エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

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カレーライス

 注文を口にしたファルダニアは眉をひそめる。いつも通り美味しすぎたためもあるが、この一瞬……この一口を再現はおろか、口伝で伝えるだけでも(よろず)の言葉を使わなければならないであろう複雑さがゆえに。

 

「どうだ?旨いかね?旨いだろう?」

 

 年老いた人間族が得意満面に覗いてくるのが更に憎らしい。〝お前が作ったわけじゃないだろ!〟とツッコミの一つも入れたいが、あれだけ貶した料理に舌鼓を打っているのは自分だ。

 

「だから言ったのだ!カレーライスの可能性は無限だとなぁ!!」

 

 年の割にはガッチリとした体格を持つ人間族……アルフォンス=フリューゲルは胸を張り大声で笑った。

 

 

 

 ●

 

 

「カレーライスお替り!無論、大盛でだ!!」

 

 その日は生憎異世界食堂が混雑しており、相席をしなければならない日のことだった。本来であれば時間をずらして再来店したり、席が空くまで待てばいい話なのだが、異世界食堂へつながる扉は一度開けば次は7日後まで開かないうえ、ファルダニアは現地で予定を入れていたため悠長に待つことも出来なかった。

 

 そのためしぶしぶ相席をしたのが、アルフォンス=フリューゲル……またの名をカレーライス。この店で最もカレーライスを愛している男でありそれ以外を食べているのを見たことがない。

 

 かなり高貴な見た目に反し、食事は豪快そのもので、正直空腹の浮浪者が久方ぶりの食事を食べるそれだ。

 

「う~~。」

 

 相席をしたファルダニアも少し辟易としていたが、それ以上の反応を見せているのはアリスだ。おそらく目の前で薫る肉の匂いに具合を悪くしているのだろう。正直相席する相手を間違えたとファルダニアも反省する。

 

「おやお嬢さん、具合でも悪いのかね?カレーでも食べるか?」

 

 ファルダニアもその言葉に思わず怒り心頭となる。

 

「あらごめんなさいね。あまりに野蛮で最低な食べ物を食されておりますので、子供が気分を悪くしたようです。」

 

「なんだと!」

 

 目の前の男はかなりの激発を見せる。今日は何も食べず帰ろうかとも考えた時だ。

 

「私の悪口はいくらでも許そう!だが、カレーライスの悪口は絶対に許せん!おい、店主!」

 

「はい、アルフォンスさん。どうされました?」

 

「どうやらこのお嬢さんはカレーの可能性を知らずに今まで生きてきた憐れなエルフらしい。そこでだ、肉も魚も乳も卵も使わない旨いカレーを彼女に提供してやってくれないか?」

 

 この男は何を言っているのだろう。目の前のカレーライスからは肉・卵・乳の匂いがプンプンとする。食べるどころか近寄る気にもならない。しかし、彼女は失念していた。ここが異世界食堂であることを……。

 

「ええ、出来ますがすぐにはお出しできないので、7日後でよろしいでしょうか?」

 

「は?」

 

「うむ、ではお嬢さん。7日後に〝野蛮で最低な料理〟をわたしがご馳走しよう。逃げてくれるなよ?」

 

 一種の宣戦布告に、ファルダニアも闘志を燃やす。生半可なものがでてきたら、散々に貶してやろうと……。そして7日後。

 

「おいしい!これ!すっごくおいしいよ!」

 

 あまりのおいしさの前にはしゃぐアリス。それを前にしてはファルダニアも早々に敗北宣言をするほかなかった。植物由来であろうが、いままで味わったことのない良質な油の良い香り、メランザ(なす)と未知の豆を中心とした旨味の塊、そしてカレーをカレーたらしめるもの。スパイスという一口口にすれば味の表現に(よろず)の言葉が必要な複雑怪奇な旨味、ほどよい辛さと爽やかさ、少しの苦み。

 

 目の前で得意げな顔をする男に自分はなんて答えるべきだ。すでにアリスが敗北宣言をしている。ファルダニアはスパイスとともに敗北の味をかみしめた。

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