エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

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ガトーショコラ

「おお!この細切りのクマーラを包む薄い皮が〝コムギ〟……北の民の主食であるか。揚げることでサクッとした食感を返し、中の飴らしきものを煮たものがクマーラとよく馴染み旨い!」

 

「わたしも普段食べるダイガクイモと違う品を出してくれと言ったけれど……。ハルマキ風だったかしら?おいしいわね。それでアントニオさん、サツマイモ……南大陸でいうクマーラは一般的に食卓へあがるものなのですね?」

 

「ああ、しかしながらこの食堂のように滑らかな味わいとは程遠く、ボソボソとした品だがな。」

 

 金の大神官と耳長き侵略者が談笑する卓を見据えるのは白の神の大神官にして神に選ばれし【白の子】に仕える褐色肌の美女カタリーナ。普段は同じ白の神を信仰している4人の神官・大神官と卓を囲むことが多いのだが、今日は入れ違いになってしまったようで、ひとり異世界食堂で一番の美味であるココアとティラミスを味わっていた。

 

 この店で給仕をしている種族でもある万色の混沌の信徒ならば大神官として幾多も〝排除〟してきた実績はあるが、〝耳長き侵略者〟は口伝に聞くばかりで、一説には大疫病で文明を大きく衰退させ絶滅寸前とも、六柱の神の偉大さを前に心折れ森に隠居したとも聞いている。

 

 しかし神より授かりし竜の目を通してみればアリスという子供はまだしも、ファルダニアなる少女は人間でいえば第二次成長期前後といった年齢にも関わらずそこいらの神官をはるかに超える魔力量を有し、頭の回転も速い。

 

 何よりマーメイドの青の神官と懇意にしていた場面は多く見ていたが、寡黙かつ慎重で知られる金の大神官と打ち解けている姿はカタリーナからすれば脅威であった。

 

(耳長き侵略者とは未だ脅威となりえるのかしら。まず情報が必要ね。)

 

「ねぇ店主さん。ちょっと相談があるのだけれど……。」

 

 とはいえここは異世界食堂。いきなり裁きの光でこんにちはとはいかない。まずは食事を共にし談話を重ねるべきだろう。そして、提供するからにはこの店でもっとも美味なものを、相手に味わわせるべきであろう。

 

 

 その21日後……

 

「相席をよろしいかしら?トーフステーキさん?」

 

「あなたは……」

 

 ファルダニアは目の前に現れた膨大な魔力を内包する人間種に息をのむ。森都の最高位エルフと同格の魔力量を有しており、異世界食堂で出会った中では、カミラやアントニオに匹敵する脅威たる存在だ。

 

「そう警戒しないでちょうだい?料理の研究をしていると聞いて、わたしもその一助になれればと思ったの。あなたはカラオ豆というものは知っている?」

 

「カラオ豆……。初めて聞くわ。どんな食材なの!?」

 

「まぁ食べてみるのが一番早いわ。アレッタさん、店主に【以前お話しした品】を持ってきてもらえるよう頼めるかしら。」

 

「はいかしこまりました!ご注文ありがとうございます。」

 

 注文を受けた店主は幼馴染であるフライングパピーの店長に無茶を言い、目の下にクマを作り10日かけて納得のいく代物が出来たと言っていた商品とドリンクを取り出す。

 

 

「お待たせいたしました!特製ガトーショコラとチョコレートドリンクです。ごゆっくりどうぞ!」

 

「おいしそうね。まずは飲み物からいただきましょうか。」

 

「え、ええ。」

 

 ホットチョコレートというココアと違う甘みと苦みが混在した飲み物は、油っ気を完全に除外したココアと違い、乾燥や発酵を駆使しているのだろうか、カラオ豆がもつ少しの油気を残していながら、砂糖の他に、乳に似たコクの強い飲み物が混ざり合い、更には甘くさわやかな未知の香辛料が鼻孔をくすぐり、普段飲むココアとは違う、大人びた甘さを与え、その味に顔を綻ばせた。

 

 またファルダニアもカッファの独特な苦みとは似て非なる、炒った未知の豆が織りなす香ばしい匂いが自分たちで作るより洗練された【エルフ豆のクリーム】で溶けあい、砂糖の甘さの他、清涼感のある甘辛い香辛料で調えられた味に驚愕を覚える。

 

 エルフ豆を使ったクリームと甘味の組み合わせは初めてであり、これはもはや乳の代用品ではなく元々エルフ豆のクリームがもつコクを使わなければ完成しない甘さだ。このドリンクの完成度を内心悔しさを覚えながらも讃える。

 

 次に二人が目を向けるのは【特製ガトーショコラ】という完全にケーキの形と香りをさせたもの、しかしそこにエルフの嫌う品(肉・魚・乳・卵)は一切感じられない。そして一口……3人の目が見開かれる。

 

(卵も乳も使っていない代物がどうしてこんなにふんわりとしているの!?カスタードともコーヒー味とも違う、重厚な甘さを持ちながらそれでいてカラオ豆の微かな苦みがアクセントとなる素晴らしい味。)

 

 正直耳長き侵略者は野菜しか食べないという情報から作ってもらった【接待用】のケーキであり、味の期待などしていなかっただけにカタリーナの衝撃は大きい。ティラミスのように複雑な味わいと違う、カラオ豆の染み渡った生地、焼き菓子とは違う、それでいて心地よい歯ごたえの層と、ふんわりと柔らかな層に分けられた食べ応えのある味わい。また、その重厚な甘さが、爽やかな香辛料を含んだチョコレートドリンクとよく合い、確かな食べ応えを与える。

 

(これは……エルフ豆のクリームだけではないわ。まちなさいよ、カラオ豆というのも、まさかエルフ豆と似た手法でクリームを作れるの?それにこの口の中でとろける柔らかな層は油分を足したのではなく、元来持つものから由来した味……。)

 

「カタリーナさん! カラオ豆とは油分がとれる豆なの!?」

 

 やはりこのエルフは頭の回転が速い。自分はカラオ豆の知識しか話せないが、彼女はどこまで話してくれるだろう?カタリーナは他の神官と違い野心がある。そこに引け目を感じるほど目の前の少女――自分より年上だろうが――は目を燦然と煌めかせている。

 

 罠を張る真似をした自分を少し恥じながらも、人間を愛する白の神の信徒たる自らの役目を思い出す。カタリーナは覚悟を決めるように甘くて苦いチョコレートドリンクを口に含んだ。

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