アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話   作:煎餅さん

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小1時代の夏休みにどれだけ時間かけてんだって?
悪いがもうちょっとだけ続くし、何なら小学生の間は基本夏休みにイベントをねじ込むつもり。学年こそ飛ばすけどね。

以下、前回のブリッジコンプ達が恥ずかしさで悶絶した後トレーナーさん達に状況報告する時に起きた寸劇。ついでに彼女たちの関係の紹介文。

(7/25追記 ちょこまかと加筆修正しました)
(24/1/21追記)またぞろ加筆修正、特殊タグなるものもお試し導入

——☆☆☆——

「私、ブリッジコンプ! トレセン学園所属の中等部2年生!

 本格化が近い事に気付いて、王道の芝2000mでクラシック三冠路線を目指して頑張ってたの。でも模擬レースではいっつも惨敗! このままじゃ折角の選抜レースも良い所無しに終わっちゃう! こうなりゃ自棄だとロングスパートって思ったけど、やっぱりダメ! 結局沈んで最下位に!
 もうダメだって落ち込んでたら今のトレーナーさんに話しかけられて、『君がクラシック三冠に拘らないなら勝たせてあげられる』ってスカウトを受けちゃったの! そんなこんなで私は短距離戦線を走る事に決まって、トレーナーさんと一緒に頑張っていざデビュー! って思ったら滅茶苦茶強い子が出走してたみたいで、ハナ差の二着! 負けてるじゃん!? 私のハレ舞台負けちゃってるじゃん!?

 悔しくてトレーナーさんの制止も振り切って翌週の未勝利戦に挑んで、ぶっちぎりで勝ってやったわ! えへん! って調子に乗ってたらトレーナーさんにゲンコツされて怒られちゃった、ごめんなさ~い!!

 そうして勝って喜んで、怒られてしょげてたら今度はいきなり格上挑戦!? G3の小倉ジュニアステークスに挑む事になっちゃった!? 待って待って、私勝てるの!? 大丈夫!? とか思ってたのに勝っちゃった!! 私すげぇ!!
 続く次走はG2の京王杯ジュニアステークス!! これもやっぱり勝っちゃった!!? え、嘘!? 夢じゃないよねこれ!?

 そして決まった次走はスプリンターズステークス!! G1じゃん!? マジで!? 私一般家庭の出なんですけど!? 大丈夫これ、干されない!? 名家の人たちに闇討ちされない!?

 なんて騒いでたらまさにその名家出身のウマ娘、リボンカロルに話しかけられちゃった! ってよく見たらデビュー戦で私に勝った子じゃん!? え、友達になろうって!? ほんとに!?
 はい? 私があの時ハナ差まで迫ったから本家に実力を疑われた!? それは私恨まれる奴じゃないのかなぁ!?
 とか話してたら普通に仲良くなったしもう一人名家出身のウマ娘、オーボエリズムちゃんともお友達に!! カロルちゃんの幼馴染らしいけど、すっごく仲が良くてびっくりしちゃった!! 距離近い、いや近くない!? 名家同士の幼馴染ってその距離が普通なの!?

 漫才みたいだなってトレーナーさんにツッコまれて漫才じゃないやいって返して、そのまま暫くして気付けば夏休みに!! そしてついに私達は初めての夏合宿!!
 先ずは移動の疲れを抜こうと真っ先にビーチに遊びに行ったんだけど、ここって何処かの名家さんのプライベートビーチを貸して貰ってるんだって! やべぇ!! とか言ってたらそれっぽい雰囲気のっていうかメイドさん連れた凄いそっくりな姉妹ウマ娘ちゃんが表れて、これはもう庶民代表の私が真っ先にお礼に……って応対が凄い確りしてる!? しかも漫画でよく見るそういう勉強を見て貰ったんでも無くて自力で!? やだ、私の幼少期……意識低すぎ……???

 カロルちゃんとオーちゃんも交えてショックから立ち直りつつお話してたら、なんと走り方を教えて欲しいって申し出が!! えー、困っちゃったなー!! そっかー、私もついにそういうお願いされちゃうようなウマ娘になっちゃったか~!!! まあG2勝っちゃったもんね~!!! 次走なんてG1だもんねぇ~~!!!

