エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

31 / 41
ヒーリングフード

「薬膳?」

 

 山の国にある武家らしい服装をした年寄りの男が地面に正座し、ズボンが土で汚れることも厭わない様子でファルダニアに頭を下げ滔々と話し始めた。曰くはるばる隣国である山の国からやってきた侍衆の家来であるらしい。海の国と山の国は隣国同士だが仲の悪さでも有名だ、そんな中関所を通って何しに来たのだろう。その疑問に対する答えはひどく不可解なものだった。

 

「はい、手前どもの主人でございますが、2年ほど前より〝貧民殺し〟に罹患いたしまして……。特にここ最近、どうも病状が思わしくないもので、食事に関しましては粥の数口も食せぬ日々が続いております。ここでひとつ高名な陰陽師の先生に占いをしていただいたところ、海に近い森にいるエルフの料理人を訪ねてみればよいと卦が出まして参った次第です。」

 

「ごめんなさいね、わたしは治癒の魔法はある程度使えるけれど、神官でも薬師でもないの。」

 

「いえ、ご存じのように貧民殺しは治癒魔法も薬も意味をなさぬ難病。栄養をとって療養していただくことが何よりの治療法なのです。様々御高名な料理の先生にお願いをしてまいりましたが、結果は芳しくないもので。そこでどうか先生のお力をお貸しいただければ幸いに存じます。」

 

「ふぅんなるほどね、ちなみにその〝御高名な先生〟とやらはどんな料理をだしたのかしら。」

 

「粥をはじめ、果物の氷菓子、煮物や汁もの、中には〝こういう時こそ大胆なものを〟と猪の丸焼きなどを調理していただきました。謝礼に糸目はつけません。ここはどうかひとつ……。」

 

 そういうと家臣は顔を地面につける。土下座なる山の国の作法だ。自分のような小娘や魔法を信じないという山の国で陰陽師にたよるあたり、よほど追い詰められているのだろう。

 

「わかったわよ。みっともないから頭を上げて頂戴。ただしあなたたちの主人が激怒しようと切り捨てろと命令しようと私とアリスの命は保証する。それが条件だけれどもいいかしら?」

 

「わ、我々に主人の命を背けと!あなたは何をなさるつもりですか?」

 

「何って料理よ。そしてこの条件を飲めないなら料理は作らないわ、他をあたって頂戴。」

 

 年を取った家来は長考し、再び土下座をした。

 

「何卒、我々の主人をよろしくおねがいいたします。」

 

 

 山の国の屋敷は中々に立派なものであった。下級武士から将軍の側仕えまで成り上がり、現在家禄は息子に継がせているが、貧民殺しに罹患するまでは大目付の役職ももちあわせていたという。

 

 布団で眠る壮年の男性は太かったであろう腕は皮膚が垂れ下がり、髪や髭にも白さがめだち、まるで老人のようになっていた。

 

 ファルダニアは厨房を借り、オオトリ草(ほうれんそう)と青菜を灰汁抜きし、油を使わず鍋に極々薄く切ったオラニエを投入、オラニエの蒸し汁ができたら干しきのこで採った出汁を入れ、オオトリ草(ほうれんそう)と青菜をペースト状になるまで何度も切り刻み叩き、鍋に入れかき混ぜると、真緑色の何とも言えないスープが出来上がる。

 

「ご主人、本日の昼餐をお持ちいたしました。」

 

 従者である老侍はこんなスープを本当に主人に出していいものか迷いながらも、薬膳を置く。主人はよろよろとした様子で起き上がり、布団に長坐位となったまま耄碌したようすで匙を取る。そして一口、二口、三口と口を付けたところで……

 

「なんだ貴様!これが主人に出す料理か!」

 

「も、申し訳ございません。」

 

「〝これ〟とはひどい言い様ね。オオトリ草に青菜、油分の一切を抜いて、大地の作物だけで作った一品だわ。わたしは医者ではないけれど、肺病に罹ったエルフの療養食よ。人間に合わせてだいぶ甘みを強くしたつもりだったけれど、砂糖でもいれたほうがよかったかしら?」

 

「小娘、貴様〝えるふ〟か。何故斯様な場所におる」

 

「あなたに料理を作るためよ、それにしても三口も食べられないようじゃ本当に長くないわね。今からミケーネ(みかん)の氷菓子に毒でも混ぜてあげるからそれでも食べる?」

 

「貴様聞いていれば!」

 

 主人は枕元にあった刀をとり、臨戦態勢に入る。しかし黙っているファルダニアではない。その場にいる誰よりも早く弓を取り館の主人に矢を突きつけた。二年も療養生活をしている侍と魔力に満ちた若きエルフ、勝敗の行方は記すまでもない。

 

「確か〝サムライ〟の作法ではお互いが武器を取った一騎打ちで勝った場合、相手を殺しても罪にはならないらしいわね。……残酷なことを言うけれど、このままでは本当に長くないわ。」

 

 刀を持つ手に力が入る、勝てないまでも小娘にここまで侮辱されては生き恥を晒すも同然。

 

「可哀そうにね。あなたのわがままで、あなたを慕う領民も、あなたを慕う家臣も、あなたを必要としている山の国をも裏切るのね。」

 

「…………。」

 

「あなたを信じたばかりに、あなたの怠慢ですべてを裏切られるのね。」

 

「…………。」

 

「……それでよければかかってきなさい。」

 

「このぉ!!!!」

 

 館の主は刀を捨て、目の前のエルフが作ったという青々としたスープをすべて平らげる。

 

「お味はどうかしら?」

 

「不味い!!」

 

 しかし碗をファルダニアに差し出しており、お代わりを求めているようだ。その姿に家臣一同が安堵の溜息を吐く。

 

 

「この度は本当にありがとうございました。調理法の通りに料理人たちへ作らせ昼餐へのせたいと思います。謝礼として少ないですが、金貨で50枚をご用意しております。主人が改善した暁にはまた別途に謝礼を……」

 

「それには及ばないわ、その代わりお願いしたいことがあるの。わたしは月に一度山菜をとるために山の国を訪れたい、でも山道の歩き方なんてわからないから、案内人と護衛が欲しい。また海の国から山の国へわたる通行方法を用意していただけないかしら?」

 

「ははっ、かしこまりました。」

 

 一仕事を終えたファルダニアは、近くにあるエルフの村で暇をしているであろうアリスを迎えに行くため歩き始めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。