「ファル―!これおいしいよ!」
「ええ、ありがとうアリス。でもわたしの求めているものと違うのよね。」
ファルダニアは朝食としてコメを粥にして炊き、ダンシャクの実を混ぜ、平たく焼いた品を作りアリスと朝食に食べていた。以前アリスの子供らしい好奇心に任せ異世界食堂へ単身送り出し、お土産として持って帰ってきた【オムライス】。本来であれば卵が必要不可欠な料理であるにもかかわらず、香ばしい麦の香りとトーモロコシの甘い匂い、そしてマルメットの溢れる旨味が渾然一体となり、
アルフェイド商会から西大陸では珍しい小麦や大麦の類を買い付けたり、コメを様々な柔らかさの粥にしたり、混ぜ込む野菜や果物を変えてみているが、あの匙で切れる絶妙な柔らかさが再現できない。ファルダニアの技量を以ってしても、パンのように膨らんでしまうか、ゼリー状になってしまうかどちらかだ。
また、〝トロミ〟の研究については少しだが進歩があった。
現在並行して様々な研究を行っているファルダニアだが、【匙で切れる薄い食品の完成】と【トロミの作成法】は〝出来そうで出来ない〟という大変歯がゆい進捗状況となっている。そのため7日前異世界食堂にて〝以前アリスが食べたエルフでも食べられるオムライス〟と〝カレー程度にトロミを付けた料理〟の二品を頼み、14日かけて研究をしようとしたところ、店主から「それでしたら一品でご納得いただける料理がございます。」というとんでもない発言が飛んできた。
自分が五里霧中となっている調理法を2つも簡単に作り上げる人間には悔しさしか湧かないが、模倣も出来ないようでは超える品など出来上がるはずもない。ファルダニアはそこまで言う店主の品がどれほどのものか、味わい尽くしてやろうと、心の中で炎を燃やしていた。そして昼餐の時刻となり、扉を召喚し、チリンチリンという音を聞く……。
「お待たせいたしました!特製オムハヤシです。ごゆっくりどうぞ。」
それはオムライスというリザードマンの戦士がよく食べている品に、年の割にガッチリとした体躯を持つ人間種が食べているカレーライスをかけたような見た目であった。
しかしながら、カレーライスのように香辛料の強い匂いはせず、多くの旨味を含んだであろうマルメットと、澄んだ葡萄酒の香り、そして溶かしきるほどまでに炒めたオラニエの風味が薫る。
そして〝ルー〟のかけられたコメはマルメットで炒められ赤色をし、緑の豆や異世界のキノコが見え隠れし、こちらも美しい。そしてそのコメを包み込むのは黄色い薄焼きの卵としか思えない代物だが、麦の香ばしさとトーモロコシ特有の甘い匂い。
ファルダニアは意を決して匙を取る。まず伝わるのは自分がいくら研究しても作り上げられていない、ふわりと軽い抵抗で沈む食感。匙を入れた黄色い生地の合間から〝ルー〟が赤いコメにつたっていき、匙の上でひとつの小さなオムハヤシが出来上がる。そうして一口。その瞬間、ファルダニアの目が見開かれた。
(オムライス単体でも美味しいことは以前のことで知っている。卵を模したクレープなる生地と、マルメットでコメを炒めるという発想。マルメットとコメの組み合わせだけでも十二分に美味だけれど、この〝ハヤシ〟というソースがマルメットの旨味を更に引き立て、葡萄酒やオラニエを溶け込ませることによって、塩気・甘味だけではないまろやかで複雑な味わいに仕上げている。生地で包み込み、中の具材の味わいを閉じ込めつつ、ソースの味を含んだキノコや後から入れて原形をとどめたオラニエにマルメットの旨味を更にしみこませ、コクのある味わいを残している。)
ゆっくり味わうように咀嚼すると、マルメットと葡萄酒に隠れたガレオとミソの味も感じ取れる。あまりにも完成度の高い料理に、ファルダニアの目が鋭くなり、マルメットで炒めたコメ・生地・〝ルー〟を別々で食べるなど、完全に研究者魂に火が付いている。
すっかり食べ終えたアリスは〝お代わりもあるのに〟なんて考えながら、師匠がいつこっちを向いてくれるかやきもきとしていた。