 ……えっ? 知らない? 違う? 普通に走り方を教えて欲しいだけ? え、私のってか私とカロルちゃんの早とちり??? うわぁ……恥っず……、まって……滅茶苦茶辛い……あっ待って……謝らないで……余計に辛い……。もぅマヂ無理、トレーナーさんに相談しよ……」



「と、こんな感じです」

「状況を説明して欲しいとは言いましたが、寸劇をしろとは言ってませんよコンプ。というより何故ボクやカロルさん達の出会いまで遡ってるんですか……」

「いやウケる」

「カロルちゃん、録画しましたけど後で見ますか?」

「カロルちゃん酷い……ってオーちゃん??? 待って、消して???」


小学一年生の夏休み(その⑤)

 姉さんが走る事に興味を持ち始めて早くも一週間が経った。

 いやまぁ興味を持つというか、単にいい機会だから走ろうってニュアンスなんだろうけどさ。私としては本人が走る気になって嬉しいしね、アヤベさんは走ってこそよ。

 

 ちなみにこっち、御邸に来てからは半月が経つ。そろそろ普通の小学校も夏休み期間に入りだして、夏合宿の場では子どもの見物客も増え始める頃だろう。

 余談だが私達の学校もそんな普通の小学校の筈だったが、今年度から七月頭から八月末までの約二ヶ月に変更されたらしい。何やら作為的な何かを感じるが、藪蛇に小学生は対処出来ないので黙って受け入れる。触らぬ神に祟りなしだ。

 それに大多数の生徒は休みが増えたと無邪気に喜んでるしね。うちの姉も運が良かったねと喜んでた側だし。……その分増えてる宿題は、忘れない様にしようね!

 

 話を戻して当の姉さんだが、正直こんなトレーニングに意味があるのか疑問があった。

 トレーニングを始めた初日に成長記録を付ける為と走ったのだが、先ず走行フォームがほぼ最初からお手本に近い形で走れていた。修正が必要な部分も精々上半身の筋力不足から来るブレであり、それもこの一週間のトレーニングで解消されていると思う。一週間もあれば程度にも依るが、最低でも二度は起こるであろう超回復が良い効果を生み出してくれる筈だ。

 他の部分に関しても目立った欠点は見受けられず、端的に言うならば『天才』以外に無い。やだ、私の姉……凄すぎ。

 

 現役選手、ひいてはそのトレーナーから師事を仰ぐというのは姉さんの発案だったが、興味が出ただけなら本人がこれだけ走れる以上必要無かったかもしれない。

 いや、蓋を開けたら私に必要だったから、結果論で言えば万々歳ではあったのだけど。

 

 

 

 そう、天才的な姉に対して私は、本当に酷い物だったのだ。

 

 簡単に例を挙げれば、意識し続けなければフォームは崩れ、かといって意識をしていては満足に速度も出ないといった具合。

 以前に姉さんが走る走らないによらず、私も自分自身の事を考えても良いかも知れないと思案した事があったのを思い出す。

 

 まさかこんな形で、走る事を選んだ場合、その先に壁があると知ると思わなかったが。

 

「知識の乱用も考え物かしらね……」

 

 祖母宅へ来てすぐの時に砂浜で転んだ件もそうだが、この身体になってから六年が経つというのに所々で前世の感覚で身体を動かしてしまう。

 言葉遣いに関してはすっかり染まり切っているというのに、この体たらくはどういう事か。そんな風に考えて、今の私は夜に一人自主練中だ。ブリッジコンプのトレーナーさんからは無理をするなとは言われているが、まぁフォームチェック程度であれば問題なかろう。実際今日は早朝に姉さんと併走後、昼間を資料に目を通すだけで過ごして大した事は出来ていなかったし。セーフセーフ。

 

 ついでに余談だが、口では知識の乱用と言ったがその実そんな事は無い。正直こちらの世界で役立つ知識なんて精々多少の勉学のみで、後は人付き合いや立ち振る舞い方程度。

 むしろ知識よりは既に完成している人格と思想が役立っていると同時に、それらが墓穴を掘っているとも言える。

 特に墓穴に関しては例として、家族計画の繰り上げが挙げられるのでやらかしのが大きい。正しくは、元が普通すぎる成人男性であった事が悔やまれると言った具合のニュアンス。

 

 付け加えれば前世ではよく見聞きした異世界転生お約束の転生特典、所謂チートも無い。というか神様的なモノにも会った覚えないし、それも相まってどうして私はここに居るのか不思議に思って考えた事だって何度もあった。

