アヤベさんの妹に転生したけどこれキャラ崩壊する奴じゃんってなる話   作:煎餅さん

9 / 22
 更新に二ヶ月半かかったってマジ?

 書いててぶっちゃけコレ面白いか?って考えちゃってダメでしたね。そもそものスタンスを忘れてた、これは自己満足なんだからとりあえず書きたい事書けばええねんの精神で書かねば心が死ぬのだ(投稿はケツに火を付けて完走を促すためだし…)
 それはそれとしてこうして投稿してるわけだし、読んでる人の事も考えなければと思うと今後ブラッシュアップは必須とも思う。ただもう何も考えずに書き出して概ね完走したらそれを、再度プロットとして整理して書くのが良いのではとも考え始めた。いっそチラシの裏にまた戻ってそっちでチマチマ書くのもアリかも知れない。たぶん投稿スタンスが一般的なそれと違い過ぎて逆にそれが自分を蝕んでる気がする、色々考えねばな……

 前置きが長くなったけども、今回で長かった小学一年生の夏休み回は終わりです。開き直って思いつきで書きたい事だけ書いてるんでもうヤマもタニもオチもろくに考えてないです、その辺整理した物はこれが完走した後に未来のワイがまた頑張ってくれることでしょう
 あとアナザーベガのヒミツ③のネタ回収回でもあります、内容にだいぶ変更が成されてますけどね

 誤字報告ありがとうございます(9/11)

(24/1/25追記)ぼちぼち加筆修正しました


小学一年生の夏休み(お盆と終わり)

 いやはや、昨晩は心底焦った。

 

 昨日あった事を思い出して、胸中に浮かぶのは焦りと安堵。

 終わってみれば大成功に終わったが、そもそもとして走行中に集中を欠くなんて言語道断。

 まして前すら見えていなかった事がそれに拍車をかける。自殺志願者かと謗られても文句は言えない。

 うまく行ったから良いが、猛省では済まされない案件だ。本当に無事でよかった。直前まで死すら覚悟したが、怪我も無く終わって本当に良かった。

 

 さらに幸いな事に、途中から見ていたらしい姉さんも気付いていないし、元々そういう練習だったと誤魔化して事なきを得たので一安心。

 

 ……記録していたデータが懸念材料ではあったが、これに関してはデータが破損していた為にそもそも見れた物では無かった。

 ここまでテンプレな壊れかたも久しぶりに見たが、まぁ機材そのものが壊れた訳では無いのでそこでも一安心である。事情は話しているとはいえ、自分の体質由来の原因で壊れるとか心境的に良くない。

 

 

 

 さて現在の心境だが。ぶっちゃけ絞首台に立たされて、何時足場が無くなるかを恐々として待つ囚人の気分だ。

 嘘は良くないね、心臓に悪すぎる。いつバレるか、気が気じゃない。隠し事をする悪い子の気分だよ。

 

 何よりも質が悪いのが、必死過ぎたのかコーナリング中の記憶が一切無いのだ。録画していた映像データも既に破損しているから見れないわけだし。

 コーナー手前から凄まじい砂嵐の様なノイズに、快音がひっきりなしに鳴ると言う有様だったので確認のしようもないのである。

 

 こういう怪現象、今回が初めてではないし原因は分かってるので別に驚きはしないのだけどさ。普通にこういう時に起こると迷惑が過ぎる。

 まぁこれに関しては現状ではあまり関係のない話だから、今は脇に置いておくけど。起きちゃった物は仕方が無いのだ。実際どうしようもない存在達だし。

 

 兎に角、姉に見られた事に変わりはない。そしてあの走りが偶然だったにしても、今までの走りとは一線を画す物であったことにも変わりはない。

 ならばせめて今までの走り以上の事が出来なければ、偶然どころか後先考えない無謀を通り越してもはや事故な走りだった事がバレるというわけだ。

 我ながらとんだ薮蛇みたいな走りをしやがったなと思う。

 

