エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

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ペスカトーレ

 普段ファルダニアが料理研究をしている森の中、そこには森に場違いなほど区画整備のされた清潔で殺風景な一室があった。ファルダニアは自らと収穫したマルメットを泉で清め、頑丈な革袋に詰め、ひとつの古代エルフ族より伝わる魔法を詠唱する。

 

 それは呼吸器をもち酸素を必要とする生物を抹殺する虚無の狭域魔法。空気を失った革袋は一瞬でマルメットの形に凹み、その隙を逃さず密閉の魔法を施す。そして人肌より20℃ほど温かい程度に火を通し、保温の魔法を施したぬるま湯にいれて半刻……。

 

 完全に密閉した革袋からマルメットを取り、包丁で切って一口かじる。

 

「やったわアリス!食べてみて!成功だわ!」

 

「わぁあま~い!この前のれーせースープみたい!」

 

 ファルダニアは苦節37回目にして、以前異世界食堂で突き付けられた大難題……エルフの文明を以ってしても単純な食物の調理法がわからないという屈辱を晴らした――実際エルフ並みの魔力を持つ優秀な魔導士でなければ再現不可能だろう――。

 

 低温加熱したマルメットは果物のように柔らかく、単純に火を通したときに奪われる甘さはむしろ増し、それでいてマルメット本来の酸味と旨味を残した素晴らしき品。

 

「このまま冷やして香辛料で調えるだけというのも品がないわね……。海国と東大陸を往来していた船乗りたちがたべていたアレを再現してみましょう!」

 

 海鮮類を大量に使っており野蛮なものとしか思えなかったが、〝スープに沈んだ麺料理〟という珍しさと、〝マルメットを使えばよりおいしくなるだろうな〟と記憶はしていた。

 

 献立を決めたファルダニアはガレオ(ニンニク)を刻み、粉にした海草と扇状に切ったメランザ(なす)を水に溶かしたコメの粉に入れ揚げる、オオトリ草(ほうれんそう)を灰汁抜きし、干しておいた辛みの強い香辛料はあえて調理せずそのままに。

 

 そして東大陸で買いこんでおいた麺をとりだし、湯にいれる。

 

 そしてここからが本番、皮むきして茹でたマルメットをガレオの入った鍋に投入し、香辛料で味を調え第一のスープを作成、そして低温で甘みを増したマルメットを潰して混ぜスープを完成させる。そして具材をスープに投入し、真っ赤な香辛料を乗せれば出来上がり。

 

「わあ~~。真っ赤なスープに麺!?これおいしそう!」

 

「ええ、火傷しないよう気御付けてね。あと辛かったら言ってちょうだい。」

 

「うん!」

 

 そういってファルダニアも麺を口にする。まず訪れるのはマルメットの旨味に沈んだ薫るガレオと香辛料の香ばしさ。インパクトのある味わいは淡泊な麺がしっかりと和らげ、噛みしめると辛さ・旨味・酸味・甘みが一気に押し寄せる豪快な味。

 

 海草で味付けした揚げメランザに手を伸ばせばコメの粉はスープを十分に吸い込み、メランザだけでは強くクドすぎるこのスープの味を緩和させ、マルメットの旨味をしっかりと馴染ませ、心地よい食感と共に返してくる。

 

「からい!けどおいしい!」

 

 ズルズルと麺料理としてははしたなく食べているアリスは満面の笑みであり、改めて師匠の偉大さを思い知る。見た目は暇な船旅で人間たちが食べていた生臭いアレに似ているが、色合いも味わいも全く違う。辛くて・すっぱくて・あまくて・そしてとてつもなくおいしい。アリスは正に幸せをかみしめていた。

 

 数日後、マルメットの栽培進捗調査に来たアルフェイド商会へ、低温による加熱方法をファルダニアは包み隠すことなく――真似できるものならばしてみろという傲慢さもあった――話したが、とても真似できるものはおらず、西大陸支部はおろか、東大陸の本店たちでも〝マルメットの甘き調理法〟は集会テーブルで連日議論になるほどの様相を呈した。

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