 知らない所で何かあるのかもしれないが、誰も知らず気付けない物は無いも同然である。少なくともウマ娘の二次創作で良く見るルドルフ越えチートスペックみたいなのは無いらしい。

 

「うーん、姉さんに遠慮して走らなかったのが災いしたかしら。こんな事なら少しは走っておくんだったわ……」

 

 フォームの見直しとそれを意識しつつ身体を動かす練習を繰り返して、少しずつ形にして行きながらそんな事をぼやく。

 

 なおここでいう『姉さん』は厳密にはこの世界の姉さんでは無く、私にとっての正史世界のウマ娘『アドマイヤベガ』に遠慮してるが正しい。

 というか今の私からすると競走馬としてのアドマイヤベガと、前世で見知った妹の居ないウマ娘アドマイヤベガ、そして私の姉のアドマイヤベガと同じ名前で候補が三つ上がる。

 そして最近は油断するとその全てを『姉さん』で一括りにしがちなのだ。六年間彼女の妹として生きて来た弊害なのか、それとも私も知らない何かが影響しているのか分からないが。

 ……一頭だけ兄さんでも良さそうだが、こちらはうっかり声にして誰かに聞かれたら誤解を生みかねないので考えない。現状そんな事故は無いし、考えなければ今後も間違える事は無いだろう。

 

 改めて考えるとややこしい事この上ないな、ちょっとしたバグでは?

 

 まあ、そんな面倒くさい認識錯誤も無視できないが今は置いて、結局何を遠慮しているかと言えば『私は本当に走って良いのか』という話だ。

 正史世界で妹が居ない悲しみや苦しみに悩み続けていた姉さんは確かに居た筈だし、史実を考えればそれが普通なのだ。しかし普通ではない完全な異物である私が、この世界でのうのうと生きて、走っていて良いのだろうか。

 

 前世の私や、第三者としての立場だったら考慮すらしない事だが今の私は当事者だ。

 頭で理解して居ても、その事実が常に隣に横たわっている。それが中々に重い、一時期悪夢を見た程度には重い。

 面白い内容ではないので努めて忘れるようにしているが、こういう時はどうしても思い出してしまう。

 

 考えてみて欲しい、定期的に顔は見えないが恐らく本来の妹に当たるであろう少女に毎夜『どうしてあなたがそこに居るの?』なんて恨みがましく囁かれる夢を見るのだ。そしてその気配を常に近くに感じる、結構なストレスである。

 相当なメンタル強者でもない限りは、隣に居座るストレス源に何も感じないなんて事はないのだ。そして私は多少図太い程度で、そこまで極まったメンタル強者ではない。

 

 なんなら、この世界での私の体質も踏まえれば結構洒落にならないし。

 

「これならいっそ、正史世界にポッと現れたアドマイヤベガの妹を名乗る不審者枠だったりした方が気が楽だったかも……」

 

 まぁ実際にそうなったら、そもそも妹を自称しないけれど。それはそれとして外見で確実に詰め寄られるのは容易に想像が付くが、それだけだ。

 そんな下らない妄想を口にして、我ながらバカらしいと苦笑を浮かべる。

 

 兎に角今は自分の事だ。フォーム確認と身体の動きの練習から流れ作業で、そのままコースのスタートラインまで移動する。そしてそのライン近くに置いたカメラのリモコンを操作して、準備を整えた。これでコースに沿って等間隔に設置されたカメラが、一定区間毎に私が走る姿を捉えるのだ。

 タイムは測らないので、カメラの準備が終われば後は走るだけ。

 

 芝コースの400m直線。それを今パッと駆け出して、そのまま一直線に駆け抜ける為に脚を動かす。

 今更だが、当然の様に芝とダートのコースが敷地内にあるのには驚いた。あとカメラとかの観測設備もね、今はありがたく使わせてもらうけど。

 

 そういえば、色々考えて前世の事を思い出していたら余計なことまで思い出した。

 例えば前世で私が死んだ時期だが、あの時はまだウマ娘二周年前。なんなら前年末のクリスマスが近い時期だった筈。九九世代を題材としたアニメを作られる事は分かってはいたが、それのアニメーションPVを拝む事が出来なかったのを思い出してしまった。見たかったなぁ。

 というかよく考えると、この世界でせめて姉には走って貰えないとこの辺で後悔しそうだな。姉さんには自由に生きて欲しいが、前世からの後悔とかシャレにならない気がする。アニメを見れなかった分を生で見たい。

