黄金樹の麓から   作:シショ

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第二章 一年生最強決定戦
第1節


 

 朝。もそもそと起き上がったマリアは、いつも通り誰も居ないベッドを見てから着替えを始める。しかし、ワンピースを脱ごうとした手が、胸元に触れてぴたりと止まる。訳の分からない気恥ずかしさを感じながら一気に脱ぎ捨てると、水色の下着が目に入ってきた。

 

(やっぱり慣れないな、これは)

 

 あの騒動のすぐ後にシェラから譲られ、指導を受けながら身につけた下着。それはマリアのささやかなふくらみを覆い隠し、白い肌によく映えていた。

 悶々としたままベッドに座り込んでいると、シェラが部屋に戻ってきた。シェラはマリアを見るなり片眉を上げて、疑問を示した。

 

「まだ着替えていなかったのですか」

「これ……慣れなくて」

「そのうち慣れますから我慢なさい。それにカティが待っていますから、早く着替えていらっしゃい」

 

 ぱた、と閉まった扉を横目に、マリアはできる限り下着を視界に入れないように着替えた。しばらく動いているとぴったり合うというか、さらしとは比べ物にならないほど快適に過ごせる。

 女子寮の前で待っていた二人と合流して食堂へ向かう途中で、男性組が追いついてきた。

 

「おはよう、三人とも……どうしたの?」

 

 いち早く足音に気がついたカティが振り向くと、オリバーとガイが並んだ隣に、ピートが不自然に間を空けて立っていた。マリアが視線を向けても、さっと逸らされてしまう。気にせずそのまま見つめていると、ピートはオリバーの背中に隠れてしまった。

 

「……何か、変わった?」

「なっ、なんでもないっ」

 

 ぶんぶんと首を横に振ったピートが食堂とは違う方向に足を向けた。慌てて追おうとしたオリバーは突き放されて、ピートは足早に廊下を歩いて行った。

 

「朝食を摂らないのは体に……行ってしまいましたわ」

「ガイがなんかしたんじゃないの?」

「何もしてねぇよ。オリバーは分かるか?」

「……いや。今は、見守るしかなさそうだ」

 

◆◆◆

 

「よォし来たな。今日はお前らの進化の日だ!」

 

 今までの教師と比べると随分若い──ガーランドと同じくらいだろう──男性は言葉通りの晴れやかな顔をしていた。

 

「俺はダスティン=ヘッジズ。呼ぶ時は名前で頼むぜ。ま、グズグズしててもしょうがねぇわな。さぁ『箒の家』に行くぞ、ついて来い!」

 

 ダスティンはそう言うと快活な笑みを浮かべて大股に歩き始めた。マリアもシェラに手を繋がれて、箒の家とやらへ向かう。箒に関する基本的な知識は昨日一昨日と学んできたが、実際に見るのは初めてなので、マリアは少し興奮気味だった。

 

「うっし、開けるぞ」

 

 巨大な門扉の閂が魔法で外され、扉の奥からむわりと野生の臭いが漂ってくる。ジリジリと足を踏み入れた一年生に向かって、箒の一団が飛んできた。

 普通人の生徒たちが驚きの声を上げる中で、箒たちは悠々と建物内を飛び回る。そのうちの何体かが降りてきて、生徒の周りを旋回し始めた。

 

「これは……生き物にござるな」

「そうだ。ブルーム科ビソン属っつって、今使われてる箒の元になったやつらだ。十万年前の地層から化石が見つかったりもする」

 

 ナナオのつぶやきに対する返答を聞きながら、マリアは箒に手を伸ばし──避けられる。相性が良くないのかと別な箒に手を伸ばしても、すい、と躱されてしまった。

 

「……むぅ」

 

 どれだけ近づいてもするりと手の先から逃げていく。それを見かねたシェラが何体かを連れてくるも、マリアが近づいた途端に散って行った。

 マリアの嫌われっぷりとは裏腹に、ナナオは箒に好かれているようだった。奥へゆっくりと進んでいくナナオの周りには沢山の箒が飛び交っている。

 

「魔力に癖がなくて澄んでるヤツは好かれやすいんだ。……そこのちびっこい金髪の生徒、お前はちょっと待ってろ」

 

 教師直々に「待て」と言われたマリアの目は自然と箒が集まるナナオの方に向いた。箒の方から付いて行くような様が羨ましくて手を伸ばしかけ、右手の指に嵌めていた金の指輪が目に入った。まさか、と思ってそれを外すと少しだけ箒たちが近づいてくる。

 

(トレント……?)

