クレイジーウマ娘 カラミティーダービー 作:ヴィルキス
Kの覚醒/ABC珍道中
「ねえエース、今度の休みって暇?」
「今度の……って、三連休か?それなら暇だけど」
トレセン学園にて、そんな会話が行われた。
その会話をしていたのは2人のウマ娘。1人はクラシック三冠を成し遂げ、その中でも最後の冠たる『菊花賞』においてはそれまで
もう1人はそのミスターシービーと鎬を削り合い、翌年のクラシックの覇者にして無敗三冠の『皇帝』、『シンボリルドルフ』や海外の強豪を相手に日本史上初のジャパンカップ制覇で歴史に名を刻んだウマ娘、『カツラギエース』。
「いやー、美味しいラーメン屋があるって聞いてさ。一緒に食べに行こーよ」
「ラーメンか……いいぜ、割と好きだし。何時に出ればいい?」
「月曜が祝日の三連休だし……じゃ、土曜日の10時に駅前で」
「おう」
そして、三連休初日。
「なあ、シービー」
「うん?」
「あたしさ、ラーメン食べに行くって聞いてたんだけど」
「うん。そう言ったし実際今ラーメン食べてるじゃん」
ウマ娘用サイズの塩ラーメンを啜りながらシービーがそう言った。……確かにラーメン屋には来ている。だが、エースにはどうしても言わなければならない部分があった。
「いやここ福岡!博多!新幹線に乗ったあたりで『え?』とは思ってたけどさ!?」
「え、美味しくなかった?」
「美味いよ?美味いけどさ?駅前のラーメン屋だと思ってたのに1000km遠くなってるんだよ!」
「駅前ではあるでしょ」
「博多駅のな?」
「エース、お店なんだからもう少し声のボリューム下げて」
「誰のせいで叫んでると思ってるんだよ……あ、ごめんな?騒がしくして」
「いえ、大丈夫です」
そう、2人は九州の福岡県まで来ていた。見ればわかる通りエースは普通にトレセン学園最寄り駅の近くのラーメン屋だと思っていたが、シービーは福岡博多駅近くのラーメン屋に来るつもりだった。よく考えてみれば『三連休』単位で空いているかどうかを確認していたので分からなくはないが。店内が混みあっているが故に相席になったウマ娘に騒がしくしたことを謝罪しながら、エースは席に座り直した。
「……で、結局何でここまで連れてきたんだ?気の向くままに放浪して
諦めたかのように溜息をつきながら、自身が注文した醤油ラーメンを啜るエース。ほっとする味で、精神的に疲れた身体に染み渡った。
「うん。ルドルフから頼まれてさ。福岡になんか優秀な子がいるらしいからスカウトしてみてくれーって」
「じゃあルドルフ本人が行けよ……」
「ルドルフはまた別の子のスカウトに行ったみたい」
「なるほどなー。……で、どんな奴なんだよ。名前は?」
「えっと、確か……『ソルディアガレット』って子」
「ぶっ」
相席のウマ娘が神妙に噎せた。
「ほーん……なあ、おっちゃん!ソルディアガレットってウマ娘知ってるか?」
エースが店主にそう聞いてみた。すると。
「ん、ソルディアガレットかい?それならほら、嬢ちゃんらの目の前に」
「「え?」」
2人が正面を見る。正面には相席になった栗毛のウマ娘が。
「……もしかして」
「……はい。僕がソルディアガレットです」
「ッスーーーーーー………」
数瞬の沈黙。
「なんかごめんな」
「いえ……」
目の前で自分のことを話されたソルディアガレットの内心や如何に。
30分後。ラーメンも食べ終わり、一息ついた2人は偶然出会った今回の小旅行の目的であるソルディアガレットを連れて、付近の民間用のレース場に来ていた。と言っても名ばかりであり、基本的にウマ娘たちの練習場のようなものではあるが。バッティングセンターやボウリング場の類である。
「で、勧誘なんだけど……………………」
「……シービー?」
「……なんて言えばいいんだろう?」
「お前なぁ……」
スっ転びそうになったのを何とか耐えると、エースはソルディアガレットへと説明を始めた。
「あー……んじゃあたしから説明するぞ。トレセン学園……まあ要するに中央は、ソルディアガレット……お前を
「……僕を、ですか。どうしてですか?」
「……シービー」
「え、知らないよ?ルドルフに『ソルディアガレットをスカウトして来てくれ』としか言われてないもん」
「それお前が聞いてなかっただけだろ……」
頭を抱えるエース。ソルディアガレットはエースに同情した。
「まあとにかく、あたしたちはお前を勧誘しに来た。これは間違いない。で……受けてくれるか?」
「肝心な部分が曖昧すぎて何とも」
「仰る通り過ぎるんだよな」
「なのでスカウトを受けて中央に行った際の待遇とか、後は学習・練習の環境を教えてください」
「だな。まずスカウトされた場合だが、奨学金が出る。後はこっちが『来てくれ』って言ってるわけだからな。特待生扱いになってそもそもの学費だとかが減額されたり。食堂の無料化……これは普通の生徒でも変わらないからいいや。ここまでは良いか?」
「はい」
「良し。……と言ってもこんなところだな。一応元の学校との学業の進行度の擦り合わせとかもあるが……そもそもレース中心の学校だからな、トレセン学園って。そんなに早く進むわけじゃないし、擦り合わせ自体はそこまで大変じゃないさ。で、どうだ?……中央に、来てみないか?」
「……中央に行けば、僕もシービーさんやエースさんみたいになれますか?」
「……そr「いや無理だよ?」おいシービー」
「だってアタシはアタシだし、エースはエースだもん。同じように、君は君。アタシたちが君になれないように、君もアタシたちにはなれない。君が
