シエナの森にあるエドモンドの家は森中のエルフを集め大盛り上がりを見せていた。
「本当にこの料理ファルダニアが作ったの!?こんなに美味しいもの生まれて初めて食べたわ。」
「最初は人間の世界を旅するなんて無茶なことをすると思っていたけれど、数年でこれだけ成果を上げてるのでしたら、数百年後は偉人になっているのではないかしら?わたしも長生きしないといけないわね。」
「ああ、これで〝まだまだ完成品でない〟なんていうんだ。無茶をしないか本当に心配だよ……。」
「エドモンドさん、心配なのはわかるけれども、信頼してあげるのも親の務めよ。」
「そうだぞエドモンド、お前がほんの150歳だったころを思い出してみろ。俺らは真剣に止めたのに結局人間の世界を旅したじゃないか。」
「かわいい嫁さんまで連れて帰ってきてな。」
「まぁ血は争えないってやつね。」
その言葉で一気に場が笑いに包まれ、エドモンドは気まずそうに赤面する。こんなにシエナの森が盛り上がりを見せたのはいつ以来だろうか。その切っ掛けは一通の手紙と、小さな箱であった。
娘であるファルダニアが家出同然に森を出て数年……。エドモンドからすれば森都で親友のクリスティアンと出会ったという報せを最後に一切ファルダニアから連絡はなく最愛の一人娘が魔物に襲われているのではないか、悪い魔族や人間に騙されているのではないかと生きた心地のしない日々を送っていた。
そんな中、シエナの森に旅をしているというエルフが現れ、ファルダニアの手紙を託した。東大陸を離れ西大陸に渡ったという記載を見た時は心底驚いたが、無事にやっているということは父親として何よりの知らせだった。
そして送られてきたものは手紙だけではなかった。小さな箱に入り、保存の魔法を掛けた品で、自分も妻やクリスティアンと冒険した際幾度も食べた西大陸の食材であるコメ――たしか玄米というやつだ――を使った見たこともない料理。手紙にはこう綴られていた。
〝とある場所では【母の日】【父の日】という親に感謝を込めて品物を贈る文化があるときいて素晴らしい風習と思いわたしの研究の成果を贈ります。本来は物品や装飾品を贈ることが一般的らしいけれど、〝お父さんにも美味しい料理を御馳走してあげる〟と言った以上、料理が最適と思い、祝い事に出すという【マキモノ】という料理を選びました。まだまだ完成品には程遠く、稚拙な品ですが、味わっていただければ幸いです。 追伸:この【マキモノ】は包丁で切り分けられますので、お母さんの祭壇にもお供えしてください。〟
そのコメで出来た品は酢に漬けたと思われるコメを複雑に乾燥させた海藻で巻いたものであり、包丁で数センチに切ってみると、その断面からは色とりどりの鮮やかな具材が見える逸品だった。
まずオレンジ色を飾るのは細切りにした
エドモントは意を決したように【マキモノ】を一口食べその旨さに愕然とした。この一見バラバラな5色の食材をコメと乾燥させた海藻で巻き、玄米に酢を混ぜ込むことで、甘く味付けされたカリュート、歯ごたえを与え水気を引き出すキューレ、滋味に溢れたオオトリ草、確かな食感を持ちながら未知の塩気を与えるおおね、食感の楽しい海藻の茎。すべてが一つの味となり、舌の上で踊りだす。
そこから先は村人を呼んでの大騒ぎだった。流石にシエナの森にいるエルフ全員に配るほどの量はなかったが、古くからエドモンドを知り、ファルダニアの成長を見守ってきた友人・知人や近所の人たちに配る分はあった。
誰もがファルダニアの料理に舌鼓を打ち、そしてほんの数年でこれほどの腕前を上げたファルダニアを絶賛した。父親としては誇らしい一方で、自分の手を離れてしまった寂しさもある。村の人々は子育てをすればだれもが通る道と笑っていた。そしてシエナの森に静寂が戻った夜。
「……マティルダ。ファルダニアはわたしたちの手を離れても、逞しくやっているようだ。流石は君とわたしの子だね。本当にみんなが言うように、ファルダニアは途轍もない青史に列するようなエルフになるかもしれない。いや、流石に親バカが過ぎるかな。ファルダニアの作った逸品だ。きっと、君の口にも合うと思うよ。」
エドモンドはそう言って、亡きマティルダの祭壇に、最後に残ったマキモノを振舞った。