 そしてそうなった場合、先ず確実に無理をしない事を条件にしているブリッジコンプらのトレーナーから教わる事が出来なくなる。せっかく姉さんが頼み込んだというのに、私がそれを台無しにするのは避けたい。

 

 

 

「うーん、脚の調子は悪くないし……一回走ってみようかしら」

 

 さて、現在時刻は午前九時半。既に朝食も済ませて、今日は自由行動中で私は一人浜辺に出ていた。

 いやまぁ一人と言っても、姉さんが居ないだけで付き添いは居るけども。お世話になりますねメイドさん。

 

 とりあえず自らの脚を触診してみて、素人に毛が生えた程度ではあるが目立った熱感も違和感も無い為にそんな事を思案した訳だ。

 素人判断程危険な物は無いが、そこは安心だ。なにせ昨晩の時点で御邸の常駐医にも診て貰ってはいたからね。翌日違和感が無ければ大丈夫との事だったし、この調子ならば問題はない筈だと判断した。

 

 ならば善は急げ、変な所でぼろが出る前に現状を確認しようじゃないか。

 

 

 

 そんなわけで少し歩いて、海沿いの広いスペースへと出る。コースの紹介をするならさしずめプライベートビーチ、要は砂浜、ダート。バ場状態は概ね良、所により稍重から不良。天気は晴れと言った処だろうか。波のせいで濡れかたにムラがあるから、それで足を取られないように気を付ける。

 距離は、大体400mだ。昨晩と同じ距離だが、その先にコーナーカーブは無い直線コースなので再現性は低い。

 

 もはや存在に違和感を覚えなくなりつつある付き添いのメイドに時計と合図を任せ、私はスタートの位置に向かう。

 そして体操服の具合を調整しつつ、居住まいを正して呼吸を整えつつ手を挙げる。最初はこのブルマも抵抗しか無かったが、ブリッジコンプ達のトレーナーが一切視線を向けなかったのでスッと「そういう物なのか」と納得出来てしまった。順応って怖い。

 あとこの世界の男性トレーナーの鋼の精神ヤバいとも思った。私、女の子の身体になっても、未だに胸とかに視線が流れちゃうのに。

 たまにおっさんみたいな女の子も居るからそこは「ああ、こういう子本当に居るんだ」って、逆に安心できるけど。

 ちなみにブリッジコンプは片足をおっさん側ににツッコんでいる。流石に「同じ顔でハーフパンツとブルマどっちも愉しめるのはズルじゃない?」って真顔で言うのは私も引く。姉さんはキョトンとしていたが、将来的に真実を知ったら妙な警戒をしそうで怖いな。

 

 閑話休題。

 

 兎に角私の手を上げたのを合図にして、メイドも同じく手を上げる。彼女がそれを振り下ろした瞬間がスタートだ。

 距離が距離だから見辛いが、その為に腕を大きく動かすよう伝えているのでどうにかなるだろう。目も良い方だしね、くっきり見えるから見間違える事は無いはずだ。ウマ娘だからシンプルに耳も良いし。

 一般的なスタンディングスタートの姿勢を取り、最初に蹴りだす足場を踏み固める。所謂地固めとでも言った所だろうか、スキルではなく物理的な意味で。

 

「……────フッ!!」

 

 そしてそうこうしている内に動きがあった、メイドが腕を振り下ろしたのだ。それと同時にグッと身体を押し出すようにして地面を蹴り、初速を稼ぐ。とはいえ今までろくに走らなかった代償として、満足な加速力は得られていないけれど。

 パワートレーニングは今後の課題である。単純にフォームを意識し過ぎて動きが硬いだけかも知れないが。

 

 とはいえそれを差し引けば、今のは我ながら好いスタートダッシュを切れたのではないだろうか。スタートの手応えを感じつつ、そのままやや前傾した基本フォームを維持。両腕の振りでバランスを取る事で、上半身の軸ブレを最小限にし高速度域を保つ。

 

