「あく抜きはしっかりおこなっているし、火加減も丁度良い……。となれば素材そのもののなのか、やっぱりわたしが未熟で手法が届かないからかしら……。」
ファルダニアはソテーにした
これが
そもそも人間界にきてからオオトリ草はスープの具材などに多く使われはするが、焼いたりそのまま煮て調理することはほとんどない。どうやら人間たちの認識ではオオトリ草は苦みが強く、肉や魚と一緒でなければ食べられない食材であるらしい。
エルフは森の恵みであるキノコや野草をはじめ、苦みのある食材を美味しく調理する文化は栄えている。だからこそ、人間如きに負けるということはファルダニアからすれば我慢ならないことであった。
そんな鬱憤もたまってしまったからだろう、前回異世界に行った際意地悪半分、好奇心半分で「この店で一番苦い料理を頂戴」と、まるで子供のような注文をおこなってしまった。しかし店主は表情を変えることもなく「現在食材がないので、7日後でよろしいでしょうか?」と返してきた。
(いったいどんな料理を出すつもりかしら。あのピーマンとかいう苦みの強いもの?でもそれなら7日も待つ理由はないわね。)
ファルダニアは溢れる好奇心に負けるように、いつもよりもだいぶ早めに扉を召喚した。
「お待たせいたしました。島豆腐のゴーヤチャンプルーです。お飲み物にはシークワーサーをご用意いたしました。ごゆっくりどうぞ。」
一番最初に目に映るのはワタを取り除いて薄切りにされた濃い緑色の野菜、そこに
おそらくはゴマ油を使用しているであろう匂いも楽しみ、ついに一口。まず舌から脳に送られるのはいままで感じたことのない、野草を煎じて飲むとも、調理につかうハーブとも違う独特の苦み。間違いなく今まで食べた野菜の中でダントツに〝苦い〟。しかしシャキシャキとした食感を噛みしめれば青臭い苦みではなく、滋味に溢れた〝ゴーヤ〟本来が持つ苦みが病みつきとなる。
また〝シマドーフ〟は見た目の重量感を裏切らないずっしりとした食べ応えを与えてくれ、ゴーヤや他の野菜、そしてショーユにごま油を吸い込んだ味わいがいっぺんにやってくる。
「ファル―!これおいしいね!」
ふとアリスをみると、アリスもゴーヤを美味しそうに食べている様子に驚愕する。いくらエルフ族とはいえアリスはまだ30歳。これほど苦みの強いゴーヤを美味しく食べられるとは思っていなかったためだ。
「待ちなさいアリス!一口わたしにちょうだい!」
アリスに提供されたゴーヤチャンプルーを一口食べると、苦みがかなり抑えられており、恐らく自分の品は灰汁抜きをして塩もみをした程度であろうが、アリスの品は酒や砂糖による下処理や苦み成分の部分が切り取られているのだろう。ゴーヤ本来のシャキシャキとした味わいはないが、これはこれで旨い。これまでの経験からアリスは甘味を好むと店主が判断したのだろう。その心遣いが憎い。
ファルダニアは怖ろしい経験をしている。確かに料理をたべているはずなのに、食べれば食べるほどに元気が湧き、食欲が湧いてくる。苦みの強い野菜や野草・ハーブは基本的に栄養価が高い。その極致ともいえる料理であった。
食後にシークワーサーという
(これまで出てきたどんな料理とも違う……。〝シークワーサー〟はミケーネを魔法園で改良すれば出来上がるかもしれないけれど、〝ゴーヤ〟の代わりとなるものはなに!?アルフェイド商会は30年かけてマルメット……この世界でいうトマトを見つけ出したというわ。ならば私たちの住む世界にもピーマンやパプリカ、ゴーヤのような野菜があるのかしら。でもわたしたちが探索するには時間が足りない。トレジャーハンターに未知の美食を求める者達はいないかしら。)
ファルダニアが思考するのはエルフこそ文明の頂点と思いあがっていたシエナの森にいた頃と全く異なる他種族との共存共栄。エルフ族にとっては大いなる一歩。彼女の努力が実を結ぶのは、エルフの寿命を以ってしてもまだまだ先の話。