「……これ、大根おろしに使われている根菜じゃないかしら?」
「ダイコン?ああ、これはおおねっていう野菜さ。お客さん東大陸から来たのかい?西大陸では結構有名な野菜だよ。」
「そう、これを10本……いえ、20本いただけるかしら?」
「お客さんエルフとはいえ、20本のおおねを2人で食べるのかい!?おおねは足がはやいんだ、結構腹持ちはいいから腐らせないよう気を付けなよ。」
「ご忠告ありがとう。ついでに
「はいよ、まいどあり。」
ファルダニアはたまたま立ち寄った八百屋であのトーフステーキの上に雪のように添えられていた未知の野菜、その正体に手が届いたことに気分を良くしていた。すりおろしの道具には、岬の魔女を名乗る人魚……カミラさんから貰った鮫の皮を使えばいいだろう。
「……なるほど、先端にいくほど辛みが増して、葉の方にいくほど甘みが増すのね。」
ファルダニアの目の前には数十にも及ぶおおねのすりおろしが並んでいた。その一つ一つを匙でとって味を確かめ、時にはハーブや茶葉を混ぜてどの組み合わせが一番おいしいか、なんの料理に合うか研究を行っていた。
トーフステーキでは薬味として使われていたが、おおね本体だけでも十分御馳走になるほどの可能性を秘めており、煮る・焼く・炒める・揚げる・燻すとどの調理法でも美味しくいただけそうだ。
まぁそれはあとでもいいだろう。研究にひと段落をつけたファルダニアは森の中で魔法の練習――どちらかというと暇を持て余し撃ちまくっているようにみえる――をしているアリスを見据える。
「アリス―――!お昼ご飯にするわよー!」
「はーい!」
やはり暇だったのだろう、お昼ご飯と聞いて無邪気な笑顔を浮かべ駆け寄ってくる。そんな姿をほほえましく思いながら、おおねという新発見の記念日に以前からやってみたかった贅沢をしてみようと、ファルダニアは包丁とまな板、そしてクリスティアンから貰った希少な【エルフ豆のミソ】を取り出した。
アリスの目の前にあったのは細く棒状に切られた色鮮やかなカリュート、おおね、キューレ。お皿にはいつもはスープに入れている【ミソ】が乗せられていた。
「ミソは貴重だから今まで自重していたけれど、一度やってみたかったのよね。丁度おおねという素晴らしい食材に出会えた記念日よ。ほら、アリスも食べなさい。」
生の野菜だけという、ファルダニアの作る料理にしてはひどく簡素なもの。アリスは少しだけ不思議に思いながら棒状のキューレにミソをつけて食べると……
「おいしいーー!」
口の中で滴るのはミソ独特の複雑な塩気、そしてその塩気を洗い流すかのように水気の多いキューレが歯ごたえを与えて旨味をもたらす。今度はカリュートをとりミソにつければ、カリカリとした硬い食感がこれまたミソと融合し素晴らしい味となる。これはただ野菜を切っただけではない、立派な【料理】だ。アリスは一心不乱にかぶりついてしまう。
「う~~ん!やっぱり生の野菜とミソは合うと思っていたけれど予想以上!」
ファルダニアもアリスに負けず劣らず子供っぽい一面を見せながら、ミソと野菜の組み合わせに舌鼓を打っている。こうしてエルフ二人の旅、その幸せな日常が過ぎていく。