エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

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包み焼き

 剣吞な空気が工房を支配し、西大陸でも名をはせた鍛冶職人であるドワーフは怨敵を見んが勢いでファルダニアとアリスを見つめている。

 

 エルフとドワーフ……不俱戴天の教科書ともいえる種族であり、片や魔術に長け、古より生きた歴史を持ち、長い寿命を持つ。片や超絶技巧を駆使し、その技術は多くの歴史を塗り替え、刹那に生きる。そしてともに頑固者である。あまりにも歴史や生き方・信仰すべきものが違いすぎる故、その対立は自明の理といえた。

 

 そんなファルダニアは、殺気に近いオーラに臆することなく、ひとつの輝く紙を取り出した。

 

「海の国で最も高名な鍛冶職人と聞いてあなたを訪れたわ。この金属の紙を再現してほしいの。」

 

 取り出したのは銀色に輝くくしゃくしゃの金属と思われる紙であり、異世界食堂で出てきた〝ホイル焼き〟なる品で()()アリスの懐に入っていたものだ。その銀紙を見た瞬間、ドワーフの敵愾心が薄れ、興味の対象が金箔とも金属板とも違う未知の代物に行く。

 

「娘。これをどこで手に入れた?」

 

「異世界よ。」

 

 鍛冶職人のドワーフはスケールの大きさに当惑する。だが同時に、これほど形を変えても破れぬ丈夫な金属箔など、この長い鍛冶職人生命で見たことも聞いたこともない。そもそも金属がこの世界に存在するものかどうかも不明だ。異世界の品と言われた方が胸にストンと落ちる。

 

「報酬に糸目は付けない……。なんていえば偏屈なドワーフは逆にやる気がそがれるようだから単刀直入に聞くわ。再現できるの?出来ないの?出来ないならすぐに出ていくわ、ごめんなさいね。」

 

 目の前の小娘としか思えぬエルフ族の挑発に、返す刀で怒鳴り返そうかとも考えるが、職人として目の前にある未知の金属箔が理性となり口をつぐませる。

 

「この金属箔は何に使われていたものだ?」

 

 熱伝導・気体や水分の遮断・光や熱の反射に遮断、金属箔のシワを伸ばすとその用途はあまりにも多様で、その全てを思いつくことは難しい問題だった。

 

「料理よ。」

 

「料理!?料理如きにこれほどの品を使ったというのか!?」

 

「如きですって!……失礼。それで、作れるの?作れないの!?」

 

 ファルダニアは、激発しそうな感情をか細い理性で抑え、ドワーフに二択を迫る。

 

「……わかった。10日後にまた来てくれ。」

 

「報酬は?金貨かしら?〝新しい火酒〟かしら?」

 

「いや、この金属箔を報酬としてもらいたい。」

 

「そう……。わかったわ。ただし生半可な代物ならば渡せないことを理解してくれるかしら?」

 

「誰にモノを言っておる。職人の矜持に懸けて、そんな品で報酬は受け取れんよ。」

 

 

 そして10日後。

 

 

「ふ~ん。まぁまぁかしら。」

 

 (すず)で打ち金属箔としたその品は〝ホイル焼き〟に使われる金属箔には及ばないものの、十分な柔軟性を持ち、何度か形を変えても破れることはないだろう強度をもっている。流石に〝ホイル〟のように変幻自在とはいかないが、ある程度の形を保ち、調理につかうことは可能だろう。

 

「ありがとう。じゃあ、謝礼はその金属箔でいいのね。」

 

「ああ……。」

 

「そう、じゃあありがとう。行くわよアリス。」

 

「は~い!」

 

 ファルダニアとアリスの去った工房には、未知の技巧を駆使した金属箔に見惚れるドワーフだけが残された。

 

 

「さて!作るわよ!」

 

 森の研究所に戻ったファルダニアは早速錫の金属箔を器型に形成し、キノコ・スライスしたオラニエ・細切りにしたキューレ(きゅうり)・刻んだガレオ(にんにく)を投入し、粗びきにした香辛料をいれ、そして上等な酒と柑橘の皮を隠し味に混ぜる。

 

 あとは火にかけ、蒸気が漏れないよう金属箔で包み込むようふたをし、10分ほど弱火で煮込む。その出来上がりは……

 

「うん!中々ね!」

 

 金属箔の中でぐらぐらと煮込まれた銀色の包みを開いた瞬間、錫のホイルヤキから薫るのは酒・ガレオ・香辛料の香り。そして一口キノコを口にすると、溢れ出た他の野菜の旨味を十分に吸い込んで、隠し味の柑橘が味を引き締める。ただ焼くとも煮るとも蒸すとも違う、旨味を一切逃がさない味わい。

 

「それにしてもファル~。」

 

「なにかしら?」

 

「あのぎんのかみならわたしまだ3まいくらいもってるよ? 全部渡さなくてよかったの?」

 

 ファルダニアはやや意地の悪い微笑を浮かべた。

 

「向こうがいいというんだから、いいんじゃないかしら?」

 

 

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