エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

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ピクルス

 〝海の国にある森の一角には傲岸不遜なエルフの料理人がおり、肉も魚も乳も卵も使っていないにも関わらず、とても美味で不思議な料理を振舞ってくれる。〟

 

 西大陸では噂話が大好きな旅小人(ハーフリング)や実際に料理を食したという商人や冒険者や旅人、はては高名な武家を伝いそんな話がまことしやかに広まっていた。

 

 旅の吟遊詩人ゲンプウはそんな噂を聞いて海の国へやってきた。地図も頼りにならない森の中を半日近く彷徨い辿り着いたのは自然をそのまま改良し綺麗に整備された区画であり、金髪の麗しい少女が石臼を挽いており、近くでは赤毛をした少女が泉で水遊びをしていた。

 

「あの……」

 

「何か用?」

 

 敵意があるという訳ではないが、心底面倒という面持ちで金髪のエルフがぶっきらぼうに声をかけてきた。

 

「いえ、ここにエルフの料理人がいると噂を聞いてやってきたのですが……」

 

「じゃあわたしで間違いないと思うわ。」

 

「そうですか、それはよかった。」

 

 しばらく二人の間に沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは金髪のエルフの方であった。

 

「それで?どんな料理が食べたいの?」

 

「はい?」

 

「料理人のもとを訪れたのだから、料理以外何の用事があるというのよ。冷やかしならさっさと帰ってくれるかしら。」

 

「そんな、是非料理を振舞っていただきたく参った次第です。採譜(メニュー)はありますか?」

 

「無いわ。人間に私の料理を説明するのってすごく難しいのよねぇ。食べたい品があったら言ってちょうだい。出せる品なら出すわ。それと肉も魚も乳も卵も使っていないから。」

 

 やはり噂は本当だったようだ……。そんなことを思いながらゲンプウは何を注文するべきか思考する。半日も森を彷徨ったため腹が減っている。しかし駆け出しをやっと抜け出した吟遊詩人であり、貧乏生活が長かったゲンプウにとっては日常茶飯事。であれば最初にここを訪れようとした目的に回帰するべきだろう。

 

「でしたら、他のどこでも出てこない。ここでしか食べられない料理をお願い致します。」

 

「ふぅん……。だったら丁度漬かった頃よね。試食も兼ねて食べてもらおうかしら。」

 

 そう言ってエルフの娘が出したのは、美術品と言われても納得しそうな、様々な棒状の野菜が入れられた彩り豊かな透明度の高い硝子杯(グラス)であった。硝子杯(グラス)には蓋が付いており、蓋を開けば酒精と酢の酸味、砂糖の甘い匂いが漂ってくる。

 

「ウメシュをもとにした調理液で漬けたピクルスという料理よ。この世界ではどこも出していないはず。」

 

 そういって硝子杯(グラス)から小皿に取り分けられたのは、細切りにされたキューレ(きゅうり)おおね(大根)、小さなマルメット(トマト)。熟成しきっていないウメの爽やかな香りと砂糖を入れた酒精の甘い匂い、酢の酸味をまとい、見た目も美しい品は食べることを躊躇してしまいそうになる。

 

 ひとたび口にすると程よく調味料を吸いながらもシャキシャキした食感が残って、酢の酸味やウメの爽やかさが酒精に溶けて食べる手が止まらない味わいを与える。

 

「芸術品のような見た目に芳醇な味わい。見事にございます。お代の方は?」

 

「いらないわ。お金のために料理を作っているわけじゃないから。」

 

「そうですか。……また、ここにきてもいいでしょうか?」

 

「また……の前にもう一品如何?おなかの虫が鳴いているわよ。」

 

「うぅ……。恥ずかしい限りです。」

 

 その後提供されたコメを大胆に使った料理も絶品であった。ゲンプウは駆け出しの自分の拙い唄を褒めてくれた思い人、愛するエルフ族の彼女の手を引いて思いを伝える場所はここにしようと心に決めた。

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