「う~ん、確かに煮れば柔らかくはなるけれども、歯ごたえとの両立が出来ないわね。それに味も良くないわ……。そして、こっちは柔らかすぎて調理に向かないし、香りが強すぎるわね。」
ファルダニアは若木や幼木、果ては薬草の根を一部掘り起こして切り取り――エルフの誇りとして樹々の成長を妨げることはしない程度に――様々な調理法を施し、口にしていた。ライスバーガーのかき揚げを始め、自分たちが独自の注文をした際に使われる〝ゴボウ〟なる根菜をこちらでも再現または似たものが無いか探求するためだ。
他の客には〝土臭い〟〝木の根のよう〟と人気はないらしいがファルダニアからすればとんでもない。木の根のような見た目からは信じられぬしっかりとした水気と旨味を持った〝野菜〟であり、歯ごたえに応えてくるのはゴボウ特有の自然豊かで柔らかな香りと旨味。
そもそも本当に根菜なのか?樹々の根なのか?ひょっとすれば芋の類なのか?研究を重ねるほど、〝ゴボウ〟という素材に対しての謎は膨らんでいく一方だ。とはいえ異世界食堂で出てくる未知の品が永遠に手に入らないわけではないとファルダニアは知っている。
例えばアリスの大好物であるトーモロコシや、単体でも強い甘さを持つ芋類たるサツマイモ、そのまま食べても旨いし、〝エルフ豆のクリーム〟とは違う乳に似た品の原料であろうカカオやアーモンドは、南大陸では一般的に手に入るという。ひょっとしたら自分たちが見つけられていないだけで、〝ゴボウ〟もこの世界のどこかにある可能性は捨てきれない。人間たちが〝土臭い〟〝木の根のようだ〟と忌避していたならばなおのことだ。
とはいえ研究の進捗は芳しくない。本当にただの木の根を食べる生活をここ5日は続けている。未完成の品を口にすればするほど、本物が恋しくなる。今日のドヨウの日に頼むものは既に決めていた。
「お待たせいたしました!ごぼうとカシューナッツのフリッターです。ごゆっくりどうぞ。」
〝ゴボウの味を楽しめる料理〟と注文したが、キンピラに使われているゴボウと違い、丸まる一本を使ったゴボウは
(皮むきをすることでこれほど鮮やかな白色をだす代物……。ただわたしたちの世界でも同じ形とは限らない。やはり木の根やイモ類ではなく、根菜?いえ、まだ決めつけるには情報が足りなすぎるわね。)
これ以上ここで考えてもしょうがない。ファルダニアは目の前の料理に集中する。半月型に大胆に切られた太いゴボウが薄い衣だけをまとい、軽い焼き目を付けた白い美しい姿が顔を出している。また砕かれたカシューナッツなる豆からは甘みを帯びた果物にも似た香りが鼻孔をくすぐり、ショーユとおそらくは味付けされた酢の香りがゴボウとカシューナッツを優しく包み上げている。
ゴボウを一口かじると、恐らくは高温で揚げたのであろう、内蔵されるゴボウ特有の味わい深い澄んだ水分がジュワリと滲みだし、その旨味に目を見開く。また単体ではクセがあるゴボウの味は、カシューナッツの甘み、ショーユ、酢が混ざり合うことで、それぞれの甘さ・旨味が調和し、素晴らしき味となる。
また7日ほど、様々な植物の根を食べ続ける生活になるだろう……。そんなことが脳裏に浮かんだ頃。
「失礼します。食後のデザートに、ごぼうのかりんとうをご用意しております。よろしければいかがでしょうか?」
アレッタが手に持つ甘味はアリスの目を燦然と煌めかせるもので、ファルダニアの好奇心を大きく揺さぶるものだった。そして心の中で訂正する。植物の根を齧る生活は7日で済まないだろうことを……。