあった。ただしそれも逆の見方をすれば、大きなハンデを物ともせずゴールギリギリには接戦に迫れるのがウマ娘なのだ。

 

 そしてやはり当然、その子とのかけっこ勝負では私が圧勝した。ヒトとウマ娘がどちらも居る学校では、コースと言えるコースが無いので走り難い。バ場と言える環境でもないし、整備も今一で凸凹している。

 それでもこの場合ならば、私の前にハンデとして立ち塞がるには足りなさすぎる。

 

 まして直接的にバカにした発言をした相手に腹を立てない程、私は大人ではなかった。そして距離も僅か50mと私には非常に短かったが、先に挙げた番組企画と違って彼は走りのプロではない。

 スタートも、加速も何もかも私が上。最初から最後まで突き放すのは容易であった。

 

 これは後日ザーガに聞いた話だけれど、特に小学生の男の子というのは走る事がステータスになるのだそうだ。脚の速い男の子が強い、モテる。そういう特有の性質があるらしい。

 ならば今回のもその延長なのだろう。ウマ娘に勝ったというのは、相手がどんなに脚が遅いウマ娘だったとしても小学生には十分すぎるステータスだったのだろう。それが目当てだったらしい、ただそれだけの事だった。

 

 事実として他のウマ娘の友達と違って、私とザーガはあまり走らなかった。だから走れない、脚が遅いと勘違いされたのだろう。そう思う事も出来た筈だった。

 

 彼の負け惜しみを聞くまでは。

 

 

 

「双子のウマ娘は走らないんじゃなかったのかよ!」

 

 その言葉の意味をその後、彼に聞く事は出来なかった。

 そしてザーガにも、不思議と聞く事は憚られた。

 

 彼女にだけは、聞いてはいけない気がしたから。

 

 

 

——☆☆☆——

 

 

 

 あの日まで、私は走る事にそれほど特別な感情は無かった。

 ザーガが居ればそれでいい、妹が居るという事実だけで十分だった。不思議とそう思えたし、それに何の疑問も抱かなかった。

 けれどあの日、あの言葉を聞いてからは明確な感情を得た。得てしまった。

 

 走りたくない。

 

 ウマ娘の本能とは真逆を行く感情、きっと私はおかしくなっちゃったんだ。本の通りじゃない私は、きっと変な目で見られるかもしれない。でも私はザーガが居るからそれでいい。

 けれどそこまで考えて、ふと気づく。ならザーガはどうなのだろうか、あの子は私が居れば十分と言ってくれるだろうか。

 自信がない、聞くのも怖い。どうしたらいいだろう。

 

 そう悩んでいれば、ある日彼女は本を読んでいた。珈琲だとか、お父さん達が偶に飲んでいるお酒だとかの本だった。

 私は常々、この子もちょっとぐらい我が儘を言って何か買って貰えば良いのにと思ってはいた。けれどこうも本格的な物を調べている彼女を見ると、それが好きなのだなと感じてしまった。そんなに調べる程、好きなのだと感じとれてしまった。

 

 その『好き』の中で私は、どの位置に居るのだろうか。

 『走る』事は、どの位置にあるのだろうか。

 

 気になって、けれどうまく聞けなくて。結局その日は、ザーガに意地悪な事をしてしまった。あの子は本を読んでいたのに、それを邪魔してしまった。私の我が儘で。

 

 けれど、それでも彼女が私の我が儘を優先してくれた。肯定してくれた。

 

 それにとても、私はとても、安心したのだ。

 彼女ならきっと、どんな私でも肯定してくれる。そう考えて。

 

 

 

 そして、安心したからこそ。そうして得た安心を、盤石な物にしたかった。

 こうすれば、少なくともザーガが走る事をどう思っているのかが分かる。そう思って、私はトレセン学園に所属するウマ娘に頼もうと画策した。

 ザーガとお祖母ちゃんが、今日からプライベートビーチにトレセン学園の人達が来ると教えてくれた。それで思いついたのだ。

 

 走る事のプロでもある、彼女達に教えを乞えば良いのではないかと。

 

「うーん、走り方を教えてと言われてもなぁ……」

 

 しかしその反応は芳しくない。むしろ難色を示していて、断られても可笑しくない雰囲気であった。

 

「私達を通して、トレーナーさんから本格的な指導を受けてみたいって意味なのか。それとも私達個人の走り方を参考にしたいのか、どっちなのかで大分変わってきちゃうんだよねぇ」

 

 ブリッジコンプさんに続き、リボンカロルさんまでもがそんな事を口にする。ならばオーボエリズムさんはと見てみれば、彼女は笑顔のままであった。

 けれどよく見れば、眉尻を下げて所謂『少し困った様な』笑顔を浮かべていた。

 

「……ごめんなさい、私達の一存では決められません。少しだけ時間を頂けるかしら、トレーナーさんなら何か教えてあげられるかもしれませんから」

 