 

 指輪を額に近づけると何処からか鳴き声が聞こえた気がした。マリアはそれを布にくるんで鞄の奥にしまい、再び箒に向き直る。どこか警戒した様子の箒たちの間から一体だけが近づいて来た。所々に見えるひび割れから懐かしい力を感じて、マリアはその箒を抱きしめる。

 

(化身に似た力だ。ずっと昔にこの地に来ていた?)

 

 マリアの思考は、肩に置かれた手によって中断した。目を開けると優しげな笑みを浮かべたシェラが箒を持って立っている。

 

「心配していましたが無事に決まったようですね。ナナオの方も落ち着いたようですし、ここからが本番ですわ」

 

◆◆◆

 

「さて──まずは(くら)(あぶみ)を着けるとこからだな。まぁやってみろ。今どき空箒に跨ろうなんてやつは──」

「出来たでござる」

「久しぶりだったけど、案外覚えてた」

 

 ングッ、とダスティンの喉から変な音がした。彼はすぐに駆け寄ってきてナナオとマリアの箒をチェックし始めるが、シンプルな構造故に確認する場所も少ない。

 

「ここが最初の山場だってのに……出来ちまったモンは仕方ねぇか。お前らは他の生徒が終わるまで待機な」

 

 そう言うとダスティンは危険な取り付け方をしている生徒の下へ走っていった。マリアは周囲を見回し、ピートが取り付けに苦労しているのに気がついた。刺激しないようにそっと近づいたものの、睨まれてしまう。

 

「全員、終わったか?んじゃ──箒に跨れ!」

 

 マリアが箒を跨ぐとほんの少し浮き上がり、地面に降りた。その周りでは先走って飛んでしまった生徒たちが、ダスティンの魔法によって次々に落とされていった。

 

「今落としたやつらは焦り過ぎだ。一回深呼吸してから乗ってみろ……やっぱ一年生ってのはこうでなくちゃな」

 

 例外に目を向けてダスティンはしみじみとため息を吐いた。続いて浮遊の指示が下ると、またも生徒たちから悲鳴が上がった。危なげなく浮かべたのは半数ほどで、その中でも特に安定して見えたオリバーに質問が飛ぶ。

 

「箒乗りの事故では急制動の際の落下。初心者であれば、離陸時の落下がそれに並びます」

「慌てもせずに即答かよ。まぁその通りだな……んで、」

 

 ダスティンは安定して宙に浮かび続けるナナオの方を見た。マリアの方にも視線は向けられたが、体重移動がうまく行かずにふらついている様子を見てすぐに興味が移った。

 四つも足でしっかりと体を支えていたトレント(霊馬)と違って、完全に地面から離れた状態でバランスをとるのは難しい。

 

「お前ぜってー初心者じゃねぇだろ。ほれ、素直に言ってみろ」

「拙者は何も偽ってはござらぬが……箒が生き物である以上、馬に乗るのに通じる部分があるのでは」

「ふぅん、馬ねぇ……お偉いさんに話したら怒り出しそうだな」

 

 ナナオとダスティンの会話を聞きながら、マリアは箒と霊馬の差異に苦しんでいた。自分と乗っているものがどちらも常に地面から離れているというのは、長く馬に乗っていたマリアにとってあり得ないことなのだ。

 

 マリアがふわふわとした浮遊感にどうにか慣れようとしている内に、ダスティンはおもむろに何人かの生徒を指名した。その中にナナオとオリバーも入っていたため、マリアは一旦顔を上げる。

 

「まずは経験者に飛んでもらう。それからMs.ヒビヤにもな」

「良いのでござるか?」

「派手に失敗でもしてくれりゃあホッとするよ。今回はお助け人どももいるから、思いっ切りやって来い」

 

 その言葉に、後ろで待機していた上級生たちが動き出す。ダスティンは苦笑いを浮かべながら生徒を配置した。オリバーがナナオに話し掛けるのを見届けると、両手を掲げた。

 

