それはファルダニアとアリスがいつものようにドヨウの日を楽しんでいるときだった。
「やぁ、初めましてかな?何度か店で見かけていたんだけれど、気にはなっていたんだよね。相席をいいかい?」
「別に構わない……ですが。」
ファルダニアは目の前の少年にも似た異様な存在を見つめる。寿命が1000年と呼ばれるエルフはほぼ肉体的に老いることがないため、おおよその年齢をその魔力量で見定める。
目の前の男がエルフであることは間違いない。しかしファルダニアの目を以ってしても異様な魔力量を有しており、それでいながらまだまだ発展の途中という異質なもの。それがファルダニアを敬語にした理由だ。
「僕の名前はイルゼガント。あっと、ここでの名前は宇治金時なんて言われているね。君はトーフステーキさんで間違いないかな?」
誰が最初に始めたか、異世界食堂ではその人の好物をあだ名とする習慣がある。確かにいつも注文しているもので言えば、ファルダニアのあだ名は〝トーフステーキ〟か〝ライスバーガー〟、次点として〝焼きおにぎり〟になるだろう。
「以前からトーフステーキさんとは話してみたくてね。1000年前の大疫病を生き抜いた末裔。ふむぅ、魔力量に変異があるのは1000年という時の流れか、はたまた文明が大疫病で衰退したせいか……。」
「あ、あなた!1000年前の大疫病を知っているの!?」
ファルダニアも口伝で聞かされた程度ではある。かつて栄華を極め覇を唱えていたエルフへ突然襲い掛かった青天の霹靂。たったの20年で半数のエルフが死んだとも、死を恐れるあまり禁忌の魔法へ手を出し化け物へ変化したともいわれる、エルフ族にとって忌まわしき歴史。
店内の客が一斉に激発したファルダニアを見るが、皆慣れた光景とばかりにすぐさま食事にもどった。何しろここは異世界、どんな事情があろうと手出しは無用だ。
「そんなに大きな声を出さないでくれ。僕も両親から聞いただけなんだ。」
よくみればイルゼガントはシエナの森でみたエルフや自分たちよりも耳がより鋭いように思える。【大疫病を生き延びた始祖の古代エルフ族】……まさか異世界食堂とはいえ、そんな存在にお目にかかれるとは思ってもいなかった。
「それで?話とは何かしら、わたしたちを蔑みにきたの?」
如何に始祖のエルフ族とはいえ、いきなり現れ自分たちを下等の存在と見なしてきた相手を快く受け入れられるはずもなく、ファルダニアは不機嫌さを隠すことなく問い返す。
「違う違う!興味本位ということは否定しないが、君たちも料理の研究をしていると噂に聞いてね。」
「君たち〝も〟!?ということはあなたも料理の探求者なの!?」
「ああ、僕は宇治金時を何とか再現しようと島の薬草園から豆や薬草の研究をしているんだが、中々味の再現が出来なくてね。」
「ちょっと、ウジキントキってなにかしら!?ここにはまだエルフが食べられるものがあるっていうの!?」
「ああ、期間限定だったらしいが僕には特別出してくれるんだ。アレッタ!カキゴオリって確か他にも種類はあったよね。」
「はい、宇治金時以外にはイチゴ、メロン、レモン、ハワイアンブルーがございます。」
「じゃあ彼女たちにごちそうできないかな?もちろん、肉・魚・卵・乳の入っていないものを頼む。」
「かしこまりました。」
「うわぁ~~。」
アリスが目を星のように光らせたのは、赤いベリーの乗ったイチゴ味、そして大ぶりに切られ赤身を帯びたずっしりとした果実が大胆に挟まれたメロン味。
「これは雪……。ではないわね。」
「あはは、僕も同じ感想だったよ。是非一口どうぞ。」
イチゴ味はアリスに与え、雪に鮮やかな緑色の汁をかけたような代物をスプーンで掬い、口へ運ぶ。
(おいしい!)
舌から伝わる冷たさは脳天に突き抜け頭を冴えさせ、甘味が一層鮮明に記憶させる。パフェを始めとしたデザート類は大抵は乳や卵が使われているため、野蛮な料理としか思わなかったが、いまなら彼女らが執着する気持ちもわかる。
一見おおぶりに見えた未知の果実には包丁が入れられており、いつでも一口大に箸休めとして食べられ、その心遣いが憎らしい。そして食べ続けているうちに……
「「 いった~~~い 」」
ファルダニアとアリスの脳天に強烈な頭痛が襲った。突然何かの呪いかとも思ったが、イルゼガントは悪童のような表情で手をたたき笑っている。
「あっははは!この食べ物は食べすぎるとこうなるんだ。」
予想していたのだろう、何て悪趣味な男だ。そう考えながらも、ファルダニアはかき氷を食べる手を止められなかった。
エルフ料理の開祖ファルダニアに数多の知識を贈与したとされる謎に包まれた始祖のエルフ。その邂逅だった。