 

 そう考えると私の為に走って欲しいが、すると今度は妹としてではなく彼女を推すオタクとしての私が出てくる。ファンサを求めるのとはわけが違うし、実際これは後の人生に関わる話だ。それを要求するのはなんか違う気がする。

 うーん、我ながら面倒くさいなコイツ。

 

 

 

 さて、そんな事を考えていた所で、忘れてはならないが今の私は走行中である。考えながらシレっと、流れ作業で走り始めたので自分でもすっ呆けていたのは正直否めない。そういや私走ってたわ。

 

 もちろん車等の乗り物ではないとはいえ、当然ながら集中してなければいけない事だ。そもそも自分の走りをどうにかする為に自主練していたのに、余計な事を考えるなんて言語道断である。

 まして子どもとはいえ、将来的には平均して時速60㎞を平気で叩きだす種族が集中を欠いて走るならば猶更の事。余談だが子どものウマ娘でも小学生以上なら、平気で平均時速50㎞前後は出せる。

 

 そしてそのツケは直ぐに請求された。

 前方少し先に外ラチが見え、そこでようやく自分が既にコーナー入り口に突入し始めようとしている事に気付く。

 

 既にハロン棒で仕切られていた範囲の400mという距離は走破し終えており、その先にあるコーナー入口までへの50mを走っていたのだ。とっくに本来の走行距離を過ぎている事実にも驚いたが、それ以上に現状に驚愕する。

 

「……っ!!」

 

 余計な事を考えすぎたと自らに悪態を吐き、しかし同時に現状をどう打開するかを必死に考える。集中を欠いていた割に、何故か普段以上の加速が成されていたのだ。体感速度がおかしい事になっている。

 

 これが普通のコースなら多少の猶予はあるが、生憎このコースはほぼ個人用でコース幅が広くはない。つまり大きく膨らむにしても、それなりに押さえなければ外ラチにぶつかる形になる。

 加えて幅が狭いという事は、当然コーナー入り口から外ラチへの直線距離もそう長くない。というか普通のコースだって同じ事で、この場で言うならばそれより圧倒的に狭いのが問題なのである。

 そして現在の加速状況では私の発展途上にある脚ではその短い距離で止まる事は出来ず、今の私はコーナーを曲がる事を強いられていた。既にコーナー入り口まで数歩の距離、そこから外ラチまでは50mを切る。

 もはや強引な急停止でもしない限り止まれないし、それに耐えられる程今の私の脚は頑丈ではないだろう。

 

 そして困った事に、今の私はコーナーを上手に曲がれない。むしろそうでも無ければこうして問題点の列挙なんてしていないし、そんな事考えている間にさっさとコーナリングに思考リソースを回すだろう。

 更に言えば、今回は想定外の速度域でのコーナリングを余儀なくされるのだ。脳裏を嫌な光景が過ぎるが、しかしそれは回避しなければならない。姉さんの為にも、それだけは。

 

 こんなバカみたいな、よそ見運転みたいな真似で死ぬ事は赦されない。

 

 ここまでコンマ何秒とかだったら良かったのに、気付けばコーナー手前の残った直線50mも残り数歩分だけだ。いや、でもウマ娘ならこうもなるか。

 

 

 残り五歩、四歩とコーナーに近づいていく。打開策が無いわけでは無い、しかしそれを今の私が出来るかどうか。

 

 

 

 残り三歩、猶予は無い。もはや出来るかどうかの領域には、既に収まらない。

 

 

 

 残り二歩。やるか、死ぬか。死にはせずとも今後走らせては貰えないだろう、しかしそんな未来は望んじゃいない。

 

 

 

 残り一歩。

 

 

 

少し、借りるわよ。死なれちゃ困るもの、おバカさん

 

 

 

 左足が軋む。

 

 

 

 視界の端、夏の夜空。

 

 

 

 一等星が、ひときわ強く輝いた。

 

 

 

——☆☆☆——

 

 

 

 ザーガに走る気持ちがあるのか、それを見極めようとブリッジコンプさんのトレーナーに師事して一週間が経った。

 けれど現状、正直彼女が走る道を選ぶとは到底思えなかった。初めて二人で競争をして、初めて彼女のすべてを上回った。あっさりと、上回ってしまったのだ。

 そしてそれに加えて、私と彼女の間にできた差を見てあの日の言葉が私の心に影を落とす。

 

