ファルダニアは悪寒・悪心症状を引き起こし、痙攣する身体に悔しさを滲みださせて〝回復魔法〟を自分に施す。未だ冷や汗はひかず、呼吸も絶え絶えだ。
「ファル~~。もうやめなよ~。死んじゃうよ~~。」
アリスは涙目になりながら師匠の蛮行を止めようとするが、ファルダニアはとまらない。目の前には見た目のド派手な【食べないでください】とアピールしている毒キノコの数々があった。
ファルダニアがこんな危険な……ある意味で愚かしい真似をしているのは、前日のドヨウの日が原因であった。
「い、いらっしゃいませ!ようこそ洋食のねこやへ!」
7日ぶりに訪れた異世界食堂は混雑とは程遠い時刻の来訪ということもあり、賄いを食べていたアレッタが慌てて立ち上がり、給仕としての仕事を再開するほど閑散としていた。
「ちょっと待ちなさい。あなた一体何を食べているの?」
エルフの嗅覚は敏感だ。賄いに使われている料理にはこの店で提供されたことのないキノコが使われており……ファルダニアの勘が外れていなければ、それは毒キノコの類であった。
そもそもキノコというのは加熱調理しないで生食できる品はほぼなく、その中でも毒キノコとはエルフの文明を以ってしても、文字通り煮ても焼いても食えぬ代物。誤って食べてしまったが最後、地獄の苦痛が待っており、高位の魔導士による回復魔法が必要だ。
「何と言われましても……。マスターに聞いてみますね。」
そう言ってアレッタは厨房へ引っ込んだ。
「ああ、申し訳ございません。懇意にしている八百屋から珍味として頂いた品でして、従業員の賄いに提供しておりました。」
「そう、そのキノコ料理。わたしたちにも頂いていいかしら?」
「申し訳ございません。毒抜きしたキノコである関係上、お客様にはお出しできません。」
その〝毒抜き〟に興味があるのよ!! という心の声を抑えつつ、ファルダニアと店主の問答が続く。しかし店主は〝お客様にお出しできる品ではありません〟の一点張りであり、苦し紛れに〝7日後にわたしたちにも毒抜きした料理を出してほしい〟と懇願してみたが、〝毒抜きの免許をもっていないので……〟と言われ、最後の希望も絶たれてしまった。
そうしていつも通りトーフステーキを食べ、元の世界に戻ってから、ファルダニアの孤独で辛い戦いが始まった。
それでも一つ分かったこと。それは毒を持ち、見た目が危険なキノコほど普段食べるキノコの何十倍もの旨味を持っていることだった。
ただ植物性の油でソテーにしただけでも、旨味や香りが桁違いであり、それこそ舌を旨味で麻痺させ感覚を脳みそに流し込んでいるかのようだ。問題はその毒を抜く方法……塩漬けだろうか、燻製だろうか、幾度となく煮込み続けるのだろうか。
だがそうなればこの脳を直撃する旨味はどうなる?いっそのこと解毒の薬草と同時に焼くのはどうだろう?……店主の配慮と裏腹に、ファルダニアの危険な実験は10日以上続いていた。