 そしてそれらの動作を今までの私は、逐一考えながら行っていた。少しでも油断するとフォームが瞬く間に乱れ、失速してしまうからだ。

 

「はっ、はっ……────?」

 

 だがそれが今、妙な違和感に襲われていた。

 強いて言うならば、元々できる事を無理に考えながらやっているような。

 そんな、奇妙な違和感。

 

「……────っ!」

 

 ならば折角だ、試してみようじゃないか。

 目測で100m走った辺りから、あえて何も考えずに走り始める。

 そして同時に、今まで姿勢制御に回していた思考リソースが開放されていく。

 

 周囲が良く見える。

 踏みやすそうな足場が、視認できる。

 

 そして、姿勢は崩れなかった。ずっと前から体に染みついていたように、この身体は確りと走るのに適した動きをしてくれていた。

 

「くっ、はぁっ、はっ……ッッ!!」

 

 姿勢制御に回していた思考領域が開放され、新たに周囲認識力と危機管理能力がそこに収まり、必然的に今までセーブしていた出力が開放されていく。十分な危機管理能力が備わったからだ。

 ぐんぐん加速して行くのが自分でも解る。少し前までの自分ならば絶対に出せない速度まで、あっという間に到達する。

 それこそヒトのプロ陸上選手の方が速いかも知れない速度から、ヒトが逆立ちしたって到達しえない速度まで。

 

 

 

 そしてそれが愉しいと感じる様になるのに、時間は掛からなかった。

 

「────はは、はははっ!!」

 

 しかし足りない、物足りない。

 これじゃ姉さんには追い付けない。

 

「はっ、はっ、はっ────ハハッ!!!」

 

 楽しい、愉しい!

 でもそれでは足りないのだ、これだけでは。

 

 もっと、もっともっと。

 

 

 

 もっと、その先へ────────

 

 

 

 まだ午前中だというのに、周囲の景色が夜闇に沈む様な感覚。

 

 視界の外であるというのに、頭上に夏の大三角が描かれているのを感じる。そしてそれが、異様な輝きを放っている事も感じる事が出来た。

 

 その輝きが私の身を包み、後押しをする。

 

 あと一歩、いや二歩でこの力を発揮できる筈だ。

 

 

 

 早く試したい、この力を解き放ちたい。無意識にそんな気持ちが胸中を埋め尽くし、第一歩を踏み込む。

 

 

 

 準備は整った、後はこの一歩を────────

 

 

 

 

 

 

「────そこまで! ……凄い、ザーガ様、素晴らしいタイムが出ましたよ!」

 

 その声が、私を現実へと引き戻した。

 

 直前に込めた力が僅かに弛緩し、力の抜けた一歩が砂を食む。そのまま数十メートルをかけて減速する。

 そうしてゆっくりとメイドの下へと戻り向かえば、少々興奮気味な彼女の顔がよく見えた。

 その彼女が私に向ける手にはストップウォッチが握られており、そこに刻まれた数字は私の表情を驚愕に歪ませるには十分な物であった。

 

「……これ、私が?」

 

「そうです! いったいどんな魔法を使ったら、こんなに早く走りが上達するんですか!?」

 

 そこに刻まれた数字は、29.7秒。時速に換算して、約48㎞である。少し前までの私が、同条件で36.9秒の時速約39㎞というタイムであったにも関わらず。さらに言えば序盤は前までと同じ走り方だった筈なので、それを加味すれば実に10秒近い短縮になると思う。

 確かにこれでは、魔法と言われても仕方がないだろう。それ程のタイムの更新だった。

 

「……ずるしてないよね?」

 

「すぐバレるのにする訳無いじゃないですか!!」

 

 私と姉さんのタイム差は周知の事実なので、メイドが気を利かせたのかと思ったがそうではないらしい。というか確かに姉さんと併走すればすぐにバレるのに、する意味すら無かった訳だが。

 

