7日ぶりに異世界食堂へ訪れたファルダニアは、いつも以上に【日替わり】が多く出されている食卓と、料理に舌鼓を打っている客に大きな関心を向ける。日替わりの板には【シュライプとエリンギの土瓶蒸し】と書かれていた。
ねこやの日替わりメニューは本当に気まぐれで、既存のメニューを組み合わせている日もあれば、後の新メニューに加わる料理、今回のように毎回出すには手間がかかりすぎる料理と様々だ。
【シュライプとエリンギの土瓶蒸し】……。メニューに書かれている
「悪いんだけれども今日の日替わりを、わたしとアリスが食べられるように作ってもらうことは出来ないかしら?」
そしてその興味を抑え込めるほど、ファルダニアは大人ではない。たとえそれが店主の恩情に甘えることになると分かっていても。
「かしこまりました。ちょっとマスターに確認してきます。」
そう言ってアレッタは厨房に走る。この問答は何度かしたことはあるが、ここの店主は料理の腕だけは超一流。大抵その答えは……。
「可能だそうです。シュライプの代わりに、エリンギとは別のキノコを入れさせていただきます。」
自分で頼んでおいて理不尽なことは分かっているが〝やられた〟という気持ちがファルダニアの胸に去来する。むしろこの店で出せない料理などあるのだろうか……。今度意地悪で〝エルフが食べられるトーフ以外を使ったハンバーグ〟でも注文してやろうかと思ってしまう。
「お待たせいたしました!しめじとエリンギの土瓶蒸しです。お好みでだし汁とすだち……こちらの果実でご調整をどうぞ。」
湯気から薫るのは強いだし汁とキノコ、薄口のショーユ、そしておそらくは一種類だけではなく、複雑に分量を量ったであろう複数の酒の良い匂い。小さな土瓶からでありながら芳醇な香りだけで鍋いっぱいに詰めたほどの具材を想起せしめる豊饒なものだった。
(香りだけでこの出来栄え? 日替わりに何てものを出しているのよこの店は!)
既に口の中はよだれでいっぱいになっており、味への期待が募っていく。まずはスープを掬い一口。その旨さに衝撃が走る。いつもより強めに作られたコンブダシに複数の酒の香り、そしてキノコ本来が持つ旨味が凝縮された煮汁、それらをショーユ・砂糖が柔らかく包み込み、そしてすだちという甘みのない果汁がスッキリとした後味を与えてくれる。
(これはただ煮ただけでは出来ないわ、待ちなさいよ……土瓶〝蒸し〟?蒸すって何かしら。)
恐らくこれだけキノコの味が凝縮した汁はただ煮るだけでは作れない。キノコそのものから旨味を抽出する方法があるのだろう。味わいからしてもこれだけの煮汁でありながら水の占める割合が少ないように思える。
ハーブを入れ出汁をとるのではなく、〝ハーブそのものを煮込み出汁をとる〟……。おそらくこの料理はその製法でできている。それがファルダニアの導き出した答えだった。
そんなことを考えながら土瓶蒸しに入っているキノコを食す。旨味の出汁をたっぷりと吸った良質なキノコは嚙めば嚙むほど味わいを出し、エリンギなる未知のキノコは心地よい歯ごたえを返してくる。
「ふぅ~~~。」
ファルダニアとアリスは同時に息を吐く。ファルダニアの興味は〝蒸し料理〟に向く。焼く・煮る・炒める・干す・燻す……どれとも違う調理方法。まずは水分の出やすい葉野菜から始めてみよう。
エルフ料理の求道者は、満足感を噛みしめながらも、熱意に燃えていた。