エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

13 / 41
ミルフィーユ鍋

「う~ん。今日は何を買っていこうかしら。」

 

 アリスを連れ街に出たファルダニアは、八百屋の前で真剣に悩みこんでいた。東大陸にはなかった西大陸独自の野菜は研究を大いにはかどらせている。トーフステーキに乗っていた雪の正体であったおおねをはじめ、煮込めば味をもった水分を出す玉菜(たまな)、鮫の皮ですりおろせばコメとの相性がナットウと双璧をなすほどの旨味を持つ山芋、海の国故並べられる干した海草の数々。

 

「玉菜を3つと、そちらの海草を左から順に全部いただけるかしら?」

 

「はいよ、まいどあり。」

 

 

 ひとしきり買い物を終え、料理研究の根城にしている森に戻ると、ファルダニアは早速買ってきた玉菜を水洗いし、コメを炊きはじめる。そして時間を見て、包丁で玉菜を等間隔に切り揃え、間に干しきのこや海草を入れ、外側から鍋にみっちりと敷き詰めていく。そしてそのまま蓋をして火にかける。

 

「ファル~。これ水が入ってないよ?」

 

「これでいいのよ。まぁ見てなさい。」

 

 以前異世界食堂で味わった〝蒸し料理〟。水をほとんど使わず、蒸気または素材が持つ水気のみを使用する調理法は研究のし甲斐があり、ハーブの分量・調味料の量ひとつで味が変わる複雑怪奇な代物だ。今回はその中でも一切水を使わない料理に挑戦してみた。

 

 そして鍋に火をかけている間に、山芋を鮫の皮ですりおろし、薄く切ったハーブと凝縮させたキノコの煮汁を混ぜる。そして米が炊けた頃に鍋を開けると……

 

「うわぁ~~。お鍋になってる!何かの魔法?」

 

 野菜とキノコと海草しか入れていなかったはずの鍋が、蓋を開けるとぐつぐつと煮立つ煮込み料理に変貌しており、アリスは驚愕の声をあげる。

 

「いいえ、玉菜がもつ水分を煮込んで抽出したの。これは期待できそうね。」

 

 自分でも想像以上の出来栄えに満足を覚え、アリスとファルダニアは食卓に着く。

 

 煮込むことで抽出された玉菜の汁は旨味一滴も逃すことなく他の具材と絡み合い、汁を吸い込みふくらんだ干しきのこはより肉厚となって一口噛めばジュワリと甘みを含んで歯ごたえを返す。

 

 そしてメインである玉菜をひとたび噛めば、海の味を凝縮させたやわらかな海草の味と、キノコの旨味をたっぷりと含んだ火傷なほどの汁が溢れ出す。

 

 そして炊いたコメに山芋をかけ食べると、粘り気がキノコの汁と混ざり合い、まるで麺料理のように口腔内で旨味を残し、確かな食べ心地の中に儚さを残して消えていく。

 

(本当はショーユとノリがあれば一番なのでしょうけれど……。)

 

 確かに美味しい。でもまだまだ届かない。コメは品種の改良が必須であるし、炊き方も完ぺきとは程遠い。それにショーユのもつ複雑な味わいは、キノコの煮汁には到底及ばない。

 

 そんなことを考えながらファルダニアはまだまだ精進を重ねようと、今日を生きる糧を口にし、熱意を燃やした。




・いままで書いていたストックが無くなったので週一更新くらいになります。よろしくお願いいたします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。