 走行中に感じた物も何か意味があるのだろうが、そもそもアレは雰囲気からして所謂『領域』とかいう奴だろうと自己解釈する。僅かに覚えているあの空間はシングレでの『領域』というより、アプリの固有スキル演出のイメージに近い気がした。

 走るのが楽しいと、途中から思えて来たからだろうか。今までの走りから一気に上達して、その楽しさから更に上を目指して『領域』に足を踏み込みかけた感じがする。

 たぶんこのメイドがゴールと同時に叫ばなければ、そのまま『領域』に突入していたかもしれない。

 

 それはそれで、何だか少し怖い気もした。

 たぶん突入がもっと早いか、距離が長かったら入り込んでいたのかもしれない。

 

 

 

 ちなみに姉さんの同条件ベストタイムは28.2秒で時速が約51㎞、本などで見た資料によれば一般的な小学生に上がってすぐのウマ娘の場合は平均約32秒で時速約45㎞だ。平均的に見れば隔絶した実力を私も得られたという事になるが、同時にここまで急激な成長を経てもなお、姉さんという壁が大きい事を思い知らされる。

 さらに言えば小学生ウマ娘で走る事を主目的にしていなくとも、成長分で最低限時速50㎞に到達する。ほぼ素の状態でこれだけ走れるならば、最終的にどこまで行けるのだろうか。

 

 余談だが、この平均速度も年々縮まって来ているらしい。本当に徐々にらしいけれどね。

 

 兎に角、これで余計なぼろを出さずに済みそうだ。

 後は姉さんがこの結果を見て、どういう反応をするかだろう。

 

 

 

——☆☆☆——

 

 

 

 夏の風物詩、お盆。

 

 古来より存在する日本の風習と、外から渡ってきた仏教の考えが悪魔合体して今の形になったとはザーガの談。確かに自分で調べてみると色々混ざっている気がするけれど、悪魔合体とはなんなのだろう。

 それはさておき、時は流れてお盆の時期。要は八月中頃である。

 

「何も無いわねぇ」

 

「そうねぇ」

 

 そんな言葉を交わすのは私と、妹のアナザーベガ。どちらがどちらを発言したかは、正直私自身も分からない。それぐらい、今の私達はだらけ切っていた。

 

 というのも、今の私達は御邸でお留守番の真っ最中なのだ。

 お祖母ちゃんは近隣の市長さんを始め挨拶やお付き合いがあるし、他のメイドさんや執事さんはお盆休みがある。住み込みの人達が居るから完全に無人にはならないが、盆祭りがあるので今この瞬間に関しては完全に無人だった。

 その中で私達は自室のベッド、ザーガの方に二人で腰掛けて脱力している。

 

「いつもすまないわねぇ」

 

「それは言わない約束でしょう、ザーガ」

 

 そんなやり取りを交わして、そして直ぐに長い溜息と共に沈黙が続く。

 昔やってたコントのネタとザーガは言ったけど、そんなの何処で知ったのだろう。お母さん達もよく知らないらしいけど、まぁ状況には合っているし良いのかな。

 しかし流石に暇だ。ウマホにゲームを入れているわけではないので、余計に時間を潰す術がない。ザーガはパズルゲームやテーブルゲームを入れていた筈だが、私に遠慮しているのか手を出す様子はない。気にしなくてもいいのに。

 まぁだからといってお祭りに出向くのは論外だ、ザーガはその体質ゆえにお盆の外出は厳禁なのだから。

 

 

 

 ザーガの体質。それはややオカルト的な物になるが、いわゆる霊媒体質と言うものである。

 一般的に知られている物だと憑りつかれ易いといった体質だが、ザーガの場合は憑りつかれない代わりに触れられた際にダメージを負うのだ。

 痣や火傷といった形で現れるそれは、度々両親を心配させる。そうでなくとも虐待を噂されてしまうとはザーガの談で、その体質が発覚した翌日からは対策としてお祭りにはなるべく参加しないという流れになった。

 それが今回のお留守番に繋がるのだ。

 