 そう、私達に告げた。

 一先ずは話を通して貰えそうな事に安心する、ここでどうしても駄目だと言われてしまえばそれまでだったし。話が繋がった事を、今は喜ぼう。

 

「いえ、無茶は承知の上です。ありがとうございます!」

 

 そう言って、頭を下げる。無茶は承知、その言葉に偽りは無い。しかしそれでも期待はしてしまう、せめて何か掴みたい。その何かさえつかめれば、長く彼女たちに迷惑をかける心算も無いのだ。

 

 最低限で構わない、ただ『基本的な走り方』を教わるだけで十分だ。自己評価だが、私はそんなに悪くはない筈。けれどザーガの走りをちゃんと見た事が無いから、この師事を乞う行為はその保険なのだ。

 もしザーガの走りが下手でも、教わって改善されれば幾らか変わるだろう。速さも、そして意識もだ。その為に彼女たちの協力は、必要不可欠だった。

 

「いやぁ、確りした子だとは思ったけど。ちゃんと年相応に我が儘も言うんだねぇ。ちょっと安心しちゃった」

 

「そりゃ言うでしょ、アタシだって昔は何度言った事か。むしろ、なまじ言えば何でも貰えるから、普通は我が儘を押し通そうとする子が多いと考えると全然我が儘に入らないと思うよ?」

 

 ブリッジコンプとリボンカロルはそう言って、私達を微笑ましげに見る。

 

 ……もしかして、目の前に居るのは凄いウマ娘達だったりするのだろうか。何か色々と勘違いされている気がしてきた。

 

 

 

——☆☆☆——

 

 

 

「ええ~っ!? 私の京王杯ジュニアステークス見てないのぉ!?」

 

「アタシのフィリーズレビューも!? えっ、だって、凄い真剣な顔だったから、アタシ達のファンだとばかり……」

 

 さて、案の定と言うべきか。私は知らないで、今クラシックの有力ウマ娘に対して教えを乞おうとしていたらしい。そして同時に彼女たちは、私をファンだと勘違いしたらしい。

 

 それは難色を示しもするだろう。ザーガから聞いたが、彼女たちの様な有力ウマ娘に憧れて無茶をした子が、そのまま脚を壊してしまうというのは決して珍しい話では無いのだという。であれば、自分たちがその当事者になるのは避けたいはずだ。

 

 うん、確かに即答できるはずもない。

 

「うわぁ、恥ずかしい……てっきりそういうのだと思ってた……。私に憧れて、それで教えて欲しいって言って来たんだとばかり……基礎も基礎の部分を教えてって意味かぁ、そっちかぁ……!!」

 

「アタシもちょっと期待しちゃったからバカに出来ない……、でもほら? 重賞ウマ娘じゃん、アタシ達さ。そういうシチュエーションに憧れちゃうっていうか……」

 

「それを蚊帳の外の第三者として見ていたのに、勘違いに気付けなかった私はいったい……」

 

 要点を纏めると、私の申し出は大まかに二種類に分けて受け止められたらしい。

 

 一つは、彼女達に直接教えて貰う事。一番シンプルで、一番危険な物。あくまで選手でしかなく、教える立場ではない彼女達が走り方を教えるという事態。

 

 もう一つは彼女達のトレーナーを巻き込み、彼女達の様な走り方を教えて貰う事。比較的安全策ではあるが、それでも純粋に能力差がありすぎる。

 まして高負荷トレーニングを行うための夏合宿で、子どもの面倒を見るとなるとトレーナーの負担も大きいだろう。こちらはこちらで、今度はトレーナー側が担当ウマ娘への注意が疎かになる可能性がある事態。

 

 難色を示される要素しかない。

 

 しかしこちらの教えて貰いたい事は極単純な物で、何度も言うが基本的な走法だ。そんな危険な橋を渡る様な真似は、私もしたくはない。なんなら少し教えて貰えれば、後は自分たちで反復練習が出来る。本当にそれだけで良かったのである。

 それらの前提が『私が彼女達のファンである事』であったのが大きな間違いだった。もしかして忘れているのかもしれないが、最初に話しかけてきたのは彼女達自身である。偶然目の前に向こうから来たから頼んだだけで、私としては誰でもよかった。

 

「えっと、なんか、ごめんなさい」

 

 とはいえ、勘違いをさせたのは私の方だ。最初から基本的な走り方を教えてと言えば、こうはならなかったかもしれない。顔を真っ赤にして手で覆っている二人が、少し不憫に思えて来た。かなり申し訳ないことをしでかした気がする。

 しかし不意に肩を叩かれ、振り向く。

 

「何も言わず、そっとしておこう」

 

 ザーガがそう言って、静かに首を横に振っていた。確かにここは彼女の言う通り、そっとしておいた方が良いかも知れない。

 

 

 

