エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

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ほうじ茶ゼリー

 まだアレッタやクロが出勤して時間もたっておらず、店主が仕込みをしているドヨウの日。上の階にあるケーキショップ『フライングパピー』の店主がいつものように注文の品を持ってきた。

 

「よう、おつかれさん。」

 

「おう、おはよう。いつも通りケーキを持ってきたぞ。それとこれは感謝の品だ。〝向こうの客〟に出せるかは置いておいて、うちでは本格的に〝商品化〟することにした。」

 

「えっと……マスター何か違うのですか?」

 

 アレッタはいつも通りおいしそうで美しいデザートの数々に首をかしげる。しかし店主はそのデザートの本質を見抜いた。

 

「ほぅ。このクッキーとドーナッツは米粉・豆乳・くるみ・ココナッツオイルとアーモンドミルク、こっちはほうじ茶に麹と甘酒か?随分な変わり種をだしたな。」

 

「この前お前が【 肉も魚も乳も卵も使わないケーキを作れ 】なんて無茶を言ってきたろ。折角だから店頭に出してみたら、〝身体に優しい超低カロリーデザート〟なんて噂になってな。【罪悪感なしで食べられる】なんてお墨付きで結構売れるんだこれが。もちろん味には自信があるぞ!アレッタちゃん一個食ってみな。」

 

「いいんですか!?」

 

 アレッタが手にしたのはほんのりと焼き目のついた白いドーナッツ。手に取るとまだ温かく、口にすると揚げたて独特のサクリとした食感が触れ、中のもちもちとした生地は普段のデザートと違う柔らかな甘みを与えてくる。

 

「これ!すっごくおいしいです!」

 

「だろ?でもこいつは確かにさっぱりしていてうまいが、本家本元のドーナッツやケーキも食いたくなるのが人間の性。昼間はこいつを買って、帰りには乳と卵を使った普通のケーキやドーナッツが売れていくんだ。」

 

「お前なぁ……。」

 

「お客様のニーズだ、しょうがねぇだろ。まぁそんなわけでちょいと変わったデザートが増えたから、納品しておくぜ。」

 

 フライングパピーの店主はカラカラと笑いながら、ねこやを去っていった。

 

 

 

「ふ~~。おなかいっぱい。しあわせ~~。」

 

「ええ、流石に食べすぎたかしら。」

 

 西大陸の森に居を構える研究所で、ファルダニアとアリスは、大量に作った玄米の料理をすべて平らげ、しばらく動けないほどの満腹感を得ていた。前回あの店で自然の香りが強い精製していない玄米の料理をたべたことで、炊き方やだし汁・エルフ豆のクリームとの組み合わせ、炒め料理、そして炊き込みなどの技法を駆使し、袋いっぱいにあったコメはすべて食べつくした。

 

「今日はドヨウの日だけれど、ヨウカンやダイガクイモさえ食べる気にならないわね。夜におなかが空くまで待つのもいいけれど……。」

 

 ファルダニアは思考する。本当に美味しい料理とは満腹の時にでもおいしいもの。あの店ならばそのような品でもだせるのではないだろうか。

 

「アリス、少し動けるようになったらデザートを食べに行きましょうか?」

 

「あ!きょうそういえばどよーのひだ!」

 

〝ご飯を食べたばかりでダイガクイモも入りそうにないわ。何かあるかしら?〟

 

 そう注文すればあの店では何が出てくるだろう。流石に7日待たされるだろうか?そんな思考をしていくうち、ほんの少しだけ、おなかに余裕が出来たことを確認する。

 

「じゃあアリス、いきましょうか。」

 

「うん!」

 

 

「お待たせいたしました!ほうじ茶ゼリーです。ミルクに見える品は〝アマザケ〟と〝コウジ〟で出来ておりますのでご安心してお召し上がりください。」

 

 その見た目は完全にカッファを固めた〝珈琲ゼリー〟という砂の国らしき魔導士がよくたべているものに酷似していた。しかし鼻孔をくすぐるのはカッファとはちがう、よく炒って凝縮させた茶の良い香り。また乳に似た見た目をした白いトッピングからは、花や果物によく似た香りが空腹感を誘う。

 

 見た目を匂いを楽しみ、いよいよ一口。その舌触りはフルーツゼリーによく似ていたが、鼻を通るのはよく焙煎された未知なる茶の味と、〝アマザケ〟と〝コウジ〟なる濃厚でありながら果物を彷彿とさせる芳醇な味わい。

 

(ほうじ茶はまだわかるわ。未知の茶をカッファに用いる〝焙煎〟という手法を使って、更に何手間もかけて炒って煎れたもの。でも〝アマザケ〟と〝コウジ〟……これは発酵しているの?発酵した品がこれほどの甘さを持つなんて。それに微弱ながら感じ取れる穀物の香り。エルフ豆を発酵させて出来たのがナットウとミソ、ならばまさか、この〝アマザケ〟と〝コウジ〟は穀物を発酵させれば作れるの?)

 

 ファルダニアの脳裏に森都で発酵の研究をしている父の親友クリスティアンの顔が過る。発酵に燻製、精製に脱穀……シエナの森にいた時分では考えられない、加工技術の数々。

 

「……おいしかったわ。」

 

 思考しているうちに、小さな器に入っていたほうじ茶ゼリーはあっという間になくなった。この小さな器には無限の可能性が込められている。そう思うと、先ほどまで大量のコメを平らげていたことなど忘却の彼方……、この台詞はアリスと同時だった。

 

「おかわり!(をいただけるかしら。)」

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