エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

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冷製スープ

「甘い!けど味もしっかりしていておいしいです!……マスター!これ本当にマルメットと香辛料だけで作ったんですか?」

 

 店主は従業員にして〝異世界食堂で1番の客〟アレッタに朝の賄いとして低温調理を施したトマトの冷製スープを提供していた。

 

「ああ、低温調理をしたトマトってのはそれだけで果物くらいの甘さを持つようになる。塩コショウとオリーブオイルだけだが中々いけるもんだろ?」

 

「テイオン……調理?」

 

「まぁこっちの話だ。さて、今日も来るかねぇ。あの耳の長い姉妹は。」

 

 前回店を訪れた際、髪の長い妹らしきエルフの常連は体調を大きく崩しているように見えた。この時期採れるトマトは栄養も抜群であるし、冷製スープならば体調が悪くても口にできるだろう。そんな配慮から出来た料理が起こす物語を、店主はまだ知らない。

 

 

 〝シンプルにして洗練の極み〟

 

 それが冷製スープを口にしたファルダニアの第一印象だった。トウモロコシを始めとして、この異世界食堂には果物と見紛うほどの甘さを含んだ野菜類がたくさんある。しかし今口にしているマルメットはファルダニアの世界にも存在し、甘さよりも旨味に重きを置いた食材であるという認識だった。

 

 そんな常識がたったの一口で覆された衝撃はすさまじく、何より砂糖も過剰な香辛料も使用せず、塩胡椒・そして植物由来の油を少量つかっているだけという調理法に驚愕を覚える。マルメットの旨味をそのままに、甘みを最大限まで引き出し、ひんやりとした触感が舌の上を滑って消えていく。

 

「ファル!ファル!これおかわりしていい!?」

 

 アリスはその甘さに大興奮しており、はしたなく身体を揺らしながらお代わりを所望している。しかしファルダニアの耳にはそんなアリスの言葉さえ響かない。

 

(マルメットを加熱処理していることは間違いないわ。でも、火を通したマルメットは旨味が強くなれど、生の野菜がもつ新鮮さは失われるはず。かといって生野菜特有のえぐみは一切感じられない。ならばこの料理はどうやってこの完成度へもっていったというの?)

 

 ファルダニアに突如突き付けられた難題。それは森の賢者たるエルフを以ってしても植物の調理方法がわからないという屈辱。ファルダニアは銀のスプーンを捻じ曲げんばかりに憤怒の形相を呈した。

 

 

 

「栽培権利の一部貸し出し……でございますか。」

 

 下品にならない程度の絢爛豪華な調度品が並ぶ応接室。アルフェイド商会の西大陸支部であり、熟練の商人たる会長は怪訝な表情で突然の来訪者を値踏みするよう見定める。

 

「はい、マルメットはアルフェイド商会様が栽培における独占契約をもっている作物であることは理解しております。そのうえでわたしたちも料理の研究をしており、エルフの文明を以ってすれば甘み・旨味をよりひきだしたマルメットを栽培できるかと。」

 

「ならば専属の栽培園における栽培師になっていただくことは不可能なのですか?」

 

 この質問が一番の難関だとファルダニアは息をのむ。片手間で栽培したいなどと言えばすべてがご破算だ。利に聡い人間種というのはそう簡単に他人を信用しない。商人ならば尚更だ。

 

「その前にまず、食べていただきたいものがございます。受付にお出ししたものをここで。」

 

 商会長の前には切られたおおねが2種類・メランザ・キノコの類が塩焼きにされた状態で置かれる。

 

「……っ!これは!」

 

 その味は王宮を上回る食材を扱うアルフェイド商会でさえ唸るほどの美味。1つ目のおおねは辛みが強くありながら、独特の苦みは緩和されており、2つ目に手を伸ばせば葉に近い部分であろう、甘みが強く出ており塩焼きではなく生でかじりついても十分に旨味を感じられるであろう品だ。

 

 そしてメランザはとても肉厚であり、本来であれば皮を剝かなければたべられたものではないのだが、切れ目を入れるだけで皮は歯ごたえを与え、果肉の旨味を増す一助となる。

 

 傘の大きなキノコは×の字に切れ目が入っており、しゃくりとした歯ごたえと共に、口腔内で噛めば噛むほど旨味を伴ったスープとなって消えていく。

 

「以上の品が、我々が西大陸にきて半年で改良した品になります。」

 

 この御業が僅か半年の出来事であるということに商会長は驚愕する。アルフェイド商会にもエルフの栽培師はいるが、これほどの速度で食品の理解と改良を施すのは不可能だろう。

 

「是非マルメットにつきましても、アルフェイド商会様がお抱えになっている栽培師様とは別視点からアプローチさせていただきたくお話に参りました。如何でしょうか?」

 

 ファルダニアから差し出された手を前に商会長は逡巡する。本来であれば東大陸にある本部に許可をもらってから話をするのが筋だろう。しかしアルフェイド商会は王国・帝国・公国の3つの店舗が己の店こそ本店であると水面下で争いをしており、西大陸支店を取り込もうとする権謀術数には辟易としていた。

 

 いっそのことこのエルフと組み、〝マルメットの品種改良〟という偉業を成し遂げたならば、自分は3勢力の顔色をうかがう日々から解消されるのではないだろうか?なにより商会長にだって野望はある。

 

「わかりました。わたくしの権限の範囲であるため大農園とはいきませんが、マルメットの栽培を許可いたしましょう。ただ、当商会から経過報告について定期的な視察をさせていただきますが問題ありませんね?」

 

 一瞬ファルダニアに宿るエルフのプライドが邪魔をするが、それよりもマルメットの栽培許可が出たことがうれしい。そうしてふたりは固い握手を交わした。

 

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