 ちなみに私の場合は、単にそういった存在が見えるから予防に良いだろうと引っ付いて居るだけだ。

 なんなら昔、この見える目のお陰でザーガが神様みたいな存在に連れて行かれずに済んだ事もある。妙な物が見えるからいい気持ではなかったけれど、そんな事もあったから嫌いになれないでいる。

 

 まぁ兎に角、特にお盆なんて良い霊から悪い霊までそこかしこを徘徊する時期に外を出歩くのはザーガにとって自殺行為なのだ。原因が何か私には分からないけれど、機会があれば霊能者の人に見て貰うのも手かもしれない。

 本物に出会えるかが問題だけれども。

 

 

 

 ────ピンポーン

 

 

 

 不意にチャイムが鳴った。

 

「こんな時に誰かしら?」

 

 自室から出てすぐにあるインターホンの受信機を確認しに向かえば、しかし誰も映っていない。

 悪戯だろうか?

 

「誰だった?」

 

 ザーガが顔を覗かせる。首を振ってみせれば、少し悩むような仕草をして言葉を紡いだ。

 

「やっぱり来たわね。今朝話した通り、暫くは誰が来ても玄関は開けないように。少なくとも私達が招き入れる真似は止める様に」

 

「……あー、そっか。家にも来るんだったわね」

 

 ザーガの言葉を聞いて、ようやく私も思い出す。

 そもそも先ほどまでその事を思い返していたのに、何故すぐに思いつかなかったのか。

 

 とはいえそれも仕方ないと思いたい、ここの所ずっとお祭り騒ぎだったのだ。

 ザーガが今までとは比にならないタイムで走った事がメイド長によって知らされた後、御邸の中では昨日まで連日お祭りムードとなった。連日お祝い事の様に豪勢な料理が出て、お祖母ちゃんの知り合いの知らないおじさんおばさんが代わる代わる挨拶に来た。母がティアラ二冠を達成している以上、その子ども達に期待が寄せられるのは当然だとお祖母ちゃんは言った。

 

 兎に角、そんな事情もあってお盆が近い事につい最近気づいたのだ。今朝までずっと、お盆への対策をすっかり忘れていた。

 ついでに言えば、私自身がお祝いする余裕も無かった。言い出す機会を失ってしまったので、何か切っ掛けがあればその時改めて祝おうとは思っている。

 

「家に居るなら表札が結界の役割をしてくれるし、招き入れる事をしなければ問題は無いはずよ。ブリッジコンプさん達にも鍵を渡して、もし来るなら勝手に入ってくるように伝えてるしね」

 

 そんな事を考えていると、ザーガがそう言ってベッドに身体を倒した。

 霊とかそういう存在は、結界がある場合招かれなければ入ってこれないのだそう。既に中に居て、それが別の物を招き入れたらその限りじゃないらしいけれど。まぁそういうのが居るから、お盆の間は気が抜けないのだ。

 その対策の一環として、日中に時間を見つけてブリッジコンプさん達にお盆祭りには参加しない旨を伝えるついでに、もし遊びに来るならと御邸の鍵を渡している。

 しかしザーガはどこからそんな情報を仕入れているのやら、オカルトにこんなに詳しいとは少し意外だった。

 

「他の執事さんやメイドさんにも伝えてあるし、他の給仕スタッフにも伝えてある。御邸で待機してる人達にも誰が来ても開けないようにお祖母ちゃんが言い聞かせてたしね」

 

 ザーガはそう言って、オカルトな事に対して寛容な人達で良かったと笑う。まぁ確かにそうでなければ、変な事を言う子達だと一蹴されていただろう。

 その点では、過去にザーガが原因不明の心肺停止状態に陥った事件が功を奏したとも言える。

 

 ……それこそが神様みたいな存在に連れて行かれた時の事なので、二度と起きて欲しくは無いけれど。

 

 

 

 さて、そんな話をしていると複数の足音がパタパタと聞こえて来た。真っ直ぐに私達の部屋の前に来て止まり、次いでノックも無しに扉が開いた。

 

