エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

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中華セット

 ファルダニアは好奇心にあふれた様子で昼になるのを待っていた。

 

 前回異世界食堂を訪れた時「香辛料を使った豆腐の料理はないか?」と尋ねてみたところ、珍しいことに店主からは「御作りできますし、今すぐお出しも出来るのですが、他の料理と合わせて召し上がっていただいた方が美味しいと思います。その場合7日待っていただきますがよろしいですか?」と返答があった。

 

 大抵あの店の店主は自我を通すような真似はせず、どのような料理でも魔法のように作り上げてしまう。だというのに、ファルダニアの注文を聞いた店主は矜持をくすぐられたかのように人間らしい一面を見せていた。料理人として何か思うところがある料理なのだろうか?

 

 そしてそんな店主を初めてみたファルダニアはどんな料理が出てくるのか興味が尽きず、すぐにでも扉を召喚したい気持ちを抱いていたが、また仕込みの時間に行っても迷惑だろうし、なにより欲に負けたようで恥ずかしい。

 

 そして太陽がちょうど天に昇った頃、ファルダニアは意を決して扉を召喚した。

 

「お待たせいたしました。中華セット……、こちらが麻婆豆腐、ひとつは辛さを控えめにしております。山椒という調味料で辛さをお好みで調整してください。こちらの皿はバジルとマッシュルームの炒飯。ワンタン入りの中華スープ、食後に寒天とアーモンドミルクを使った杏仁豆腐をご用意しております。どれも肉・魚・卵・乳はつかっておりませんので、ご安心してお召し上がりください。ごゆっくりどうぞ。」

 

「うわ~~~!4つもある!どれもおいしそうだよファル!」

 

「思った以上ね。」

 

 どれもこれも単体で食べても絶対に美味しいであろうと確信できる料理が4品も並んでいる。真っ赤に染まった香辛料をふんだんに使ったであろう豆腐料理は旨味と辛みの両方が期待でき、極限まで細く切った香辛料と思わしき長く赤い糸で彩られ、見た目も美しい。

 

 チャーハンなる品は炒めたコメであろう。香ばしい油とネギをはじめ癖のある野菜たちを米と調和させた良い香り。普段出てくるライスと違い、碗を逆さにしたような形状はショーユ風味がガツンとついており、食欲を掻き立てる。

 

 チューカスープはいつものミソスープと違い澄んだ色あいをしているが、薬味と海藻の香りはしっかりとした味わいを感じさせるものであり、スープと言いながら具がたくさん泳いでいて、ワンタンなる白い具が存在感を放っている。

 

 最後のアンニンドーフは実にシンプルで、真っ白な見た目に、小さな果実が乗った、これほどの量を食べた後でもサッパリとした風味が期待できそうなデザートだ。

 

 まずは味の予測できそうなチャーハンから攻める。熱いコメは口の中でパラパラと解け、野菜の旨味とショーユの味、コメの甘みが一体となって匙が止まらない。

 

 チューカスープは今まで食べてきたどんなスープ料理よりも具沢山であり、カリュート(にんじん)やオラニエ、オオトリ草(ほうれんそう)といったスープ料理の定番はもちろん、チャーハンにも使われている茎の太い独特の風味を持つ野菜、何よりワンタンという皮の中には植物を使った餡をもとにガレオ(にんにく)に似た風味を持った野菜をはじめ風味の独特な野菜が大量の具材を食べるうえでのアクセントとなり飽きを感じさせない。

 

 マーボードーフは、〝モメン〟を基盤とした複数に加工したトーフが複雑な香辛料でまとめられ、辛さの中に確かな旨味をもたらしている。山椒という舌に味を直接与えるような感覚を覚える独特の香辛料と、トーガラシの辛みが一体となりどちらが欠けても完成しないであろう味わいが旨い。

 

 3品を食べ終え、アンニンドーフを口にすると、味の濃さが目立つ3品だったからこそ絹のような舌触りとサッパリとした果実の味わいが素晴らしい。

 

「お気に召していただいたようで何よりです。……いつもの持ち帰りの焼きおにぎりを炒飯に変えることも出来ますが如何なさいますか?」

 

 店主は空になった皿を見て心底安堵したように言う。チャーハンは西大陸のコメで再現可能だろうか。ファルダニアは現在研究しているトーフに秘められた無限の可能性を再燃させると同時に、この炒めたコメ料理を再現できないか燃えていた。

 

 

 

 

――――大方の客が帰り、あとは【赤】を待つだけとなった時間。アレッタの今日の賄いは、エルフの師弟に出していたチューカ料理であった。もちろん食べるのはアレッタ用であるため肉も乳も卵も使ったその品は、見た目も随分と豪華である。

 

――――今回の賄いはアレッタの方から食べたいと望んで出された品だが、店主の思考を読み取ると、店主はアレッタの賄いにこのチューカを出すよう計算していたようだ。別にアレッタは賄いが何であろうと文句は言わないのに、何故こんな回りくどい真似をしたのだろう。

 

――――店主はチューカには深い思い入れがある様子であり、思考の残滓からは〝師匠〟と仰ぐ先代の店主とは違う料理人。そして若き日の店主の作るチューカを美味しいという若い女性。しかしその残滓にはノイズが入っており、店主からすれば複雑極まる記憶のようだ。

 

――――店主はチューカを作ることを苦と思ってはおらず、美味しそうに食べるアレッタに対しても好印象を抱いている。だが店主から流れる快でも不快でもないノイズは私には理解が出来ない。

 

――――どのみち目の前のチキンカレーより大事なことではない。ああ、今日も素晴らしい味だ。

 

 

 

 

 

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