エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

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アクアパッツァ

「これは旨い!こんなに歯ごたえが心地いい揚げ物は食べたことがない!」

 

「おぅ!素晴らしい、酒にも合うぞ!こりゃ最高じゃ。」

 

「本当に肉も魚も乳も卵も使っていないの!?すごいわねファルダニアさん。」

 

 アリスとファルダニアは料理の研究資金を稼ぐため冒険者と即席のチームを組み、海の国の往来を拠点として人々を恐怖に陥れていた人食い(オーが)の討伐を終えた。

 

 ファルダニアがチームとして加わった冒険者チームの面々はファルダニアの弓術と魔法の力、そして今はエルフの長き生のすべてを懸け探求しているという料理能力に感嘆していた。

 

 へたを落とし縦に切り、油で揚げやすいよう数cmの扇状に切り揃えたメランザ(なす)をコメの粉をまぶして揚げ、すりおろした薬味を添え、干しきのことハーブから作った煮汁で味をととのえた料理は人間種とドワーフが混ざるパーティーでも大絶賛され、肉も魚も卵も乳も使われていないという事実に驚愕されていた。

 

「是非わたしたちのパーティーに正式に加入してくれないか!?もちろん研究の邪魔はさせない。君が目指す【エルフ料理】の一助になれればと思うんだ!」

 

「お誘いありがとう。でもごめんなさいね、わたしにとってお金や討伐は手段であって目的ではないの。」

 

「そうか……。いや、余計なお節介だったね。すまない。」

 

 パーティーのリーダーはファルダニアの柔らかだが確固たる意志を持った言葉に落胆を隠しきれない様子だった。ファルダニアもこのパーティーを他人をダマす類の悪い人間とは思わないが、研究はあくまで自分とアリスだけで行いたく、余計な干渉は受けたくない。

 

(それにしても切り方を工夫するだけで、揚げたメランザの旨味がここまで増すとはね……。)

 

 メランザはシエナの森にいた頃も食卓によく並んでいた。煮込んでもおいしいし、焼いて塩を振ってもなかなかにいける。しかし内包する旨味をここまで引き出す【美味】の世界に足を踏み入れるにはもっと努力が必要だ。事実〝揚げる際、扇状に切る〟技術は異世界食堂の模倣である。

 

(明日はドヨウの日。メランザについてもっと研究をしようかしら。)

 

 

 

「醤油を使わないナスを主体とした料理ねぇ……。」

 

 店主はクロから伝えられた注文に少し考えこむ。最早完全な常連となったエルフの姉妹らしき二人組。肉も魚も乳も卵も食べられないということから、昆布ダシのみそ汁を別に仕込んだり、豆乳の準備をしておくなど様々な配慮をしているが、たまにこういった無茶ぶりが来る。

 

 とはいえ店主も人生の半分以上を料理に注ぎ、ねこやの看板を守ってきた矜持がある。結構こういった難易度の高いミッションは楽しかったりするのだ。

 

「オリーブとナッツ類はまだあったよな、ケッパーの在庫は……あったあった。」

 

 材料がそろっていることを確認し、店主はナスを水に漬け灰汁抜きし、ニンニク、マッシュルーム、プチトマト、ミックス豆、オリーブ、ケッパーをフライパンに入れ、白ワインを取り出した。

 

 

「わーーー!きっちんが燃えてるー!」

 

「酒の酒精を燃やして香気をつける技術ね。肉料理で行っているのをよく見るわ。食べるのは初めてになるわね。」

 

 今日は運よく【特等席】に座れたファルダニアは少しだけ見える厨房の様子を観察しながら、店主の動作を脳裏に焼き付ける。そうしている間に料理はさらに乗り、食卓へと運ばれた。

 

「お待たせいたしました。ナスのアクアパッツァです。」

 

 皿に乗るのはしっかりと煮込まれていながらも揚げることによって柔らかさと食感の両立が期待できる、切れ目が入れられた大きなメランザ。キノコ・ガレオ(にんにく)・小さく丸い不思議な形のマルメット(ミニトマト)・炒られたまたは煮込まれた色鮮やかな豆類・見た目も綺麗な良い香りを放つ緑色の果肉・おそらくは酢漬けにしたであろう手間のかかった丸い小さな薬味・最後に添えられた香草。

 

 単純な見た目に反し、多くの手間をかけた食材の数々が渾然一体となって、鼻孔をくすぐり一呼吸おけばよだれが湧き出る素晴らしき薫り。

 

「じゃあ……。いただきましょうか。」

 

 ファルダニアはまずメインとなるメランザにナイフとフォークを入れる。口に入れると、皮はあえて剥かず、揚げたことによる食感はパリっと食べ応えを与え、煮込んだ中身の旨味がスープとなって染み出してくる。

 

 煮込まれた小さく丸い不思議な形のマルメット(ミニトマト)を口にしてみれば、微かな酒の味、炒った豆の香ばしさ、ガレオ(にんにく)の独特な香気、そしてメランザの旨味……。これほど多種多様な食材を使っておりながら、一つの味に調和されたスープの味は歪さを一切感じられず、それでいて食材一つ一つの個性をしっかりとまとめあげる完ぺきな仕上がり。

 

(ひとつひとつの解析でもどれだけかかるかしら……。)

 

〝エルフの生を以ってしても、世界とは存外広いぞ。〟

 

 ファルダニアは森都でクリスティアンが餞にくれた一言を思い出す。そんなとき……。

 

「ファル!これすごいよ!カリカリなのにもちもちで!ジュワってしてて!他の赤いのも緑のもすっごくおいしいよ!」

 

 アクアパッツァのおいしさに興奮している弟子アリスを見る。アリスはまだ30歳。おそらくあと50年は教育が必要な年齢だ。シエナの森を出てまだたったの数年。それなのに世界は未知にあふれている。

 

 その全てを理解できると思えるほど流石のファルダニアも傲岸不遜ではない。ならばあの日アリスに出会えたこと、それは運命だったのかもしれない。

 

 ファルダニアははしゃぐアリスを見ながらそんなことを考えていた。

 

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