「飛んだらあの白いラインで降りろ。よし、飛べ!」

 

 一斉に飛び上がった生徒の中から一人が抜きん出る。凄まじい加速にダスティンすら一瞬呆け、慌てて上級生に合図を送る。

 

「ありゃ止まんねぇぞ! 構えろ!」

 

 あっという間に中間地点を過ぎて、尚加速するナナオ目掛けて魔法が飛ぶ。五つの光がナナオを逃がすまいと殺到し、

 

「──フゥッ!」

 

 その全てを掻い潜り、下降する。激突すれすれで弧を描いて制動したナナオに、もはやダスティンは声も出ないようだった。遅れて着地したオリバーたちを押し退けてナナオの元にやってきた彼は、凄まじいため息と共にげんなりとした表情で口を開いた。

 

「もういい、認めるよ、Ms.ヒビヤ。お前才能ある。だから──こっからは地獄の勧誘タイムだ」

 

 ほどほどにな、と上級生たちに注意してダスティンが戻って来た。未だに生徒の群れに飲まれているナナオの方を指さして、ニヤリと笑う。

 

「この授業は一年生の青田刈りも兼ねてる。うっかり才能見せたやつには猛烈なラブコールがあるから気をつけろよ」

 

 その後は基本的な箒の乗り方から実践まで行った。結局ナナオは戻って来なかったが、マリアはすっかり空を飛ぶのが気に入った。

 

◆◆◆

 

「それにしてもあなたには驚かされますわ、ナナオ」

 

 ミートパイを頬張るナナオにシェラが声を掛けると、ナナオは目を輝かせて答えた。

 

「箒術があんなにも楽しい授業だとは知らなんだ。次が楽しみで待ち遠しいでござる」

「そりゃあ良かったぜ……おれにもコツを教えてくれねぇか、ナナオ……」

 

 マリアが沈んだ様子のガイに言葉を掛けるナナオを見ていると、今度はシェラがこちらを向いた。

 

「マリアもよく持ち直しましたわ。一体あれは何が原因だったのです?」

「うぅん……」

 

 正直、あの現象はマリアにも説明出来ない。指輪を介してトレントが何かしていたのだろうとは考えたが、狭間の地にいた頃はそんなことはしていなかった。そもそもトレントは普段どこに居るのだろうか。

 

「マリア?」

「──あ。ごめん」

「随分考え込んでいるようでしたけれど、言いたくなければそれで良いのですよ」

「ん……纏まったら伝える」

 

 シェラはそれには答えずにマリアの頭を撫でる。シェラの笑みは、やはりマリアを落ち着かない気持ちにさせた。その手を振り払うことなど出来ようもなく、マリアが視線を彷徨わせていると、離れたテーブルから一人の男子生徒が近づいてくるのが見えた。

 

「こんちわ。いっつもにぎやかでええなぁ、自分ら」

 

 その生徒の話し方にはかなり癖があり、マリアは理解するのに一瞬の間が必要だった。それに加えて薄っぺらな中身のない笑みまで浮かべているとなれば、警戒するには十分だ。

 

「……こんにちは。君は?」

「一年のトゥリオ=ロッシや。あ、そっちの面子はみんな知っとるから名乗り返さんでええよ」

 

 胡散臭い。パッチよりはよっぽどマシだが、それでも積極的に関わりたいとは思えない。マリアが話をそっちのけで逃げてしまおうかと考えていると、ロッシの視線がナナオに向けられた。

 

「ナナオちゃん、朝からえらい目立っとったやろ?ちょっと才能溢れすぎやで冗談抜きに」

「……才能で片付けられるほど、ナナオの生い立ちは単純でなくてよ、Mr.ロッシ」

 

 シェラの一言を冗談めかして笑い、ロッシは臆することなくさらに言葉を続ける。

 

「分かっとるよ、ミシェーラちゃん。ただなぁ、ボク寂しいねん。自分らばっか目立っとってなぁ、やっぱりボクも混ざりたいねん」

「……何が言いたい?」

 

 ニヤリと唇の端が吊り上がる。その言葉を待っていたと言わんばかりに声は大きく、身振りが仰々しくなっていく。

 

「ボクらも入学から半年経ったやろ?そろそろ先輩方に習って一年最強(・・・・)くらいは決めなアカンやろ」

 

