ファルダニアは西大陸にも大きく普及しているダンシャクの実の皮を剥き、向こう側が透けて見えるほど薄く切る。そして粉になるまで挽いた海藻を塩に混ぜ、薄く切ったダンシャクの実を揚げる。
帝国をまわった時に見た新たな調理法――おそらくその根源となったのはあの店だろうし、実際にメニューにもあったが――であり、本来熱が冷めればボソボソとなり旨味が彼方へ飛んでいく揚げダンシャクの実を、薄く切ることでパリッとした食感を与え、冷めてもなお旨い品だ。
その味付け方法は多種多様であり、塩を振るだけでも十分に旨いのだが、ファルダニアの好みは海の味をまとった〝ノリシオ〟という調理法であり、こちらでも似たものを再現出来た。
「わぁ~~!ファル!今日のおやつはポテトチップス!?」
「ノリシオの他に普通の塩もあるけれどどっちがいい?」
「ノリシオ~~~!!」
天真爛漫なアリスの声は料理人冥利に尽きる。ファルダニアは揚げたダンシャクの実の油をしっかりと取り除き、揚げたてパリパリのノリシオに、甘みの強い果実の果汁で作った飲み物を添える。アリスは手と口の周りをベトベトにしながらも、おやつの時間を存分に楽しんでいる。
このダンシャクの薄揚げ……異世界食堂でいう〝ポテトチップス〟は素晴らしい完成度であり、味付け次第で食事にもなるしおやつにもなるし、酒の肴にもなる。
(ダンシャクの実……。帝国という一国の在り方さえ左右した神代の食物。焼く・煮る・揚げる・蒸す・潰す、どれも最高の味となるわ。聞くにダンシャクの実が普及したのはたったの30年ほど前と聞く。人間たちよりもより高度な技術を身につけなくてはならないわね。)
人間の世界を旅したファルダニアはシエナの森にいた時のように、既に人間を低俗な存在だけとみていない。短い寿命に碌な魔力も持たないのは確かだが、エルフよりも悪く言えば強かで狡猾、よく言えば権謀術数に長けている。
そんな認識がよりエルフの矜持に火をつける。このまま負けてなるものか。ダンシャクの実というエルフ族には普及していなかったこの食材をもっと知り尽くしてやろう。ファルダニアはそう心に誓った。
「ジャガイモを使ったフライドポテトとポテチ以外のお菓子でなるべく加工したもの……ねぇ。」
店主は注文を取ってきたクロの言葉から、いつものエルフ姉妹によるオーダーだろうと推測し、見事に的中させる。
――――はい。肉も魚も乳も卵も使わないとのことですが、本日中の提供は可能でしょうか?準備が必要であれば7日待っていただきましょうか?
「いや、出来なくはない。1時間半ほどお時間いただければ可能と伝えてくれ。待てないようなら7日後で。」
――――かしこまりました。
――――ということですがいかがなさいますか?お待ちの間は軽食を頼んでいただいても構いません。
注文が注文なだけにまさか当日提供ができるとは思っていなかったファルダニアは絶句する。店の客はアリスとファルダニアだけではない。それなのに片手間で出せると言われれば苦笑するしかない。本当にこの店のストックは底が知れず、7日待たずに出てこない料理などむしろあるのだろうかとさえ思ってしまう。
そして待つこと1時間半……
――――大変お待たせ致しました。いももちのみたらし団子風です。
その見た目はパンのようでもあり、昼間過ぎによくここで頼まれているケーキの類に似ていた。しかしエルフが苦手とする肉・魚・乳・卵の気配が一切感じられず、鼻孔をくすぐるのは焼けたショーユと酒の良い香りがする琥珀のような輝きがトロみとなったタレと、おそらくは揚げるように強火で焼いたダンシャクの実がもつ力強い大地の香り。
よだれをたらし待てを食らっているアリスと共に、ファルダニアもこの未知の料理にナイフとフォークを入れ一口。まず外装から伝わるのはパリッとした食感……ダンシャクの実を潰して調理したことはあるので、ここまではわかる。
問題はその内部。滑らかでもっちりとした食感が広がり、ほんのりとした塩気に、甘みを帯びた琥珀色のタレが口腔内で混ざり合い、ダンシャクの実の料理でありながらホロホロと崩れることはなく、噛みしめるたびに柔らかで心地よい食感を返し、火傷しそうなほど熱い外側と混ざり合い、甘みと旨味の両面をとどまらせる。
(これは……パンに似た部分だけを言うならば砂糖を減らし、香辛料を混ぜ合わせれば菓子ではなく食事にもなるわね。でもこのミタラシというタレが絶品だわ。ショーユ・砂糖・酒は分かる。でもどうすればこんなにトロミのついた代物になるの!?)
煮たダンシャクの実を潰して焼いてもこうはならない。ショーユの作り方が分かっていない以上、タレを作ることは不可能でも、パンに似たダンシャクの実。そしてタレにトロミをつけるという発想は早期に解明するべきであろう。
カミラのもとにいた際研究していた海草を片っ端から使っていこうか?ファルダニアの研究は続いていくのだが……。彼女がダンシャクの実の真なる素晴らしさに気が付くのはもっともっと先の話。