「こんばんは~! 暇してそうだねぇお二人さん!!」

 

「コンプ、あんたせめてノックとかさぁ……」

 

 そう言って入ってきたのはブリッジコンプさんに、それを諌める様に言うリボンカロルさん。そして申し訳なさそうに苦笑を浮かべたオーボエリズムさんだった。

 

「ノックされたら逆に出ませんよ、偶に部屋の前まで侵入してくるとかありますし」

 

 そしてそれに対して、のんきに答えるのはザーガだ。予め私達の事情は話してあるので幾らかマシな反応を返されるが、皆が若干顔を引きつらせているのが分かる。何も知らなかったら侵入なんて言葉、不穏でしか無いし。

 

「そういえば、よく考えたらオバケの類が集まるんだっけ。まぁこれだけ人数居れば大丈夫だよね?」

 

「私、人が沢山集まってた祭りの中で死にかけたんですけどね」

 

「わー、安心できる要素がなにもなーい。というかサラッと死にかけたってカミングアウトするの怖いからやめよう? 普通の人はそんな超常的な死と隣り合わせじゃありません~!」

 

「レースなんて正しく死と隣り合わせ無きもするけどね」

 

「あー! あ~!! 聞こえな~い!!!」

 

 ブリッジコンプさんの言葉にザーガが返し、それに対する文句にリボンカロルさんがボソリと呟いた。結果としてブリッジコンプさんは耳を塞いでしゃがみ込んでしまったが、まぁある意味仕方ないと思う。

 ましてレースが死と隣り合わせだなんて、ついこの間ザーガが当事者になるんじゃないかって光景を見せてくれたばかりだ。あれに関しては結局そういう試みだったと知ったからいいけれど、本当に心臓に悪い。少なくとも自分の周りでは、誰も怪我なんてして欲しくないと思う。

 

 そう考えるとレースの道を選ぶのはやめてもいい気はするけれど、それはそれでこれはこれ。走りたいという欲求に嘘偽りは無く、危険だからと諦める心算なんて毛ほども無い。

 これについてはザーガとも共通認識だ。ろくなお祝いこそ出来なかったけれど、それでも話す時間は同じ部屋なのだから幾らでもある。お祝いもすれば良いと思うが、連日お祝い事が続くと食傷気味になるのは見てて分かる。追い打ちをかける必要は無いだろう。

 

 

 

 彼女達と合流してからは、退屈とは無縁の時間となった。

 他愛ない雑談をして、三人のトレーニング中の出来事や合宿中の話で大いに盛り上がった。そしてもうじきいい時間になり、もう少ししたら帰ろうかという流れになってきた所で私は立ち上がる。

 

 そして一息入れて、真っ直ぐと三人と相対する。私のしようとする事を察したのか、ザーガもスッと横に立ってくれた。本当に心強い妹だ。

 

「……私達は、小学校を卒業したらトレセン学園に入学します」

 

 そう、彼女達に向けて宣言する。きっと私達が入学する頃には、彼女達は既に前線を退いているのだろう。だけどこの夏、彼女達に会っていなかったら走ってはいないだろう。もちろん他の誰かに声を掛けた可能性はあるけれど、少なくとも今この場を作り出したのは彼女達の功績だ。

 当然こんな時に言う事かと思わなくも無いけれど、けれど今日を除くと彼女達は夏合宿の追い切りで当分会えないのだ。そして私達も、お盆を超えたらそのまま帰宅する予定である。そして来年もまた会える保証はない、チャンスは今しかないのだ。

 

「へぇ、受験じゃなくて入学は決定事項なんだ?」

 

 そして宣言した瞬間、リボンカロルが冷ややかに言葉を投げかける。

 その言葉に反応する様にして空気が冷えた。過去にザーガを狙って来た悪霊と呼ばれる類が部屋に充満した時なんか、比じゃないぐらいの冷え込みだった。

 吐く息が次の瞬間には凍り付いてしまうのではないかと錯覚するが、湧き上がる震えをどうにか抑え込む。隣にザーガが居なかったら、どうなっていただろうか。きっと怖くて、今頃声は震えて目に涙を浮かべていたかもしれない。