 静まり返っていた食堂にざわめきが広がった。魔法だろうと剣技だろうと、ある程度腕に覚えのある人間が集まればやることは一つ。力を示し、周囲を屈服させるのだ。

 

「暫定王者はナナオちゃんやけど、ボクらにもチャンスがあってもええやろ。──あのガルダの一件で居合わせなかったことを残念がっとるのはボクだけやないんやで?」

 

 ロッシの細い目の奥に剣呑な光が宿る。それと同時に食堂の中に殺気に近しいものが満ちるのをマリアは感じ取った。強者というのは案外どこにでもいるものだ。杖剣の柄を指の腹で撫でながら、呼吸を整える。

 

「マ、御託はここまでや。祭りに参加するヤツは名乗り上げぇや、ここで今すぐ!」

 

 シェラの親戚だという少女を筆頭に、次々と生徒が名乗り出る。それを好ましげに見ていたナナオも参加を表明し、ロッシの笑みは深まるばかりだ。

 

「自分はええんか、オリバーくん。ナナオちゃんが出る言うてるのに、高みの見物かいな」

「──参加しよう。これで満足か、Mr.ロッシ」

 

 びり、と空気が張り詰める。その様子を間近で見ていたマリアはおもむろに片手を上げた。ぎょっとした顔でこちらを見るオリバーには構わず、口を開く。

 

「私も参加する」

 

 その瞬間、ロッシの動きが止まった。しかしそれもほんの少しの間だけで、すぐに立て直して近づいてくる。その足取りが遅く感じたのは気の所為だろうか?

 

「あー、マリアちゃん。出てくれるのはええんやけど、ガルダ倒す時にエライけったいなモン使うたらしいやん?」

「あれは使わない。殺し合いではないのだろう?」

「……ならエエわ。よろしくなぁ」

 

 流石に警戒されているようで、あの時黒き剣を使ったのは失敗だったかと今更ながら後悔し始めている。よくよく考えると、死のルーンなど持ち出さなくとも氷雷で良かったのではないだろうか。ナナオとオリバーは一旦引かせて……うーむ。

 

「であれば、あたくしが出ない理由もありませんわね」

 

 マリアの隣でシェラも手を上げる。ガイやカティが騒ぎ出すが、当の本人は気にもせずに不敵な笑みを浮かべた。それを見て何を思ったのか、ロッシが唐突にアンドリューズに声を掛ける。

 

「ジブンもどうや、魔法剣には自信あるんやろ!」

「いや、悪いが遠慮する。……今は自分と向き合う時期だと、そう決めている」

「そんで逃げるん? いやーん、かっこわるーぅ!」

「……何と言ってくれても構わない」

 

 失礼する、とだけ言ってアンドリューズは食堂を出ていった。それを見送ったロッシはどこか拍子抜けしたような表情で首をひねっている。

 

「ありゃ、挑発すれば乗るタイプやと思ったんやけど……」

「それは以前の彼の話です。──あたくしの目の前でリックを侮辱するのは軽率でしたわね、Mr.ロッシ」

 

 ロッシは底冷えするような笑みに変わったシェラに慌てて両手を上げると、申し訳程度に釈明してすぐに本題に移った。もはや彼の興味はアンドリューズには無いようだ。

 

「段取りはもう決まっとる。メダル争奪戦や」

 

 そう言うとロッシは懐から一枚の銅貨を取り出した。大きさの割にデザインはシンプルで、マリアが記憶しているこちらの貨幣のどれでもない。ロッシはそれをオリジナルのメダルだと言う。

 

「魔法使いならオリジナルのメダルくらい作れるやろ?こいつを負けたほうが勝ったほうに渡す。七日後に保有数上位四名で決勝戦。これでエエやろ」

 

 魔法使いなら、と言われてもマリアは方法も知らない。そっとシェラに視線を向けると、ちょうど同じタイミングでこちらを見たシェラと視線がぶつかった。なんとなく見つめ合って、どちらともなく小さく吹き出した。

 そうこうしている内にロッシが参加者の名前をスクロールに記していく。簡単な説明を受けながらそれを眺めていると、最後の一人が終わったようだった。

 

「登録完了! ってなわけで──今から開始や」

 