 あれから何も調べなかったわけでは無い、直接的な言葉の意味は幾ら調べても出ては来なかった。けれどある程度推察する事は、今の私には容易であった。

 私達が生まれる時、どの様にして誕生したのか。そこに至るまでに起きた事、それらを嗅ぎ回って立てた一つの仮説。

 

 そもそも、私達は一卵性双生児として生を受けた。

 通常一人一つの卵から生まれるのを、一つの卵を分け合うようにして生まれたのが私達だ。何も知らなければ、元は一つの存在だったのだと無邪気に喜んでいただろう。真の意味での半身こそが、私の妹なのだと喜んで居れた筈だ。

 けれどそれに付随するリスクを理解できない程、今の私は無知ではない。まして私達が置かれたのは、一卵性双胎の中でも最も稀な状況。最も稀で、きっと何も知らなければとても夢のある事で、知ってしまった以上は恐ろしくも感じてしまう。

 

 極僅かに残っている、お母さんのお腹の中に居た時の記憶と思われる物。お腹の中、真っ暗な場所で繋いだ手。それが夢でも勘違いでもなく、本当の事であったのを嬉しくも思う。

 けれど今は、それすらも、ただただ恐ろしい。

 

「あの子が走らないなら、私も走らない……」

 

 自分に言い聞かせるように、妹の様子を見に行こうとする脚を動かしつつそう呟く。もし誰かに「それが本心か」と問われれば、否としか答えられない。

 だって私の本心は、魂はずっと叫んでいる。走りたい、走らせろと。

 けれど私の理性はその逆だ、それで納得できるのかと冷たく疑問を突きつける。あの子と走れないならば、それに価値はあるのかと問うて来る。

 

 きっと両親も、他のみんなもきっと、この事を知っていたのだろう。

 だから両親は、特にお母さんは元競争ウマ娘であったにも関わらず、走りの話題を自分から一切出さなかった。今お世話になっているお祖母ちゃんだって、走ってみる事も出来ると示しつつも無理強いはしなかった。

 今だからわかる、ザーガが色んな事を教えてくれたからわかるのだ。みんなそれを、優しいが為にそうして来たのだと。

 

 でもそれならばいっそ、子どもの私がこんな事を考えるのはきっと良くはないのだろうけれど。それでも、考えてしまう。

 

 いっそ、お母さんが悪いのだと。そう言って最初から話してくれたならば、きっと今この矛先を自らに向ける事は無かっただろうから。

 

 

 

 けれどそれは、杞憂だったのだろう。

 ザーガがまだ一人で外で走っていると知って見に来た私が目にしたそれは、とても美しいモノだった。

 少なくともその瞬間、胸中に「なんだ、私が深く考えすぎただけじゃないか」と思わせる程には。

 

 一人自主練をしていたらしい彼女が、丁度コーナーに差し掛かる所に出くわした。左回りのコーナーに、後二歩で突入する。そんなタイミング。

 流れるような、それでいて鋭い美麗なフォームで走る彼女に魅せられる。

 

 

 

 あと一歩、丁度左足が地に付いた。偶然それが見えた、この場を支配する不思議な緊張感がそれを実現させたのかもしれない。けれどそれを無視できない、無視してはいけないと何かが叫ぶ。何故叫ぶのかは、私には分からない。

 

 けれど直ぐに気付く、彼女が私が知っているよりもずっと加速している状態である事に。

 

「えっ、待って」

 

 少し考えれば解ることだった。フォームが美しいということは、無駄な動きがないということだ。そしてそれは同時に、今まで不器用で下手くそなフォームで走っていた彼女とは比べ物にならない速度を産み出すということに他ならない。

 あまりに綺麗だったから、すぐにそれに気付かなかった。しかし気付いた以上、血の気が引いて行く。彼女のコーナリング技術を知っているのだから。

 

「待って、止めて」

 

 致命的なまでに下手、そう表現する他に無い。

 加速が全く乗っていない状態ですら、更に減速してようやく形になる。下手をすればまだ普通のヒトの方が巧く回れるかも、そんなコーナリングしか彼女は出来ない。

 酷い時は脚が縺れて、転倒すらしていたのをこの一週間で何度も見ている。

 

 あの状態から、あの位置からでは減速は到底間に合わない。仮に出来ても相当な負担だし、どの道彼女が辛うじてコーナリングできる速度までは足りない。

 