 そんなこんなで彼女達が落ち着くのに時間が掛かったが、一先ずは無事に教えて貰える事になった。

 これから夏休み中、私達の走りを見てくれると約束してくれたのだ。もちろん彼女達のトレーナーも同意した上で。更に基本的な走法に関しても持ち歩いているという資料を貸してくれて、連日通わずとも無茶さえしなければそれなりに形にはなるだろうとも話された。

 

 とりあえず今日は彼女達のトレーニングを見学し、合間に資料の分かり難い部分を教えて貰ったりがメインとなった。その中で普段の食事の内容を確認されたりと、思いの外本格的な物になったのは想定外であったが。

 

 結果的に各種資料の貸出と、トレーニングメニューのメモ。さらに身体づくりの為の栄養素と、それらを摂取するのに最適な食材のリストまで貰ってしまった。

 ちなみに受け取ったリストはメイドさんが預かってくれて、既に情報が御邸に伝わった様だった。早ければ今晩から、食事の内容が変わるのだろう。

 

「今日君たちに渡したトレーニングリストは、あくまで目安です。全てを行う必要は無いですし、毎日する必要もありません」

 

 そう語るのはブリッジコンプさんのトレーナー。

 今回の資料やリストを用意してくれたのは殆どが彼であり、他二人のトレーナーは主に選定を行っていた。その為、直接的な注意事項等の説明は彼から行われていた。

 

「基本的には自重トレーニングが主ですが、これらはあくまで補助的な物です。メインは走法取得である事を忘れず、資料を基にフォームを意識する事に注力してください」

 

 特に念押ししてくるのは、走法とそのフォームに関連した資料とトレーニング方法と別に渡されたリストの各種自重トレーニングについてだ。

 そもそも、まだ小学生である私達にこういったトレーニングは不要なのだそう。これにはザーガも同意していて、通常は友達と走ったりして必要な筋肉や自分に合った走り方を養うのが自然らしい。仮にその時に得た走り方が拙い様でも、それを矯正するのはトレセン学園に入ってからでも遅くは無いとの事。

 

 しかし私達はと言えば、ずっと幼い頃にはそうして走っていた事もあったらしいという程度だ。幼稚園に入って今まで、あまり走った覚えはない。大体がザーガと一緒に居る事が多く、ザーガがしている事を真似たりして読書に耽る事が多かった。

 特に彼女に勧められた星の本は、不思議と惹かれる様に没頭したりもした。

 

 要は比較的、引き籠り気味だったのだ。走れと言われれば走ったし、事実学校では体育の授業もあるのでそこでも走る。けれど自発的に走る事は本当に無かった。

 それらを補う為の筋力トレーニング、それがこのリストであった。

 

「一応君たちの年齢に対して、やや不足気味な筋力を補う為の物です。同時に余計な筋肉を身に付けてしまう恐れもあります。なので先ずは走って、次に資料を見て改善点を探し、その改善策に対応したトレーニングを選択する事が重要です。闇雲にトレーニングをした形跡が少しでもあった場合、資料は全て没収させて頂くのでそのつもりで」

 

 そして最後にそう言い渡され、メイドさん達とも話を付けた後に解散の流れになり始めた。

 ちなみにメイドさん曰く、万が一資料を没収するに至った際は邸内でのトレーニングを全面禁止し見張る様にとの事だ。隠さずに伝える辺り、絶対に許さないという圧を感じる。

 

「今日は私の我が儘を聞いて頂き、ありがとうございました。これから暫く、お世話になります!」

 

「よろしくお願いします!」

 

 改めて三人のトレーナーとその担当ウマ娘達へ頭を下げる。ザーガもそれに倣い、私に続いた。トレーナー陣はそれに満足げに頷き、その担当ウマ娘であるブリッジコンプさん達は嬉しそうに手を振ってくれていた。

 

 こうして私達の、トレーニング生活が始まった。

 ザーガは終始、私にくっついて共に説明を受けていた。だから一緒にトレーニングをするのは間違いないだろう。問題は彼女に何処まで走るつもりがあるのかだが、それはこれから見定めればいい。丸々二ヶ月近くはあるのだ、それで見定めきれなければ以降も継続するか考えなければいけないがそれはその時でいい。

 

 

 

 そういえば、彼らは知っているだろうか。『双子のウマ娘は走らない』という、その言葉の意味を。




前にも書いたけど、やっとウマ娘っぽさが出て来たな……やっぱトレーニングの話をしたりモブウマ娘の名前が出たりするとそれっぽさ増すね。レース名とか

以下モブウマ娘三人衆戦績

ブリッジコンプ:デビュー2着(リボンカロル)・未勝利戦1着・小倉ジュニアステークス1着・京王杯ジュニアステークス1着
 次走:スプリンターズステークス

リボンカロル:デビュー1着・カンナステークス1着・黒松賞1着・フィリーズレビュー1着
 次走:スプリンターズステークス

オーボエリズム:デビュー2着・未勝利戦2着・未勝利戦1着・すみれステークス1着・青葉賞1着
 次走:神戸新聞杯
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