「ファル―!あれ食べてみたい!」
アリスが放ったその一言が、すべての始まりだった。いつも〝パフェ〟なる乳の匂いが強い菓子を食べている高貴な身分であろう麗しい人間種。その日彼女は〝マッチャパフェ〟という恐らくは粉になるまで挽いた茶葉を多用したであろうパフェをつまんでおり、いつもは乳臭く見る気もしないナマクリームの代わりに宇治金時でも使われているアンコやシラタマダンゴが多く使われており、多少の乳臭さに目をつむったとしても確かに美味しそうな品であった。
とはいえナマクリームがふんだんに使われているのは変わりがないし、冷たい乳菓子がパフェなるものの根幹の一部を担っている。恐らく〝自分たちにたべられるものを〟と今日頼んですぐに出てくる品ではないだろう。
「ちょっと店主、少しいいかしら?」
「はい、どうされましたか?」
自分たちが呼び出したということは無理難題を突き付けられるに決まっているはず。それなのにここの店主は飄々とした態度を崩すことなく、笑顔まで浮かべている。ファルダニアにはその姿が眩しくも見え同時に悔しくもある。店主にとって自分たちの出す無理難題など、赤子の手をひねるようなものなのだろう。その事実が実に歯がゆい。
「あの人間が食べている菓子、わたしたちが食べられるように出すことは出来ないかしら。」
「かしこまりました。すでにお食事は済んでおりますし、パフェだと量が多いと思いますので、似た品でしたらそうですね……。これからおからのスポンジケーキを仕込むとして……。長くても45分以内にはお出しできますよ。ちなみに味は2種類から選べますがどちらになさいますか?もちろん、肉も魚も乳も卵も使いません。」
「は!?」
ファルダニアの目が驚愕に彩られる。パフェというのは見たところ何手間もかけた菓子を何層にも分けた菓子の中でも1、2を争う複雑な料理。それに自分たちが注文しているのだって、アリスの言葉による突発的なものだ。まるで見透かされたような言葉に混乱の感情さえ覚える。
「というのも上の階……うちの店でもお客様のようなエルフの方にお出しできる菓子の種類が増えまして。流石に今すぐパフェの器の大きさでとはいきませんが、食後のデザートに適した量でしたら今日中におつくり出来ます。」
「……2種類といったわね。何味かしら。」
ファルダニアは強い興味と好奇心、見透かされたような悔しさの入り混じった複雑な声色で問う。
「抹茶味とココア味をご用意しております。抹茶は以前召し上がっていただいた宇治金時に使われるもので、ココア味はガトーショコラをイメージしていただければわかりやすいかと。」
「じゃあ、わたしにはココア味。アリスには抹茶味をお願いしてもいいかしら?」
「お待たせいたしました。抹茶味とココア味のサンデーをお持ちしました。ごゆっくりどうぞ。」
出てきたのはいつも人間種が食べている底の深い器ではなく、飲み物を入れるような透き通った
まずココア味に目を移せば、表面には砕かれたナッツの類、そして単純に乾燥させたのとも違う不思議な形で脱水された果物たち、これでもかと大きな粒になった砂糖と、茶色いココアの粉。そして大粒のアーモンドがひとつ中心に飾られており、その対比が美しい。
次にアリスが食べる抹茶味は、小さな器と対比すればずっしりと見えるほどアンコとシラタマを乗せ、淡黄色の粉が黒い蜜と混ざり合い、ココア味とは全く違うとても美しい一面をみせている。
ひとしきり見た目を楽しみ、いよいよ匙を入れる。パフェとは組み合わせを変えればいくらでも違う料理となる認識であったが、それはこの〝サンデー〟でも変わらないだろう。
まず表面のココアの粉、ナッツ類と合わさるのは、蜂蜜とは似て非なる芳醇な油気を含んだ不思議な甘みのある柔らかなムース状の層。そしてよく噛みしめればエルフ豆の微かな味が感じ取れ、トーフが使われているであろうことをうかがわせる。また単体では油分と糖分でもたれそうな味わいを、油っ気を完全に排除したココアの粉と未知の焙煎を施したであろう粉の風味が包み込み、一つの味として完成させている。
次に現れるのはパンに似た層。以前カタリーナという南大陸の大神官に御馳走となったケーキの生地によく似ており、おそらく加工前の状態なのだろう。しかし甘くなった舌を休ませるほのかな美味しさをもっており、上の溶けたムースや下にある菓子の味を吸い込んだ生地は単体でも十分に菓子として通用する。
そして次の層にみえるのは、〝パフェ〟にも多く使われ、たまに白い神官の4人組が食べている〝アイスクリーム〟なる冷たい乳菓子。しかしそこから乳の匂いは一切せず、薫るのはエルフ豆で作った乳の代用品であるエルフ豆のクリームとも異なる、恐らくは〝カカオ〟か〝アーモンド〟で作ったであろう芳醇な豆の香り。一口匙で掬うとその冷たさに一瞬驚くが、口腔の熱で溶け、うまみと甘みを残し儚く溶けていく口当たりは、次に次にと匙がとまらない。
最後に、アイスクリームやムースの味を染み渡らせた小麦を焼いたであろう焼き菓子を食感と共に楽しみ、ため息を一つ。そうしてアリスの方を見ると、抹茶味を半分残し、ファルダニアを見ながら笑っていた。
「ファル!このまっちゃあじ、すごくおいしいよ!ひとくちたべてみて!」
その一言に、夢中ですべてを食べてしまった自分が恥ずかしくなる。これではどちらが子供かわからない。それでも探求心からマッチャ味にも大きな興味をそそられてしまう。ファルダニアは赤面しながらもマッチャ味を一口食べ、次のドヨウの日にはアリスにココア味を御馳走しようと心に決めた。