 言ってしまえば、十中八九死ぬ。先ずそんなビジョンが浮かぶ。

 そこに無駄な装飾は無い、本当に死ぬのだと理性が告げていた。

 

「とまって」

 

 そして万が一、仮に万が一にも一命を取り留めたとしても。

 きっと、その脚は二度と使い物にならなくなるだろう。もしくは体の何処かがそうなるのは、容易に想像できる。

 腕か、別の何処かか。なんであってもろくな事にはならないし、満足な『普通の生活』を送れるかも怪しい。

 

「嫌っ……!」

 

 そんな、これから起きる凄惨な光景から目を背けようとして、しかしすぐにでも飛び出して止めたい気持ちが私の中に生まれた。

 

 本能は駆け出して止めたいと叫び、理性は心の傷になる前にそれから目を背けろと叫ぶ。

 飛び出して彼女を止めるには、彼女を見なければならない。

 これから起こるであろう惨い光景から心を守るには、目を背けるしかない。

 

 本能と理性が、矛盾を引き起こす。

 

 その矛盾は一瞬の空白を生み出し、私の身体から自由を奪っていった。

 

 

 

 外に出て彼女を見た時、最初に美しいと思ったのはコーナーへ突入するまでの完成されたフォーム。独力でそこまで到達したのなら、彼女と共に走るのも良い。そう思える様なモノだった。

 しかしこんな短期間でフォームの矯正も、ましてコーナリングが巧くなれば誰も苦労はしない。それなら世のトレーナーといった教育者の苦労が、いったいどれだけ減るだろう。

 

 彼女が手を抜いていた、あるいは眠っていた才能が目覚めたか。前者はあり得ない、私に追いつく事が叶わなかった彼女は本気で悔しがっていた。ならば後者か。

 もしそうならば、多少は納得できる。才能と、そう済ませてしまえるならばどれほど楽な光景だろう。

 

 思考と想いの矛盾が生み出した空白の中。その光景から目を逸らす事が出来なかった私が見たのは。

 

 

 

 理性が描いた予想に反して、最初に『美しい』と感じた走りの延長線であった。

 

「────」

 

 するりと、軽やかにコーナーを曲がる身のこなし。先日、それ処か昼間までの彼女であればあり得ないコーナリング。

 下手をすれば私以上、ともすれば現役を走るウマ娘の中でも上等なモノかも知れない。

 

 そんな走りを魅せて、やがてコーナーを抜けて減速し立ち止まった彼女の横顔を見た。

 

 今まで見た事のない表情。どこかで聞いた、恍惚という言葉が似合うかもしれない。

 それこそ妙な色気を感じて、同じ顔をした自らの妹であるにも関わらず心臓が高鳴るくらいに魅力的だった。

 

 そこには、普段見慣れない表情が浮かんでいた。

 きっと自分では出来ない表情だと、頭の何処かで理解してしまう様な。

 

 

 

 結果だけを言えば、私は実の妹に魅せられた。

 才能の開花か、それに近い別の何かかは分からない。けれど確かにその走りは私を魅了した。

 心の何処かで思っていた、いっそ彼女が折れたなら私も走らずに済むなんて想いは一瞬にして吹き飛んだ。

 

 彼女と走りたい、競ってみたい。そう心の奥底から、滲みだした気持ちを自覚し始める。

 

 

 

 けれど、同時に一つだけ。

 

 一つだけ、引っ掛かりがあった。

 

 それが何かは分からない。しかしその疑問を口にするのは、考える事すら、後戻りできない。そんな気がした。

 

 

 

 そうしていれば、流石に彼女もこちらに気付いたらしい。

 見覚えのあるいつもの笑顔で、彼女は私に手を振った。

 

 私もそれに応じた。

 

 

 

 分からないナニカから、目を背けて。

 




入学前の過去編、折角だからと色々盛り込んだら普通に長くなりそうで芝(もうなってるとも言う)

絶対に外せないポニーカップとか考えるとまだ続くんじゃ

ちなみに一卵性双胎って、羊膜が一つしかない(お腹の中で赤ちゃんが触れ合える)状況って物凄く危険なんですよね。そうでなくても二卵性でも変わらないですが一つの母体から栄養を分けて貰う以上、偏りが出なくても限られた栄養を二人分に分けて受け入れる分。まぁそういう事ですよね、双子ってわかった時点で胚を片方潰すのって
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