エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

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お通し

 ファルダニアが研究の拠点としている森の中。そこには大小さまざまなガレオ(にんにく)と分量の調整がなされた香辛料を漬けた油の瓶が無数に並んでいた。そして横の栽培園では、ある程度発芽させたエルフ豆、そして海の国では一般的に普及している食用豆の豆苗が青々と育っている。

 

「う~~ん。ガレオの量は調整に注意。そして辛めの香辛料がよく合うわね。それと【ゴマ】なる未知の豆類。……こちらにない以上、植物の小さな種を焙煎をしようかしら。いや、木の実や豆類を炒って砕くという手段もあるわね。あの独特の香りがだせればよいのだけれど。」

 

 どうやら異世界食堂にはお酒を頼むと小料理が1品つくという慣習があるようで、〝オトーシ〟なる小料理は以前食べた〝オラニエと干し芋の燻製〟をはじめ、エルフ豆をある程度成長させた〝もやし〟にガレオやゴマの香りを付け更に匂いの強い野菜を和えた〝ナムル〟、マルメットとチーズのサンド――そのときはチーズの代わりにトーフとハーブを挟んでもらった――、レンコンなる穴の開いた根菜に具材を詰めた食感の楽しい一品など、ファルダニアからすれば裏メニューともいえる多種多様な品があり、また手軽に作っているような見た目に反し、あの店の店主は一手間も二手間もかけており、大変美味だ。しかもひとつで銅貨1枚程度という安さ。

 

 大抵酒を頼む常連は既に好物をもっており、あまりオトーシを頼まないらしいが、副菜ともちがう小鉢で完結している料理というものは、ファルダニアの研究者魂に火をつける。そのなかでも〝ナムル〟はある程度発芽させたエルフ豆と種類の違う豆苗・ガレオと香辛料を漬けた油で似たものが再現できるのではないかと考えた。

 

 しかしかながら完全な再現はショーユの作成法が分かっていない以上不可能だ。それでも何とか近づきたい。そして納得のいく品が出来上がったならば、自分たちで食べるだけでなく、ひとつの交渉材料にする事も考えていた。

 

 

「またお主か。何しに来た。」

 

 いきなりぶっきらぼうな言葉を浴びせるのは、以前つつみ焼に使う錫の金属箔を作ってもらったドワーフ。以前のような親の仇を見るが如き眼差しは薄れているが、怪訝な表情は隠そうともしない。

 

「ちょっとした賭けをしにきたの。ドワーフは酒と賭博が好きと聞いていてね。もしわたしの料理が酒の肴になったらば、一つ情報を教えてくれないかしら。」

 

「は!?おぬしエルフじゃろ。悪いが野菜とキノコを齧りながら酒を吞む趣味はもっておらん。」

 

「もちろんそんなものを出すつもりはないわ。ここに〝新しい火酒〟を用意してある。そのときはこれだけ受け取って頂戴。」

 

 新しい火酒……酒精の高さからは考えられぬ幻の名酒で、西大陸一の金属加工職人とされる自分でも数度しか味わったことがない。

 

「とはいえ、〝新しい火酒〟が美味しいなんて言われたくないから、普通の火酒で吞んでもらうわ。」

 

「いいだろう。その勝負、受けようじゃないか。」

 

 キッチンから漂うのはガレオと炒った豆類と思わしき良い香り。そう時間はかからず、卓には二つの小鉢が並んだ。

 

「できたわ。【エルフ豆のナムル】と、【キューレ(きゅうり)と豆苗のピリ辛和え】よ。」

 

「ほっほう。」

 

 鼻孔をくすぐる香りに思わず声が出た。発芽したエルフ豆から薫るのはガレオと辛めの香辛料をたっぷりとすった油分と、粒状まで砕いて炒った豆の匂い。ウメシュという酒は果実を火酒に漬け砂糖を混ぜ味を大きく変化させた品だが、この〝ナムル〟なる料理は油で同じ手法を用いているのだろう。

 

 それほど手間暇をかけた油と砕いて炒った豆が、一見すれば油で炒めただけにみえる発芽したエルフ豆を〝料理〟へ昇華させている。そして一口噛むと、シャキシャキとした歯ごたえと同時に心地よい辛みを与え、歯ごたえの残るうちに来るのはガレオの風味、噛めば噛むほど溢れる旨味を感じさせる。しかしながらガレオ特有のしつこさはエルフ豆で緩和され、一気に食べられる。

 

 次にキューレと豆苗のピリ辛和えに手を付けると、先ほどよりもガレオが抑えられ、香辛料の効いた味わいが溢れ出し、塩もみしたキューレの程よい水気と混ざり合い心地よい。そして、豆苗とガレオの相性も素晴らしい。

 

「……旨かった。」

 

 ひとしきり料理を味わったドワーフは、敗北を認めるように一口火酒を呷った。ファルダニアは喜びというよりも安堵の感情を込めた溜息を吐いた。

 

「して、お主が望むものとはなんだ?剣や盾の類ではあるまい。」

 

「話が早くて助かるわ。……今でなくていい、料理に興味を持つドワーフがいるならば、もしくは今後現れ、その者に才能があるなら教えてほしいの。」

 

「……正気か?」

 

 もしそんなドワーフがいたとして、エルフと手を組むことなどありえるだろうか。それほどにエルフとドワーフの歴史的な溝は深い。しかし目の前の少女はそう考えていないようだった。

 

「わたしはあと50年か100年もすれば西大陸を離れ南大陸へ行く予定なの。でもトーフやショーユの作成……発酵や燻製の技巧にはドワーフの力が必要なのよ。」

 

 ドワーフもファルダニアの忸怩たる決意から、並々ならぬ葛藤の末の決断と判断する。

 

「それほど我々の技巧を必要とする食材か。わかった、人材探しの報酬は先ほどのレシピと新しい火酒で手を打とう。だが、そのあとはどうするつもりじゃ?職人を雇うとなればレシピや新しい火酒などではすまなかろう。」

 

「ええ、金を得る……。そのためにもまたわたしは大きな決断と大博打をしなくてはならないわね。」

 

 ファルダニアの見せた微笑は、先ほどと比べ物にならないほど悲壮な決意を固めたものであった。

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