 興奮気味だった参加者が一斉に硬直した。それを意地悪い笑みを浮かべて眺めていたロッシは、追い打ちを掛けるように言葉を叩きつける。

 

「ここなら誤魔化しも効かへんし、早い者勝ちやで」

 

 それに釣られたのか、はたまた最初からそのつもりだったのか、ニ人の女生徒が席から立ち上がる。一人はナナオへ、もう一人はマリアの方へと歩いてきた。

 

「……あたしと、戦って欲しい」

「分かった」

 

 ナナオとマリアは対戦相手に連れられて食堂から出ていく。後ろに大勢の生徒が付いてくるのを感じながら、マリアは自分の装備を確かめた。今回は戦闘の勘を取り戻すのが目的の一つだ。聖印は無し、武器も杖剣だけにする。

 

「準備はいい?」

「あぁ」

 

切らず貫かず(セークールス)

 

 校庭に四人の声が響く。不殺の呪いは相手の剣にかける都合上加減すると自分が怪我をすることになるのだが、マリアはそれを敢えて弱めた。実戦と殆ど同じ条件にすることで、自分を追い込むのが目的だが、果たして。

 

「──始め!」

覆いて隠せ(コーヴエル)

 

 開始と同時に後方に跳んだ女生徒はマリアと自身の間に黒い煙幕を張った。驚いて足を止めたマリアに向けて、矢継ぎ早に魔法が襲い掛かる。

 

雷光疾りて(トニトウルス)瞬き爆ぜよ(フラルゴ)切り裂け刃風(インペトウス)

 

 真正面からの雷撃、足元を狙った爆撃、横に長い空気の刃。魔力の消耗など一切考えない集中攻撃を、マリアは前転やステップを駆使して躱し切った。そして魔法が途切れた一瞬を狙って走り出す。

 

「っ、氷雪猛りて(フリグス)

 

 驚きと感心が混じったような表情を浮かべた女生徒は氷結魔法を放つが、それがマリアを捉えることは無かった。クイックステップで背後に回ったマリアはひたりと首筋に杖剣を添える。

 

「勝者、マリア=ターニッシュ!」

 

 わっ、と歓声が上がったものの人数にしては控えめだったため辺りを見渡すと、ナナオと戦っていた筈の女生徒が呆然と立ち尽くしている。自分のことを棚に上げたマリアが何かあったのだろうと心配していると、杖剣を突きつけていた女生徒がそっと動き出した。

 

「あ、すまない」

「いや……やっぱり強いね、あんた」

「慣れてるから」

 

 その女生徒はマリアのそっけない返答にも動じることなく、右手を差し出した。

 

「あたしはリュディア=ムーングラム。……次は一緒に戦って欲しい。じゃあ、また」

「あぁ、また────?」

 

 杖剣を鞘に収めて手を握り返すと、レナはすぐに立ち去った。マリアがその名前に既視感を覚える頃にはもう姿が見えなくなっていた。きょろきょろと目立つ銀髪を探していると、後ろから足音が聞こえてくる。

 

「やはり勝ちましたわね、マリア」

 

 振り向くと同時に温かなものに包まれ、マリアはやっと緊張を解いた。ひとしきり抱き締められるとオリバーとナナオもこちらに近づいて来ていた。

 

「聞きなさい、オリバー、ナナオ、マリア」

 

 今までとは違う、決意に満ちた声にマリアは驚いた。今まで一歩引いたところから眺めていたシェラの瞳には、隠しきれない興奮が浮かんでいる。

 

「あたくしは必ず最終日まで残ります。あなたたちもそうしなさい。そして四人で正々堂々戦いましょう」

 

 その言葉にナナオが楽しげに笑い、オリバーも数瞬の葛藤の末に受け入れる。最後に向けられた視線に、マリアは頷きを返して見せた。

 

「やっとあたくしも混ざれますのね。あぁ、久しぶりですわ。こんなに胸が滾るのは」

 

 珍しく感情をあらわにするシェラを見て、マリアは決勝戦への期待に胸を躍らせた。

 

 




【化身の箒】

内に黄金の光を湛えた箒
化身に似た力を秘めている

使用中は霊馬トレントを呼び出せなくなる
周囲に微かな恵みの祝福を与える

エルデンリングが砕けた時、それは各地に飛来した
海をも越えて、彼方まで
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