 

「そうじゃなきゃ、勝ち上がれる場所でもないと理解してますから」

 

 しかし私の隣には、確かにザーガが居るのだ。だからこそこうして、ハッキリと答える事だって出来る。

 

 入学してようやくスタートラインに立つ権利を得られる。トレセン学園とはそんな場所だと、子どもでも解る。

 だからスタートラインに立つ権利を得るための受験を目標にする、だなんて回りくどすぎる。その権利を得なければ、そもそも話にならないのだ。権利を得る事を目標にしなければ意味が無いのだ。

 当然、権利を得た所で実際にスタートラインに立てるかすら別問題だ。スタートラインに付くためには事実上トレーナーが必須であり、そのトレーナーを得るにしても自らの走りが彼ら彼女らを惹き付ける物でなければいけない。

 

 彼女がちょっとした意地悪で言っているのは事実だろうけれど、だけど同時にその問いはある種の事実確認。

 私達の覚悟を問う、それが本質。大人げなさとか、そんな物は関係ない正真正銘の戦いの場への道なのだから。

 

 当然そこへ至る迄の道は、険しい物だ。

 

「……うん、それだけ理解して、覚悟決めてるなら大丈夫でしょ。ここに頭アッパラパーでも身一つでゴリ押した子も居る事だし、勉強だけ疎かにしなければ貴女たちなら無事入学出来るわよ」

 

 たっぷり数秒、リボンカロルが私の奥底を覗くように見つめていた。しかし直ぐに、表情を崩して笑みを浮かべてそう言った。

 

 少なくとも今期クラシックを走り、名家出身でもある彼女のお眼鏡には適ったらしい。

 それだけで、何だか認められた気がして嬉しく思えた。

 

 

 

「なんか、さりげなく私ディスられてなかった? 私の私服をダサいって言われた時と似た雰囲気感じたんだけど? ねぇねぇ、その辺どうなのカロルちゃん、ねぇ?」

 

 とはいえ、先ほど彼女が例に挙げたウマ娘はこの場にいる人物だ。

 そしてそれに気づかない程、そして気付いてもあえてスルー出来る程バカでもおおらかでも無かった。

 

 真面目な空気は、あっという間に緩んでいく。

 

「流石に露骨過ぎたか。そうよ、あんたの事よ。なんで筆記試験が赤点だったのに、能力試験で満点以上叩き出して合格した奴がこの手の話で例に挙げられないと思ったの?」

 

「……え? うっそ、赤点だったの? 私としては会心の出来だと思ったんだけど? てかなんで知ってるの?」

 

「筆記試験の半分も経ってないのに、私の前の席で寝始めておいてよく言うわね!? あんたがそんなだから私は不正を疑ってアレコレ調べて、無理言ってあんたの試験結果見せて貰った事があんのよ!! 愕然としたわよ、こんなふざけた奴本当に居るんだって感動すらしたわよ!!」

 

「マジかよ私すげぇ!」

 

 あれよこれよと言い合う内に、なんだか話が愉快な方向に逸れ始めた。ザーガも何だかツボに入ったらしく、口元を押さえてプルプル震えている。意外な所で妹の笑いのツボを知ってしまったが、まぁ楽しそうだし良いだろう。

 事実、先輩達のやり取りは見ていて面白いし。

 

 

 

 お盆ももうじき終わる。なんだかんだでザーガを困らせる彼らは時間に忠実で、ギリギリまで粘るモノは居ても日が変わるまで居座る事は滅多に無い。

 盆明けで送り出される者達と悪霊の類が何故一緒に動くのかは不明だが、もしかしたら見回っているナニカが居るんじゃないかというのがザーガの見解だ。紛れて動く分には見逃されても、そうでなければそのナニカが邪魔をするのだろう。幽霊の類とは不思議なものだ。

