ファルダニアは研究をしている森の中で、
「前回、
勝手に〝隠れ包丁〟と仮称した技術は単純ながらも、配慮の行き届いた一手間であり、水気が多く本来であれば味の染み渡りに難があるおおねという食材を理解していなければ出てこない発想だ。実際こちらの世界にあるおおねでも試したが、味は雲泥の差であった。
「さて、時間ね……。」
日が天まで上り、空腹を覚えたことを確認する。〝包丁の入れ方〟にまたもしてやられたファルダニアは、あえて今回のメニューを【具材を最低限以外切らず、それでいて加工したもの】と7日前に伝えた。
素材をそのままに加工してくれるのならば、近づきようはいくらでもある。そう考え、ファルダニアは扉を召喚し、アリスと共にチリンチリンという音を聞いた。
「いらっしゃいませ!ようこそ洋食のねこやへ!」
「アレッタ、今すぐ店主に私が来たことを伝えて料理を持ってきて頂戴。」
「はい、かしこまりました。ご注文ありがとうございます!」
やや気持ちが急いてしまい、不遜な態度をとってしまったが、心の中は出てくる料理のことでいっぱいだった。アレッタも慣れた様子で給仕として満点の笑みを浮かべる。
今日は【特等席】が
「お待たせいたしました!豆乳の玄米リゾットです。トッピングはキノコの他に、ミニトマトとナスのマリネをご用意しました。ごゆっくりどうぞ。」
……確かに出てきた品はファルダニアの言ったように【原材料が見え、最低限しか包丁の入れられていないもの】であった。〝リゾット〟に使われているのは現在研究の拠点としている西大陸では多く普及されているコメであろうし、エルフ豆のクリームに、メランザと小さなマルメット。
ただ問題なのは〝なにをどうしたらこうなるのかサッパリわからない〟ということだ。包丁が入れられている痕跡といえば、メランザに調味料が通りやすいよう斜めに切り口浅くいれただけ。まずはスプーンで掬い、匂いを楽しむ。
(まずは匂いからの情報だけれども……。ゲンマイというのはおそらく完全に精製をしてないコメのことね。いつも以上に、自然のままの香り。そのゲンマイをまとっているのがエルフ豆のクリームとミソだということはわかる。でもどうしたらコメがこんな風に炊けるの?スプーンから伝わるのは粥とはちがう、優しい柔らかさ。それに、マリネとかいうメランザとマルメットから伝わるのは、強い薬味の匂い。でもこの前食べたアクアパッツァとは違い、より漬け込んだことがうかがえる。)
ファルダニアは歯噛みする。先ほどの注文であれば、特殊な切り方をした料理を学べると思ったのだが、まさか本当に〝具材を縦と横にしか切っていない料理〟が出てくるなど思ってもおらず、計算違いもいいところだ。
しかしこれはこれで勉強になる。そう思い一口。ファルダニアの口腔内にエルフ豆のクリームとマリネなる味わいをたっぷりと吸った玄米が躍る。すると、優しくて上品なリゾットという料理の優しい味わい、そしてマリネのホロッとした食感、酸味と塩気、ちょっとクセのある味わいが混ざり合い、酸味、塩味、苦み、旨味が折り重なり、複層的で奥行きのある味わいが舌の上を転がっていく。
(この〝リゾット〟と〝マリネ〟……すごい完成度だわ。)
エルフ豆のクリームでコメを炊けば似たものが出来上がるだろうか?いや、もっと手間がかかっている。更にマリネに使われている香辛料は……いや、薬液だろうか?
この扉を出たら、さきほどまで切り刻んでいた食品の数々を様々な料理液に漬け込む日々が続くだろう。ファルダニアはそう直感していた。