エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

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トウモロコシ

「マスター!おはようございます!」

 

――――おはようございます。

 

「おう、アレッタさん。クロ。今日も時間ぴったりだな。」

 

「あれ?この匂い……もしかしてまた!」

 

 アレッタはそのまま厨房へ入る。

 

「ああ、またトウモロコシを知り合いから大量に貰ってな。前回好評だったし、みそ汁の代わりに出そうと思っていたんだ。」

 

「なるほど!……あれ?この小さな鍋は?」

 

「これは特別性。まぁ精進コーンスープってところか、これには乳を入れていない。」

 

「ええ!!?乳を使わずにコーンスープができるんですか!?」

 

 コーンスープはアレッタの大好物だ。あの野菜とは思えない独特の甘みと乳の甘さがあってコーンスープは完成する。

 

「こっちの世界では動物からとらない乳ってのがある。いや作れるっていったほうがいいか?豆腐の材料になったり色々あるんだが、流石に常連さんとなればある程度配慮もしないとな。」

 

「ああ……。」

 

 店主の言葉でアレッタはどういう手段か、必ず7日に1度訪れるようになった常連のエルフ2人を思い出す。普段はかつおだしなるもので作るみそ汁を、彼女らのために別に少量コンブダシのみそ汁――アレッタにはわからないが、カツオダシは魚が原料であるためエルフは飲めないらしい――を作るなど、店主は常連さんへのサービスに真剣に取り組んでいる。

 

「なんならいっぱい飲むか?クロはチキンカレー準備してあるからそれでいいだろ。」

 

「いいんですか!いただきます!」

 

 乳を使わないコーンスープ……それはアレッタの好奇心を大きく刺激した。店主に注がれたカップを持ち匂いを嗅ぐと、いつも通りコーンの芳醇な香りと香辛料の香りが鼻をくすぐる。ここまでまったく今までのコーンスープと違和感はない。そして一口すすると……

 

「あ、おいしい!」

 

 普段のコーンスープと違い、舌触りがよく熱を逃せばスッと飲み干せてしまう、それでいてまったりとした味わいが舌の上でしっかり感じられ、後味もスッキリとしている。

 

「わぁ凄いです!これならアリスちゃんもファルダニアさんも満足されますよ!」

 

「ならよかった。さて、なら日替わりもトウモロコシの料理にしてみるか。」

 

 

 

 

「いらっしゃいませ!ようこそ洋食のねこやへ!」

 

 アレッタの溌剌とした声を聴き、今日もトーフステーキかライスバーガーを頼もうかと思っていたその矢先、ファルダニアは東大陸語で書かれた【本日の日替わり】に目を見開く。

 

 【トウモロコシとじゃが芋の甘辛焼き ※本料理には肉・魚・乳・卵を使っておりません。】

 

 トウモロコシは知っている。ばーべきゅーなる年に一度の祭りで出された品で、とても甘みが強く、ショーユを塗って焼いただけの代物をアリスが気に入り何本も芯だけの状態にしていた。

 

 事実トウモロコシと聞いたアリスは目を燦然と煌めかせている。しかしファルダニアには挑戦状にしか見えなかった。自分たちのわがままで抜いてもらったことはあるが、この店自ら「※本料理には肉・魚・乳・卵を使っておりません」の文字を掲げたことはない。

 

「アレッタ!日替わりを二人前頂戴!」

 

「かしこまりました。ご注文ありがとうございます。」

 

 ファルダニアは闘志を燃やしつつ、ワクワクと飛び跳ねるアリスを連れて卓に座った。

 

 まず驚いたのはコース形式で出てきたこと。最初に出されたコーンスープは自分たちエルフでも食べることができるよう創意工夫がされており、アリスは何杯もお替りをしたほどだ。野菜とは思えない甘さに香辛料、そしてそれらをまとめるのは【エルフ豆のクリーム】だろう。初手からやられたという思いが強い。

 

 次に出てきたのはサラダ。トウモロコシと緑色の柔らかな豆を薄いかき揚げにし、一口大に切り取ったものが乗ったそれは、新鮮な野菜に確かな食べ応えを与え、薄いかき揚げは食感も楽しく手が止まらない品であった。

 

「お待たせいたしました。トウモロコシとじゃが芋の甘辛焼きです。」

 

「わぁ~~。」

 

 ダンシャクの実と縦に切って素揚げにしたであろうトウモロコシが緑と紫の葉野菜に囲まれ、見た目にも楽しい一品となっている。アリスは速攻トウモロコシへ、ファルダニアはダンシャクの実から口にする。

 

(おいしい!)

 

 揚げるために使われているのは普段炒めるために使っているものと違う植物由来であろう良質な油。そこにショーユ、酒、砂糖、ガレオ(にんにく)、粗びきの香辛料。まさしく食べれば元気が出てくるような、素晴らしい味付けであった。

 

(やはりまだまだ届かない。)

 

 異世界食堂の出来栄えにただただ敗北と美味を嚙みしめる。

 

 

「お勘定。ここにおいていくわ。」

 

「あ、お待ちください。よろしければこちらをどうぞ!いつもご贔屓いただいているサービスです。」

 

「これ……コーンスープ!?」

 

「はい、保温容器は次回洗って返していただければ大丈夫です。」

 

「これは……食べるためなら何をしても大丈夫?」

 

「え?はい。まぁ魔法で大爆発なんてのは勘弁してほしいですが。」

 

「わかったわ。ありがとう。」

 

 いままで料理の旨さ故劣等感に苛まれていたファルダニアの顔が変貌する。本家本元の【エルフ豆のクリーム】。この機会を逃せば一生手にできないだろう。ファルダニアはコーンの謎も含め、徹底的に解剖してやろうと心に誓った。

 

 

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