「来るなら、越える気で来て」
それは友人を約1100km離れた所まで連れ回す、
「……僕は」
「ごめんね?誘った側なのにこんなこと言っちゃって。だけど、今の君が中央に来たらきっと後悔しちゃうことになるから。アタシたちは明後日の朝まで博多にいるつもりだけど……まあ、1日2日で出せる答えじゃないからね。連絡先渡しとくよ。決まったら何時でも掛けてきてね」
「あ、待てよシービー!……ごめんな、あいつああいう奴だから。あたしに電話かけてくれたら何時でも話し相手になるぜ!」
そう言って、ミスターシービーは立ち去った。エースもその後を追い、後にはソルディアガレット1人が残された。ガレットは近くの座席に座り込むと、天を仰いだ。
「……越える気で、かぁ」
青く、蒼く、
「……うん」
頬を軽く叩き、気を取り直すと。ソルディアガレットはせっかくなのでコースを走ることにした。
「1回走って考え纏めよ」
軽いランニング感覚でコースを数周。陽も傾いてきたために帰ることにしたガレットは、利用者の記録帳に退出の記録を付けようとして……ふと、あるものが目に止まった。
「……記録、か」
それは丁度書き込もうとしていた記録帳。普通の、近所スーパーやコンビニで100円ほどで売っているであろうごく普通のノートだった。ページを捲ってみると、沢山のウマ娘の名前と入場時間、退場時間が書かれている。……そして、ソルディアガレットはその無数のウマ娘の名前を、
周囲を見渡してみれば、他にも何冊かのノートが置かれている。手に持っていた記録帳に自分の退場時間を書き込んで元の場所に置くと、ノートの束に手を伸ばした。
1冊目。流し読みしたが、見た事のある名前はない。
2冊目。同様に流し読みするも、聞いた事のある名前は無い。
3冊目、4冊目、5冊目、6冊目。……
レースの世界が過酷であることは、ソルディアガレットもよく理解していた。
曰く、無数の敗者の悔恨の涙と1人の勝者の歓喜の涙と汗を以て輝く世界であると。
勝利と敗北という概念は不条理であり、無遠慮であり、無感情に現実を突きつける。
勝者には栄光と歓声、賞賛という全てが与えられる。
敗者には何も与えられない。
この記録帳に刻まれた名前のどれほどが、栄光を手に入れるための舞台にすら届かなかったのか。
どれほどが、舞台に届いても栄光を手に入れることなく終わったのか。
ソルディアガレットには、何も分からなかった。
でも、たった一つ分かることがあった。
──────このまま腐っていれば、自分は同様に『何も残せずに終わる』ということ。
「……」
ウマホを取り出し、そっと先程貰ったミスターシービーの電話番号を打ち込む。
怜悧で無情なコール音が数度響いた後、電話が繋がった音がした。
『──────もしもし?』
「シービーさん」
『あ、ガレット。どうしたの?』
『──────それは、どうしてかな?』
「……さっきまで走ってて、帰ろうとした時。入場退場を書き込む記録帳があったんです」
『……うん』
「何一つ、知らなかったんです。何冊もあったのに、どれを見ても。沢山のウマ娘の名前があったのに、どのページを見ても……僕が知ってる名前はありませんでした」
「そう考えると、怖くなったんです。このまま僕も同じように、誰の記憶にもどの記録にも……歴史に残らず消えてしまうのかなって。歴史なんてそんなものだって頭で分かっていても、受け入れられない。誰かに覚えていて欲しい。誰かの記憶に残りたい。100人、1000人、10000人でもいい。その中のたった1人の記憶に刻みつけたい。他の誰もが思い思いの、僕じゃないウマ娘の名前を挙げる中で。たった1人でも、『あの時代にはソルディアガレットというウマ娘が居たんだ』って言ってくれるような。──────そんなウマ娘に、僕はなりたい」
『──────そっか』
「だから、僕を中央に……日本の頂上に、連れて行って……いや、違う」
それは、ソルディアガレットの最初の一歩。後に『世界の天馬』『竜騎士王』と呼ばれることになる一人のウマ娘の産声。
『屈強なる姫君』や『華麗なるスーパーカー』と覇を競う、紛れもない強者の物語が、始まった瞬間だった。
その後、シービーとエースはそれを了承。数日後には改めてトレセン学園やトゥインクル・シリーズの母体組織であるURAの職員がやって来て、中央への転入の手続きが行われた。
そして、一週間後。
「──────これから、始まるんだ」
ソルディアガレットは東京都・府中……すなわち、トレセン学園前にやって来ていた。
面積約80万㎡、生徒数2000人弱のウマ娘専用大規模中高一貫学園施設。内心「校門から校舎までめちゃくちゃ遠いな」とか「日本最大規模とはいえ学校1つで東京ドーム何個分だ?」とかのくだらないことを考えながらも、『
ソルディアガレット
キャッチコピー:赫盟のその先、
誕生日:8月28日
身長:167cm
体重:赫過ぎて読めない
スリーサイズ:B84・W57・H81
靴のサイズ:左右ともに24.5
学年:中等部
所属寮:栗東寮
得意なこと:カードゲーム
苦手なこと:勉強
耳のこと:周りの音の聞こえ具合をコントロール出来なくてたまに疲れる
尻尾のこと:時々邪魔に感じる
家族のこと:家族であって家族ではない
自己紹介:ソルディアガレット、いつかこの世界に赫盟をもたらすウマ娘だよ。覚えておくといいさ。