 

 兎に角、明日からはようやく家の外に出て各所に挨拶に行けるのだ。貸出中のプライベートビーチで遊んでもらったお姉さま方や、今目の前でコントを繰り広げている先輩方のトレーナーさんへの挨拶も必要だ。最低でも、彼女達のトレーナーへの挨拶は必須である。本当にお世話になったのだ。

 

 

 

 明日には荷物をまとめ始め、明後日には自宅に帰る予定である。

 振り返ればずいぶんと濃密な夏休みだった気がする。本格的なトレーニングとは言わないが、プロの指導が少し入るだけでこうも変わるのかと驚いた。

 タイム的には結局お世話になっていたこの一ヶ月では殆ど変化がなかったけど、それでも走りやすさは段違いだ。将来的にはきっと無駄にならないだろう技術を得る事が出来たのは非常に大きいと思う。くどい様だが、本当に感謝してもし切れない。

 

 夏はまだ続くし、ブリッジコンプさん達の夏合宿はまだまだ続く。けれど私達姉妹の、この夏休みの大きな出来事はここで一区切りを迎える。

 妹が飛躍的にタイムを好転させ、今年のクラシック戦線で輝くスター選手とも友人になったのだ。これ以上を望んでは罰が当たるというものだろう。

 

 だからこそ、何だか聞くのに気が引けてしまっていたあの事を聞くのも最後のチャンスだろう。

 たとえ聞き出せずとも、何かヒントがあればと思う。

 

 たとえそれが、どれだけ残酷であったとしても。




ザーガ:走る事への楽しさに目覚め、一緒に領域に目覚めかけたけど間一髪で回避。ちなみに目覚めてたら最後に踏み込んだ脚が粉砕骨折する。幽霊、悪霊、果てには神様すらもザーガに悪影響を与えるのでお盆は家から出られなくなる。お守りも触ると火傷するので自分で持つ事は出来ないため、姉とかに部屋の各所に設置して貰って結界みたいにして使ってる

アヤベ:実は幽霊の類が見える。ただザーガに色々とアドバイスを受けて、認識する位相(チャンネル)をずらす事で見えない様にすることも可能。祝い損ねててちょっと不満

コンプ:勉強は壊滅的だが、身体能力がバカ程高い。能力測定の結果だけで筆記試験のマイナスを覆したフィジカルお化け

カロル:筆記試験の時に開始数分で目の前で寝始めたコンプが普通に入学してて驚愕し、一般の出なのをまだ知らないからコネとかの不正入学を疑い直談判して色々見せて貰った。結果は再び驚愕した

オーちゃん:今回は影が薄い



領域:主に二種類存在し、一つはゾーン・超集中状態といったスポーツ全般における現象と同等の物。基本的に楽しさを覚えてのめり込めば誰でも到達可能で、G1に出るなら誰でも使えるある種の技術的な側面を持つ。ゲーム的に言えば金スキル等が該当する

 二つ目は、各ウマ娘固有のスキルとして魂(ウマソウル)の発露としての領域が存在。こちらは自身に埋め込まれたウマソウルとウマ娘本人の走りや認識、考え方に依って魂依存の領域に到達したウマ娘にのみ認識できる心象風景を発現する。今回のザーガの場合、周囲を夜景で塗り潰し、頭上にある星から力を得る感じ。詳細はまだ不明
 ただしこちらは上記の技術的に到達できるものと違い、切っ掛けさえあれば年齢を問わず発現する。また、金スキルが技術的な側面で肉体の限界内で発現可能な物に対し、こちらは限界を遥かに超えた出力を発揮する(前世馬の出力を丸々上乗せする)為、本格化を迎えていなかったり、非常に幼い内に発現した場合は良くて骨折。最悪脚が二度と使い物にならない程に損傷する

 ちなみに、ザーガが前話で壊れなかったのは領域が不完全であったのと、別の要因が働いたため。実質金スキル『弧線のプロフェッサー』が発動しただけである為です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。